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ドラゴンクエストⅢ 勇者ではないアーベルの冒険

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第55話 そして、竜の女王の城へ・・・

アリアハンで保有していた船を奪われた俺達は、ポルトガ艦隊の協力の下、3姉妹がロマリアで強奪した船を捜索したところ、ロマリア周辺海上でさまよう船を発見し、確保した。

船には特に損傷は無いことを確認したが、念のためポルトガ艦隊が曳航し、一度ポルトガで点検を行っているあいだに、俺達は一度アリアハンに戻り今後の事を考えることにした。


「船の点検が終わり次第、俺はこれからあるアイテムを入手しに行きます」
「どこに行くの?」
「ここです」
俺は、地図で位置を指し示す。
「山だな」
「山ですね」
「登山ですか?」
3人が指摘をする。

俺が指し示したのは、カザーブからだいぶ東に行ったところにある山である。
「登山が目的ではありませんが、似たようなものですね」
俺は、苦笑しながら話を続ける。
「高い崖があり、通常の人は登ることができません」
「トベルーラですか?」
タンタルは質問する。
「そうです」
俺は答える。

このパーティで飛行呪文トベルーラを使用できるのは俺だけだ。
タンタルも俺から、トベルーラを教わったのだが、いまだに使いこなせない。
厳密に言うと、俺が使用するのは「トベルーラ改」である。
通常のトベルーラはMPの消費が激しいことから、燃費効率の向上を求めて改良したのだ。
通常のトベルーラは、術者の全身を魔力で纏い、魔力消費しながら随時移動を行う。

一方、移動呪文ルーラは「指定した場所へ飛ぶ」という呪文のため、MP消費は一度で済むのだ。
当初俺は、空間認識により、意識した先に飛ぶを繰り返すことで、MPの消費を抑えることを考えたが、失敗した。
空間認識に非常に時間がかかるため、最初に移動してから、次に移動するまでに時間がかかりそれまでに墜落してしまうからだ。

失敗をもとに、俺が考えたのは術者の全身を魔力で纏うやり方を見なおし、手足の先と背中だけに魔力を纏わせることと、移動時の方向制御を手足の操作を中心に行わせる事で、姿勢変更の時だけ、MP消費量が増えるように呪文を改良したのだ。

この改良は成功し、魔王バラモスを倒した時もほとんどMPを消費することはなかった。
だが、この呪文を使いこなすには、膨大な練習量が必要となる。
俺の場合は、王位についていた間、MPを消費する機会はほとんどないため、毎晩MPが空になるまで練習を行うことができた。
だが、毎日生活を行う為に冒険で体力やMPを消費する魔法使いは、俺と同じだけの訓練を積むことはできないし、効果が術者限定のため、使用機会が限られるのだ。

全員が俺だけがそこに行けることに納得したのだが、
「そこに、何かあるの?」
テルルはいぶかしげに、質問する。
もっともな質問である。
登山をしたいだけであるのなら、アリアハンでも出来る。

「文献によると、そこは天界に一番近い場所と言われている」
「てんかい?」
セレンが首をかしげる。
俺は、人差し指を上に向けて答える。
「天にある世界。竜の神様がいるとか、いないとか」
「どっちなの?」
「会ってみないことには、なんともいえません」
テルルの質問に適当に返事する。

ゲームの世界では、何度も会ったが、現段階では確信が持てない。
「まあ、そう言った場所ならば、ほこらとか神殿とかが、あるのではないかと思う。
出来ればそこで、神様かそれに近い存在の力を借りたい」
「へえ、すごいですね」
「信じられない」
素直に感心するセレンと、疑う表情で俺を見つめるテルル。

「何が信じられないのかな?」
「アーベルが神様を信じていることよ」
「失礼な。ちゃんと信じていますよ」
少なくとも俺をこの世界に転生した存在がいるなら、間違いなく俺にとっては神様だ。
だからといって、お布施とか毎日の礼拝とかをするつもりは今のところ無い。

