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なりたくないけどチートな勇者

作者:南師
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28*一日張り付いてみました

~シルバサイド~

霞みががった空がうっすら青くなってきたころ、彼女達はそこにいた。
小鳥の囀りしか聞こえ無い、皆が眠っている静まりかえった空間で、気配を消すようにしながらひっそりと。

ここは兵士宿舎のとある一室。

この部屋で寝ているのは、黒い髪と瞳を持つ異国の青年、ナルミである。

本来なら彼はもっと上位の、それこそ将軍クラスの住む部屋に住んでもいいのだが、彼がケバいのは嫌と断ってからは急遽掃除したこの部屋で生活している。

中は机と椅子が二個、そしてベッドとかなり質素……というか物が無い部屋である。
元は物置で、その前は一般兵士用の相部屋だったので広さはかなりあるが、何せ物が無いので何か寂しさを感じさせる。

ちなみに言うと、彼がここに来てから近隣の部屋に住む兵士達は今まで以上にピシッとなっているのは彼らの上司からしたら嬉しい誤算だったりする。

そして、そんな彼の部屋の天井裏には四人の人影がうごめいている。

「……私だけでやりたいです」

「無理ですね。あなたならすぐにばれてしまいます。」

「まぁ、気持ちはわかるけどね。」

「……………独占欲も、ほどほどに」

シルバ含む、少女同盟(仮)の四人である。
彼女達は今日一日休暇をとり、四人揃ってナルミの一日を観察する事にしたのである。

ちなみに、本来の目的は忘れかけていたりする。
しかも、あまりに朝早くから集まりすぎて隠密活動中なのに暇すぎておしゃべりをはじめる始末。
シルバに至っては、ナルミの寝顔を頬を染め、うっとりしながら眺めている。
そこからは邪な気配と視線がビシビシしている。
ほかの者も皆、存在感丸出しである。

あくまで、気配を消すようにしているだけで、完全には消えていないのだ。
そしてそれに全く気が付かない四人の娘。

ぶっちゃけ、ダメダメである。

だが、そこは現代っ子代表長谷川鳴海。
朝食より睡眠を優先させ、さらには現代日本でこんな忍者的観察をされた経験も無い彼は、彼女達の視線や気配を物ともせず、夢の世界でアニメ的デュエルを海馬さんとしているのである。
ちなみに、十代にはすでに勝っている。

「……はぅ…先生……」

だがそんな事などつゆしらず、夢の中で黒魔術師の少女と聖なるエルフを侍らせながら正義の味方をちまちま虐めている彼の寝顔を陰から恍惚の表情で覗くシルバ。
そしてそんな彼女を見ながら、やはり何にも知らないで彼氏がどうとかの方向へ話を発展させる三人娘。

そう、彼女達は何も知らないのだ。


授業の三分の二を寝て過ごす、睡眠魔人の睡眠欲の深さを。


************☆


「………いつまで寝てるんでしょう」

「……というか、生きてる?」

「………………仰向けのまま、微動だにしない」

「先生は生きてます!!何をしつれみょあ」

騒ぐシルバの口を急いで押さえるスフィー。
今の時間はだいたいの兵士が起き出し、活動をはじめた頃から約4時間が経過している。
いつ誰に声を聞かれるかわからないのだ。

ちなみにナルミは今、夢の中で社長とタッグを組み、闇遊戯さんと十代さんペアに立ち向かっている。
今の所はぎりぎり負けている。

そして、やっぱりそんな事を知らないシルバはスフィーを睨み、食ってかかる。

「先生は死んでません!ただ眠っているだけです!」

「わかった!わかったからもうちょっと静かに!!」

そう言うスフィーの方が音量がおっきかったりする。

それから三人による説得で何とか落ち着いたシルバは、最後にこう言った。

「先生が死んだら……私は、生きていけません。私は先生だけの奴隷であり、征服されるべき所有物。先生がいなくなったら私はどこまでも追い掛け、見つけ出します。例えそれが死後の世界でも。それが私の愛であり、先生の奴隷である私の義務なのです」

