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ドラゴンクエストⅢ 勇者ではないアーベルの冒険

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第21話 そして、ポルトガへ・・・

さまようよろいがあらわれた。
ジンクは呪文の詠唱を始める。

「終焉の刻を知るものたちよ。その叡智は真理を力に変え、その力は闇を食い尽くし、食い尽くした闇で生み出す光で刻みし歴史は、栄光を紡ぐものなり!」
セレンとテルルは武器を構え、さまようよろいに向かって突き進む。
ちなみに俺は後ろで、他のモンスターが現れるかどうか、周囲を見渡している。

「古より伝わる破壊の力を、浅学な我が身で持って顕すために、今一度、紡がれた栄光の欠片を我が眼前に示したまえ!」
セレンとテルルの攻撃で、さまようよろいは動かなくなった。
俺は、引き続き周囲の警戒を続ける。

「我に仇なす全ての者どものために、さらなる栄光を世界に刻むために、終焉の刻を知らしめるために!」
「ジンク終わったぞ」
俺は、旅の続きを促すため、ジンクに声をかける。

「そして害悪を無に帰し、平穏の世界へ!イオナ・・・」
「はい、そこまで」
俺は、詠唱を終えようとするジンクの肩にふれる。

「終わりましたか。さすがはアーベル」
「・・・、俺は何もしていないが」
「いえいえ、イオナズン1回分のMP消失を防ぐことが出来たのは、あなたの力です」
ジンクの詠唱は俺の知る限り、イオナズンは決して発動しないはずだ。
「・・・、ああそうかい」
俺はため息をついて、旅を続けた。

俺たちがポルトガへの関所にたどり着くまで、他にモンスターは出現しなかった。
そのため、ジンクのLVは1のままだ。


「見よ!我がロマリア王国に伝わる華麗なる鍵開け術を!」
「ジンクさん、すごいです!」
「だから、セレン感心しないの!」
「まあ、ある意味すごいな」
ジンクは華麗なる舞を踊りながら、ポルトガへの国境に繋がる扉を開こうとしていた。

ジンクはやがて、右手に持つ鍵束の中から無造作に一つを選ぶと、鍵穴に差し込む。
そして、ジンクは取っ手を持ちながら、1回転し、扉を開けた。
「いかがですかな」
「ジンクさん、やっぱりすごいです!」
「・・・もう少し、早く鍵を開けて欲しいものだ」
セレンは相も変わらず、ジンクの行動に賞賛の声をあげ、俺はジンクの鍵開け術に改善を求めた。

「アーベル。鍵開けは優雅に行うことが肝心なのです」
「いやいや、時間をかけずに行うことが重要ではないのか?」
「効率化だけを求めても、意味がありません」
ジンクは俺の質問に反論する。
「確かに、動作の最適化による恩恵を否定はしません。
しかし、動作の中に生じる余白や無駄は、新たな可能性を生みます」
「新たな可能性?」
「そうです、先日酒場で使ったイオナズンのように」

確かに、新呪文を開発するには通常の詠唱を覚えるだけでは決してできることではない。
「だからといって、命がかかった戦闘中に行うのはどうかとおもうぞ」
「だいじょうぶですよ、アーベル」
ジンクは俺ににこやかなほほえみを向ける。
「ここらへんのモンスターはあなた達にとって、敵ではないのでしょう」
俺は頷く。

「であれば、このような機会を逃すのはもったいないです」
「ああ、あまり認めたくはないが、ジンクの言うことは正しいのだろう。だが、鍵開け術は時間の無駄だ」
俺はジンクに指摘して、ポルトガへ向かっていった。

「わかりましたよ、アーベル。成果もありましたし」
ジンクはひとり納得したような顔で鍵束を袋にいれると俺のあとをついてゆく。
鍵束にある鍵の形状は、俺が前の世界でイラストを見て知っている、この扉をあけることのできる魔法の鍵と形状が異なっていたが、この扉専用の鍵だろうと納得していた。


「骨折り損ではないのだが、・・・」
「しかたないですよ、アーベル」
「まあ、慎重にいくことは悪くないわ」
俺のため息に、ジンクとテルルは慰めの声をかける。

俺たちは無事、ポルトガに到着したのだが、ロマリア国境からここまで、モンスターに一度も会うことはなかった。
「無駄ではないですよ」
セレンも俺を慰める。
「ありがとう、セレン。旅はこれで終わりでは無いから、強くなることは無駄ではないよな」
「そうですよ、アーベル。いざとなれば、私のイオナズンで、・・・」
「しつこい!」
俺とテルルはジンクにつっこみを入れた。
 
 

 
後書き
せっかくなので、イオナズン(偽)の詠唱文を考えてみました。

本来であれば、もっと廚二病的な詠唱文にしたかったのですが、この程度が私の限界のようです。 
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