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真・恋姫無双 矛盾の真実 最強の矛と無敵の盾

作者:遊佐
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黄巾の章
  第11話 「忝(かたじけな)い……」

 
前書き
やっと黄巾の章の終わりが見えてきました。
後10話前後でしょうか?
その後もまた大変なんですよね……

実はここまでのプロットでは10行程度だったりします。
プロット自体はまだまだ続きますが……ほんとに終わるんでしょうか? 

 




  ―― 劉備 side 洛陽近郊 山間部 ――




 砦は門が開け放たれて霞さんが突入すると、すぐにも降参する人が続出しました。
 あらかじめ内部で潜伏していたという義勇軍の人たちが、この砦にあった糧食を全部焼いたみたい。
 武器や資材も焼かれて、手も足も出ないことを悟った黄巾の人たちは、あるいは逃げ、あるいは投降しています。

「こんなにあっさり砦が落ちるなんて嘘みたいやわ」

 霞さんが兵隊さんに指示しながらポツリ、と呟きました。
 言うとおりかもしれません。
 半分以上を反対側の山の斜面に釘付けにしているとはいえ、それでも砦がこうもたやすく落ちるなんて……

「桃香様!」
「お姉ちゃーん!」

 あ!

「愛紗ちゃん、鈴々ちゃん! よかった、無事だったんだね!」
「当然です。我らが黄巾ごときに破れるはずがありません」
「こーきんは大したことなかったのだ。それより狭い場所に閉じ込められていたことのほうが、よっぽど堪えたのだ」

 当たり前、と胸を張る愛紗ちゃんとは対称的に、肩をもんでしかめ顔の鈴々ちゃん。
 そっか……なんにしても無事でよかった。

「正直、隠れている間に鈴々がもぞもぞ動くので、いつばれるかと冷や冷やしていましたが」
「だって、狭い中で愛紗の胸の中に鈴々の顔が埋まるのだ。息苦しくてしょうがなかったのだ」
「わ、わたしだって変な声が出そうになるのを必死で我慢していたんだぞ!」
「愛紗はもうちょっと痩せて、胸を減らしたほうがいいと思うのだ」
「好きで膨れたんじゃない! あと私は十分痩せている!」

 あ、あはは。
 ふ、太るとかー痩せるとか-胸のこととかー……
 どうしてこうグサグサと私の胸に突き刺さるんだろう。

「他の皆は無事?」
「はい。箱や台車に忍んだ義勇兵は全員無事です。輜重隊に化けた義勇兵も、さすがに怪我人はいますが大したことはないかと」
「そっか、大成功だね」
「ご主人様たちの考えられた作戦のうち、一番楽な状況かと。やはり黄巾は精兵の軍と違い、崩れると脆いですね」
「内部で愛紗ちゃんたちが撹乱してくれたからだよ。まさかいきなり中から火の手があがったら、私も慌てると思うな」
「そうだな」

 突然の同意の声に愛紗ちゃんと鈴々ちゃんが驚いて振り返る。

「わっ! 翠、いたのか!」
「ひどっ! 愛紗、ひどいぞ! 私はずっとここにいた!」
「にゃはは。白蓮お姉ちゃん並に影薄かったのだ」
「? 誰だか知らんが一緒にするな!」
「そうだよ。白蓮ちゃんなら発言すら気付かないよ」
「……それはそれでひどくないか、桃香?」
「お姉ちゃんはしょうがないのだ」
「桃香様……」

 え、え?
 私が悪いの!?

