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あかいくま

作者:ゆうぎり
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「へぇ、あの夕風とねぇ。良かったんじゃないの?あんなに好きだったんだしさ。」
放課後の教室には私と山倉先生だけがいる。
親がいない私にとって山倉先生は親のようなもので、私はいつも色々なことを相談していた。
「私、付き合うの初めてだしどうしたらいいのか…。」
「まぁこれからだろ。まだ中2なんだし、ゆっくりやっていけばいいよ。
それより、早く行かないと部活遅れるぞ。」
山倉先生に言われて、私は時計を見る。
部活はもう始まっている時間だ。…や、ヤバい。
「ありがとうございました、先生!失礼します!!」
そうして私は教室を後にした。



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更衣室に入ると、そこには悠璃先輩がいた。
「お、空亜ちゃん!聞いたよー、夕風と付き合うんだって?」
「………知ってたんですか。」
まさか知っているとは思わなかったな。
「結構有名だよ!」
う…。そこまで広まってるんだ…。
隠れて付き合うつもりではなかったけど、なんかはずかしいな。
「夕風のこと、何でも相談していいからね!!」
悠璃先輩はいつもの笑顔で言う。
「そうね、私も相談にのるわ。ただし、部活以外のところで。」
いつの間にか、更衣室内に屈里先輩がいた。
悠璃先輩との話に夢中でいつ来たかさえ分からなかった…。
「こんにちは、屈里先輩。」
「こんにちは。」
屈里先輩は私に挨拶を返し、着替えを始める。
私も急いで服を脱ぎ出した。



---------------
部活の時間が終わった。
「桐谷、外で待ってるな。」
着替えをすませた架月先輩が、片付け中の私に声をかける。
私は返事をし、急いで更衣室に入った。
中にはもう誰もいない。
私、要領悪いのかな…?
いつも最後なきがする。
自分では急いでるつもりなのになぁ。
相変わらず中身の散らかった鞄を肩にかけ、私は更衣室を出た。
その時、薄暗い体育館の丁度中央になにかが落ちているのに気づく。
何となく気になり、私はそこへ近づいた。
「テ……ディ………?」
落ちていたのは、間違いなく私が昔大事にしていたあかいくまのぬいぐるみだった。
何故こんなところに落ちているのか、何故他のひとが気づかなかったのかと色々疑問はあったが、とりあえずパンパンの鞄につめこみ、急いで架月先輩の元へ向かった。



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「あれ、ない………。おかしいな………。」
家について鞄を開けた私は、思わずそう呟いた。
鞄の一番上に入れておいたはずのテディが無くなっていたのだ。
あれから鞄を開けていないし、落ちたという可能性もない。
しかし、私はそれをさほど気にとめず、放置してしまった。



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翌朝。
登校してみると校門の前には一台の救急車と、数台のパトカー。
「悠璃……………先輩……………?」
体育館中央、血まみれで倒れている悠璃先輩の姿を見て、私は放心状態になった。
傍では屈里先輩や友達らしき人が泣き崩れている。
………なんで、こんなことになってるんだろう。
昨日までは悠璃先輩、弾けるような笑顔だったのに。
なんで、死んでしまったの?
私にとって、すごく大切な存在だったのに。
涙で滲む目でもう一度悠璃先輩を見たとき、私は気づいてしまった。
「……テディ?」
悠璃先輩のすぐ横に、昨日なくしたはずのテディが落ちている。
私がそれに手を伸ばすと、
「証拠品にさわらないでください。」
と、警察の人にとめられた。
そしてなにも分からないまま体育館は封鎖となり、部活もしばらく停止となった。

