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第三章

「お好み焼きだ。それはあるか」
「お好み焼きですね」
「広島風の」
「最近は北海道でもお好み焼きは増えてきたがな」
 それはいいとしてもだ。しかしだと言う雄樹だった。
「それでも大阪風が多いからな」
「そういえばそうかな」
「そうだよな、何かな」
「大阪の方がな」
「やっぱり多いよな」
 営業部の面々もだ。雄樹の言葉を聞いてだ。
 それぞれ考える顔になり述べていく。そのうえでだった。
 店のメニューを見る。確かに広島風もある。だが大阪風の方が種類が多い。もんじゃもあるが雄樹はすぐにそのもんじゃについてこう言った。
「俺は食わないからな」
「あっ、そういえばそうですね」
「部長もんじゃはですね」
「召し上がられませんね」
「ああ、もんじゃは嫌いだ」
 実際にだ。嫌いと言うのだった。
「だから食わない」
「それでお好み焼きもですか」
「やっぱり広島ですか」
「大阪風は駄目だ。広島じゃあれは大阪焼きっていうんだよ」
 腕を組んでだ。難しい顔で言う彼だった。
「向こうは向こうで広島焼きって呼んでるけれどな」
「何か複雑ですね」
「そんな対立があったんですか」
「お好み焼き屋の小僧が修学旅行で大阪に行ってだ」
 雄樹は彼の地元広島の話をはじめた。
「そこで食って覚えた大阪焼きを家の鉄板で焼いて親に見せた。するとだ」
「怒られたんですね」
「そうなったんですね」
「親父さんからはギャラクティカマグナム、お袋さんからはギャラクティカファンとムを喰らった」
 両方にだ。必殺ブローを浴びたというのだ。
「そうなってしまった」
「ううん、凄いですね」
「両親からそれぞれ必殺ブローですか」
「本気で怒られたんですね」
「それだけな。広島人にはお好み焼きにこだわりがあるんだ」
 そうだというのだ。
「それに牡蠣に酒な」
「その二つもですね」
「やっぱりそうなんですね」
「後な。今は知らない人も多いがな」
 言いながらだ。彼は自分の服の懐から何かを出してきた。それはというと。
 しゃもじだった。木製の白いしゃもじだ。それを二つ出して話すのである。
「これだよ、これ」
「しゃもじ?」
「しゃもじが一体?」
「俺の身体にはな。赤い血潮が流れてるんだ」
 一聞とそれは誰でもであることだった。しかしだ。
 彼はだ。強い声でこう言ったのだった。
「だが。これはあれなんだ」
「赤で広島っていいますと」
「まさかそれは」
「そうだ、カープだ」
 彼等にもだ。それを言うのだった。
「俺の身体には赤ヘル軍団の熱き想いが常に宿ってるんだ」
「ううん、部長が広島ファンなのは知ってましたけれど」
「そこまで熱かったんですか」
「凄いですね」
「三度の日本一のスターティングオーダーも主力投手陣も全部言える」
 何十年も前からだった。年季が違っていた。
「俺は野球を知った頃からの広島ファンだからな。尊敬する人は古葉さんだ」
 他でもないだ。カープ黄金時代の監督だ。
「あの人のことは絶対に忘れないからな」
「じゃあ好きな選手は誰ですか?」
 若い部下が彼に尋ねた。
「現役でも過去の選手でも誰かいますよね」
「ミスター赤ヘルだな」
 まずはこの通称からだった。 
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