劇から帰ってから、家族どころかもはや国公認の仲(事実は別として)と知った彼女はやたらオープンにナルミへの愛を語るようになっていた。

若干……いや、かなり方向性に問題はあるが。

と、シルバがナルミへの愛を語り終えた頃に、下の方で動きがあった。

「粉砕!玉砕!大喝采ィィィィィ!」

ナルミが奇声をあげながら跳び起きたのだ。

いきなりの大声に、びっくりする四人。
そしていまだに夢から覚めきっていないナルミ。

しばらく彼は動かなかったが、やっと頭が覚醒したのかゆっくりと寝床から起き上がる。

「……ふっ、あそこで地獄の暴走召喚からのカイバーマンでブルーアイズ三体とは……やるな、流石は正義の味方」

しかし、直前にあった自分のデスティニードローがなければ成立しなかった、などとよくわからないことを言いながら水を飲むナルミ。

そして顔を洗い、なにか悪寒を感じながらも白黒の薄い寝巻から、いつのまにかデフォルトになってしまった学ランに着替えて一息つく。

数秒立ったままフリーズしていたナルミだが、ふと思い出したように机に向かい出し、ポケットから何かを取り出す。

それは彼女達が見た事も無い、白い板である。
奇妙な光沢のあるそれをナルミが開くと、上は闇夜を思わせる程に黒一色で、下は見た事も無い文字が間隔を開けて羅列されている。

平たく言うと、ノートパソコンである。
だが、科学のかけらも無いこの世界でそれを理解できる者はまずいない。
彼女達も例に漏れず、最終的に人間が使う不思議な魔法具と言う結論に至った。

「……携帯が奴と繋がるなら、これでニコ動も見れるか?」

そう言いながらナルミが板を触ると、漆黒に塗り潰されていた方が急に海を思わせる青に変わった。
それからしばらくすると、青に染まった部分がまたも急に変わりそこにあったのは…

「……ひっ!」

「んなっ!」

「…………」

「あれは……誰……」

黒い扇を右手に持ち、黄金の玉座に座る黒髪黒眼の優雅な女性がそこにいた。
妙齢ながら端正な顔立ちに紅を基本に彩られた異国の衣装、髪にはどこかの王冠のようなモノや見た事がない髪飾り、漆黒の瞳は全てを見透かすかのようにまっすぐ眼前の青年を見据えている。

「……壁紙、アリカ様か……いつのだ?つか地獄の門とか大分古いな」

ナルミ自身も予想外みたいだったが、全く動じずにまたも板をいじり出す。
よくわからない言語の歌を歌うあたりから余裕が見て取れる。

そしてまたすぐに板が白く変わり、こんどは文字がうつし出される。
そして崩れ落ちるナルミ。

「………わかってましたけどね。これは携帯と違うって」

そう言いながら、また先程の女性を出現させた後、板を青から黒に変えそれをしまう。
そしてため息をつきながら彼は部屋を後にした。


「あれは一体誰なんですか!?」

「わかりません!あんな女性、私も見た事が無いです!!」

「黒髪黒眼……彼女もまた人間なのか?」

スフィー、シルバ、隊長の順に慌てながら話しをはじめる。
それほどまでにさっきの女性の印象は強烈なのだ。

そこで一人、おだんご頭の少女が冷静に言葉を発する。

「…………あれ、ただの絵じゃない?」

あたらずとも遠からず。
だがこれに反発する隊長とスフィー。

「あんな精巧な絵がありますか!」

「そうですよ先輩!あれはきっと封印された精霊か何かですよ!!」

「………封印ならむしろ魔法陣がでると思うし、文字が被さってたから多分絵だよ」

「じ、じゃあ、なんですか?あれは誰の絵なんですか!?」

控えめにシルバが質問する。
冷静さを装ってはいるが、誰が見てもわかるくらい動揺しまくりである。
シルバの質問に、少し考えた後に彼女は答える。

「……多分、あれはニホンの女王だ。ナルミ様がわざわざ様付けで名前を呼んでるし、玉座に座っていて王冠のようなものもしていた。服も見た事がないくらい気品に溢れていて、それを当たり前のように優雅に着こなす彼女はほぼ間違い無くニホンの頂点に君臨する女王だろう」

