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英雄伝説 零の軌跡 壁に挑む者たち

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8話

そこは中世の遺跡であった。石畳の通路。闇。充満する瘴気。そして敵。ここは敵地である。
その真っ暗な空間に明かりと4人の足音が石畳の階段を駆け下りていく。
そこは地下にあった。陰気で湿気で冷たい空気が覆っていた。だが4人が危険に感じていたのは空気である。何度か遭遇したことのある危険な空気だ。
そして足音は巨大な縦穴の前で止まる。それは地の底まで瘴気が充満し煉獄まで続くかのような恐怖を与える巨大で不気味な縦穴だ。

「ティオ、どうだ?」

ランディが目視で周囲を警戒しエリィがそれを援護する臨戦態勢でロイドはこの空気の違和感を確かめようと指示を出す。
ティオは魔導杖とヘアバンドに仕込まれたエイオンシステムを起動して空間走査を行った。
エイオンシステムによるティオの知覚はロイドたちが感じられないものを見ることが出来る。

「塔や僧院と同じく空、幻、時の上位三属性の影響を確認。それに魔物が隠れている反応があります。数は不明」

「ってことはやっぱりあそこにいたような化け物が出てくるわけか」

苦戦したことを思い出しながら、うへえっと茶化して周囲を伺うランディは臨戦態勢を崩していない。

「ティオちゃん、大丈夫?」

エリィはエイオンシステム使用後から急に顔面蒼白になったティオを気遣おうとしたが、ティオは虚勢を張って耐えていた。敵地で足手まといになりたくないという自負が彼女を踏み留まらせた。
それを見ていたランディはティオの気を紛らわせるために質問した。

「やっぱり似てんのか、連中の拠点があったって施設に」

「ええ。そっくりです。この闇、空気、感覚が思い出します。あの女神(エイドス)を否定する概念と悪魔に近付き利用するための儀式のことも」

皆が苦々しい思いを感じロイドは決した。

「なら俺たちのやることは一つだ。道を拓いてくれた人たちのため、待っているあの子のためにも、その闇を白日の下に晒して叩き潰してやる。もう誰も辛い目に遭わなくて済むように」

ロイドの言葉に三人は照れ臭そう少し笑ってから同意した。

「熱血野郎がって言いたいところだが、乗っからせてもらうぜ」「私も乗った。全てを陰で操る黒幕を引き摺り出すこと、今の私たちなら出来るはずよ」「ええ、絶対に負けません」

全員の同意にロイドは改めて号令を下した。

「クロスベル警察・特務支援課所属、ロイド・バニングス捜査官以下4名。これより事件解決のために強制潜入調査を開始する」





カタンコトンとリズムの良い列車の走行音が聞こえてくる。

「お若いの、大丈夫かの?」

老人の声に呼びかけられたロイド・バニングスは列車の座席で目覚めた。

えーっと、あれ?

眠気が残ったままなために意識がはっきりせず、なぜこんなところにいるのか一瞬思い出せなかった。
何か嫌な夢を見ていたような気がするがそれも思い出せない。
頭を振って額に手を当てて落ち着くと今までのことを思い出してきた。
警察学校を卒業して共和国にいるおじさんに挨拶して荷物を送って大陸横断鉄道に乗って、それから寝てしまったんだ。

「あなた、大丈夫?酷くうなされいたようだけど」

状況を把握していると目の前の座席にいる老夫婦が心配そうにこちらを伺っていた。

「えっと、いえ寝不足だったもので大丈夫です」

老婦人はまだ眠そうなロイドに頭がすっきりするからと水筒に入れられた冷たいレモネードを渡してきたのでロイドはありがたくいただくと頭にキーンとした。

「おいしかったです。眠気が吹き飛びました」

お礼を言った礼儀正しさから老夫婦とちょっとした談笑が始まった。

「ほう、やはりクロスベル人か。3年ぶりじゃ今のクロスベルに驚くかも知れんぞ」
老夫婦は共和国を旅行した帰りとのことでこれからクロスベルに帰るところだという。
ロイドは噂話でも近況を知っておきたいので、故郷の話に耳を傾けた。

