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ドラゴンクエストⅢ 勇者ではないアーベルの冒険

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第72話 そして、伝説へ・・・

結局、俺達が神竜に願ったのは「あたらしいすごろく場をつくってくれ」だった。
親の命より、すごろく場を優先したわけではない。
何処まで、人の命を救うべきなのかという問題を、この場で解決することが出来なかったからだ。

教会で復活できなかった人をどれだけ救うのか。
たとえば、俺の父親を生き返らせた場合、他にゾーマに殺された人たちを救済するかどうか。
ほかの兵士の遺族からすれば、一緒に助けてもらってもということになる。
願い事を「俺の父親を生き返らせる」から「大魔王ゾーマが雷撃で殺した、アリアハンの兵士達を生き返らせてくれ」に変更すればいいのだ。

一方で、俺の父親とオルテガとをひとつの願い事で生き返らせることは出来なかった。
「大魔王ゾーマとその配下に殺された人々を全て生き返らせてくれ」はもはや「ひとつの願い事の範囲を超える」というのが、神竜の言葉だ。
論理学的に正しいかどうかはわからないが、願いを叶えるかどうか判断するのは神竜だ。
俺達ではない。

というわけで、複数回神竜を倒す必要が生じたが、一方で2回目以降は神竜が願いを叶えてくれる条件が厳しくなる。
今回は35ターン以内での撃破が条件だったが、2回目は25ターン以内、3回目以降は15ターン以内となる。
それならば、新しいすごろく場で装備を強化してから戦いに臨む方がいいだろうということで、俺達の意見は一致した。

こうして、俺の父親や、勇者の父親であるオルテガを復活してもらった。



全てが終わって、俺は自宅に戻ったが、俺を出迎えてくれるはずの両親がいなかった。
「2人で旅行にいきます」
と、書き置きが残されていた。

それ以外にも、タンタルの消息についての話(神から聞いた話とは異なっていた)や、俺やトシキ以外に異世界からの転生者が存在すると言う話、「結婚相手を家に連れて帰っていないなら、地図の場所にいって責任者からの依頼を受けなさい」の命令書がおいてあり、命令書を見て、家を出たときの約束を思い出して慌ててしまった。

慌てて、指定された場所に行って、責任者からの依頼を受けて帰ってきた。
安請け合いしたら、まさかあんなことになるとは思わなかった・・・。



いろいろあったが、とりあえず、父親が生き返ったことにほっとしていると、俺の家を訪ねてきた人がいた。
勇者だった。
俺は勇者を家に上げて、話を聞いた。
俺の両親と同じように、勇者の両親も旅行に行ったそうだ。
「考える事は一緒か」
勇者はうなずいていた。

これからどうしようかと俺は勇者に質問した。
勇者はしばらく悩んだ末、返事をした。



「私と、結婚してください」
私は、目の前の男性に言った。
目の前の男は、私が最初に何を言ったのか全く理解できなかった。
次に、その言葉を理解しても自分に言われたものではないと確信して、周囲に該当者がいないか見渡していた。
周囲には、自分しかいないことを確認した男は、あわてて私に確認を求めてきた。
「俺と結婚してくれということかい」
「はい」
顔が赤くなりながらも、私は頷いた。

この人は、頭の回転が早いほうだけど、こと恋愛に関しては、致命的なほど鈍い。
今まで、周囲の女性からナイフで刺されなかったのが不思議なくらいだ。
だからこそ、逆に私がプロポーズをすることが出来た。



私は、勇者オルテガの娘として産まれた。
あの日が来るまで、普通の女の子として過ごしていた。
だが、あの日から全てが変わった。

眠い目をこすりながら、母親に連れられてきたところは、アリアハンの王宮だった。
王宮に来たのは2回目だ。
前回は、昼間にきたけど、明るくにぎやかな雰囲気だった。
夜の城内は荘厳とした様子で、夜中だった事から、少し怖く感じた。
私は母親と王様の前で待っていると、1人の兵士が王様に報告をしていた。

「おそかったな。
して、どうであった?」
王様の声は、威厳に満ちていたが、子どもの私でも不安を隠すことができなかった。

報告する兵士は、疲れているのか王の前で緊張しているのか、声が小さく聞き取りにくかった。
「はっ・・・。
申し訳ありません。
火山の頂上には我々だけではとてもたどり着けず・・・」
だが、兵士は私の耳を疑う事をいった。
「オルテガどのの、ご遺品は、全くみつけられませんでした」

父親は、世界最強の勇者ではなかったの?
母親が寂しそうにしていた私に、いつも話してくれたことだった。
そして、王の言葉も、私の気持ちを打ち壊す内容だった。
「そうか・・・。
しかし、オルテガほどのものがやられるとは」
そして、王は私たちに向かって話しかけてきた。
「ご家族にもなんとおわびを申し上げればよいのか・・・」
王は玉座から立ち上がると、母親に向かって頭をさげた。
「オルテガ殿の奥方。
まことに申し訳ない・・・」

母親は、王様の言葉に返事した。
だけど、私の左手を握っている手が震えていた。
「ありがとうございます王様。
私も覚悟はできておりました。
それに夫は立派に戦いました。
きっと本望だと思います」