「アーベルの話はわかったわ」
テルルはため息をついて頷く。
「テルル、わかってくれたか」
「理路整然と話したり、突然突拍子もない話を持ってきたりするアーベルの考えが、絶対に理解できないということが、理解できたわ」
みんなが苦笑する。
俺も思わず苦笑する。
これまで、俺はパーティのリーダーとしてみんなの行動を決めていた。
いろいろ紆余曲折はあったにしても、みんなから支持されていた。



「母さん、どうでしょうか?」
「まだまだ、制御が甘いわね」
「もう少し、修行しますか」
俺は、眠い目をこすりながら、母親であるソフィアの感想を聞いていた。

夜中、アリアハンの外でソフィアと訓練をしていた。
俺が考案中の魔法を実験するためである。
呪文が呪文だけに、町中でするわけにもいかず、何もない草原で行っていた。

「まあ、呪文自体は問題ないから、後は、練習ね」
「ありがとうございます、母さん」
俺はお礼をいった。

ソフィアは宮廷魔術師として、いろいろな研究を行っている。
この実験もそのひとつではあるが、王から要請を受けた研究や、俺が依頼している研究についても日夜とりかかってくれている。

俺は一度大丈夫かと心配になって聞いたのだが、他の魔法使いがあなたに負けるものかと必死で研究をおこなっているから心配はいらないわと笑っていた。
俺達のパーティが大魔王や魔王を倒せば、俺がソフィアの後を継いで宮廷魔術師の座に就くことを恐れているのだろう。
他の魔法使いは俺が凱旋するまでに成果を上げようと、必死になって、王からの要請に応えているという。
魔法使い達には、無理して体を壊さないようにしてほしい。

「アーベル、遠慮はいらないわ」
「夜遅くまで付き合ってもらってすいません」
「真面目ね、アーベルは」
母ソフィアは、俺の頭をなでまわす。
「もう、そんな子どもじゃありません」
ソフィアは不機嫌な顔をする。
「アーベルはいくつになっても、私の息子です」
ソフィアは、俺の頭をくしゃくしゃにした。



「確かに、ここから北の方向に何かあるわね」
テルルは、船上から盗賊の特技である「鷹の目」を使って、目的の位置を確認した。
近くに何かがあれば、位置を知らせる特技であり、俺の推理が正しいことの裏付けにもなった。
俺は、満足してうなずく。

「ほんと、アーベルの推理力は異常だわ」
テルルはため息をつき、セレンやタンタルもうなずいてテルルの意見に賛同している。
「・・・。
誉め言葉と、受け取っていいのかな?」
「もう遅いかもしれないけど、他の人にはひけらかさないほうがいいでしょうね」
俺の言葉にテルルはあきらめ口調でぼやいた。
「・・・」
俺は、そんなつもりはないと答えようとしたが、ロマリアでの一件を考えれば素直にうなずくしかなかった。

「では、みなさん。ここでお別れです」
「気をつけてね」
「そちらこそ、気をつけて下さい」
俺は船を降りると、全員に手を振った。
ポルトガから出港して、数日。
世界をほぼ一周するような海路を経てようやく上陸地点に到着した。
俺を下ろした船は、一足先にアリアハンへ戻ることになる。

「さて、女王様に会いにいきますか」
俺は、目の前にそびえる山を見ながらつぶやいた。

俺は、聖水を体に振りかけてから、トベルーラで山越えを行う。
周辺に飛行モンスターはいないとの情報だったが、念のため用心は欠かせない。
トベルーラを使用中は、別の呪文を使用できないことから、モンスターに襲撃されたら全速力で逃げるしかない。

いざとなれば、キメラの翼で帰還すればいいのだが、もう一度目的地を目指すためには、再びアリアハンから出発する必要がある。
俺の帰りを待たずに船を帰した理由は、俺が帰る時はルーラ(もしくはキメラの翼)を使用するので、俺の方が先に帰還できるからだ。

一時間近く飛び続け、ようやく山の盆地に到着する。
一息つきながら、目の前にある城を眺めていた。
「これが、竜の女王の城か」



非常に大きな城であった。
竜の女王がどれだけの大きさかわからないが、彼女が生活するためには通路や部屋は大きくする必要がある。
どうやってこの城を造ったのか少し興味を持ったが、目的を果たすべく、城の中に入る。

