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エルザの不安

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第三章

「それでもやがては」
「名前を聞いていたわね」
「ローエングリンにね」
「そうしていたわよね」
 ポップは自分のこととして捉えて言った。
「やがては」
「そうなっていたよ、それでね」
 イエルザレムも言う。
「今の僕だけれど」
「貴方は?」
「僕の名前は聞いてもね」
 そうしてもだというのだ、イエルザレムは笑顔でポップに話す。
「構わないよ」
「ローエングリンでも?」
「そう、それでもね」
「聞いていいのね」
「何でもね」
 名前以外のことも聞いていいというのだ。
「そうしていいよ」
「そう、けれど」
「ローエングリンは聞いてはいけないからね」
 彼の場合はというのだ。
「このことは違うね」
「そうね、何か舞台にいると」
 稽古であってもだった。
「それだけでもう」
「本当にエルザになってるね」
「苦しい位よ」
 ローエングリンのことを聞きたく知りたいがそれが出来ないことが何よりも苦しく辛いというのだ、それがポップの今の苦しみなのだ。
「本当にね」
「成程ね。僕もね」
「貴方も?今度は何なの?」
「秘密にしている、隠していること」
 ローエングリンとしてそうしていることがだというのだ。
「それは苦しいね」
「ローエングリンもまた」
「これは人によるだろうけれどね」
「隠しごとはなのね」
「うん、隠したままでいることは辛いことなんだ」
 彼もまた同じだというのだ。
「それはね」
「夫婦の間でも隠しごとをする人はいるわよ」
「そうだね、いるね」
 浮気だの借金だのだ、この辺りは何時でも何処でもある話だ、だから家庭裁判所というものが世の中にはあるのだ。
「幾らでもね」
「それでもなの?」
「僕の場合は違って」
「愛する相手への隠しごとは」
「そう、辛いよ」
 そうだというのだ。
「中々ね」
「そうなのね」
「ローエングリンもそうじゃないかな」 
 イエルザレムはローエングリンの話をした、今彼が演じているその騎士を。
「彼もね」
「生真面目で純粋だから」
「そう、だからこそね」
「じゃあ貴方もそうなるのかしら」
 生真面目で純粋ではないかというのだ、ローエングリンと同じく隠しごとが苦しいというのなら。
「違うの?」
「いや、僕はあそこまで純粋じゃないよ。むしろ」
「汚れてるっていうのね」
「そうだよ、僕は汚れているよ」
 笑ってこうポップに話す。 
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