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ドラゴンクエストⅢ 勇者ではないアーベルの冒険

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第56話 そして、報告へ・・・

俺が、アリアハンに戻ってから数日は、ジンクへの要請や母ソフィアとの研究の手伝い、キセノン商会への対応、そして夜の魔法訓練など忙しい毎日を過ごしてテルル達の帰りを待っていた。

「夜の魔法ってなんですか!」
テルルは俺の首をつかんできた。
「説明してください」
セレンはやさしく俺に説明を求めた。
セレンの目を見たら、笑ってはいなかった。
タンタルを眺めると、あきらめてくれという表情で首を振る。
「・・・。く、苦しい。離してくれ」
「話して欲しいのはこちらです」
「い、息が・・・」
俺の顔が青くなったことに気付いたテルルは、手を離した。

「ま、魔法訓練を夜に行っただけだ」
息も絶え絶えに説明する俺。
だが、テルルとセレンはさらに詳しい説明を俺に求めた。

「ここではまずいので、俺の部屋に来てくれ」
俺達は、アリアハンにあるルイーダの酒場の2階で飲んでいた。
いつも、俺の部屋でこそこそ密談するのも怪しまれるので、普通の話はこちらでおこなっている。

了解してもらえると思って、席を立とうとする俺だが、セレンとテルルが俺の肩を交互に押さえて座らせる。
「部屋で実演するつもりですか!」
テルルがにらみつける。
「はい?」
俺は理解できず、思わず変な声をだす。
「今から、夜の魔法を私たちに試すつもりなの」
セレンは冷たい口調で問いただす。
「いや、自分にかける呪文なのだし、いや、後でみんなに実験の手伝いはしてもらうけど」
「お断りします。3人で試すなんて」
「嫌です」
俺の説明に一向に理解をしてくれないセレンとテルル。

しかも、詳しく説明をしていないのに拒否されてしまった。
「それに、屋外で使用する呪文なのだが」
どうも、2人は何か誤解しているようだ。
屋外で使用する呪文と言えば理解してもらえるだろうか。
「室内では飽きたらず、屋外ですか」
「はずかしい」
テルルとセレンが顔を赤くして俺を睨む。

俺は説得をあきらめた。
「わかったよ、ドラゴラムの応用使用については、別の人に手伝ってもらいます」
実験は、母ソフィアから口の堅い助手を3人選んでもらう必要があるなと、計画の変更を考える。
そうなると、俺が依頼した研究に遅れが出るかも知れない。
などと考えていると、
「ドラゴラム?」
「竜に変身する呪文ですか」
テルルとセレンは俺に問いただす。
「ああそうだよ」
俺はどうでも言い様子で返事する。

「どうして夜の呪文なの?」
「・・・。その言葉の使い方への突っ込みはおいておくが、昼間にドラゴンが町の周辺に出現したら、住民はどう思う?」
「・・・。パニックになるわね」
テルルは答える。
セレンもタンタルもうなずく。

俺は、小さな声で説明する。
「俺はこの呪文を応用して、ゾーマの城に乗り込むつもりだ」
「そうなの」
「なんだ」
セレンとテルルは安心していた。


誤解が解けたので、ようやく本題にはいる。
「これからしばらく、訓練を行います」
「訓練ですか」
「もう少しレベルを上げて、確実にゾーマを倒したいですから」
「わかりました」
タンタルはうなずいた。

「ところで、訓練の期間はいつまでなの?」
テルルは質問した。
「それは、ジンクとキセノン商会に偵察を要請している。偵察の報告によって判断するつもりだ」
「偵察?」
タンタルは聞き返す。
「そうだ。ジンクを通じて、ロマリアにノアニールの村の北で北方への警戒を頼んでいる」
「どういうこと?」
テルルは俺の意図を問いただす。