門をくぐり抜けると声をかけられた。
「ここは天界に一番近い竜の女王様のお城です」
「・・・。ああ」
俺は、しばらく呆然としたが、何とか返事をする。
相手は、気にすることなく、入り口に佇む。
すっかり、忘れていた。
入り口で待ちかまえているのは、しゃべる馬だったということを。


城内はほとんど人がいないため、落ち着いた様子であり、天井が非常に高いことや通路が広いことを反映して、荘厳な印象を与えてくれる。

いきなり、竜の女王と謁見するのもはばかられるため、俺は部屋で休んでいるホビットの了解をとりつけた。
突然侵入してきた俺に対して、「どうぞ、どうぞ」と平然と答えるホビットに対してここの警備は大丈夫か?と心配になったのだが。
「大丈夫です。悪意を持つ人は、このお城に入ることができませんから」
と教えてくれた。

そんな特殊な結界が作れるのであれば、後で教えて欲しいと思ったが、神様ぐらいしか作れないかもしれないと考えて、後回しにした。
今回の目的を優先しなければならない。


女王の間に到着すると、中央の一段高い位置に、大きな竜が鎮座していた。
その竜は、背中にある羽を閉じ、目を閉じて、休んでいた。
その竜から受ける感じは、威厳と優しさを兼ね備えたものだった。
不思議と威圧感はなかった。

俺は竜が目を覚ますのを待とうかとおもったが、竜の目がかすかに開いたことから、近づくと、竜に挨拶をする。
「私は、冒険者アーベルです」
竜は頭に直接届く言葉を発した。
これが念話とか呼ばれるものだろうか。
「私は竜の女王。神の使いです」
俺は膝をついて、大魔王ゾーマを倒すことを説明し、助力を願った。
竜の女王を相手に言葉の駆け引きなど役に立たない。
役に立つとするならば、真摯な心しかないだろう。

俺の話を聞いた竜の女王は、わずかに首を上下に動かす。
「もしそなたに、魔王と戦う勇気があるなら、ひかりの玉をさずけましょう」
竜の女王は、明るい光る玉をからだから取り出し、浮遊させながら俺の足下へ届けた。
「このひかりのたまで、ひとときもはやく平和がおとずれることを祈ります」
王女は急に体を震えさせた。
「もうすぐ生まれ出る私の赤ちゃんのためにも・・・」
「大丈夫ですか」
「・・・」
俺の叫びにも反応することはなかった。
女王の間は、静寂に包まれていた。

女王は死んだのだろうか。
俺は冷や汗を流す。
竜の女王はまだ、卵を産んでいない。
大きく歴史を変えてしまったこと、そして、竜の女王を殺したと疑われることを考えると、体が震えてしまう。
落ち着いて報告しよう。
わかってくれるはずだ。
そう思ったとき、背後から扉が開かれた。

入ってきた女性は、俺と同じくらいの背丈でかなり細い体つきをしていた。
普通の人間と思ったのだが、どことなく違和感を覚えた。
先ほどの竜の女王ではないが、わずかに神々しさを感じることができる。
女性は、竜の女王と俺を交互に見やると、俺に声をかけた。
「お客様。女王は眠りについております。また、女王はご病気の身です。おひきとり願います」
俺は、女性の抑制の無い声に驚いたが、女王が死んでいないことに安心して返事をする。
「かしこまりました」
俺は少々おおげさな身振りをすると、退室した。


女王の間を退室した俺は、目的の光の玉を眺めていた。
玉からは優しい光を発していた。
だが、熱はない。
一瞬LED電球の事が頭をよぎったが、光の玉の役割を思い浮かべて頭を横にふる。
光の玉に失礼な発想だ。

倒すべき相手、大魔王ゾーマは闇の衣を纏っている。
闇の衣を纏ったゾーマの力はすさまじく、魔法に対する耐性や自動回復の能力を備えている。
ゲームで遊んでいたときですら、闇の衣をまとったゾーマを倒したことがないほどだ。

その闇の衣を引きはがすアイテムがこの光の玉である。

闇の衣をはぎ取った大魔王ゾーマはそれでも強力であるが、俺達がキチンと経験を積み、戦術を間違わなければ、倒せない相手ではない。
勇者を誘拐したパーティが、魔王バラモスを倒す直前までに、俺達は訓練を積むことを考えて、城を出ようとした。
「みんながアリアハンに戻るまで時間はあるか」
一足先に船はアリアハンへ向けて出発したが、到着まで二日はかかるだろう。
3人での船旅だが心配はしていない。

