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ドラゴンクエストⅢ 勇者ではないアーベルの冒険

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第3章 交渉魔術王アーベル
  第20話 そして、新たな仲間(?)との旅立ちへ・・・

 
前書き
新キャラ登場です。
名前にひねりがないですね。
まあ、名前にひねりが必要かと言われたら、そうでもないと言い訳はしておきます。 

 
「久しぶりの冒険は、たのしいなあ」
「まだ、ロマリア城から出ていないでしょう」
「何をいってますか、テルルさん。王様に報告するまでが冒険なのです。ならば当然、王様に命令を受けた段階から冒険は始まっているのです。気をつけないといけません」
さわやかな笑顔をした若者が、商人の娘に声をかける。
「大丈夫なの、このひと?」
テルルと呼ばれた娘は、あきれた様子で俺に声をかける。

「このひととは失礼な。ジンクといった立派な名前があります。さっき紹介したばかりなのですが、もう忘れたのですか、テルルさん」
ジンクと名乗った若者は、テルルに話しかける。にこやかな笑顔を忘れずに。
「忘れる訳がないでしょ!」
テルルはあきれた顔でジンクをにらむ。
テルルとジンクとの話を聞きながら俺は、ロマリア城での会見のことを思い出していた。



「アーベルよ」
ロマリア王は、俺から受け取った書状を読み終わると俺に声をかける。
そして、目の前にいる重臣達に、アリアハン王の提案内容を聞かせる。
重臣達は提案内容を聞いたが、特に意見を言うことはなかった。
そして、ロマリア王は自分の結論を述べる。
「アリアハン王からの提案については承知した」
「はっ。わが王に代わって感謝を申し上げます」

俺は提案が通ったこと自体は、それほど喜んではいなかった。
ロマリアにとって、アリアハン王からの提案は断る理由のないものだったからだ。
俺たちをポルトガへの関所を通過させるだけで、勇者の派遣要請を受けることができるのだ。
ましてや、アリアハンとポルトガの交渉が成功すれば、ロマリアにも船が手に入ることから、断らないほうがおかしかった。
「とはいえアーベルよ、関所を通し、ポルトガへの使者として派遣するには、そなた達だけではこころもとない」

俺たちの戦力のことを心配しているのか、たしかに冒険を初めて1ヶ月の若者であれば心配するのも当然かもしれない。
俺たちが、ロマリアに到着してすぐに交渉したのであれば、ポルトガへの道中で全滅する可能性もある。
しかし、俺たちは準備した。
ポルトガでの戦闘も問題ないはずだ。

俺の考えを読み取ったのかロマリア王は答えた。
「そなた達の腕については、心配はしておらん。3人とはいえ、パーティのバランスがとれているのは十分わかっている。心配しているのは我が国からポルトガへの使者をつれる必要があることなのだ。もちろん、そなた達がロマリアを出し抜くつもりがないことも、わかっているが」
ロマリア王は、俺にむかってというよりも、周囲のロマリアの重臣にむかって説明していた。

ポルトガとの交渉自体は、俺1人でも十分だろう。
だが、今回の交渉はアリアハンとポルトガとロマリアとの3カ国交渉になる。
ロマリアにとって、ロマリア王の書状だけでは、こころもとない。
正式な使者を派遣しなければ、示しがつかないというのだ。

ロマリア王の言葉に、重臣達は理解した。
問題はロマリアの代表として誰を派遣するかである。
俺たちと同様に、冒険者一行が旅をするのだろう。
でなければ、一緒にポルトガへの関所を通過することができないからだ。

「ジンクよ」
「はっ」
ジンクと呼ばれた若者は、重臣達の末席から姿を現し、俺の横まで歩くと、俺と同様に頭を下げる。
ロマリアの重臣達は驚いた様子で周囲とひそひそ話をする。

「ジンクよ、そちをロマリアの使者としてポルトガに派遣する。アーベル達と行動を共にして、交渉を成功させるのだ」
「りょうかいです」
ジンクは大げさに礼をする。
「それでは以上で、会見を終わる」

「おまちください」
重臣の1人が声をあげる。
「なにかな」
「おそれながらもうしあげます。ジンクなどというものを我が国の使者としてつかわすなど、・・・」
ロマリア王は、重臣の声をさえぎる。
「そちは、我が息子とおなじ性格のものに、使者はつとまらないと」
「めっそうもない。ですが」
「それでは、お前達のなかで彼らとともに行動できるものがいるのか?」
ロマリア王は重臣たちを見渡す。
重臣達は貴族を中心とした文官が中心となっており、あまり戦闘経験は積んでいない。

