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ランメルモールのルチア

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第二幕その三


第二幕その三

「そしてそれに相応しい報いを受けたのだ」
「何ということ・・・・・・」
「しかしだ」
 ここで遠くから賑やかな声が聞こえてきた。エンリーコはそれに気付いたうえで妹に対してさらに告げたのである。その告げた言葉は。
「聞こえるか」
「えっ・・・・・・」
「この声がだ」
 その遠くからの声を妹にも告げた。
「この声がだ。聞こえるな」
「まさか。この声は」
「そうだ、御前の花婿がここに着いたのだ」
 このことを彼女に言うのだった。
「今ここにだ」
「そんな・・・・・・」
「全ては整った」
 彼は妹をさらに追い詰めた。
「さあ、幸せに向かおう」
「全ては終わったのね」
 ルチアはこう言うしかなかった。
「もうこれで」
「今我が家はだ」
 今度は自分達の一族のことを話すのだった。
「先王様が崩御されメアリー様が即位されたな」
「はい・・・・・・」
「そして我等の党派は敗れた」
 スコットランドでの貴族同士の政争である。この時代の欧州の貴族達の常であった。何かといえば党争を繰り広げていたのである。
 彼の一族はそれに敗れたのだ。これもまたよくあることだった。しかしそれこそが彼を今窮地に陥れているのであった。だから今余計にルチアに言うのである。
「それを救うことができるのはアルトゥーロ殿だけなのだ」
「その方だけが」
「では私は」
「一族の為だ」
 政略結婚というわけだ。貴族社会の常ではある。
「わかったな」
「ですが私は」
 まだ言うルチアだった。
「あの方に永遠の誓いを」
「では一族はどうなるのだ」
 このことを前に出した。
「御前が拒むとなればだ」
「ですが。それでも」
「そうなればだ」
 彼はここでさらに言うのであった。見事なまでに妹を次第に追い詰めていた。
「一族も終わる」
「一族も」
「無論わしもだ。そしてわしも一族の者も全て御前の前に亡霊となって現われることになるのだぞ。それでもいいというのか?」
「神よ」
 ルチアは涙を流しながら述べた。
「どうか私にお慈悲を」
 こう言うのである。俯いたままであったが。
「私の願いが地上でも天上でも適えられないのなら」
 絶望しきっての言葉だった。
「この望みのない命を奪い取って下さい。もう希望はありません」
「ではわしはだ」
 エンリーコはここで部屋を後にするのだった。
「色々と取り仕切らなければならん。それではな」
 こう言って消えるのだった。後に残ったのはルチアだけであった。
 そのルチアのところに今度はライモンドが来た。彼は彼女を気遣う顔で優しく言ってきたのであった。
「ルチア様」
「司祭様ですか」
「はい。フランッスへのお手紙ですが」
「私が書いたあれは」
「どうもおかしいのです」
 ここで怪訝な顔になるのであった。
「届いていない様なのです」
「届いていないとは」
「どうやらエンリーコ様が手を回されて」
「それで届いていないのですね」
「おそらくは」
 それがノルマンノの仕事であることまでは彼等も知らなかった。しかし届いていないという現実だけははっきりとわかったのである。
 
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