「みなさんは、バラモス城が山に囲まれて侵入できないことはご存じですよね」
俺は、急に説明口調で解説を始める。
「ええ」
セレンがうなずく。
「それを乗り越える手段はいくつかありますが、ポルトガの南にある灯台守から聞いた話では、つぎの方法が考えられます」
俺は、ポルトガの南で行った海上封鎖作戦中に入手した情報を披露する。
「この世界に存在する6つのオーブを集めると、船がいらなくなると」
「しかし、その人は自分の存在を否定するような発言をしていませんか?」
テルルは苦笑しながら話しかける。
「そこの判断は難しいところだね」
俺も思わず苦笑した。

灯台守は長い間その勤めを果たしていた。
いいかげん、疲れたのかも知れない。
それとも、別の考えがあるのかもしれない。
だが、灯台守の顔からは何も読み取ることはできなかった。

「噂では、不死鳥と呼ばれる大きな鳥が復活して、その鳥に乗ることでバラモス城に乗り込むことができると考えています」
「ということは、見張っているさきには」
テルルが、俺の話を受け取った。
「そのとおり」
ノアニールの村の北には、レイアムランドが存在しそこには、不死鳥ラーミアが復活の時を静かに待っている。

「船と同様にその鳥も姿を隠すことができないのであれば、ノアニールの北から確認出来ると」
タンタルが俺の説明を補足してくれた。
「俺はすくなくとも、そう考えている」
「キセノン商会は?」
テルルは、自分の父親が経営する会社の役割を質問する。
「キセノン商会だけではない。テルルの力も必要だ」
「わ、私の力?」
テルルは思わず大きな目をして驚いた。

「そうとも」
「それは?」
「おおごえだ」
「そんなに私の声大きいの?」
テルルは大声でさけんでから、思わず口を自分の手でふさぐ。
俺は笑いそうになったが、テルルがそしてセレンも睨むので、コホンとわざとらしいせきをして、詳細な説明をする。

「テルルが商人の時に覚えた特技さ」
「ああ」
「あれですか」
商人の特技である「おおごえ」を使うと、キセノン商会に所属するあらかじめ指名した商人を呼び寄せる技である。
「そう、キセノン商会を通じて報告してもらう」
「わかったわ」
セレンとテルルは納得した。



「今日の状況を教えて欲しい」
「かしこまりました」
キセノン商会からの使いが、毎日状況を報告する。
ここは、イシスの南にあるテドンの村である。
イシスの南と言っても、直接歩いていけるわけではない。
イシスの南にある山脈の南にバラモス城が存在し、さらに山を越えたところにこの村が存在するのだ。
通常であれば、ポルトガから船で南下するか、アリアハンやランシールから西に進むことになる。

ここの周辺のモンスターで俺達は経験値を稼いでいた。
その理由は、MPを消費することなく、経験値を稼ぐことができることと、モンスターが力の種を落とすことが理由である。
最も、アイテムを落としたりテルルが盗んだりできる可能性は非常に少なく。
今日も2つしか入手出来なかった。
レベルの方は順調に上昇しているので、問題はなかったが。

テドンの村は、既に魔王の襲撃を受けたとおもわれる爪痕があちこちに残っている。
モンスターの襲撃を防ぐ結界は残っているので、魔王クラスのモンスターが一時的に結界を破って村を崩壊させたのだと推測している。

しかし、この村の住民たちは、モンスターの襲撃をものともせず(?)、夜だけならば村人としての生活を営んでいる。
話は知っていた俺も、最初の頃は村人を相手にしてこわごわしていた。
俺も死んだらこうなるのだろうか。
いや、逆に闇の力で生かされているのだろうか。
もし、大魔王ゾーマを倒したら彼らも失われてしまうのか。

いろいろ考えているうちに眠くなり、他の3人の騒ぎで目をさましたのだが、数日するとみんな慣れてしまった。
慣れは恐ろしい。

ちなみに、この村の牢屋で囚われている囚人もオーブを持っているが、既に3姉妹(および勇者)に手渡された後だった。


「ハリスからの報告はどうですか?」
「問題はないと報告を受けています」
俺は、かつて鳥の飼育舎の管理人であるハリスにも協力をしてもらっている。
ポルトガの西にある大陸の開拓村の監視業務だ。