聖水を大量に購入していることから、大型のイカのモンスター以外は恐れて近づくことはないからだ。
テンタクルスと呼ばれるイカのモンスターは、確かに強力ではあるが、出現率が低いことと、俺達の防御力が高いことと、テルルが使う即死呪文「ザラキ」にめっぽう弱いので十分対応が可能である。
もう少し、城内を歩き回ることにした。


「綺麗ですね」
俺は、近くの女性に声をかける。
声をかけられた女性は、俺の方をしばらく無言で眺めると、
「きゅ、急に何をいうのですか」
と、顔を赤くして騒ぎ出した。

俺は、何か変なことを言ったのか訝しみながら、声をかけた女性を眺める。
少し前に、竜の女王の間で声をかけられた女性と同じように、人間とは少し異なる雰囲気を纏っていた。
俺はまだ出会ったことはないが、天女と人間との間の存在のようなイメージを持った。
それよりも、この女性に弁明をしなければならない事を思い出し、話を続ける。
「綺麗なものを綺麗だと言うことをためらう必要がどこにあるのかな」
俺は相手を刺激しないように、努めて優しく話しかける。
怒っている相手に、こちらも感情を高めたらまとまる話もまとまらない。
俺がかつて、市役所窓口で対応したときに教わったことだ。

だが、この世界では逆効果だったようだ。
「よ、よくもまあ大胆と」
女性はこれ以上に無いほど顔を赤くして反応する。

「そうですか、失礼しました」
俺は頭を下げると話を続ける。
「あなたは毎日眺めているから、そう思うかも知れませんね。でも、美しいことには間違いありません」
「・・・。ありがとう」
女性は赤くなった顔を少しうつむけたが、視線は俺を離さない。

俺は女性が少し落ち着いた事を確認し、話を続ける。
「こちらこそ、このようなすばらしい光景を毎日眺めることができるあなたがうらやましいです」
俺は、目の前にあるステンドグラスを指し示す。
「ステンドグラスの美しさもですが、日差しを受けて、廊下に映した光も幻想的です。言い伝えではここから天界への道が開けるとのことですが、私も素直に信じることが・・・」
話しながら、女性の表情に急激な変化を感じて思わず止めてしまった。

「そうですか、ステンドグラスのことですか・・・」
女性は、肩を震わせながら、絞り出すように声を出した。
「だ、大丈夫ですか」
俺は女性の様子が急変したことから、心配そうに声をかけた。
「大丈夫です!というかあなたのせいです!」
前後矛盾する女性の言葉を受けて、俺はなんと返事をしたらこ困惑し、
「す、すいません」
と、とりあえず謝る。

女性は少し落ち着きを取り戻したようなので、話をつづけた。
「あまり、あなたのようなすてきな女性と話をしたことがないので、もし失礼なことを言ったのなら謝ります」
「な、ならいいのよ」
女性の顔はまだ赤いようだったが、口調は小さくなったので、怒りは収まったと感じて、俺は帰ろうとする。

「失礼します」
「あの、また来てくれますか」
女性は帰ろうとする俺に声をかける。
「そうですね。大魔王を倒したら、もう一度ここに来たいと考えています」
「あなたの話のとおり、もしまことの勇者の称号を得た者がいたなら、その光のなかで天界に導かれるそうです」
「あなたなら、大魔王を倒し、称号を得ることができるかもしれません。お待ちしております。気をつけて」
さきほどまで怒っていた女性は、最初のときのように落ち着いた様子で見送ってくれた。


そう、俺はもう一度ここに訪れる必要があった。
大魔王ゾーマを倒したら、ここから、天界への道が開かれる。
そこの最奥に神竜と呼ばれる存在がいる。
神竜ならば、俺がなぜこの世界にいるのか知っているはずだ。
俺がこれからどう生きればいいか、考えるまえにぜひとも確認したい。

俺は城を出るとすぐに、ルーラを使用した。 
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