「不戦条約以来の安定から金融の加速から投資物件としていろいろと建てられてるのじゃよ。いろいろと様変わりしとるよ」

「そうですか。でも故郷はどうなっても故郷ですから」

「ほお、若いのにわかっとるな。それに引き換え政治家共は利権争いばかりで、マクダエル市長ぐらいしか信用ならんよ」

よほど政治への不満が溜まっているのか憤慨を露わにして御主人は奥さんにたしなめられていた。

「でもクロスベルタイムズは取り寄せていたけどやはり直接聞かないとわからないことは多いですね」

クロスベルタイムズは過去にフューリッツア賞を取ったとかでクロスベルでもっとも権威のある雑誌でもっとも発行部数も多い。

そうこうしていると車掌の到着アナウンスが流される。定期飛行船への乗り換え案内と帝国へ行くなら臨検がある旨が告げられた。

「帝国人の顔など見たくもない。さっさと支度しよう」

支度し始める老夫婦を横目にロイドは一枚の写真を取り出した。
3年前に、ガイとセシルが婚約した時に一緒に撮った、家族で一緒に撮った最後の写真。まだ弱弱しい背の低い自分が写っている。

(兄貴、セシル姉、俺、やっと帰ってきたよ。みんなと過ごしたクロスベルに)

ロイドは気持ちを新たにクロスベル市に戻ってきた。それは兄の死後、3年ぶりのことだった。




クロスベル市。クロスベル自治州の人口の8割がここに集中するとも言われる巨大国際貿易都市。
その駅もまた巨大なものだった。規模では鉄道の国とも言われるエレボニア帝国帝都ヘイムダルのターミナル駅には負けるものの、完成から20年、紛争時以外では休むことなく走り続ける大陸横断鉄道は大陸の大動脈として運行量は世界一を誇っている。
ほぼ30分で両国国境を行き来し、両国首都まで一日掛からない大陸横断鉄道は常に平日にも関わらず大変な賑わいを見せていた。
臨検のために乗り降りで混雑することはないが、膨大な人数を飲み込んでは吐き出していく。また貨物列車の切り離しと接続の作業に多くの鉄道公社の社員が駆り出されている。

ロイドは駅を出てクロスベル市の中心、中央広場まで老夫婦と同行することになった。老夫婦の住所が東通りにあるので途中まで荷物持ちである。
クロスベル市の中心街に来たロイドの第一声は、「うわーずいぶん変わったなー」という感嘆の声だった。
ロイドの記憶にある建物のほとんどが取り壊されて新しいものが建っているか改装されて新しくなっているかで周囲を見回しても市のシンボルである巨大鐘楼以外では古びた雑居ビルぐらいしか記憶と一致しなかったので本当さっぱり変わってしまって目まぐるしいというのはこういうことかと。
何よりも大きな変化は導力車の数だった。
3年前までは数える程度だったのだが何台もかつては馬車が通るために広く作られている道路を進んでいく。

「車も多いですね」

「ほれ、あそこのオーバルストアで買えるようになっとる。導力バスの本数も増えとるからな」

本当に3年で変わったんですねとしみじみと言うロイド。

「じゃあわしらはここらで。何か困ったことがあれば遠慮なくな。まあ下宿先ぐらいしか紹介できんが」

「いえ、寮が用意されてるらしいで」

「そうか、じゃあしっかりな。わしらは東通りに住んでるんで」

そう言って老夫婦と別れたロイドは初出勤に行政区にある警察本部に向かった。

「警察本部まで移転してはいないだろうな」



ロイドの記憶通り行政区は何も変わっていなかった。自治州成立から存在する市庁舎に図書館に警察本部。区画整理があちこちでされており道まで変わってる状況で記憶通りというのは安心できる。ちょっと迷ってしまったし。
警察本部の玄関には待合席が設けられ何度か兄貴を訪ねてきた時に座った思い出がある。
ここが職場になると思うと不思議な気分だった。