その言葉に愕然としつつも、どこか納得できた三人。
それだけあの女性は優雅さと気品、そして威厳に包まれていたのだ。

「……あれが…先生の国の女王…」

「うちの国の王妃様とはまた違う怖さを感じます……」

「名前は……たしかカベガミアリカ様か…」

案の定というか、やはりいろいろと勘違いをしている四人娘。

そんな事をしている三人に、さらに自身が分析したことを話す少女。

「………そして、ナルミ様はあれをつねに持って歩いている。つまり彼は祖国への、自らの主君への忠誠をいまだに持っているが、それでもなおこの国を救うために祖国を捨てたという事になる」

しんとなる天井裏。
なにか冷たい物が彼女達の胸に広がっていく。

「………これは、遊びで見ていい物ではなかった。私達がやった事は、ナルミ様への冒涜だ」

それがトドメとなり、彼女達の心に突き刺さる。

当のナルミからしたら、吹き出しながら全力で否定するであろう言葉も、彼女達にとっては致命傷となるモノであった。
思い込みとは、げに恐ろしいモノである。

ちなみにそれからしばらく、彼女達はその場から動く事が出来ず静かに泣いていた。
それにより、兵士達の間ではしばらく“啜り泣く亡霊”の噂が広まったのはまた別のお話しである。


それからしばらくして、だんだん皆も落ち着いてきた。

「……み、みんな、落ち、着いた?」

最初にそう切り出したのは隊長である。
彼女もまた、目は赤く呂律がビミョーに回っていない。

「は、はい……ぐす……なん、とか」

「……スン……大丈夫…です」

彼女の問いに答えたのはシルバとスフィー、もう一人はマイペースにお昼ご飯を調達してくるといってどこかに行っている。

「………まだ、続ける?」

隊長の言葉で再び沈黙が訪れる。

重い沈黙がしばらく続いたが、それを最初に打開したのはシルバであった。

「………続けます。こんな半端なところで止めたらそれこそお遊びだって証明してるようなものです!私は遊びではなく、本気で先生が旅に出る前に先生の事が知りたいんです!!」

そう高らかに宣言し、赤い眼で隊長を見据える。
その眼を見て彼女の言葉が本気だと感じた隊長は、小さく頷きスフィーに聞いた。

「スフィー、きみは続ける?」

「はい、私も続けます。私もナルミ様の、いえ、真の英雄の姿を見てみたいです!!」

そう言いながら小さく拳を作るスフィー。
彼女もまた、本気で答えている。

だが、客観的に見るとどうにも当初の目的とはズレている気がするが、それには誰も気が付かない。

そして二人が決意を見せたところで、見計らったようなタイミングで何かを持った少女がでてきた。

「………新作お菓子、カルミャヤキの試作品を貰った。それと、ナルミ様はエリザ姫様と共に、魔王陛下に呼ばれたらしいが……どうする?」

「「行きます!」」

かくして、新たな決意と共に少女同盟(仮)が再び動き出すのであった。


~???サイド~


どこかの、薄暗い部屋の中で二つの陰がうごめいていた。

「聞いたか?」

「うん、聞いた。どうする?」

「決まってんだろ……早速準備だ!」

「いつになるかもわからないのに……とりあえず、これは僕らだけの秘密だからね」

「ああ、それはわかってる」

「本当かなぁ……」

またここで、静かにそれぞれの思惑が動き出す。


~シルバサイド~


彼女達は今、魔王の私室の天井裏に潜んでいる。

最初、他の隊員達が見張っていたのを隊長権限と詭弁でごまかして交代させたのだ。

彼女達が来た時には、ガルクやエリザ達となにやら難しい政治のお話しをしていたのだが、今は話しが終わり魔王と王妃、そしてナルミだけがのこっている

潜んでいる途中、ガルクが彼女達の潜んでいるところを凝視してヒヤヒヤしたり、ナルミが神との交流があるかも知れないという事が発覚したりと色々あったが、今の所問題無く事は運んでいる。

そして、ナルミだけが呼ばれた理由は四人もだいたい予想はついていた。

「やっぱり、休暇の日程が決まったのでしょうか?」

「多分、そうだと思うけど……」

「…………まだ、なんとも言えない」

そんな会話をする王妃の近衛隊の三人娘。
そしてその横では

「……寝袋に魔石灯、あとは…」

ついていく気満々のシルバが旅の準備に必要なモノについて考えていた。

「…シルバ、なにぶつぶつ言ってんの?」

「あ、いえなんでもないです」

そんな事をしているうちに、王妃とうとう本題を口にした。

「で、今回呼び止めた理由なんですけど……ナルミさんに貴族としての地位を与えようと思うの」

「ほぇ?」

これはシルバの発言である。
あまりに予想外な内容に、つい感情が声になってでていったのだ。
他の三人も、王妃が何を言っているのを理解するのに頭がついて行かない様子である。