後から聞いたことだが、死体に刺さっていたナイフには誰かの指紋も、指紋を拭き取った後も、手袋などを使用した形跡も無かったらしい。



当然のように、その日の学校はいつにも増してざわついていた。
先生たちも落ち着いてはいられないようで、授業はどこか不安定なものばかりだ。
「この学校で人殺しなんて…。」
「自殺かも知れないぞ。」
「怖いよ…。」
そんな会話があちこちから聞こえてくる。
その度に、私の脳裏には目を大きく見開き心臓から血があふれでている悠璃先輩が蘇った。
そして、それを思い出す度にからだの震えが止まらなくなる。
生徒のざわつきと教師の焦りが入り交じった状態で、六時間目終了のチャイムがなった。
終学活で、山倉先生は生徒たちに十分注意するようにと警告する。
「じゃあお前ら、明日も元気に学校こいよ!!解散!!」
先生の言葉で皆は散り散りに帰っていった。
先輩の掃除が終わるのを待っている間、私は空き教室へ先生と入ることにした。
多分、先輩の死を目の当たりにして不安になっている私を心配したのだろう。
先生は入るなり「大丈夫か?」と声をかけてくれた。
「まだ……………整理がつかないです………。」
私が答えると、山倉先生は私の頭に手をのせわしゃわしゃとなでる。
「まぁ、無理もないさ。不安になったら私を頼れ。」
先生の優しい声色に、危うく涙がこぼれそうになった。
それを我慢し、私は口を開く。
「あの………、ひとつ気になることがあるんです。」
「なんだ?」
「悠璃先輩の近くに落ちてたあかいくまのぬいぐるみ……。あれ、私のなんです。」
私が言うと、先生は僅かに目を見開いた。
そして、(おもむろ)に煙草を吸い始める。
「確かなのか?」
「はい……。昨日丁度悠璃先輩が亡くなっていた場所に落ちてたんです。鞄に入れたんですけど帰ったら無くなっていて…。今朝あそこにあったんです。」
私の説明を聞き、山倉先生は少し疑いの目になった。
「あかいくまのぬいぐるみ…か。この事は私以外の誰にもいうな。絶対にだ。」
山倉先生の真剣な顔を見て、私は頷かずにはいられなくなる。
丁度その時、遠くから架月先輩の声が聞こえてきた。
山倉先生にも聞こえたらしく、煙草を吸いながら手をヒラヒラと振る。
「ありがとうございました、先生。さようなら。」
そうして私は架月先輩の声の方へと走った。




「先輩!」
きょろきょろと視線をさ迷わせていた架月先輩に呼びかけると、先輩は笑顔で手をふってくれる。
「遅くなってごめん。」
「いえ、全然大丈夫ですよ。」
先輩も、今日は元気がないみたい…。
同級生で、しかも同じ部活の人が死んだんだから当然だよね…。
「桐谷、今日家来ない?」
いきなり言われ、私はかなり戸惑った。
「せ、先輩の家ですか!?」
「うん。部活ないしさ。…駄目か?」
そんなこと言われましても…。
どうしよう。用事はこれといってないけど……。
でも、ここで断ったら私が先輩を拒否してるみたいだしな。
よし。
「いいですよ!行きましょう。」
私が答えると、先輩は再び笑顔になった。



---------------
「適当に座ってて。」
家につくなり、先輩は私を部屋へ通し自分だけ出ていった。
とりあえず、部屋の中を見回してみる。
家具はベッドとテレビ、ソファー、テーブル、クローゼットのみで、他は何もないと言っていいくらいさっぱりしていた。
すっごく片付いてる…。
これは、私の部屋を見せるわけにはいかないなぁ…。
ぼんやりとそんなことを思っていると、ガチャッと扉が開いた。
「おまたせ。」
入ってきた先輩の手には、ジュースが入ったコップ2つがある。
それを机の上におき、架月先輩はソファーに座っている私のとなりに腰をおろした。
……いつもより距離が近いな。
ちょっとドキドキしてしまう。いや、付き合ってるんだしいいのかな。
「桐谷…」
その時、先輩がグッと顔を近づけてきた。
「え…、ちょ…」
私がなにかをいうより早く、先輩の顔はすぐ近くまで迫ってくる。
思わず目を閉じそうになったとき、