とりあえず受付で案内を聞こうとしたのだが、受付の若い女性警官が女性市民を相手にしていた。

「申し訳ありません。手違いで情報が降りて来てないみたいです。人事課に問い合わせてますので、もう少しお待ちいただけますか」

ピンク髪の若い女性警官が応対して市民は待合席に座り、後ろで青髪の眼鏡の女性警官が受話器を肩に挟んでタイプライターみたいなものを物凄い勢いでカタカタと両手で押していた。

「こちらクロスベル警察です。どのような御用ですか?」

ロイドが受付の女性に声をかけると元気の良い声で挨拶された。

「いえ、今日からこちらで働くことになったロイド・バニングスです。よろしくお願いします」

受付の女性は一緒に働く仲間が増えることに最初は喜んでいたのだが、すぐに困惑し出した。今日来る新人はいないはずだと。

「また連絡ミスかな。あの、配属される部署とかわかります?」

「ええ。特務支援課っていう部署らしいんですけど」

「あなたも特務支援課ですか?」

受付の女性は酷く驚いていた。

「あなたもってことは」

「はい。後ろの女性もそうみたいなんです」

ロイドがそう言われて振り向くと本を読もうとしていたさっきの女性市民、パールグレイの長髪の女性が本を読もうとしている時に相手にも話が聞こえたのか目が合ってしまった。

「あなたも特務支援課に配属を?」

「うん。そうなんだけど、この様子じゃ情報が来てないみたいだね」

目の前の女性が内心、凄い美人だと思ったロイドだったが、おそらく同僚になるであろうから照れて隠しに努めて冷静に対処しようとした。

「ロイド・バニングスです」

「エリィ・マクダエルよ」

名乗りあうとお互い手持ち無沙汰で待合室の長椅子に腰掛けた。
マクダエルって確か市長の名前だったような。エリィにもなんとなく優雅というかお嬢様な印象も受けるし。もうちょっと聞き込んでみよう。

「出身は?俺はクロスベルなんだけど、最近まで外国で暮らしてたんだ」

「私も最近まで外国で暮らしてたのよ。ビックリしなかった?駅を降りると風景が変わっていて」

「久しぶりに帰ってきたら記憶にない場所が多くてちょっと戸惑ったけどね」

「やっぱりそうよね」

ぎこちなくも会話を続けて親戚ぐらいかなと思っていると廊下からタバコを咥えた中年刑事が現れた。

「おーおー来てるじゃねえか。フラン、レベッカ、こいつらは俺が引き取るぞ」

中年刑事の言葉に受付の女性二人が抗議した。

「支援課はセルゲイ警部が設立された課でしたね。ですが情報を受付にまで下ろしてくれないと困ります」

「半年後には無くなってるかも知れんからな。人事部も本気じゃないのさ。それともう一人赤毛の若いのが来るから会議室に通せ」

セルゲイ警部はロイドらの方を向くと二人は立ち上がり自己紹介を始めた。

「特務支援課課長セルゲイ・ロウだ」

ロイドたちも自己紹介と着任の挨拶を始めようとしたがセルゲイ警部は静止した。

「ほかの奴に会わせるからあとでいいから付いて来い」

そうして行ってしまったのでロイドとエリィは不安そうにお互いの顔を見合わせた。

「あの、ゴタゴタしてるようですけど頑張ってくださいね」

ピンク髪の女性警官から応援されて、ロイドとエリィはとんでもないところに来たかもと不安になりながらセルゲイ課長の後を追って警察本部の中へ入っていく。 
 

 
後書き
仲間を一気に紹介するよりも一人ずつちょっとした時間差を入れてでもキャラを立たせて欲しかったところ。
エリィなんて大した過去もないわけだし、最初からちょっとお嬢様ぐらいに思ってればね。

駅はクロスベルの物流の意味でも最重要なのだからちゃんと説明して欲しかったよね。

もっと入れるべきだろうけどクロスベルは常に変わり行く存在であって欲しい。新しく店やら建物やらが月単位で出てくるとかさ。零だと硬直感が半端じゃないからね。町自体変わってしまって愛国心を持とうにも記憶がなくなっちゃって不安になるとかさ。 
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