「き、貴族!?休暇についてでなく!?」

そして話の中心であるナルミもまた、混乱を隠せないでいる。

だがそんな彼の反応もものともせず、王妃は事もなげに話しを続ける。

「ええ、休暇ももう実は大丈夫なのだけど、一旦こっちを優先しておくわ。実はガルクに頼まれたの、形だけでも貴族として扱う事は出来ないかって。いくらあなたでの今の地位が近衛隊名誉顧問だとしても、出身が平民で貴族の地位も無いから、貴族の娘と結婚は難しいのよ」

その言葉に一番反応したのはもちろん

「王妃様から……認められ……てる?……私達が……?」

「シルバさん、戻ってきて下さい。そして痛いです、腕を握らないでください」

シルバである。
そしてその被害を被っていろのはスフィーの右腕である。

そしてスフィーの願いは叶う事なく、シルバはさらに彼女の腕を強く握る。

「痛い痛い痛い痛い痛い、ちぎれますちぎれますちぎれるっだだだだだ!!」

「ふふ……ふふふふふ……私と……先生が……ふふふ…」

ガンッ!ゴンッ!

「あんたらうるさい、静かにしてよ」

さわぐ二人に隊長の鉄拳制裁がくだる。

「っつ~~~…」

「な、なんで私まで……」

頭を抱え、転がる二人。
そんな二人が痛がっているうちにも、下ではどんどん話しが進んでいく。

「いやでも!どうやって!?戦争以外は自分、何もやってないんですよ!?」

「あら、やってるじゃない。戦争でのあなたの活躍や戦後のゴタゴタとかで忘れ去られていたものが」

「……ありましたっけ?」

「あるわよ……盗賊団“朱きグム”の壊滅、あと戦争の報酬に逆賊の討伐分が入れ忘れられてたのでそれも」

王妃のその言葉に唖然とする四人。

それもそのはず、朱きグムとはこの世界でも五本の指に入ると言われている盗賊団なのだ。

小数精鋭で、個々の戦闘力が魔法を使いこなし並の兵士より遥かに強く、団をまとめ上げている頭の指揮能力が高いのだ。
小数である事を生かした多様な作戦に全員魔法を完全に使いこなすという、そこらのならずものの集まりな盗賊団とは訳が違うのだ。

「……あれですか、あなたの事をナルミ様が身をていして護ったていう盗賊団ですか」

「……たしか、あれ先生が一撃で全員気絶させたんですよね……」

「………討伐に兵士を三回送っても倒せなかったのに…」

「……まさに化け物ですね」

再びあらためてナルミの強さを実感する三人なのであった。

そんな感じにしみじみしているうちにも、話はどんどん進んでいく。

「議会はもう通っているわ。これに署名してくれたらもう、あなたはハセガワ家の当主、ハセガワ・ナルミよ。貴族でもそれなりに高い地位だから、ある程度の融通をきかせる事も可能よ」

「……マジっすか。いくらなんでもはやくないっすか?」

「何事も早め早めが一番よ」

「……貴族って、政治とかしなけりゃならんのでは?」

「違うわよ、政治は政治、貴族は貴族。あ、ちゃんとお家も建ててあげるわよ。シルバちゃんとの愛の巣ね」

「…………」

「ついでに言うと、休暇についても支障はないわよ。あなたには反逆者から没収した領地も贈呈するから、そこの様子を見にいくついでに旅に出るって言えば問題ないわ。あいつも一応それなりな貴族だったから、そこにはあなたの別荘もあるわよ」

