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ルサールカ

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第一幕その二


第一幕その二

「まずが誰かを好きになる。それがはじまりじゃ」
「はじまりって」
「そうしたらまた来るがいい。よいな」
「何だかよくわからないけど今は駄目ってことか」
「左様」
 こう答える。
「じゃあいいよ」
「好きな人なんてすぐに見つかるしな」
「そうだな。じゃあその時にまた」
「待っておるぞ」
 そんなやり取りの後で彼等は別れた。お爺さんが湖の中に戻ろうとすると水面に一人の青い髪の少女が現われた。
 青く軽い服を着たその少女は青髪を湖まで垂らしていた。顔は雪の様に白く大きく目立つ目をしている。その目は青く湖よりも澄んで青かった。唇は薄い赤でありそこが儚げな印象を与える。そうした少女であた。美しいが今にも湖に消えてしまいそうな姿であった。
「お爺さん、どうしたの?」
 その少女はお爺さんに尋ねてきた。
「誰かとお話していたみたいだけれど」
「大したことはないよ、ルサールカ」
 お爺さんはその水の精の女の子の名を呼んで安心させた。
「また木の精達が来ただけだから」
「そうなの」
「ところでルサールカ」
 お爺さんはルサールカを見て言った。
「この前言ったことだけれど」
「駄目かしら」
「よくはないね。考え直してはどうかな」
 お爺さんは優しい声でルサールカにこう言う。
「御前は優しい娘だから。人間の世界に行ったらいけないよ」
「人間が悪いことばかりするから?」
「そうさ。御前みたいないい娘は騙されて酷い目に遭う。だから絶対に行ったら駄目なんだよ」
「じゃあずっとここで」
「ここの何処が不満なんだい?とてもいいところじゃないか」
 杖で湖だけでなく森全体を指し示した。
「青い湖に緑の森。仲間達もいて」
「それはそうだけれど」
 ルサールカは俯いてお爺さんに答える。
「けれど私は」
「ここには皆いるじゃないか」
 お爺さんはまた言う。
「御前の姉さんや妹達が。皆もいるのに」
「けど」
「人間と精霊は結ばれないんだよ」
「結ばれないの?」
「そうさ。人間はね、あの神様を選んだから」
「神様が違うから」
「ううん、それよりずっと昔からかな」
 お爺さんは悲しい顔をしてこう述べた。
「人間と精霊が仲良くなっても。最後に待っているのはいつも悲しい話ばかりなんだよ」
「いつも私達に言っていることよね」
「そうさ。だから人間を好きになっちゃいけないんだ」
「けれどあの時のあの人は」
 ルサールカは言う。
「あの人ってこの前ここに水を飲みに来ていたあの王子様かい?」
「そうよ、あの人。あの人のことが忘れられないのよ」
「忘れないと駄目だよ」
 お爺さんの顔は悲しいままだった。むしろ悲しさが増していた。
「さもないと。気の毒な思いをするのは御前なんだよ」
「けれど」
「けれどもどうしたもないんだよ」
 お爺さんはさらに言う。
「可哀想なことになってしまうよ」
「それでも・・・・・・いいわ」
 ルサールカは思い詰めた声で言った。
「あの王子様と一緒になれるのなら」
「本当にいいのかい?」
「ええ」
 迷いはあったがそれでも。意を決した顔であった。
「あの人が好きだから。それでも」
「ルサールカ・・・・・・」
 お爺さんは首を横に振った。空しそうに横に振った。
「馬鹿な娘・・・・・・」
「御免なさい、けれど」
「もういいよ。じゃあ御前は御前の好きなようにしなさい」
「お爺さん・・・・・・」
「そのかわり。何かあったらわしがいるからね」
 お爺さんは言う。
「何時でも。わしが側にいてあげるから」
「有り難う、お爺さん・・・・・・」
「それだけは忘れないでおくれ」
「ええ」
「じゃあね。それじゃあ」
 お爺さんは悲しい顔のまま湖の中へ戻っていく。ルサールカは湖の上に一人となった。
 
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