ロマリア王国の貴族は、アリアハンからロマリア王国が独立した時の重臣達に与えられた地位だが、モンスターの襲撃により領土が減ってからは、ほんの一部を除き、文官であった貴族だけが生き残っていた。
残った貴族達は既成権益を守るため、重臣としての地位を守るための技能は磨いたが、戦闘経験を積むことはなかった。
そして、一部の貴族は戦闘能力を持っていたが、近衛兵を束ねる役職に就いており、外国に出ることが出来ない状態だ。

俺は、この情報をロマリアの酒場などで入手していた。
「我々は、政に携わるのが役割であれば、冒険者のようなことはできかねます」
「それに、ジンクも冒険者とはいえ、もともと遊び人であれば」
別の重臣が助け船をだす。
「あやつは、今賢者ではないか、問題はないだろう」
ロマリア王は重臣たちの発言を切り捨てると、席を立ち上がる。

「会見は終わりだ、そなたらの好きな会議があるのでな、失礼する」
ロマリア王は、重臣達に皮肉を込めて話をすると俺に向かって会釈をした。
俺は、再度礼をして王が退席するのを待っていた。


俺が控え室に戻ると、セレンとテルルが心配そうな顔で出迎えた。
「大丈夫でした?」
「上手くいったの?」
「問題ない」
俺は、2人に先ほどの話を説明しようとした。
「問題ないとは、さすがですねアーベルさん」
「これは、賢者のジンクさん」
「呼び捨てでかまわないよ」
「では、こちらもアーベルと呼んでください」
ジンクと呼ばれた若者は、俺たちに近づいて話しかけてきた。

「この人は誰?」
「ああ、これからポルトガまで一緒に行く人だ」
「はじめまして、私はジンクです。こちらの可憐なおじょうさん達は」
「テルルよ」
「・・・、セレンです」
テルルとセレンは挨拶をする。
「なるほど、セレンさんですね。あなたがロマリアに訪れるたび、町の男達があなたの事を噂して、「死ぬのなら、あの子のザキで死にたい」とまで言われている」
「そ、そんな」
セレンは、頬を赤くして俯いた。
「セレンはそんなことしないわよ!」
テルルはセレンとジンクの間にはいり、文句を言う。
「なんで、あんたと一緒に冒険するの?」

「そうですよね、テルルさん。私はしょせんお邪魔虫です。ですが、さすがにあなたとアーベルとの仲を邪魔するつもりはございません」
「そうじゃなくて!」
テルルは真っ赤になって怒り出した。

俺はジンクの考えに納得する。
たしかに、パーティの連携が悪くなれば、効率的な戦闘ができなくなり、全滅する可能性が高くなる。
「アーベル、そこで頷かないの!勘違いするでしょ!」
「テルル。パーティの連携を邪魔しないのは、当然だと思うのだが」
「そうじゃなくて」
「さすが、アーベル「きれもの」の特性ですかな」
ジンクはにこやかに俺を誉める。

「俺は自分のことを、普通の魔法使いだと思っているのだがね。賢者にはかなわないさ」
「ご謙遜を。私などただのお調子者ですよ」
「いいのか、王子の性格をばらしても」
「問題ないですよ。この国に住むものはみな、王子様の性格など知っていますから」
ジンクの言葉は事実だ。
俺たちもロマリアに来た初日に、酒場で聞かされた話だ。
しかも何度も。

「それに、賢者といってもレベル1です。出来ることはあなた達の影にいて、自分の身を守ることだけです」
「それでも、俺の盾にはなるだろう。十分役に立つ」
「こちらこそ、身を守るだけでレベルが上がるのは助かります」
「それではいくぞ、セレン、テルル」
「・・・」
「・・・、違うのに、違うのに・・・」
セレンは真っ赤に俯いたまま反応せず、テルルはぶつぶつとひとりごとを繰り返していた。


「新たな仲間ジンクにカンパーイ!」
「自分で言うか?」
「正確には同行者だが」
「細かいことは、気にしない」
テルルと俺の指摘を切り返すと、ジンクは酒を一気に飲み干した。


