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ドラゴンクエストⅢ 勇者ではないアーベルの冒険

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第28話 だからこそ、手段を選ばなければならない

「もう一度確認したい、この国をどうしたいのかを」
俺は、2人に話しかける。
「あなたがたが、国を救うため俺を王にしました」
ジンクと前王は頷く。
「俺が新しい体制を築く間、あなた達が貴族を滅ぼすと」
「そうだ」
「あれから、一晩考えたのですが」
俺はため息をついて俺なりの回答をする。
「駄目ですね、今の計画は」

前王は俺を睨み付け、ジンクは冷静な表情で話を聞いていた。
「アーベルよ、何が駄目なのか教えてくれ」
「あなた達のやり方では、先がありません」
「先がないとは?」

「確かに今のままでは、財政がもたない。その通りでしょう。
そして、今の貴族達には問題がある。そうかもしれません。
だからといって、安易に貴族を排除すれば、将来のロマリア王国にとって問題になります」
「問題があると」
前王は質問する。

「問題を解決するためには手段は選ばない」
今のロマリアの状況を示す言葉かもしれない。
前王とジンクは頷く。
「俺が嫌いな言葉の一つです」
2人は目を見開く。
「・・・」
「俺のこれまでの人生は恵まれていたので、贅沢だと言えるのかもしれませんが。本当に問題を解決するのであれば、絶対に手段は選ばなければなりません」
ジンクと前王は黙って聞いていた。

しばらくして、ジンクは確認するために口を開いた。
「アーベルは、貴族を滅ぼすのが手段として妥当ではないと?」
俺は頷く。
「財政問題を片づける手段としては問題がありませんが、ロマリア王国の事を考えると大問題です」
「どういうことだ?」
「貴族を滅ぼしても、今の状態が続くだけで、やがて、叛乱が起こるでしょう。これまで国を支えてきた人々を軽んじたとして」
ジンクは不満そうな表情をする。

「確かに、いまの大貴族が国を支えているかといわれれば、疑問符が付くかもしれません」
「だが、国民達はどうでしょう。昔話で、建国時からの支援者の子孫を簡単に滅ぼしたらどう考えるか」
どこの国でもそうだが、ロマリア王国の正当性を子孫に伝えるため、神が認めたとか、英雄達が国を作ったと伝説や昔話を広めている。

「その後、あなた達は新しい体制を築くはずです」
新しい体制は、貴族達の犠牲を基にして作られる。
たとえ、貴族達の得た権益が過分だったとしても。
「そのとき、誰がついて行きますか?」
建国時に貢献した子孫達を切り捨てる。
当然、ジンク達は切り捨てるだけの「正当な理由」を用意するだろう。
だが、新しい国を支える者たちからすれば、いつかは自分たちの番が来ると思うだろう。
そのような状況で、俺やジンク、そして前王に誰がついていくのだろう。
ジンクと前王は沈黙したままだ。

「新たな体制に、さきほどの話に出ていた、マニウスの家臣達を使えばいいかもしれません。
ですが、マニウスを処分したあとで、彼らが従うでしょうか?
彼らは、自分たちの給与が国からではなくマニウスから出ています」
彼らの忠誠心は何処を向くのだろうか、普通に考えればマニウスにつくだろう。
逆に簡単に忠誠心が動くようであれば、何かあれば、すぐに別のところに忠誠心は移動するだろう。

「デキウスはどうでしょうか」
近衛兵総統の事を指摘する。
「彼を見る限り、個人的な武勇のみあるようです。
しかし、彼自身は資産については、私欲が無く、周囲の兵からは敬意を受けています」
「その彼を処分できますか?」

「まあ、ガイウスは仕方ないかもしれません」
俺は、財務大臣の事を話す。
ジンクから受け取った資料をみれば、十分処分に値する罪が記載されていた。
「だが、彼らの子孫にまでその処分を求めるほどの内容でしょうか?」
ロマリア王国の法律からすれば、子孫まで処罰をあたえることが可能だ。
処罰を与えた当時は、国民も賛成するかもしれない。
しかし、時間がたてば厳しすぎるとの声が出るはずだ。