ハリスも商人としてのレベルが高いことから、特技の「おおごえ」でキセノン商会の商人を呼び寄せることができる。
毎日昼に商人を呼び寄せて、経過を報告し、その内容を俺の報告を任せられている商人に報告して、夜に俺達に報告する。

「そうか、開拓村の状況はどうですか」
「順調です。問題ありません」
「そうか。・・・なんだと」
「ええ、順調に町に発展しています」
俺は驚愕した。

どうして、村が発展している。
俺とキセノンは、ハリスに開発村の様子を見るように依頼していたが、同時に村を発展させ町に成長させるようなことには関わらないよう釘をさしていた。
ハリスの性格は穏和なところがあるが、町の指導者としては未知数だ。
原作どおり、革命がおきれば、3姉妹がオーブを入手する可能性がある。
「ハリスは関与しているのか」
「いえ、彼は宿屋に泊まり様子を確認しているだけです」
「そうか」

となれば、3姉妹が町の発展に関与したことになる。
あとは、革命の時期を見極めて、3姉妹がオーブを入手する時点でアレフガルドに向かうべきだろう。
念のため、気になったことを問いただす。
「その町の名前は?」

発展した町の名前は発展に寄与した商人の名前が付けられる。
3姉妹が連れてきたのであれば、転職者であふれるダーマか、商人の多いアッサラームから身柄を確保したことになるのだろう。
かわいそうな被害者の名前を確認することにした。
「エレンズバークです」
「エレンズバークということは、エレンズか」

どこかで聞いたことのある名前だ。
たしか、・・・
「エレンズ先輩?」
かつて、養成所で一緒に訓練した商人の女性のことを思い出す。
俺達より2歳年上で、キセノン商会の経営部門で働いていたはずだ。

「経営部門にいたエレンズさんは、この話に関与していますか?」
俺は商人に確認する。
「いいえ」
商人は否定した。
しかし、安心した俺の予想を超える新たな答えが返ってきた。
「彼女は先日、キセノン商会を退職しました」
「なんだと、・・・」

俺は確認のため、キセノン宛の手紙をしたため、たたき起こしてでもすぐに手紙を読ませてくれるように依頼した。
おそらくは予想どおりなのだろう。
訓練は今日で終了し、一度アリアハンに帰ることをみんなに告げるため席を立った。
俺の手紙を受け取った商人はキメラの翼でアリアハンへ向かっていった。



「おつかれさん」
俺は、キセノン商会の応接室に座ると、キセノンから話しかけられる。
「こちらこそ、ありがとうございました」
「アーベルも忙しいことだから、話を進めよう」
俺は喜んでうなずいた。

俺は、船をテルル達に任せると、一足早くルーラでロマリアに移動してジンクに対して警備のお礼と、経過報告をしていた。
その足で、ジパングにも移動して情報を入手していた。
疲れた状態でアリアハンに戻り、そのまま、キセノン商会で話をしているが、終わった後すぐに、アリアハンとポルトガの王にも経過の報告をする必要がある。
奪われた船の奪還は、当分不可能であることを説明しなければならない。
そして、テルル達が戻り次第、アレフガルドに向かう必要がある。



「まさか、エレンズが辞めた原因に君が関係していたとはね」
「申し訳ない」
俺は素直に謝った。
「まあ、こちらの情報管理が甘かったのが原因ではあるのだがね」
キセノンは苦笑した。

概要については、既にキセノン商会の使いからもらった手紙で知っている。
だが、詳細については、直接話をするしかない。
「結論から言えば、エレンズにはハリス以上に才気と野心があったと」
「そんなところだ」
キセノンが調べた情報をまとめると次のようになる。

エレンズは、キセノン商会で働き出すと、みるみる頭角を示し、冒険者として世界を回っていた経験も買われ、経営部門の海外新規開拓担当を任せられた。
彼女はロマリアやポルトガでの営業所で情報を集めているなかで、西の大陸にある開拓村の状況を知った。