俺たちは、ロマリアの酒場で話をしていた。
冒険の打ち合わせについてだ。
俺はジンクが俺たちのパーティに加わると思っていたのだが、パーティは組まないで一緒に行動すると言っていた。
俺が詳しく問いただそうとしたのだが、ジンクが「せっかくだから、酒場で歓迎会をしよう!」と提案し今にいたる。

ジンクの提案に対して、セレンは俺の後ろに隠れながら俺の袖を引っ張り恥ずかしそうに頷いていた。
「セレンさん。そのしぐさだけで、多くの野郎どもがもだえ死ぬことでしょう!」とジンクは目を輝かせて何度も頷いていた。
ジンク、お前は死なないのか?
まあ、人のことは言えないが。

テルルは酒場で話をするというジンクの提案に対して、「なに勝手なことをいっているのよ」と反論した。
俺がもうすぐ夕方になることと、話をするなら一緒のほうがよいだろうと意見をいうと、
テルルは「しかたないわねえ、アーベルが賛成したからついていくわよ」と機嫌悪そうに承諾した。
しかし、ジンクが「さすがアーベル、テルルさんを説得させるとは」と納得した顔で頷くと、テルルはぶつくさ文句を言っていた。


「私のステータスは、たいしたものではありません。レベル20のあそびにんから転職しただけですから。それでも、隠す必要があるのはロマリア王から使者としての命を受けたからです」
確かにジンクの言うとおりだろう。

「それに、アリアハンとロマリアの使者が一緒に行動しながら、ロマリアの使者がアリアハンの使者に従うのは問題があります」
俺は黙って頷いた。

俺自身は見栄や立場を気にしたことはなかったが、国の外交レベルの問題は個人の認識の問題とは別なのだ。
「それでも、戦闘には一緒に参加しますから、最低限の情報はお伝えします」
ジンクは俺にステータスシートを手渡した。
次のように記載されていた。

ジンク
賢者
おちょうしもの
LV:1
HP:94
MP:80
攻撃力:55
防御力:58

「・・・、今の俺より上だな」
「すぐに追い抜きますよ」
「そうだといいけどな」
俺はため息をついた。
あそびにんだろうがなんだろうが、転職前のレベルは20であった。転職でステータスが半減したからといって、貧弱な魔法使いに比べたら体力はあるだろう。
この4人のなかで3番目に入るだろう。
成長すれば、このパーティのなかで2番手も任せられるはずだ。
まあ、一時的なものであるが。

「よう、イオナズンのジンクではないか」
見知らぬ男が、ジンクに絡んできた。
「今日は王子様と一緒ではないのか」
「見てのとおりだ」
ジンクは微笑を浮かべて男に答える。
「腰巾着なら、王子様のそばにいないとねぇ。それとも、王子様に飽きられたのか」
「好きに想像すればいい」
ジンクは適当に答えていた。

男は、俺にも声をかける。
「よう、あんた。イオナズンのジンクを知っているか?」
「今日初めて会った。ところで、「イオナズンのジンク」とはなんだ?」
「あんた、知らないのか、他の町のものだな。俺が教えてやるよ」
男はかなり酔っぱらっていた。
俺は男の話す内容は予想していたが、念のため聞いてみた。



王宮の採用試験での話だ。
ロマリアの王子の話し相手を募集していたのだが、転職したばかりのジンクも参加していた。
面接官はジンクに話しかける。
「特技はイオナズンとありますが?」
「はい、イオナズンです」
「イオナズンとは何のことですか」
面接官はイオナズンを知っている。しかし、ジンクが提出した略歴「最初はあそびにん」「あそびにんから賢者になりました」を見る限り、目の前の人物が使用できる呪文ではない。

「はい、呪文です。敵全体に大ダメージを与えます」
ジンクは、面接官が呪文の効果を知らないと判断して呪文の効果を説明する。
「・・・。で、イオナズンは王宮で勤めるにあたって、どのようなメリットがありますか」
「はい、敵が襲ってきても守れます」
ジンクは自信満々に答える。
普通の相手であれば一撃だろう。

面接官はあわてて質問を続ける。
「王宮内に敵はいません。それに王宮内での攻撃呪文の使用は禁止されています」
「でも、衛兵にも勝てますよ」
ジンクはさらりと危険なことを口にする。
「いや、勝てるとかそういう問題ではなくてですね」
面接官は論点がずれていると思いながら話を続ける。
「敵全体に100以上与えるのですよ、ちなみに、・・・」
「聞いていません。帰ってください」
面接官はジンクへの説得をあきらめ、帰るように促す。