「あんさんら……気ぃ緩みすぎやで?」

 あ、霞さんがジト目でこっちを見ている。
 ごめんなさい。

「で、この後やけどほんまにここ全部焼き払ってええんか?」
「うん。ここに籠もるより、焼き払って退路を断たせたほうが後々やりやすいんだって。たぶん朱里ちゃんも雛里ちゃんもこっちに向かってると思うし、全部焼いちゃって夜が明ける前に合流しよ」
「そやな……そういや盾二はどこや?」

 霞ちゃんがきょろきょろと盾二さんを探す。
 私は、懐から紙を取り出すと細かく書かれた内容を確認する。

「えーと……状況がこうだから、たぶんご主人様は朱里ちゃんたちと合流して次の仕込みをしてるんじゃないかな?」
「どれどれ……はんはん。んじゃ気をつけて下りんとあかんな。了解や」

 霞さんは、砦のほうに振り返って叫びました。

「おまえらー! 全部焼いたらさっさと撤収して麓にもどるで! 捕虜は優先して陣にもどらせぇ! いいな、全部焼くんやで! 武器一つ、米一つ残したらあかんで!」
「「「応っ!」」」

 兵隊さんたちがそれぞれ作業にかかります。
 さて、私達も急がないと。




  ―― 盾二 side ――




「朱里、雛里」
「「盾二様!」」

 俺は山を迂回して向かってきた朱里と雛里に合流していた。

「作戦は阿の壱のまま。そちらの状況は?」
「はい、相手は予想通り山の中腹の高台で足止めのままです。無理に下山も砦への回頭もありませんでした」
「予定通り煙に巻いた後、音でその場に足止めさせています。追加の焚き木もくべて置きましたので、明日の昼ぐらいまでは続くかと。あと罠はこれ見よがしに多数仕掛けました。隠し罠も十分に」
「そうか……では敵の動きは要注意で。いまのうちにこっちにも罠を仕掛けよう。時間もないから、綱張りだけでいい」
「了解しました。夜明けまでにはなんとか」
「夜明けまでは、後数刻。時間との勝負だ。隠蔽にはさして凝らなくていい。数多く綱を張るんだ。疑心暗鬼にさえ陥らせればいいのだからな」

 俺は二人に伝えると、煙でよく見えない月を見上げた。

「さて……あの将軍か。できれば降伏させたいが……」




 ―― other side ――




 馬元義は焦っていた。
 周囲は闇。そして煙である。
 視界はほぼないに等しく、山の反対側からの人の罵声が聞こえたことで砦が攻撃を受けているのはわかる。
 だが、こちらの眼下の麓でも出陣のドラが先程から鳴り響いているのである。
 うかつに動けないため、弓で攻撃させたが向かい風の為に麓まで届いているとは思えない。
 おまけに麓への斥候は、煙による視界不良、おまけに呼吸困難な上、罠によって負傷者が多数でている。
 しかも罠には糞尿が塗ってあり、至急水で洗わせた。
 このような状況では麓への攻撃は自殺行為だ。

(せめて太陽が昇ってくれさえすれば……)

 そうすれば視界は多少とはいえよくなる。
 砦へ戻り、そちらの麓からから回り込むこともできるだろう。
 向こうの砦ならばそう易々と落ちるものではない。

(朝になれば攻めている官軍に横槍を食らわせることもできる……今は我慢だ)

 そう考えた馬元義は、将としては凡庸である。
 だが、彼を責めることはできない。
 情報が遮断された状況の軍が生き残る確率を求めるのならば、常に守勢になるからだ。

 そうして夜明けになろうかという頃。

「しょ、将軍! 砦から逃げてきたものが……」
「なに!? どういうことだ!」
「そ、それが……砦が陥落したと」
「ば、ばかな……」

 馬元義は愕然とした。
 野晒しの陣と言うわけではない。
 火攻めも利かない難攻不落の砦のはずである。
 それこそ空から火矢を打ち込まれない限り、吹き降ろしの風で下からでは砦まで届かないはずだ。

「そ、その兵をここに!」
「はっ!」

 馬元義の指示により兵が連れ出されてきた。
 その身は炭にまみれ所々焦げた服を着ている。
 あきらかに火に巻かれた様子だった。

「ど、どういうことだ! 火計などできる場所ではなかったはずだぞ!」
「そ、それが……裏切り者が出たんです」
「なんだと!」
「あの輜重隊……あいつらが中から火をつけて、門を開けました。あいつら官軍だったんです!」
「……おのれぇ! 奴か! 郷循か!」
「そ、それが……その郷循は、奇襲部隊として官の部隊に奇襲をかけたのですが、突然轟音がして奇襲部隊がいた場所に火柱が昇りまして」
「ぬ……? 郷循はどうした」
「わかりません。そのすぐ後に官軍が攻めて来ました。そして輜重隊が中から火をつけたと同じ頃にいつの間にか内部に官軍らしき部隊が……」
「……」