自分の才能と、当時付き合っていた同じキセノン商会で働くハリスの力を合わせれば、この村を拡張することができると確信していた。
エレンズはそのことをハリスに話したのだが、ハリスはもうしばらくキセノン商会で働くと断った。

エレンズはハリスが断った理由の一つに、テルルと結婚してキセノン商会を自分が引き継ぐことを理解し、開拓村での計画は中止にした。
エレンズはハリスがテルルと結婚し、ハリスがキセノン商会の経営を担った場合のことを考えていた。

エレンズはテルルよりも自分の方が先輩であり、キセノン商会には自分の存在が必要であると自信を持っていた。
ハリスからの助言をテルルは無視できないと。
それならば、成功まで何年もかかり、しかも他の業務を行うことが出来ないような、開拓村への事業の参画は見合わせるほうがいいだろうと。

一方で、エレンズは商人でもない俺のことを危険視していた。
俺が、テルルと結婚し、キセノン商会を受け継ぐことがあれば、自分がキセノン商会に与える影響力は限られると考えていた。
俺は、キセノン商会に入り浸っていたとはいえ、商人の仕事をしたことがない。

もしも、俺が商会の代表にでもなれば、テルルやハリス、エレンズのような優秀な商人に多くを任せることになると考えていた。
しかし、エレンズは、俺のことを買いかぶりすぎていたようで、子どものころに商人に必要な知識を得たので、冒険者としてより実践的な魔法使いに就いたと勘違いしていたようだ。

そして、彼女の勘違いは、俺がロマリア王としての治世を終わらせたことで、確信に変わっていた。
俺が順調に統治していた王国の王位を捨ててまで望むもの、それは平和になってから、さらなる勢力の拡大が見込まれるキセノン商会を手中に収めることだと、勘違いしたのだ。

キセノンと俺との話をハリスから聞いたエレンズは、キセノン商会での自分の将来は望めないとあきらめた。
エレンズはキセノン商会を辞めて、1人で開発村に行き、村の指導者として開発を進めていった。
エレンズは、ポルトガで培ったコネを生かして、順調に開発を進める。

そして、船による輸送の提供を申し出たのが3姉妹だった。
船があれば、移民の受け入れや、通商などが出来る。
エレンズにとっては、すばらしい提案であった。
当然、エレンズも勇者の誘拐が3姉妹によるものとの情報を受けていたが、俺やテルルの邪魔ができると思ったはずだ。
エレンズは、そのことについては一言も口にしていないが。

「そして、3姉妹が提供した船に対する対価がオーブだと」
「そうですね」
エレンズは今、エレンズバークの牢屋に囚われている。
エレンズの商人時代は、強引なところは少しもなかった。
強気ではあったが、キチンと周囲の話を聞いたり説得したりして、物事を進めていた。
しかし、開発村での情報をハリスから聞くと性格が変わったかのように強引に物事を推し進めた。

エレンズは俺やキセノン親子、ハリスに対する対抗心を持ったのだろう。
成長を急ぐあまり、道を踏み外してしまったのだ。

エレンズのことは、自業自得かもしれないが、大魔王を倒したら助けにいく必要がある。
彼女には、恩がある。
彼女の助けがなかったら、ロマリアの訓練場でデキウス総統と朝まで訓練につきあわされていただろう。
だが、彼女は、バラモスを倒した後でなければ助けることができなかったような気がする。


話をオーブに戻そう。
ハリスからの情報では既にオーブは3姉妹の手に落ちたと報告を受けている。
そして、俺はジパングで、オーブを持っていた、ヒミコに化けていたモンスターが倒されたという情報を入手している。
おそらく全てのオーブが集まったのだろう。



もう、俺にはわずかな時間しか残されていない。 
 

 
後書き
「偽典 ドラゴンクエストⅢ 勇者ではないアーベルの冒険」の連載を開始しました。
第壱話はこの話の続きからになります。 
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