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ドラゴンクエストⅢ 勇者ではないアーベルの冒険

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第71話 そして、真実へ?・・・

「貴様が、アーベルか」
突然、頭の中から渋い男の声が聞こえる。
「誰ですか?」
「貴様の定義では、神になるのか」
俺の心の声に反応して男の声が答えた。

俺は、目の前の神竜に視線を移す。
神竜はテルルからの質問に答えている。
どの程度なら、願いがかなえてもらえるのか確認しているのだ。
「自分は、神竜などではない」

男の声は、自分は神竜ではないことを主張した。
「では、あなたは」
「地上の世界、アレフガルド、そして天界。
自分はそれら全てを支配する存在だ」
「・・・」


「だから、こんなことも出来る」
「!」
俺は、神竜と戦っていた祭壇のような場所から、いつの間にか、白い部屋の中にいた。
旅の扉のような、転送された感覚も、ルーラのように魔法で飛ばされた様子もなかった。
俺は、袋の中から少し大きめの鏡を取り出す。

ラーの鏡と呼ばれるものだ。
この鏡を使うと、真実の姿を映し出すと言われている。
俺の冒険では、使用されることがなかったが。

鏡をのぞき込んでも、室内の様子に変化はなかった。
ちなみに俺の姿も変わらない。
少しだけほっとした。
急に前の世界の姿である、30過ぎのおじさんの姿が映ったらどうなるか。
・・・どうなるのだろう。

「貴様は、相変わらず小賢しい奴だ」
再び脳内から声が聞こえる。
「まあ、理解が早いと、説明が省けるので助かるが」
どうでもいいような声だった。

「あなたが神かそれと同等の存在だということはわかりました」
「ところで、この世界はなんですか?」
俺は折角の機会とばかりに質問した。


「そうだな」
男は、しばらく間をおいてから、話し始めた。
「ここは、貴様の無意識で作られた世界だ」
無意識だと。
「貴様は、酒に酔って川に転落しておぼれた」
俺は、驚愕しながらもうなずく。
「幸い、助けにはいった女性の救助が迅速だったことから、貴様の一命だけは取り留めることができた」
そんなことがあったのか。
「だが、意識は戻ることなく、今でも病院のベッドで寝ている」
「意識が戻らない代わりに、意識がこの世界を生み出して、俺が個人での意識を保っている。
いわば、夢の世界ということか」
俺は、感想を述べる。


男の声は、しばらく反応がなかった。
どうしたのか、いぶかしんでいると、ようやく男の声が聞こえてきた。
「貴様の無意識とは、別な世界だったら?」
「どういうことだ」
「貴様の意識が戻らないので、脳科学者が治療用に開発した装置を臨床試験として使用した」
「・・・。この世界は、脳科学者が用意した世界ということか」

「その装置には、MMORPGの技術が応用されていたらどうなるのだろうな」
「何人かでこの世界を共有しているということか」
俺は、トシキの事を思い浮かべる。
そうなると、大魔王を倒した、3人の姉妹はどうなったのだろうか。
元の世界に帰ったと聞いているが。
「彼女たちは、もうこの世界にはいない」
「そうか、・・・」
俺はため息をついた。
俺が、もしもゾーマを倒していたら、そのまま元の世界に帰ったのだろうか。


「まあ、この世界こそが現実世界で、貴様がいた世界の方が、貴様の空想の中にある世界かもしれないぞ」
「まさか、それは・・・」
俺は、驚愕していた。
それまで、脳内で話しかけていた男の考えは俺自身が考えていたことでもある。
だが、「この世界だけが現実」という発想はなかった。


「だが、この世界と技術水準が違いすぎる」
この世界には、パソコンなど存在しない。
発想すらない。
パソコンがこの世界に登場するには、あと何百年、時間が必要なのだろうか。
「そうだな」
男の声はあっさり事実を受け入れる。
「あっちの世界では、人類の脅威となるモンスターもいなければ、魔法という科学とは異なる技術体系も無いはずだ」
俺はうなずく。
完全には納得していないが。
「この世界と、時間の進み方が異なれば、あちらの世界の技術が進んでいても問題ないのでは」
男の声に反論することは出来なかった。


「・・・結局、何が言いたい」
「この世界がどうなっているのかという事を確認するには、この世界から外に出なければわからないということだ。
俺は、この世界をある程度変えることができる。
だが、俺はこの世界の外には、出ることができない。
だから。外の世界の情報は一切与えられていないのだ」
「この世界は、閉じた世界ということか」
「そうだ、俺ができることは、この世界の外に追い出すことだけだ」
「そうか、そうだな」