「最後に外務大臣のレグルスです。
俺やジンクに不満を持っているのはあきらかです。
だが、それだけで処分をすれば国民はどう思うでしょうか?
そして、彼は就任してまだ間がありません。
機会を与えていない相手に、処分を与えるのは問題です」
俺はひとしきり話し終わると、水を口につけ、2人の反応を伺う。


「ではどうすればいいのかのう」
「ただ、あれもだめこれもだめでは、このまま国が滅びるぞ」
「この国の崩壊を防ぐのなら、攻めるしか無いでしょう」
俺は2人に切り出した。
「攻めるとは?」

「モンスターに蹂躙された土地を奪回します」
「本気か?」
「本気です」
俺は即答する。

「土地を奪還するためには、かなりの軍勢が必要だ」
前王の言葉にジンクは頷く。
「そして、多くの命を失いかねない」
ジンクはこれまでの経過を説明する。


ロマリア王国でも、これまで何回か奪回計画を企てたこと。
そのたびに周辺のモンスターが集まり、兵が全滅したこと。
今では、近衛軍総統のデキウスですら出兵論を言わない。
「アーベル。無謀だと思わないか」

俺は、ジンクの質問に答えず、袋からお金を取り出す。
「これは、モンスターを倒したときに入手できるアイテムです」
ゴールドと呼ばれるアイテムは、モンスターを倒した後に出現する。
「この物体は、モンスターを生成する場合の触媒と考えられており、魔王の邪悪な力でモンスターが生成されていること、一度人の手に触れると、直接魔王が触れない限り、二度とモンスターには戻らないと言われています」
ジンクと前王は神妙な顔で頷く。
俺の言った話は知っているが、俺がいったい何が言いたいのかわからないという顔だ。

「つねづね疑問に思うのですが、この話は本当なのでしょうか?」
俺は、2人に質問する。
「・・・」
ジンクも前王も答えない。
「普通は魔王に聞かない限り、確認出来ない話ですよね?」
「!」
2人は驚愕する。

しかし、ジンクは俺の話に反論する。
「ロマリア王国に伝わる話では、魔王が現れてから、モンスターが出現したとあります。
きっかけは、ジンクの話のとおりかもしれません」

「しかし、反証をあげる事ができます」
俺は、説明を続ける。
「先日、ある洞窟でモンスターを倒し続けていました。
しかし、いくら倒しても、しばらくすると再出現します。これはどういう理由でしょうか?」
「・・・」
「いちいち魔王が触れるとは考えられません。
逆に、触れなくてもモンスターを生成することができるのであれば、逆に世界を滅ぼしているでしょう」
俺は、自分なりの結論を導き出す。
「魔王を倒しても、モンスターが消えない可能性があります」
「・・・」
ジンクも前王も驚愕して声が出なかった。


モンスターが消えない可能性については、ノアニール西の洞窟での戦闘経験から推論していた。
それ以外の判断理由として、前世でのゲームの経験も考慮に入れていた。
当然、この世界の住人に話す内容ではないが。

俺は、前世でドラクエ3をクリアーしている。
クリアーした場合、モンスターは一切登場しなくなるが、それはこの世界ではなく、下の世界での話だ。

ゲームシステム上、この世界に戻ることができないため、確認することはできなかった。
そうなると、下の世界だけモンスターが登場しないシステムが反映されることも、可能性としては考えなければならない。
さらに言えば、クリア後の世界でもゲームシステムとして、モンスターが引き続き出現しているということも考慮に入れなくてはならない。

俺としては、ゾーマ討伐後、モンスターが引き続き出現するかどうかという、二つのシナリオを考慮に入れる必要があると思っている。

昔は、単純にゾーマを倒せばモンスターは消えると考えていた。
だが今の俺の予感では、引き続きモンスターは出現すると考えている。
俺の場合、悪い予感の方がよく当たる。

「だからこそ、魔王を倒す前に少しでも領土を回復する必要があるのです」
魔王を倒しても、モンスターはいる。
なにもしなければ、国民に絶望感を与える可能性が高いだろう。
「だが、考えはあるのか?」
「あります」
俺は、自分の計画を話しはじめた。
 
 

 
後書き
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