 どういうことだ?
 郷循は外に出ていて官軍を引き入れたのか?
 だが、奴が外に出ていた間に部下が動いた……だが見張りはつけていたはずだ。
 輜重隊はともかく、その部隊はどこから……?
 普通に考えれば奴が裏切ったはず。
 だが、輜重隊が勝手に動いたとしたら?
 そもそも奴は敵なのか? 味方なのか?
 一角の人物とは思っていたが、部下の統制が取れないということなのか?
 それとも奴がすべて仕組んだと言うことなのか?

「……(ギリッ)」
「将軍……いかがしますか?」
「……砦は陥落したのだな?」
「……はい」

 砦が落ちた。
 ならば武器や糧食も失われたということだ。
 もはやこれまでか……

「一刻後、日が昇り視界が多少見えるようになったら私は砦へと戻る。ここには三千ほど残して山頂を取られないように奮闘せよ」
「はっ!」

 恐らく奴らは砦を盾にこちらを攻撃してくるだろうか……




  ―― ??? side ――




 この部隊も終わりか。
 俺は名もなき黄巾の兵として、馬元義という将軍と共にいる。
 この将軍、おっさんくさい、ざんばら頭の髭面(ひげづら)だが、それなりに人のよいところはある。
 個人的にはいい人だとは思っている。
 最近では、やたらと官の悪口ばかりで、辟易もしていたが……

 あれから日が昇り、煙に巻かれているとはいえ視界が多少見えるようになった後。
 皆、片手に水をしみこませた布で口元を覆いながら山の裏手へと歩いている。
 しばらくすると風の通りが変わり、麓からの白い煙が来なくなった。
 だが、布は口元から離せない。
 それは砦から昇る黒煙のせいだ。
 
「……焼き尽くされたのか」

 将軍が、呆然とした顔で呟く。
 将軍の気持ちもわかる。
 普通なら砦を占拠して、防備を固めるだろう。
 この砦は下には強いが、上には無防備だ。
 だから奴らが占拠してくれれば、取り返す方法がなかったわけでもない。
 しかも相手に陥落された直後なら、砦としての機能も大して働かないと踏んでいたのかもしれない。
 だが、それも砦が残っていれば、の話だ。
 完全に焼き尽くされ、その場には炭化した住居だったらしき物、柵だったらしき物しか残っていない。

「武器のひとかけらも、糧食の一粒もすべて焼き尽くされた、か……」

 将軍は天を仰いだ。
 俺でもわかる。
 あとはもう……敵に突っ込んで玉砕するか、降伏するかしかない。

「将軍……山の麓に官軍の陣が。あと、細作の話では周辺の木々に綱が張られているようです」

 綱……敵の罠か。
 反対側の麓近辺に斥候としてでた知り合いは、落とし穴の底にあったとがった木の槍で喉を貫かれて死んだらしい。
 しかも槍には糞尿が塗られていたとのこと。
 糞尿が体内に入れば破傷風になる。
 発病してしまえば、顔面や身体が引き攣ったまま死ぬ、と言う恐ろしい病気だ。
 毒としてはかなり原始的で、かつ恐ろしい。

「下手に突撃すれば罠で全滅、か……緩々下りれば矢衾か。万策尽きた、な……」

 将軍の言葉にへたへたと、周囲の仲間が膝をつく。

「将軍、戻って反対側から山を下りては……」
「煙を吸って呼吸困難になり、罠にかかって死ねと? おまけに向こうから矢を射られたら向こうは昇りの追い風。どっちにしても終わりだよ」
「…………」
「糧食も焼き尽くされて篭城すらできない。もはやこれまでだ。投降したい者、逃げる者は止めん。各々好きにしろ」
「将軍は……?」