「さて、貴様はどうしたい?」
「どうしたいとは」
俺は思わず聞き返す。
「この世界から、出たいのではないのかな」
「・・・」
「貴様が望むのなら、この世界から出してやろう」
「出たら、どうなる?」
「さあ?」
男の声はにべもない返事だった。
「あの、3姉妹はどうなった?
あの3姉妹も、お前の力で返したはずだ」
「どうなったのだろうな?
元の身体に戻れたかもしれないし、戻れなかったかも知れない。
まあ、3人の記憶を確認する限り、最低2人は死んでいたようだ。
戻れたとしても1人だけだろう。
それに、この世界と他の世界との流れが異なるようだな。
元の身体に戻れたとしても、一体何年後いや何百年後になるかわからない。
どうでもいいことだが」

「元の身体が死んでいる場合は、どうなるのだ?」
「さあ?
この世界なら、さまよう魂になるか、別の魂の抜け殻に入り込むことしか出来ないが。
それができないか、したくない魂は天に召されるというわけだ。
ただ、他の世界の法則がわからないから、なんとも言えんな」
「そ、そうだな。
ところで、精霊ルビスは3姉妹にその説明をしたのか?」
俺は、念のために質問する。

「どうやら、していないようだ。
「質問されなかったから、説明しませんでした」と言っているぞ」
「・・・」
一瞬だけ、精霊ルビスが黒く感じた。

「話をもどすぞ。
それで、貴様はどうしたいのだ?」
「・・・」
俺は、しばらく考えてから答えを出した。
しばらくやりとりして、俺たちは合意に達した。



俺は、最後に気になったことを質問した。
「どうして、俺に話しかけてきた。
ほかにも、転生者がいただろう?
逆に望めば、適当に呼び出すこともできるだろう」
「別に、貴様だから話しかけた訳ではない。
一つ目は、この世界のことを貴様がゲームだと認識していた世界と酷似しているということ、二つ目は先ほどの祭壇が、人を呼び出すのにもっとも都合が良いからだ」
「都合が良い?」
神の力があれば、なんとでもなるのではないか。
「神とはいえ、全知全能ではないし、この世界のルールに従う必要がある。
ちなみに、貴様を呼んだのは、貴様の記憶を確認して、自分なりこの世界の意味について回答を出すためだ」
「そうか、答えはでたのかな?」
「知りたいか?」
「・・・。いや、いい」
俺は左右に首を振る。
俺にとって、今の世界は現実だ。
それ以上でも、それ以下でもない。
「では、さらばだ」
男の声は、聞こえなくなった。



「オルテガさんを生き返らしたらどうですか」
「母親に確認してからにします」
「それでいいの?」
「構いません。もう一度神竜を倒したら、また願いを叶えてもらえるということでしたから」
「わかったわ」
テルルと勇者が願い事の内容について話をしていた。

俺が、別のところにいたことに誰も気がついていないようだ。
神竜の方を向いたが、神竜も表情を変えていない。

「アーベル。あなたの願いを叶えるの?」
「そうだな、エッチな本が・・・」
俺は、何も考えずに答えようとして、口をふさいだ。

「アーベル!」
「はずかしい!」
テルルと、セレンが口々に俺を非難する。
「いや、ジンクの師匠に頼まれたのだよ!」
俺は、慌てて言い訳をする。

「あやしいです」
「あやしいわね」
セレンとテルルがあきれたような反応をする。
残念なことに、俺は幼なじみに信用されていないことが明らかになった。
「私は、アーベルさんを信じます」
「ありがとう」
俺は、勇者に感謝の言葉を伝える。

勇者は嬉しそうに頷くと、自分の持ち物の中から一冊の本を取り出した。
「よかったら、これを使ってください」
「ありが・・・」
俺は、感謝の言葉と共に本のタイトルを確認する。
「・・・。なぜ、お前がこの本を持っているのだ」
エッチな本だった。
タイトルは「妹のパンツは観賞用」と、書かれている。

勇者はすまして答える。
「母には、ゆうかんなおとこのこのように育てられましたから」
「・・・」
確かに、勇敢かもしれないが、絶対意味が違うはずだ。

そこまでするか、勇者よ。
いや、勇者の母親よ。
勇者の申し出はありがたいが、トシキの依頼はあくまで神竜から受け取ることだった。
それに、勇者から「エッチな本」をもらったことを、誰かに知られたらどうなるか。

「・・・。ひどいです」
「・・・。最低」
どうやら遅かったようだ。


「そろそろ、願い事を決めてくれないか」
神竜の声が、空しく響き渡った。 
 

 
後書き
「エッチな本」を使用すると、何種類かのメッセージが出ます(マリリンの日記とか)。
入手したら、ぜひお確かめ下さい。
次回で最終回です。 
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