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カンピオーネ!5人”の”神殺し

作者:芳奈
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第二部
  エリカぇ・・・

 彼女が現れたのは、少女が記憶喪失だと知った護堂が、大きな事件に首を突っ込んだかもしれないと思い始めていた時である。

「そこの二人!少し話を聞きたいのだけど、いいかしら?」

 護堂と銀髪少女は、同時にその声の主を見た(この時、イタリア語で話しかけられていた。護堂は流石にイタリア語は分からなかったのだが、恐らく自分たちに声を掛けたのだろうと想像した。何しろ、この海岸には他には誰もいないのだから)。

 そこには、手を腰に当て、堂々と胸を張る美少女の姿があった。護堂は先程まで、今目の前に居る記憶喪失の少女と同レベルの女性などいないと思っていたのだが、早くもその考えは改めなくてはいけないと悟った。

 欧州の基準で言えば、背は低いだろう。百六十cmを少し超える程度だ。それなのに、この威厳。まるで女王のように、傲然と、そして堂々とそこに立っていた。

 風に靡く、赤みがかった長い金髪。繊細な造りの美貌。どんな人形よりも整い、どんな女優よりも覇気に富み、高貴さと自信に満ち溢れた、一度見たら二度と忘れられないような美貌。

 自分の前に居る、記憶喪失の少女のイメージは、何処までも続き、穏やかな風が吹く草原。対して、突然現れてたこの金髪の少女のイメージは、どこまでも続き、太陽の光を浴びて輝く向日葵の丘と言ったところであろうか?タイプは違うが、間違いなく世界最高レベルの美少女たちである。

「この島に(あらわ)れた神について、知ることを全て私に教えなさい。我が名はエリカ・ブランデッリ。あなた達に教える必要もないのだけど、これを以て礼としてあげるわ。」

(あ、これは駄目だ)

 一体何を言っているのかは分からなかったが、その自信満々な姿を見た護堂は確信した。恐らく、この人物に口では勝てないだろうと。お互いの相性が悪いかどうかは分からない。・・・しかし、非常事態でなら兎も角、通常時に口喧嘩などしても、恐らく言い負かされるだろうな、と。生粋の女王様である自分の母親をよく知る護堂は、無駄に自信満々で、実力もあるこの手のタイプがどれだけ厄介か知っているのだ。

「・・・なぁ、アイツが何言っているのか分かるか?」

 相手が何を言っているのか分からなければ、対応することも出来ない。先ず、目の前の記憶喪失の少女に、イタリア語が理解できるかを聞いてみた。それが出来るのなら、比較的簡単に警察への道案内を頼めるだろう。

「えっと・・・知っていることがあれば、洗いざらい話せと脅迫されています。」

「脅迫!?」

 これには流石の護堂も驚く。まさか、見ず知らずの人間に突然脅迫されるとか、誰が考えるだろうか?普段からそんなことを考えている人間がいたら、その人は間違いなく危険な人間だ。色々な意味で。

「全ての道はローマに通ず、郷に入っては郷に従えと言うのに、嘆かわしい話ね。イタリア語もできないのにこんな場所を彷徨くなんて。」

 突然、不機嫌そうな声音でその少女が日本語で話しかけてきた。これにも護堂は驚愕する。

(何だ!?この辺の子供は、数カ国の言語をマスターしているのが当たり前なのか!?)

 当然だが、そんな事実はない。世界有数のリゾート地なので、母国語の他にもフランス語や英語など、世界でもメジャーな言語を習得している人間は少なからず居るが、それでもこんな年齢の少女たちが習得しているのは不自然である。それも、これ程流暢に喋れる人などそうそういないだろう(勿論、彼女たちが日本に興味があって、必死に勉強した・・・という可能性も残っているのだが。最近は日本のサブカルが世界に蔓延しているし)。

「三日ほど前から、サルデーニャ島の各地で顕現しているまつろわぬ神について教えていただきたいの。ボーザ、オルゴソロ、バルミニ・・・神の来臨が確認された場所では、常に貴方の姿が目撃されている。・・・偶然ではないわよね?」