 俺が問いかけると、将軍は全てを諦めた顔で笑った。

「俺は官軍に突撃する。一人でも道連れにしてやるさ……ふふ、ふはははは!」

 将軍が突然笑い出す。
 周囲は何事か、狂ったかと目を見開いた。

「ははは……何故だろうな。昨日まではあんなに俺を嵌めた官軍ども……宦官やその配下の官軍に恨みや憎しみに溢れていたのに。今はただ、何も感じない。自分の分というものがよくわかったんだろうな……所詮俺は人の上に立つべきものじゃなかったんだ」

 将軍はすでに死を覚悟している。
 俺も、その場にいたほかの仲間もそう思った。

「賄賂しか求めない公の人間。喰うためだけにしか動かない市勢の人間……この世はなんとくだらないことか。こんな世に生まれた俺は、ただ馬鹿をやって馬鹿のように死ぬ、か。ふふ……ならばそれもまたよし」

 将軍は、笑いながら俺たちを見渡した。

「お前達は命を粗末にするな。砦に死体がなかったことからも、捕虜は受け入れているだろう。お前達は……」
「俺は将軍に付いて行きます」

 将軍の言葉を遮るように発せられる言葉。
 誰だ?
 
 ……俺か。
 はは、俺だ。
 思わず口に出ちまった。
 死ぬつもりなんてなかったんだけどなあ……

「お前……」
「将軍だけいい格好はしないでくださいよ。俺たちだって喰うためとはいえ立派な黄巾の一員です。ならば最後までお供させていただきますよ」
「お前だけ格好いいこというなよ。将軍、俺も行きます」
「俺だって行きますよ。どうせ黄巾やめたら喰っていく方法なんてないし」
「死ぬなら将軍のように格好よくいきたいしな」

「おまえら……」

 将軍が、唖然とした顔でこちらを見る。
 俺の周囲にいるのは五十名弱。
 他の連中は遠巻きに見ているようだ。
 所詮は、食い詰め者の集まり。
 五十名集まっただけでも御の字だろう。

「……ふっ。馬鹿どもが、一緒に行くか」
「「「応っ!」」」

 俺たちがそう応えたとき。

「あ~……もったいないな」

 一人の男の声が聞こえた。
 誰だ?

「……お前は」
「どうも、将軍」

 そこにいたのは、郷循だった……




  ―― 盾二 side ――




「どうも、将軍」

 俺がぺこっ、と頭を下げる。
 周囲の黄巾兵は、それぞれ槍や剣を構える。
 それを馬元義が、手で制した。

「郷循……生きていたのか」
「すいません。あれは俺の仕業ですから」

 くいっ、と首だけで砦を指す。
 それだけで馬元義は、得心したようだ。

「やはり間者だったのか……」
「まあ、初歩の初歩ですね。埋服の計ってやつです。工夫は凝らしましたけど」

 荷台に仕掛けをした後、わざと矢傷を付けたり火であぶったりな。
 兵には悪いが、お互い殴ったり薄く斬ったりして傷をつけた者もいる。

「どうやって砦を落としたのだ?」
「トロイの木馬……は知らないか。まあ簡単に言えば荷台と箱に偽装しまして。箱に二人、荷車に一人隠れられる場所を作りました。突貫工事でしたけど、ばれなくて何よりですよ」
「そうか……砦内に現れた部隊というのはそれか。輜重隊だけに気を配っていたのがまずかったか」
「普通は怪しい人物がそこにいれば、それ以外は疑わなくなるものですよ。ましてや糧食や武器は本物ですしね。あとは、その将であるはずの俺が砦の外にでれば、ほかの警戒の目も薄くなりますから」
「ずいぶんと自分の武と策に自信があるようだな。私が砦に入れずに糧食や武器だけ砦にいれていたらどうしたのかね」
「そのときは戦いましたよ。あの時、官の部隊は完全には撤収していなかったので、戦い始めれば霞の部隊が戻ってきて将軍を人質にするつもりでしたし。糧食が足りないだろうことはわかっていたので、荷車だけ中に入れた後なら、そこに潜んだ部隊が撹乱させるように指示も出していましたからね」

