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ドラゴンクエストⅢ 勇者ではないアーベルの冒険

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第48話 そして、説得へ・・・(1)

俺とテルルは食堂のテーブルで2人きりで話をしていた。
「いいのか、テルル?」
「ありがとう。アーベル」
テルルは俺の手を握りしめる。
テルルの言葉には迷いがなかった。

「後は、お父さんに説明しないといけないね」
「・・・。ああ、そうだね」
俺は少し、冷や汗をかいた。
「アーベルから、説明してくれるよね」
テルルはお願い口調で俺に迫ってきた。
「・・・。ああ、やってみる」
「ありがとう。アーベル」
本当は、黙ったままでいたかったが、キセノンが娘の事を調べないはずがない。
それならば、こちらから説明をしたほうがいい。
俺は、ため息をつくと今日の事をふりかえっていた。



「終焉の砲撃が知られたと」
「そのようです」
「こんなにも早く知られるとは」
俺はジンクの前でため息をつく。

俺はロマリア王宮に行き、ジンクと2人で話をしていた。
イシスでジンクから受け取った手紙には「魔法を知られた」と記載されていた。
内部機密が漏れたため、手紙の記載内容も最小限に抑えられており、俺の返事も時期を明言しないことで、さらなる機密が漏れるのを防ごうとしていた。

「とりあえず、犯人の目星はついているのか」
「モンスターではないと思います」
「まあ、そうだな」
俺は頷く。
俺が王位にいる時に、警備体制を強化していた。
透明になる魔法や草が存在する以上、対策を強化する必要があった。
そして、モンスター侵入対策として、感染症防止用消毒剤「せいすい」を必ず手洗いに使用することにしている。
これで、モンスターならすぐに判明する。

「となると、高レベルの魔法使い呪文を身につけた盗賊になるか」
「あるいは、盗賊の技を極めた、高レベルの魔法使い呪文を身につけたものか」
調査の結果、近衛兵のひとりが殺されており、そのものの装備一式が奪われていたことから、外部からの侵入者と考えられている。
犯人が進入した状況を確認するには、殺された近衛兵を蘇生させるのが一番である。
残念ながら、殺された近衛兵は教会の蘇生術や蘇生呪文「ザオリク」でも復活することはできなかったそうだ。
完全な手練れの仕業だ。


「まあ、呪文自体が偽物なので問題ないはずだが」
魔法の玉の使用を秘匿するために用意した偽呪文が「終焉の砲撃」だ。
実際には、俺が作成した記憶忘却呪文「わすれる」であるが。

「終焉の砲撃」もとい「わすれる」は、MPさえあれば、どの職業でも唱えられるように作成した呪文のはずだ。
はずだというのは、人体実験が怖くて、試験をしていないからだ。
対象は詠唱者であるため、自業自得となるはずだが、完全に安心はできない。
魔法研究に長けたものなら、呪文の構成要素を見ただけで判断出来るからだ。
それだけ、呪文の偽装は難しい。
だから、ジンクの師匠はすごいのだ。

「まさか、お前の師匠の仕業か?」
「それはありえません」
「なぜだ」
「師匠は結婚相手に夢中で、わざわざロマリア王宮に侵入することはありえません」
俺は、先日見たメイド服姿の女性を思い浮かべると納得した。

「それ以外の冒険者となると、多くはいないはずだが」
「冒険者ギルドに調査をお願いした方が、よろしいかと思います」
「そうだな。ところで、ジンク」
俺は頷くと、別の質問をする。
「子どもは出来そうかい?」
「・・・。お互いがんばってはいるのですが」
ジンクは少し恥ずかしそうに俯いて答える。
一緒に冒険したときには見せない表情だ。
王妃役も板に付いたか。
「急げとはいわないが、産まれてくれないと、俺がまた王位争いに巻き込まれる」
「そうですね」
ジンクは悪戯っぽい顔で答える。
「たのむから、勘弁してくれ」
「帰りますか」
「久しぶりなので、いろいろ挨拶をせねばなるまい」
俺の前の王や四大貴族などお世話になった人たちに顔を出さねばならない。
退位してから月日が経過したので、相手も落ち着いているだろう。


俺は、部屋を出ると警備兵に声をかけられた。
「よう、アーベル」
近衛兵総統デキウスだった。
「・・・。近衛兵の総統が、なぜ警備をしていますか?」
「俺が命令した。文句はあるまい」
「・・・。警備をがんばってください」
「おい、ラルフ」
デキウスは近くを歩いた近衛兵に声をかける。
「総統閣下。ご用でしょうか」
「あとをまかせた」
「はっ!」
デキウスの警備はおわったようだ。
「アーベル。せっかくだから、訓練につきあえ!」
俺はデキウスに、肩をつかまれた。
「もう、ロマリア国民ではありませんから」
「ごちゃごちゃ、うるさい!」
デキウスは俺を脇にかかえると、そのまま訓練場に投げ込まれた。