ぽとっ

なにかが目の前を落下していった。
先輩も驚いて私から顔を離し、落ちてきたものを見る。
それを確認した私は、息が止まるかと思った。
「なんだこれ…。どっから…?」
先輩が拾い上げたそれは、紛れもないテディだった。
「これって…、七塚の横に落ちてたやつじゃ…?」
先輩が顔をしかめる。
……先輩の言うとおりだ。
テディは確かに悠璃先輩の死体の横に落ちていた。
そしてそれは、警察が押収したはず…。
こんなところにあるなんておかしい。
しかも今、一体どこから落ちてきたの…?
「桐谷の?」
先輩がきいてくる。
どうしよう。
先生は他の人にいうなって言ってたけど…。
でも、このままテディを放っておくわけにはいかない。
「あ、はい。私のです。悠璃先輩の横に落ちていたのとは別物ですよ?」
私は冗談っぽく言ってうまく誤魔化した。
「そっか。びっくりしたよ。いきなり目の前通ったから…。」
私もびっくりしましたよ…とは言えないな。
とりあえずなんとかやり過ごそう。
「わ、私、その……、キス…とかしたことないから驚いちゃって……。それで動揺して手が滑ったみたいで…。本当にすみません!!」
これでどうだ!!
私は心の中で胸を張った。
「……こっちこそごめん。いきなりあんなことして。ちょっとね…、七塚が死んでショックだったから…。」
架月先輩は切なそうに笑う。
やっぱり、悠璃先輩のことがこたえてるんだ…。

そのあと、私は先輩と話をしたりゲームをしたりして遊んだ。
先輩の気分が少しでも晴れてくれることを祈って。
それでもやっぱり気になるのはテディのこと。
一体テディは、なんなんだろう…。
その謎だけが、私の中に残った。



-------------------
次の日。
学校についた私は、違和感を覚えた。
ざわつきが、おさまるどころか増している。
昨日以上に学校内は騒然としていた。
私が首をかしげていると、走ってくる山倉先生の姿が目に映る。
「空亜!!」
息を切らした山倉先生は、私の肩をつかんできた。
「お前無事か!?何ともないか!?」
……こんなに慌てている山倉先生は初めて見る。
私は驚きで一瞬黙ってしまったが、なんとか答えた。
「大丈夫です……。どうしたんですか?」
私が言うと、山倉先生は大きく安堵の溜め息をつく。
そして私から手を離し、近くの壁に寄りかかった。
「そのようすじゃ、まだ知らないんだな…。」
意味ありげにいう先生の顔は、心なしか青ざめて見える。
「昨日、夕風が何者かに刺されて病院に搬送されたんだ。」
一瞬、世界が止まったような感覚に陥った。
……今、なんて?
架月先輩が、誰かに刺された?
「本来なら死んでいてもおかしくないらしいが、発見が早くてな。今は意識不明だが、一命はとりとめたらしい。……だが、かなり危険な状態だそうだ。」
う…そ。
なんで、架月先輩が……。
驚きで涙すら出ない。
「それともうひとつ……。倒れていた夕風の傍に、あかいくまのぬいぐるみが落ちていたらしい。」
私は目を見開かずにはいられなかった。
昨日、先輩の家から帰ったあとちゃんと鞄の中を見て、テディがあるのを確認したのに…!
あり得ない。
どうなっているの?

私はその日、まともに授業を受けられるはずもなくほとんどの時間架月先輩とテディのことを考えていた。
一美やゆぐむが心配してくれたけど、それさえも煩わしいと思ってしまうほど精神がおかしくなっている。
架月先輩……。
一体誰に刺されたの?
私が今願うのは、架月先輩の意識が回復すること。
そしたら、犯人が誰か分かる…!



 
 

 
後書き
第2話です。
間違い等があれば指摘してください。
次も読んでくださるととても嬉しいです。
 
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