「……別荘って……どこの軽井沢よ……はは…ぱねぇ……どんな出世だよコノヤロー」

そう言って崩れ落ちるナルミ。
目は虚ろで机に突っ伏している。

「どうした?何か問題でもあったか?」

「……自分、そんなものいらないです。はい、荷が重いです」

力無く魔王の問いに答えるナルミ。
だがどこか的外れな答えである。

「まぁ、議会でもう決定した事だからもう拒否はできないぞ」

「……はぁ……わかりました、わかりましたよ!」

そう言って書類に名前を書くナルミ。
半ばあきらめたような、それでいてやけくそな複雑な顔をしている。


さて、この一連の出来事中、天井裏に潜んでいた四人はどういう反応をしていたかと言うと…

「あ……愛の巣……私と先生の…キャー!!」

「ヤメテヤメテヤメテヤメテヤメテヤメテ痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!ちぎれる裂ける爆ぜるもげる!!」

「あんたらいい加減本当うるさい!!」

ガスッ!!ゴスッ!!

王妃の愛の巣という発言により、輝く未来へと意識をワープさせたシルバが再びスフィーの腕を持っていこうとしたので隊長式鉄拳制裁が再び下された。

「だからなんで私まで……」

悶えるスフィー。
だが、シルバはと言うと

「っつ~……隊長さん!私達の幸せが妬ましいからってひどいです!!」

この調子である。

隊長がこのままでは危険だと判断し、早々に見張りをオダンゴ頭にまかせ、二人を連れて別室に行くという判断は正しかったようだ。
従って、ここは今天井裏ではない。
近くにあった倉庫に隠れているのである。

倉庫と言っても、王族ゆかりの剣だとか落書きとも記号ともわからない国宝の絵画がしまわれたりしている所である。

そしてそこに響くのはスフィーの悲痛な叫びである。

「ギャーーー!!だから骨折れる痛い痛い痛い痛い腕!ヤメテ腕!!」

ガンッ!

鉄拳により再び沈黙する二人の乙女。

「いい加減にしなさい!うるさすぎ!あなたもはやくスフィーから手を離して!!」

そう言ってシルバをスフィーから引きはがす隊長。
スフィーの腕はもはや手の形に鮮やかな痣が出来ている。

「……まったく、あなた達本当に近衛隊員?よくいままでやっていけたわね」

「………………私悪くないのに」

「…………女の嫉妬は醜いです」

「ああん!?」

「「ごめんなさい」」

ようやっと落ち着いた二人は、綺麗に揃って頭を下げた。
そしてそれと同時くらいに

「………収拾ついた?」

オダンゴ頭がやってきた。

「やっとね……疲れたわ」

「……お疲れ様です。こちらもあのあとは特に何もなかったです」

そう言って彼女はナルミ達の会話を説明する。

「………以上が、あなたがたがいなかった間の出来事です」

「そうですか……わかりました」

「で、結局ナルミ様は貴族になられたのですね」

「うーん……なんかあのお方が貴族って想像しにくいかも……」

そんな会話をしばらく続けていたが、今は彼女達は本来仕事中のはずなのだ。
そろそろ戻らねば色々危ない。

「じゃあ、そろそろ解散しましょう。いい?今日の事は誰にも言ったらだめだからね」

「はい、わかってます」

「………りょーかい」

「………腕の痣、跡残んないよね…」

そう言って彼女達は解散した。
とはいえ、シルバ以外の三人は同じ場所へ向かうのだが……

「どうしたんですか?」

オダンゴ頭だけが残ってシルバの肩を掴んだのだ。
そして彼女は口を開く。

「………じつは、まだ他に大切なことを言っていない」

そう勿体振りながら、彼女はゆっくりと話を続ける。

「………四日後にある晩餐会にナルミ様も貴族として出席する事と、ナルミ様は祖国のしきたりからあと半年は結婚できないという事が判明した」

「半年……ですか…」

その報告はシルバを落胆させるには十分だった。
なにせ彼女は今すぐにでも結婚するつもりでいたのだ。

ナルミの意思は関係なく、彼女の頭の中ではもう決定していた事柄でる。
まことに、ヤンデレとは恐ろしい。

だが、肩を落としているシルバに彼女はもう一つ、重大な報告をする。

「そして、こっちの方が重要なんだけど……」

そう言いながら唇を舌で湿らし、すこし間をおきゆったり口を開く。

「とうとうナルミ様の、旅の日取りが決まった。」

その報告は、シルバの気持ちを復活させるには十分過ぎる威力があった。
そして、彼女は動き出す。


目的のため、手段を選ばずに。
 
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