「・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・と、いうわけで、帰るのが朝になったのだよ」
俺は、3人に朝帰りの理由を説明した。
「わかったわ、アーベル」
「うたがって、ごめんなさい。アーベル」
「デキウス総統とそこまで親しいとは、さすがアーベルさんです」
3人には何とか、納得してもらった。

「それでは、気をとりなおして、第3回キメラの翼検討会です」
俺は、やけくそ気味に声を張り上げる。
「テルルさん。どうぞ~」
「恥ずかしいからやめなさい」
テルルに注意された。

「私は、両方あると思っています」
テルルが説明を開始した。
「両方?」
「どういうこと?」
「キメラからキメラの翼が出来る一方で、それとは別にキメラから作ったものと同じ効果を持つアイテムを別に作っていると思います」
「なるほど」
「すごいです。テルルさん」
タンタルとセレンは感心する。

「どうして、キメラが持っているキメラの翼と、作られたキメラの翼が同じ形をしているかわかるかな?」
俺はテルルに質問してみた。
「覚えてもらうためじゃないかしら?」
「それにしては、同じ物をつくるのは手間がかかると思うけど」
俺がアイテムを作る立場なら、キメラの翼は使い捨ての消耗品であることから、性能さえ問題なければ安く仕上がるよう形を変えるはずである。
逆に25Gで本物と同様の形状性能を保つことができることが不思議だ。

「じゃあ、アーベル説明しなさいよ」
テルルは俺に文句を言い出した。
テルルも自説に穴があることを自覚していたのだろう。
テルルの口調は怒るというよりも、すねているといった感じだ。

「俺からの説明といいたいところだが、・・・」
「明日まで待てということですか?」
タンタルが補足する。
「確かに明日まで待つのだが、俺ではなくキセノンに説明をお願いしようと思う」
「アーベルはどうするの?」
セレンの指摘で、みんなが俺に注目する。
「俺は答えを知っているのでね」
「なんだと」
「ずるいです」
「アーベル。だましたのね」
みんなから文句を言われた。

「だますなんて心外だ。事実を知らないとは一言もいっていないし」
「みんなが誤った説明をするのを、1人だけニヤニヤしながら聞いていたのでしょう」
「アーベル。ひどいです」
「黒いな・・・」

「いまさら、俺のことをどう思われても構わないが」
俺は自嘲ぎみにみんなに説明する。
「俺は、考えることが大事だと思っている。
本を読んだり、人の話を聞いたりすることは大切だし、役に立つ。だが、書かれていることや人の話が世の中の全てではないし、正しいとは限らない」
皆が静かに俺の話を聞く。
「何が正しいのか、それを判断し決断するのは、自分自身が行う必要があるのだ」

「そのために、自分で考える必要があると?」
テルルがつぶやく。
「そうだ。当然、みんなの相談には乗るし、俺もみんなに相談を持ちかけるかもしれない。ただ、いつまでも俺がリーダーであるとは限らない」
「アーベル」
セレンが俺を凝視する。
「世界が平和になったら、パーティは解散だ」
「そうだな」
タンタルは頷く。

「こんな小難しい話をせずに、楽しいおしゃべりがしたかったのだが」
俺はさみしそうに話をする。
「ごめんね、アーベル」
「気にするな、セレン。最初に説明しなかった俺も悪い」
「というわけで、明日は回答編だ。楽しみにな」
全員の表情が、普段どおりに戻ったことを確認してから、パーティを解散した。


「アーベル」
しばらく、椅子に座って考え事をしていた俺の前にテルルが戻ってきた。
「どうした、テルル?」
「話があるの、聞いてくれる」
「わかった」
俺達は再びテーブルに着いた。


「さっきは、上手くだましたわね、アーベル」
「何をだい、テルル?」
俺は隠し事がばれたかと、思わず緊張する。
「私たちに、考えさせることが大事だといって、追求をごまかしたでしょう?」
「ごまかしてはいないさ」
追求をかわすことが出来たら、幸運とは思っていたが。

「それよりも、なんだ相談とは」
「この前の話なのだけど」
「誤解を生まないように、具体的に切り出して欲しいのだが」
俺は落ち着いて、答える。
「転職の話よ」
「転職か、決めたのか」
「決めたのだけど、自信が無くて」
「自信が無いというのはどういうことだ?」
普通、決めたのなら自信が無いというのはおかしい。

