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カンピオーネ!5人”の”神殺し

作者:芳奈
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第二部
  神との遭遇

『ミツケタ・・・!』

「え?」

 エリカが魔術を使用した瞬間、その声は響いた。大地を震わせるその声は、恐ろしい程の威圧感を持ってはいるものの、どこか鈴の鳴るような可憐な声に聴こえた。

 ゴッ!!!

 突如、海が沸騰した。自然現象では考えられないほどの熱量で瞬間的に気化した水分は膨張し、大爆発を起こす。それは、魔術で身を守ることが出来るエリカとは違い、ただの一般人の護堂には、どうすることも出来ない事であった。

 ここで不幸だったのは、エリカは護堂の事を、どこかのカルト魔術結社の人員だと思い込んでいた事である。彼女は突然の爆発に驚きつつも、この程度ならばある程度の腕を持っていれば防ぐ事が可能だと考えてしまった。恐らくまつろわぬ神が顕現したことによる現象だと思われるが、神の神気が混ざった攻撃という訳ではないのだから。逆に言えば、ただ降臨しただけでこれ程の破壊を齎すまつろわぬ神は、やはり人間に太刀打ち出来る存在ではないとも言える。

 エリカの中では、護堂たちは、まつろわぬ神の招来に成功するほどの魔術師という設定になっていた。ただの爆発を防ぐ程度なら、楽勝だろうと、そう考えていたのだが・・・。

 周囲に舞う煙を魔術の風で吹き飛ばしたエリカが見たのは、背中や顔が醜く焼け爛れながらも、体全体を使って少女に覆いかぶさり、爆風から守る護堂の姿であった。

「な・・・何やってるのよ!?」

 あまりの光景に、エリカは思わず駆け寄った。周囲の状況は酷いものだった。コンクリートの地面や近くの建物は吹き飛んだ。美しかった海は、未だにボコボコと沸騰し、そこに住んでいた生物は全て死滅してしまっている。恐るべきことに、浜辺の砂が溶け、硝子状に変化してしまっていた。

 護堂の状態も、酷い物であった。服は焦げ、背負っていたリュックは原型を留めていない。薄着だったのも災いし、彼の体で火傷になっていない部分を探すことなど不可能な程の状態であった。吹き飛んだコンクリートの破片が至る所に突き刺さっており、幾つかの骨は折れている。

 だが、それほどの傷を負ってなお、彼は少女を庇い続けていた。既に意識は朦朧としているため、無意識の行動ではあるが、それでも少女を強く抱きしめていた。

「魔術を使った痕跡すらない・・・。もしかして、一般人・・・?でも、一般人があの一瞬でこの少女を庇ったっていうの?」

 恐るべき精神と反射神経である。魔術で強化している訳でもないのに、ほんの三、四秒で到達した爆風から、ほぼ完璧に少女を守ったのだから。自分の身を守ることよりも、出会ったばかりの少女を守ることを優先したのである。

 しかし、それでも幾つか疑問が残る。

「・・・でも、確実に即死レベルの爆風だった筈・・・。一般人だというのなら、何で生きているの・・・?」

『フム。人の子にしては見所のある少年ね。』

 その声を聞いて、彼女は今自分がどんな状況にいるのかを思い出した。

「ヤバッ・・・!この私としたことが、神を前にして呆けるなんて・・・!」

 その瞬間、咄嗟に防御魔術を起動した彼女の意識は、今までに感じたこともない衝撃によって途切れた。







「・・・だ、大丈夫ですか・・・?な、何で・・・何で私を・・・?」

 少女は、混乱していた。彼女の上に覆いかぶさっている、草薙護堂と名乗った少年。今日初めて出会った彼は、あの爆発に完璧に対応していた。爆発が起きたことを確認し、少女の手を取って、近くの建物の壁に隠れようとしたのだ。しかし、少女を引っ張ってはとても間に合わないと判断し、咄嗟に彼女に覆いかぶさったのだ。

 野球のシニアリーグ日本代表。幼い頃からしてきた訓練は、護堂を裏切らなかった。命の危機に、完璧に対応してみせた彼の反射神経。そして、その行動を支えた運動能力と判断能力。野球に関しては、護堂よりも上位の人間はいくらでもいる。だが、こういう状況に陥って、それでも最善の判断を下せる人間が、一体どれ位いるだろうか?彼は、間違いなく一般人という枠からは外れていた。