 あのときの行動方針としては、阿・伊・宇という三つの作戦案があった。
 阿は、今回の通りトロイの木馬。
 伊は、俺一人で砦へ潜入して破壊工作。
 宇は、矢をエアバーストとアイスキャッスルで防ぎつつ、柵をぶち壊しての力業。

 これらは、上から順番に被害を押さえる順として立てられている。
 一番、こちらの被害が出ない方法を取ったに過ぎない。
 いくら砦が難攻不落といっても、所詮は木と土で作られた砦だ。
 被害度外視なら、砦を落とす方法などいくらでもある。

「まあ敵味方ともに被害を抑えるなら一番の方法と思ったんですよ。最上は将軍を人質にして降伏させる、なんですけど……黄巾の首魁ならともかく、将軍では失礼ながらどれほど効果があるかわからなかったもので」
「ふ……言ってくれるな」
「まあ黄巾の兵に関しては、民を殺戮しているゆえにあまり手心を加える気はなかったんですが……唐周の言葉でちょっと観方が変わりましてね」
「副官が?」
「ええ……信用させることを言った手前、心苦しかったのですがね。最初、こちらを疑っていることはよくわかっていたのですが、自分で納得したらこちらを気遣うように言ってきました。人の心が残っているなら、説得に応じるかなと考え直しまして」
「…………」
「本来はこの後、糧食が尽きて飢えて突撃してくるなら殺し尽くす。降伏するならば将軍以下主だった者はさらし首、の予定だったんですが……その前に降伏勧告することにしました。全員助命することは官軍の総大将の霞――張遼には了承させています」
「張遼……たしか董卓軍の武将だったな」
「ご存知とは……そういえば将軍は武官でしたな」

 史実だと政治色が強いから、武官というより文官の色が濃いが……

「張遼を動かす、か……お主は何者だ? 郷循という名前は偽名にしても、名のある武将に違いあるまい」
「ああ……そういえば名乗るの忘れていました。俺は北郷盾二。一応、巷では天の御遣いなんて言われていまして」
「なに! お前がか!」

 いや、似合ってないのはわかってるよ。
 天の御遣いなんて自分で言うのもこっぱずかしい。

「まあ、言いたい奴が言っているだけです。俺は俺ですからね。それにこれらの策は俺だけで作ったのではなく、俺の配下の軍師二人と共同で作った策です。俺だけの力じゃありませんよ」
「……そうか。お前が、な……」

 馬元義が深く頷く。

「で、確認なのですが……降伏しますか? 降伏するなら将軍の立場は守ります」
「守る、とは?」
「将軍には名を捨てていただいて黄巾の一武将として助命しますよ。官への報告に名前があるとまずいのでしょう? 宦官とのことは砦にいたときに将軍の話を聞きましたので」
「ふふ……なるほど、ありがたいことだ。そうだな、部下は助命願いたい」
「……部下は、ですか。将軍は?」
「私か。郷循……いや、北郷どの。貴殿の申し出は大変嬉しいが、その前に一対一で立会いを所望する!」
「…………」

 立会い、ね……

「……なるほど。武人の誇り、ですか」
「ああ。先程までは死ぬのに何の躊躇いもなかった。部下の為に死ぬのもよいと思っていた。だが、お主が天の御遣いであるならば話は別だ! 名にし負う貴方と矛を交えるのは武人の誉れ! 何卒一騎打ちを所望する!」
「……やはり元武官、ということですね。いいでしょう」

 力を発揮できずに死ぬとなれば、武人として死よりもつらい。
 俺自身も武人であればこそ、その想いもわかる。

(かたじけな)い……」

 馬元義は幅広の剣を抜き、こちらに向けて構える。
 その周囲から、兵士たちが遠巻きに離れていく。

「こちらは無手です。いつでもどうぞ」

 俺は、AMスーツの人工筋肉を膨張させて構える。

「ゆくぞ!」
 
 

 
後書き
9話で少しミスりました。
馬元義の容姿の描写を入れ忘れてました。

容姿はおっさんです。
美形とか若い人を想像していた方、すいません。 
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