| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

あかいくま

作者:ゆうぎり
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
< 前ページ 目次
 

いち

 
前書き
ぜろ
“くま”と言われると、どういう風にイメージするだろう。
森に出てくる、野生で人をも食らう猛獣だろうか。
それとも、動物園で飼われているような大人しいくまだろうか。
それとも、-------------動かない、可愛らしいぬいぐるみだろうか。
 

 
いち
私が小さいときだった。4歳位だったとおもう。
12月24日のクリスマスの日、今は亡き祖母からプレゼントをもらった。
それは、真っ赤なくまのぬいぐるみだった。
そんなに大きくもなく小さくもない、普通のぬいぐるみ。
とてもかわいくて私は気に入っていた。
つけた名前は“テディ”。
家にいるときも出かけるときも、必ず持ち歩いた。
「テディは私の友達だね。」
そう話しかけるのが、私の日課になっていた。

そして現在。
私は14歳の中学生になった。
空亜(くうあ)、おはよー。」
「おはよ、一美(かずみ)
桐谷空亜というのが私。
一美は大切な親友だ。
「昨日さー、ゆぐむがプレゼントくれてね!みて、可愛いでしょ。」
一美はいいながら、ケータイに付いているくまのキーホルダーを見せてきた。
ゆぐむというのは一美の彼氏で、私ともなかがいい友達だ。
「可愛いね。どこでかったんだろー。」
私はそう相づちを打つ。
それにしてもくま………か。
昔、くまのぬいぐるみを大切にしてたっけ。
懐かしいな。
友達がいっぱい出来るようになってから、どこにいってしまったか分からなくなってしまったな。
「はよっす。なにしてんだ?」
その時、まだ眠そうなゆぐむが来た。
ゆぐむは顔立ちがよくて、女子からはすごく人気がある。
それでも、一美が美人だからみんなは認めているんだとおもう。
「あ、おはよっ、ゆぐむ!今日はちょっと遅かったね。」
一美はすぐにゆぐむにとびついた。
このバカップルめ…。
「空亜もおはよ。」
ゆぐむは笑顔で私にそう声をかけてくれたが、すぐに一美と二人の世界へはいってしまった。
中2で彼氏がいるなんて、羨ましいぞっ、一美。
私がひそかにそう思っていると、教室のドアが開き先生が入ってくる。
「はーい、席つけお前らー。」
元気な声のこの人は、我がクラスの担任、山倉美咲先生だ。
若いのにしっかりしていて、私はよく相談にのってもらってたりする。
「今日も1日がんばれよー。」
一通りの連絡を終え、山倉先生は教室を出ていった。
「空亜、一時間目移動だよー。
「え、うそ。ちょっと待って!」
一美とゆぐむに急かされながら準備を終えた私は、二人と一緒に急ぎ足で教室をでた。



----------------------
1日が過ぎるのは早い。
もう放課後になってしまった。
「じゃあね、空亜。」
一美とゆぐむが私に手を振る。
「うん、バイバイ二人とも。」
私たちは全員部活がバラバラで、私がバスケ部、一美が陸上部、ゆぐむがサッカー部だ。
私は少し急ぎ足で体育館に向かった。

体育館では、もうすでに半数の人がシュート練を始めていた。
ボールの間を通り抜け、女子更衣室へ足を運ぶ。
ドアを開けると、数人の先輩と後輩がいた。
「こんにちは!」
最初に飛んできたのは後輩の挨拶。
私はそれに返事をしてから先輩に挨拶した。
「ヤッホー、空亜ちゃん!」
明るい声で返してくれたのは、七塚悠璃(ななつかゆうり)先輩。
優しくて親しみやすい先輩だ。
「早く着替えて練習入ってね。」
厳しめの口調で言ったのは井出屈里(いでくつり)先輩。
恐いときもあるが、バスケが飛び抜けてうまく、クールでかっこいいとみんなから慕われている。
私は返事をし、すぐに着替えをはじめた。

更衣室を出ると、丁度隣の男子更衣室から夕風架月(ゆうかぜかづき)先輩が出てきた。
架月先輩は背が高くてかっこよくて、私が密かに想いを寄せている相手だ。
「よ、桐谷。」
目が合うと、架月先輩から声をかけてくれた。
………本当に、この人はかっこいいなぁ…。
「こんにちは、架月先輩。」
うちの学校のバスケ部は、男女合同練習が基本だ。
そのおかげで、私はいつも架月先輩からバスケを教えてもらうことができる。
「今日はなに教えてほしい?」
先輩に教わることが当たり前のようになっているのが嬉しい。
部活はこれのために来ていると言ってもいいくらいだ。
「えっと、じゃあ………」
私が教えてほしいことを言うと、先輩はボールを軽くついた。
「OK。じゃ、まずは見本な。」
そう言って、架月先輩は丁寧に私に教えはじめてくれた。