「あれあれ。実演しなくていいのですか?なんならここで使ってもいいですよ、イオナズンを?」
ジンクは胸をはって、自信満々に詠唱準備を始めようとする。
「いいですよ。使ってください、イオナズンとやらを。つかったら帰ってください」
面接官は疲れた様子で、ジンクにおざなりの対応をする。

ジンクはイオナズンを唱えた。
何も起こらなかった。
「MPが不足していたようだ。運がよかったな」
ジンクは肩をすくめて、両手を前に出した。
「帰れ」
面接官はため息をついた。
「MPが回復したら、また来るよ」


結果として、ジンクは採用された。
面接官が、採用結果の報告を王子にしたときに、ジンクの話を忌々しげにする様子をみて、王子は一言「決めた」と言ったのだ。
「父上にかけあってくる」
「お待ち下さい、王子様」
面接官の呼びかけを無視して、王子は父親であるロマリア王に直訴し、ジンクの採用が決まったのだ。
面接官はこの日の事を「悪夢のはじまり」といって一生悔やんだという。


「な、おもしろい話だろ」
「・・・、実際に本人の目の前でこの話を聞くとは思わなかった」
俺は前の世界で、似たようなネタ話を聞いたことがあったが、この世界で実際に行う奴がいたことに驚いていた。
「なんだお前、知っていたのか?」
「事実なのか、ジンク」
「面接官の気持ちは知らないけど、だいたいそんなかんじだったよ」
当事者であるジンクは、酒を飲みながら平気な顔で答える。

「おい、ジンクよ」
「なんだい」
「つかってみせろよ、イオナズンを。今日はMP足りているよな」
酔っぱらいの男は、ジンクを挑発する。
「わかった」
ジンクは立ち上がると、呪文を唱えようとする。
酒場全体が静まりかえる。
「おい、ジンク。この場所で攻撃呪文をつかったら」
「わかっているよ、アーベル」
ジンクはかなり酒を飲んでいたにもかかわらず、キチンと姿勢をのばして詠唱を始めた。

「これは」
俺の知っているイオナズンの詠唱ではない。
しかもこの詠唱は魔法使いとして覚える呪文には含まれていない。
一番近い呪文といえば、効果不明呪文パルプンテに近いか?あと、「おおごえ」の呪文も組み込んであるようだ。
「イオナズン!」
ジンクはイオナズンの呪文を唱えた。
「イオナズン、イオナズン、イオナズン」
ジンクのこえは山彦となって、あたりに響き渡った!

「・・・そうくるか、・・・」
俺は思わずつぶやいた。
酒場全体は静まりかえったが、やがて誰かが笑い声をあげる。
「最高だ!さすがジンクだ!」
その声の持ち主に気付いて、多くのものは驚愕したが、やがてみんなが笑い出した。
「・・・おもしろかったぜ、ジンク」
さっきまでからんでいた男もあきれながら一声かけると、もとの席に戻っていた。


「すごいです」
「すごくないわよ、セレン。まったく、ばかばかしい呪文ね」
感嘆の声を上げるセレンと、それを否定するテルル。
それでも、3人の親睦は深まったようだ。
調子に乗ったジンクの話にセレンとテルルが身を乗り出して聞いている。

内容としては、先ほどのイオナズンは師匠に教えてもらったとか、師匠はイオナズンを百八式まで使えるとか、自分はまだ5種類しか使えないとか、どうでもいい話だった。


「それにしても、お前は何者だ」
「さすが、アーベル「きれもの」ですね。ただ、みてのとおりとしか、答えようがないですが」
「まあ、そうだろうな」
俺はため息をつく。
隣のベッドで寝ようとしている、ジンクに話しかけていた。

これまでは、俺たちは3人部屋で寝ていたが、さすがに今日からは2人部屋を2部屋借りて寝ることにした。
俺は問題なさそうにも思えたが、権限は女性陣たちにある。

俺や母親のソフィア以外で独自呪文を開発した事に驚愕した。
そして、ただのあそびにんでは絶対にできないことを確信していた。
だから、俺は俺のパーティに加われない理由のひとつとして、ステータスの一部非公開に解決の鍵があると考えていた。
そして、俺はジンクのすべてのステータスを知ることができないことも理解していた。 
 

 
後書き
「面○でイオナズン」ネタです。
ドラクエ世界で行うとどうなるかやってみました。

ちなみにジンクの正しい(?)二つ名は
「イオナズン(笑)のジンク」となります。 
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