 ビッと指を突きつけられたのは、記憶喪失の少女。

「何だ・・・?新手の宗教団体か?」

 厄介なのに捕まった、という護堂の呟きを無視して、金髪少女は怒りに肩を震わせていた。

「【剣の王(サルバトーレ卿)】が余計な真似をして、国自体に圧力を掛けているから、報道もされていなくてまだ混乱も少ないけど・・・!まつろわぬ神を見た人は精神に障害を起こして錯乱するし、建物や港は突然燃えて融解するしで私たちがこの三日間、どれだけ大変な思いをしていると思っているのかしら・・・!?情報規制にも限度があるわよ!被害者の治療をするのは私たちなのよ!幸い、本当に奇跡的に、再起不能な人間や死者は一人も出ていないけど、これからもそうだとは限らないのよ!・・・どうして、今は【伊織魔殺商会】が存在するというのに、これ程の苦労をしなくてはならないのかしら!?いっそのことサルバトーレ卿(バカ)の命令なんて無視して、世界中に報道してもらえれば【聖魔王】様も気がつくかしら!?」

 なんだか、殆ど愚痴のようになってしまっていた。自暴自棄のような雰囲気もしたが。良くは分からないが、その様子から、どうやら凄く大変な目にあっていたようだ。目尻に少しだけ涙が見えたような気がする。

「それもこれも全部!!!貴方のせいでしょ!?そうだと言いなさい!!」

 ・・・かなり、精神的にキテるようだ。今の彼女は、取り敢えず八つ当たりの対象を探している子供にしか見えなかった。女王様気質の人間は、攻勢には強くても守勢には弱いということだろうか?少し、可愛いと思った護堂である。

「・・・・・・?」

 が、今回は金髪少女の負けであった。例え銀髪少女が彼女の欲しい情報を持っていたとしても、銀髪少女は記憶喪失である。尋ねたところで、答えが返ってくる訳がないのだ(記憶喪失だと嘘を吐いて偽っている可能性もあるのだが)。

「ふ、フフフ・・・。そう、知らぬ存ぜぬで通せると思っているのね?そっちの男も、何やら途轍もない神気を放つ物を所持しているようだし・・・貴方たち、何処かのカルトの祭司か助祭というところかしら?そういう輩がまつろわぬ神の召喚に成功したという事例もあるものね。」

「あ、あれ?何か嫌な予感がするぞ。勘違いされてないか俺?」

 金髪少女の言動に、何やら不穏な物を感じた護堂だったが、事態は既に彼に止めることの出来る状態では無かった。

「いいわ。言葉で分からないのなら、ここからは剣の時間。言葉の通じぬ者(バルバロイ)に道理を説くなんて、無駄もいいところですものね!」

 バッ!っと彼女は右手を突き出し、叫んだ。

「来たれ、鋼の獅子よ。獅子の魂を宿す者、闘争の精髄(せいずい)を宿す鋼よ。我が手、我が声に応えよ。汝の名はクオレ・ディ・レオーネ―――獅子心王の名を継ぐ勇士なり!」

 突然叫び始めた少女に、どう対応していいのか?そう悩み始めていた護堂は、起こった現象に驚きを隠せなかった。

「騎士エリカ・ブランデッリは誓う。汝の忠誠に、武勇と騎士道を以て応えんことを。」

 彼女の右手に、忽然と剣が出現したのだ!

「・・・魔術・・・・・・。」

 驚いていた護堂には、隣の銀髪少女が呟いた言葉を聞く余裕は無かった。
 
 

 
後書き
なんかエリカらしくないと思ったかもしれません。が、原作とは違って、本来ならば【伊織魔殺商会】に助けを求められる状況だったことを考えれば、これくらい取り乱すのも普通かな?と思いまして。
ドニが自己中心的な命令を出さなければ、鈴蘭たちがすぐにやって来て、速攻で事件解決してくれる筈だったのに、それがおシャカになっているわけですし。
地域の復興も、犠牲者の救出や後始末も、本来ならば不要だったのにやる羽目になっているんです。原作のように、最初から覚悟が出来ているんではなく、なし崩しなので、ここまで取り乱させてみました。 
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