王様は、母親の言葉に安心したのか、緊張をゆるめていた。
そして、寂しそうにつぶやいた。
「しかし実に惜しい命をなくしたものだ。
もはや魔王にいどめるようなものはおらぬ。
我々には、もう希望がないのか・・・」
周囲に沈黙が広がってゆく。
父親が、死んだのだ。
他の誰が行っても一緒だと思った。
誰もがそう思っていたようで、しばらく沈黙が王宮全体を包み込んだ。


沈黙を打ち破ったのは、私の隣にいた母親だった。
「いいえ、王様。
この子がいます。
オルテガの血を引くこの子が」
私が、反対する前に、母親は言い切った。
「夫の意志は、きっとこの子がついでみせますわ!」


それからの毎日は、地獄だった。
私は勇者ではない。
勇者かどうかを知るための水晶で確認したところ、何の反応も示さなかった。
私は天から勇者として選ばれなかった。
だけど、私は勇者と同等の訓練を行った。

勇者でないものが、勇者と同じ訓練をするとどうなるか。
結論から言えば、死んでしまう。
だけど、止めることはできなかった。
母親の言葉がある。
そして、勇者がいなければ世界は魔王に支配される。
父親が命をかけて守ろうとしたもの。
私も守らなければならなかった。

「私は勇者ではない」
私は、思わず口に出すことを恐れて魔王を倒すまで、しゃべらないことを決めた。


私は、自分が弱いことを知っていた。
しかし、そのことを知られてはならない。
王宮は、当時成長途上のキセノン商会に依頼して、別の大陸にある防御効果の高い「みかわしの服」を用意してもらった。
だから、子ども達にいじめられても問題なかった。
いつまで、こんな日が続くのだろうか・・・。


私を助けてくれたのは、少し年上の男の子だった。
勇者は、人を助ける存在。
でも、人に助けられてしまった。
やっぱり、私は勇者になれないのかな。


「いや、勇者だから少年たちにけがをさせてはいけない。ということか」
私は大きく頷いた。
この男の子は、初対面なのに、私の考えを見抜いた。
そして、勇者として扱ってくれる。
嬉しかった。
こんなに喜んだのは、本当に久しぶりだった。
たぶん、私にとっての初恋なのだろう。
直後に急に胸が苦しくなった。
あの男の子と話したい。
でも、私が女の子であることや勇者ではないことは秘密だ。
しゃべれることも。
だから私は決心した。
魔王バラモスを倒して、男の子に自分の気持ちを伝えることを。



現実は残酷だった。
男の子は私が14歳の時に旅に出た。
途中、ロマリア王に就任したとき、1人の女性と関係を持った。
なかば強引に襲われたようだが、男も若かった。
自制が出来なかったのだろう。

王位継承の関係で、結婚はしなかったが、娘が産まれたらしい。
そして冒険が終わった今、男のそばに娘がいた。
「ごめん。この娘がいるのでね」
男は残念そうに謝った。
「かまいません」
私は、男の手を握った。
男は驚きながら、それでも私の目を見つめて答えた。
「俺は、・・・」
男は、私を抱きしめると、・・・



「「この文章を読んで欲しい」と言われて読んだのはいいのだが、なんだ、これは?」
俺は目の前の用紙を読み終わると、目の前の女性に質問する。
「私の自伝「そして、伝説へ・・・」です」
女性は誇らしげに胸をはった。

「この男って、俺のことか」
「はい!」
目の前の女性は嬉しそうに頷いた。
「自伝で、嘘はいけないよ、嘘は」
「そうですね」
「ふーん。違うのね」
いつの間にか、俺の部屋に入り込んだ、セレンとテルルも俺の意見に賛成している。
いや、テルル。俺を疑っているのか。


「じゃあ、この女の子は誰の子どもなの?」
テルルは、俺の膝の上でちょこんと座っている女の子を視線で指し示す。
「そ、それはだな・・・」
「正直に言いなさい!」
「私たちを相手にしなかったのは、こういう事だったのですね」
テルルとセレンが詰め寄ってくる。

「ルーラ!」
俺は、身の危険を感じて逃げだそうとした。
しかし、不思議な力でかきけされた。
いや、不思議な力ではない。
俺が自分の部屋の防犯機能を高めるため、バハラタ東の洞窟を研究したのだ。
防犯には役に立つと考えて採用したが、裏目に出たようだ。
自分がこの部屋からルーラで逃げ出すことなど想定していなかった。

「逃げられません」
セレンは、いつもの優しい笑顔で(ただし目は笑ってはいなかった)、素早くアサシンダガーを握りながら俺に近づいてきた。
「正直に言いなさい」
テルルも、いつもの悪戯っぽい微笑みで、旅の土産にと購入した、鋼のハリセンを右手に構える。
「私は別に構いません。私と結婚してくれるのなら」
勇者は、三本のムチをまとめたグリンガムのムチを持ちながら、やさしい声で俺に話しかける。
「お父さん。誰が私のお母さんなの?」
女の子は、目の前にいる三人を眺めながら俺の服の裾を引っ張りながら質問する。


どうやら、俺の冒険はここで終わったようだ。



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そして伝説がはじまった・・・!

TO BE CONTINUED TO
DRAGON QUEST Ⅰ 
 

 
後書き
最後まで、お読みいただきありがとうございます。 
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