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ドラゴンクエストⅢ 勇者ではないアーベルの冒険

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第3話 そして、商人へ(違う)・・・

転生してから、半年がすぎた。
俺の一日は、ほぼ決まっている。
朝食を食べたあと、お昼まで母親と一緒にすごし、主に勉強をしている。
お昼を食べてからは、夕方まで外で遊ぶ。

最初は母親と一緒だったが、行き先が決まっていたので、今では玄関で「アーベル、気をつけてね」の一言で送り出す。
アリアハンの治安はいいので、子供がひとりで出かけても問題ない。

「ようアーベル。また来たか」
「こんにちは、おじさん」
「こんにちは、アーベル」
「こんにちは、テルル」

俺を出迎えてくれたのは、キセノン商会のキセノン親子だ。
キセノン商会の創設者であるキセノンは、どこかの武器屋のように恰幅がよく、威勢のいい声で、客の相手をしている。
母親のソフィアと一緒に冒険したこともあるそうだが、ソフィアよりも先に冒険者を辞めて、アリアハンに店を構えた。
商売が上手で、頭の回転も速く、一代にしてアリアハン大陸内で、多くの流通を担うようになる。

大商人となったあとも、最初に開店した店で、必ず客の相手をしている。
後から聞いた話だが、現場の感覚を忘れると、商売は上手くいかなくなるという、信念にしたがったためだそうだ。

一人娘のテルルは、俺と同じ6歳であり、家も近所ということで、一緒に遊んでいた。
テルルは最初、俺の変化に気がついたようだが、しばらくすると、いつもどおりに遊んでいた。まあ、俺はこれまでのことは知らないのだが。

俺は、商人の勉強が必要だと考えていた。
勇者であるオルテガの息子(名前はわからない)は、俺より2歳年下だ。
将来、勇者が世界を平和にしたら、その後は商人の時代だ。
準備をするなら、早いほうがいい。

この世界の経営学の水準がどの程度であるのかわからないが、前の世界ほどシビアではないだろう。
少なくともアッサラームの商人が生活できることを考えれば。

ただ俺は、前の世界で、普通科の高校を卒業後すぐに公務員になったため、複式簿記を始めとする経理や経営の知識は詳しくない。
水道局や市立病院は、企業会計を使っていたので、これらの経営会計担当なら、経理経営の知識を習得する機会もあったかもしれないが、残念ながら異動したことはなかった。

キセノンは俺が店に顔を出すことについて、始めはあまり良い顔をしなかった。
俺が遊びに来て一人娘のテルルの相手をすること自体は、問題ではなかったが、店は子どもの遊び場ではない。

俺もそのことは理解しているので、

お客が来たらあいさつをする。
お客から聞かれないかぎり、こちらから話しかけない。
店の商品をさわらない。
テルルが騒ぐようなら、一緒に外に出て遊ぶ。

この四つを守った結果、今では、キセノンも俺が店に来ることを喜ぶようになった。


テルルも俺が来ることを喜んでいた。
母親は病気で亡くなったこと。一人娘であり、同じ年頃の遊び相手がいないこともある。
また、俺が、テルルに商品のことをいろいろ質問し、テルルの説明を嬉しそうに聞く俺の態度におおきく満足するからだ。
テルルが知らない質問をすると、俺が帰った後に、店員に一生懸命質問していたようだ。

少し前のことだが、俺とテルルとキセノンがお茶を飲んでいると、キセノンが俺に質問した。
「アーベルは将来、商人になるつもりかい?」
キセノンは、おそらく、従業員として雇う考えだろう。
俺が答えるより先に、テルルが答えた。
「わたしも商人になる!」
そういって俺の手をとって、
「アーベル、いっしょに働こうね」
俺は、あわててお茶を机のうえにおく。お茶は少しこぼれた。

テルルは、俺にかまわず話を続ける。
「わたし、アーベルのおよめさんになるの」
俺とキセノンはお茶を吹き出した。

それから数日の間、俺とキセノンの間に、きまずい雰囲気がただよった。
俺がキセノンと二人だけのときに、「将来、僕は魔法使いになる」と答えるまでは、きまずい雰囲気はおさまらなかった。



そのようなことを考えていると、
「いらっしゃい」
「また来たぜ」
顔なじみの冒険者が、子どもと一緒に顔をだす。



冒険者は、この世界では需要の多い職業のひとつだ。
輸送の警備に欠かせないからである。

この世界に来たばかりのころは、輸送手段として、キメラの翼やルーラをつかえればよいのではと考えたものだ。
しかしながら、ルーラやキメラの翼(及びリレミト)は、同時に移動できる人数が4人と制限されており、この世界のパーティ人数が4人までである理由も、このことが原因である。

また、ルーラやキメラの翼での移動先には、あらかじめ強力な結界を用意することと、移動先での登録が必要となっている。
このような、厳しい利用制限は、軍事利用の防止の観点から各国とも徹底されている。
同様に、商用利用についても厳しく制限されている。

なぜならば、大量に同じ場所に移動することで生じる混乱は、利便性を遙かに超えるからである。
このため国ごとに異なるが、極めて高い関税により、売買によるもうけが出ないようになっている。