『我は見ていたぞ。自分一人ならば、建築物の壁を盾にして身を守ることが出来た。多少の傷を負うことがあっても、命に関わる怪我はしなかったであろう。・・・だが、我が宿敵を連れていては間に合わぬと瞬時に悟り、見殺しにするという考えすらなく、自分の身を犠牲にして守った。だが、本来ならばそんなことをしても無意味。我が熱の前には、ただの人間の肉体など何の意味も持たん。だが、現にこの少年は命を失ってはいないし、我が宿敵には怪我一つ存在しない。・・・これの意味することは・・・。』

 何時の間にか近づいていた影。先程までは轟々と燃え盛る炎の塊であった。だが、自分で火力を調整したらしく、今では女性らしき輪郭が見える程度にまで下がっている。

『これか。まさか、神具を所持していようとは。』

 リュックだったものの中から、一枚の石版が転がり落ちた。いや、炎を纏ったまつろわぬ神が、神力を使って、取り出したのだ。

『フム。僅かだが、水の力を感じる。・・・これは、山の神の権能か?成程、この石版は、神の力の一部を偸盗(ちゅうとう)する能力を持つようだ。コレが蓄えていた水の力を使って、我が力に対抗したということか。格が違いすぎて殆ど意味は無かったようだが、それでも守ることに成功したのだな・・・。』

 その声は、どこか賞賛するかのような響きが混じっていた。人など、路傍の石くらいにしか認識しないまつろわぬ神が、ただの人間を褒めるという、本来有り得ない光景がそこにはあった。

「あ・・・あっ!」

 少女の体は、無意識のうちに震えていた。目の前に迫る脅威に、唯の(・・)か弱い女性である彼女の体が拒絶反応を起こしているのだ。・・・が、まつろわぬ神は、その姿を見て落胆したかのように、溜息を吐きながら首を振った。

『神格を吹き飛ばしてしまっていたのか。憎きお前も、こうなってしまえばただの少女。堕ちて(・・・)しまったのか。』

「な、にを言って・・・?」

『もう何も言うことはない。消え去れ。』

 まつろわぬ神は、手を翳す。しかし・・・

『・・・何と・・・・・・!』

 少女とまつろわぬ神の間に、立ち塞がった護堂に、驚愕する。動くことなど出来ない傷だった筈だ。常人ならば、ショック死しかねない傷だった筈だ。今まで気絶していた筈の彼が、自分より遥かに格上の、超常の存在に対して立ち塞がった。

 ・・・これが、どれほどの奇跡か、分かるだろうか?

「う・・・ぁ・・・!」

 ほぼ意識など存在しない。それなのに、彼は立ち上がった。ボロボロの体を酷使して、触れれば滅する獄炎の前に、自分の体を盾として立ち塞がったのだ!

『・・・・・・気が変わった。この少年に免じて、その命、預けておいてやろう。』

 そう言うと、その神は自身の体を炎と化してその場から消え去った。一言、少女に言葉を残して。

『お前の神格を取り戻せ。そうすれば・・・助けられるかもしれんぞ?』

 そこに残ったのは、傷だらけの護堂と、気絶するエリカ。そして、呆然とする記憶喪失の少女だけであった。
 
 

 
後書き
原作で、『カンピオーネとなったからこの性格なのか。それとも、この性格だからカンピオーネとなれたのか』という話がありますが、私は後者だと思っています。
つまり、超常の現象に対応できる精神と肉体を持っていて、その場の状況を、自分の有利なように利用出来る柔軟さを持っていて、更に、奇跡を三つも四つも引き寄せる豪運を持っている。
これがある人間だからこそ、神殺しという偉業を達成できるのだと。
カンピオーネとなったあとの、肉体の超強化や、超直感など、元々あったその人の性質を強化しているだけじゃないんでしょうか?

という訳で、この話の護堂さんも、既に超人です。神に認められる程の人物です。出来るだけ男前な護堂さんにしたかったんです。 
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