しかも、転職を迷っているようでもないらしい。
俺は、テルルに話の続きを促す。
「実は、盗賊に転職しようかと思っているの」
「盗賊か、どうしてだい?」
俺は理由を質問する。

「盗賊になれば、アイテムの収集効率が上がるから」
テルルは、先日のピラミッドの捜索をしながら考えたようだ。
確かに、盗賊になれば、戦闘中にモンスターからお宝を奪うことが出来る。
しかも、レベルが上がれば上がるほど確率も上昇する。

戦闘能力としても、盗賊の方が商人を上回る。
特に素早さの上昇が高いため、素早さが防御力に影響を及ぼすドラクエ3では、盗賊の有用性は非常に高いのだ。
実際、俺がゲームで遊び尽くしたときは、全ての呪文を覚えた盗賊と賢者を中心としたメンバーでステータスが上昇する各種の種をかき集めていた。

さすがに、この世界ではそこまで、やり込むつもりは無かったが、種集めは出来るだけ行うつもりだった。

なぜならば、俺が魔法使いであり、HPに自信が無いからだ。
先日レベルが30に上がったが、HPは130に届いていない。
レベル23の武闘家であるタンタルの半分しかない。

先日のバラモス討伐のような戦い方が出来るのならHPなど関係ないが、あの戦いは屋外であり遠慮無く魔法の玉が使用できたこと、屋外でも空からの攻撃が無かったこと、氷のブレスが無かったこと、敵に魔法効果を消し去る「いてつくはどう」を使用されなかったこと等、数多くの好条件が重なった事による。
これから倒すべき相手大魔王ゾーマには、同じ戦術は使えない。

どうやら、俺の考えを見抜いたようで、テルルは俺を手伝うため、盗賊への転職を考えてくれたのだ。
俺は、テルルの転職の話には反対するつもりはない。
こちらからお願いしたいところである。
だが、逆に質問があった。
俺に何を相談するというのだ。

「決まっているじゃない」
テルルはお願いのまなざしを俺に向ける。
なんだろう、嫌な予感がする。いや、嫌な予感しかしない。
「お父さんへの説得よ」
テルルは目を輝かせている。
「・・・」

正直に言おう、途中から予想がついていた。
だが、確認しないといけない。
なぜなら、説得する相手は、キセノン商会代表のキセノンだ。
最近、アリアハン王家から借りている船を効率的に運用するようになり、すぐ近くのランシールとの取引で莫大な利益を上げていると聞いた。
俺が、国に船を貸与していることもあり、俺にも利益が回ってくるので文句は言わない。

将来、キセノン商会による、全世界の経済統合も近いかもしれない。
まあ、庶民にとってはトップが商業ギルドの長老連中から、キセノンに変わっただけという認識しか持たないだろう。
すでに、キセノンは商業ギルドの最年少幹部としてある程度の実権をもっている。

だから、その娘が盗賊になると知られたら、キセノン商会にとってはイメージダウンになるかも知れない。
テルルが俺に依頼するのは、キセノンに「商人の娘が盗賊になっても問題ない」と説得させることだ。
キセノンだけではなく、キセノン商会を利用する人々にも理解をさせなくてはならない。
当然だ、商人が最も恐れるのは「信用を失うこと」だ。

キセノンが若くして成功した最大の要因は、「一度口にした約束を、決して破らない」ことだった。
キセノンが若いとき、通常では納期に間に合わないと気付いた時に、定価の倍で、他の商店から買い付けてでも納期を守った伝説がある。
キセノンに商品を売りつけた商人は、「馬鹿なことを」と笑っていたが、結局金で買った「信用」で大きな商いを任せられ、成長するきっかけになったのだ。

だからこそ、今回の交渉は最も手強いものになると、覚悟した。
場合によっては、俺の冒険が終わる可能性もあった。
「わかった、テルル。なんとかする」
「ありがとう、アーベル」
俺の覚悟を感じたのか、テルルは俺の手を強く握った。



「・・・。アーベル」
「・・・。どうした、テルル?」
「どうしたと聞きたいのはこっちよ。いつまで手を離さないつもり」
どうやら、回想をしすぎたらしい。

いつの間にか、俺の方がテルルの手を握っていたようだ。
「ああ、すまない」
「べ、べつにいいわよ」
テルルの顔が赤くなっている。
「すまん、考え事をしていた。痛かったか?」
「だ、大丈夫よ」
テルルは、さらに顔を赤くしたが、そのことを追求しない方がいいのだろう。
俺はなぜか、そう確信した。
 
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