------------------------
「さようなら!!」
「バイバイ。」
「お疲れー。」
そんな声が辺りに飛び交う。
部活の時間は終わり、みんなは家路についていった。
「空亜ちゃん、ばいばいっ。」
「あ、はい!さようなら、悠璃先輩。」
悠璃先輩はいつものようにスキップしながら更衣室を出ていく。
更衣室には私一人になってしまった。
急がないと…。
脱いだ練習着をたたまず鞄につめこみ、戻ろうとするチャックを無理矢理閉めた。
「よし、完了!」
そう呟き、私は更衣室を出る。
体育館にはもう誰もいず、しんと静まり返っていた。
まだそとは明るいものの、やはりちょっと不気味だ。
その時、ガチャッとドアのあく音がする。
「あれ、桐谷。まだいたのか。」
内心少し…、いや、かなりビビっていた私の前に、架月先輩が姿を現した。
「架月先輩…。おどかさないでくださいよ…!」
「ん?あー、もしかして恐かったのか?」
架月先輩はからかうように言う。
まぁ、図星ですけど…。
「じゃあ、もっと早く帰り支度するんだな。」
黙っている私に、架月先輩はそう言った。
私は小さく返事をし、体育館のドアへ向かう。
「あ、ちょっと待って。」
その足は、架月先輩の声によってひき止められた。
「どうかしましたか?」
私が振り向いて聞くと、架月先輩は何故か口ごもる。
「あのさ…、俺桐谷のことが好きなんだ。」
「……………え?」
一瞬、私の思考回路は途切れた。
先輩の今の言葉が頭のなかでエコーを繰り返す。
「嫌じゃなければ、俺と付き合ってほしいんだけど…。」
私がいつか言おうと思っていたことを、先輩の方からいってくれるなんて…、
これはきっと夢だ!そうだ、夢だよ自分!
私は自分の両頬を思い切り叩いた。
…痛い。すごく痛い。どうやらこれは夢じゃないらしい。
先輩はびっくりした顔で私を見た。
「どうしたの?…やっぱり嫌?」
「い、嫌じゃないです!!嬉しいです、すごく!ずっと先輩のこと好きだったのに、嫌なはずありません!!」
私は勢い余ってついそう言ってしまった。
自分でも顔があついことがわかる。
架月先輩はそんな私を見てクスッと笑いを漏らした。
「ありがとう。嬉しいよ、桐谷。返事はOKってことでいいんだよな?」
私は顔を真っ赤にしたまま頷いた。



---------------------
「えー!!夕風先輩と付き合うことになったー!?」
「声!!声がおっきいよ、一美!!」
朝一番、一美の声が響く。
私は慌てて一美の口をふさいだ。
「夕風先輩って、女子にモテモテなのに今まで一回も告白オッケーしたことがないあの先輩!?」
一美はものすごい勢いで聞いてくる。
「まあ…………そう、かな。」
顔が火照りつつも、私は答えた。
「何々、なんのはなし?」
後ろからゆぐむが興味深そうにやってくる。
「聞いてよゆぐむ。空亜、夕風先輩と付き合うんだって!!」
一美が言うと、ゆぐむは「はぁ!?」と身を乗り出した。
「あの夕風先輩!?俺、すごく尊敬してる人だよ!?」
ゆぐむみたいな完璧なひとでも尊敬してるんだ…。
私、すごいひとの彼女になったみたい…。
「そっかぁ…。空亜も彼氏ができたかぁ…。またダブルデートしようね!」
一美は笑顔でそう言った。
デート、なんて、夢のまた夢だと思ってたのになぁ。
「いやいや、なにいってんの一美。俺みたいなやつが夕風先輩とお出掛けなんて恐れ多いよ。」
ゆぐむは青ざめた顔で一美に訴える。
「大丈夫だよ、ゆぐむ。空亜の彼氏なんだしさっ。」
改めて“彼氏”何て言われると照れるな…。
一美はなんとも思ってないみたいだけど。
その時、締め切られていた教室のドアが静かに開いた。
「桐谷、ちょっといい?」
架月先輩だ。
一部の女子がざわざわと黄色い声をあげている。
男子はみんな体を強ばらせたように見えた。
私は急いで架月先輩の方へ行く。
「どうしたんですか?」
「今日、一緒に帰らない?」
架月先輩はさらっと言った。
一緒に帰るって、恋人らしい行為だ。
嬉しいのやら恥ずかしいのやら…。
とにかく私は頷いた。
あ、でも、今日は確か部活が休み……。
全ての部活が休みの時は一美やゆぐむと一緒に帰る約束だし…。
「あの、今日だけでいいですから、あそこの二人が一緒でもいいですか?」
私は一美とゆぐむに目線を合わせる。
「いいよ。桐谷の友達なら話しておきたいし。」
架月先輩は笑顔でそう言ってくれた。



--------------------------
放課後。
私と一美、ゆぐむは、架月先輩との待ち合わせ場所に向かう。
校門前にある大きな松の木の下には、すでに先輩が立っていた。
「架月先輩っ。」
私が呼びかけると、こっちに軽く手をふってくれた。
「遅くなってすみません。」
「いや、俺も今来たとこだし、そんなに待ってないから大丈夫。
…それより、そっちの人たちが桐谷の友達?」
架月先輩は一美たちに目を向ける。
「こんにちは、雪日(ゆきひ)一美です。」
浪壱(なみいち)ゆぐむです。」
ゆぐむは少し緊張ぎみだ。
二人が挨拶をすると、架月先輩も笑顔で自己紹介をした。
「それじゃ、帰ろうか。」
そうして私たちは肩を並べて歩き始めた。
こうやって歩いていると、本当にダブルデートみたいに思えてくる。
手を繋いだりするのはもうちょっと後かなって思ってみたり…。
これからこういう日々が続くんだと思うと、私は自然に笑顔になった。

そう、その時は、そう思っていたんだーーーーー。
 
 

 
後書き
えー、ジャンルにはホラーとあるのにホラー要素ねぇじゃん…とか思わないでください。
まぁ、ないんですけど…。すみません。
次からはおそらくホラーが入ってくることと思います。
なので、次も読んでくださると嬉しいです。
指摘する点は山のようにあると思いますが、大目に見てくださいっっっ(。´Д⊂)
読んでくださった方、ありがとうございました!!
 
< 前ページ 目次
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