一方、登録された冒険者が持ち込む荷物は、関税はかからないけれども、冒険者は商売許可の登録ができない。
このため、安い価格で商人に買いたたかれることから、ルーラ等による輸送での商売は出来ないようになっている。

ということで、その地域ごとに冒険者は存在し、旅行者や輸送の護衛という役割を担うことになる。

ちなみに、俺の父親の仕事はアリアハンの兵士であり、アリアハンにルーラやキメラの翼できた人々を確認する仕事をしていた。ちなみに、ソフィアがアリアハンにルーラで来た際に、対応した父親にひとめぼれしたらしい。

冒険者の多くは移動中に必要な薬草などの消耗品を購入する必要がある。
当然僧侶がいれば、購入する機会は減るのだが、僧侶の需要は非常に多く、なかなか仲間に加えることは難しいようだ。

キセノン商会では、顔なじみの冒険者に比較的安い価格で商品を販売している。その代わりに輸送時の護衛には率先して対応してもらうようにしているそうだ。
この循環は、良い循環をしており、輸送の安全性と質のよい冒険者の確保の両立を保てている。

「そろそろ、武器を新調しようと思ってね」
「かしこまりました。どうぞこちらへ」
「こんにちは、セレン」
俺は、冒険者の方にむかってあいさつをする。正確にいえば、冒険者の子どもにむかって。
「こんにちは、アーベル」
元気な声で返事を返したのは、俺と同じくらいの年齢の子どもだ。
水色に近い、長い髪の女の子で、最初は水色という髪の色に違和感を感じていたが、この世界になれるうちに、気にならなくなった。
「セレン。今日も旅の話を聞かせて」
「うん」
そういって、テルルと一緒に別室へ移動する。

俺は、率先して子どもの相手をする。
子どもは特に好きでもなかったが、話を聞くことで、外の世界の情報を手に入れることができる。ゲームとして知っている世界とはいえ、ゲームでは表現されていない内容もある。
情報をあなどってはいけない。

セレンは子どもなので、話の要領を得ないこともあるが、おもしろそうに聞く俺の表情をみると、積極的に話に乗る。
テルルも、俺と一緒に話を聞く。

「セレン。マリンスライムは食べちゃだめなのか?」
「毒はないけど、おいしくないって」
スライムだから、貝と同じようには食べられないのか。
「殻は何かに使えないのか?」
「わからない。でも、」

「装飾品の原材料になるよ。あまり高くは売れないけどね」
セレンの父親が、娘のかわりに俺の質問に答える。
「とうさん」
「待たせたな、セレン」
セレンは父親にすがりついた。
セレンは人見知りが激しいようで、あまり他の人になつかないけれども、テルルや俺は例外らしい。

店の奥から、キセノンが現れる。
「ありがとうございます」
「良い買い物だったよ。これで次の冒険は楽になる」
セレンの父親は、そういって新しい剣の感触を確かめる。

「それから、ぼうず」
男は、俺に向かって話しかける。
「いつも娘の相手をありがとな」
「どういたしまして」
「それにしても、たいしたものだ。人見知りするセレンが、ここまでなつくとは」
男はセレンの頭をなでる。
「セレン。また遊びにくるか」
「うん」
キセノンはあまり良い顔をしなかった。

俺は、まずいことになったと考える。
店は子どもの遊び場ではない。
前の世界にあるショッピングセンターなら、子どもの遊び場があっても問題ないが、さすがにこの店は、それほどおおきくはない。
俺が大人なら、ショッピングセンターの設置と子どもの遊び場の設置を提案するかもしれないが、今の状態で提案するのは無理だ。
子どもだけが集まるようなら、俺は店を追い出されてしまう。

俺は、考えながらセレンに答えた。
「いいよ。そのときは一緒に外で遊ぼう」
「うん!」
「でも、セレンのお父さんと一緒のときは、おとなしく店で待とうね」
「うん!」
セレンの嬉しそうな答えを聞いて、俺は少し困った顔をする。
そして、キセノンとセレンの父親に向かって答える。
「・・・。ごめんなさい。ぼくが決めたら、いけないよね」

それを聞いた二人の女の子は、それぞれ父親の方を向く。お願いのまなざしで。
「キセノン。かまわないだろ」
「・・・。そうですね」
父親二人は、かわいい娘の頼みを断ることはできなかった。

「よかったね。セレン。テルル」
「ありがとう。とうさん」
「おとうさん。ありがとう」
二人の娘は喜んでお礼をいい、セレンは店をでた。

俺がセレンについて店を出るときに、キセノンはつぶやいた。
「さすがソフィアの息子だ」

俺は、涙が出るくらい喜んだ。 
 

 
後書き
経済的にキメラの翼があんな安値で販売されているのであれば、現在の世界以上に流通が良くなるのではと思います。

国によって、販売されている武具の強さが違う設定を、ゲームデザイン以外の理由で考えてみました。
武器の輸出入の禁止等も考えましたが、下取り価格が一定なので輸出入が割に合わないという設定にしました(下取り品は、加工して、王宮兵士などのお得意様にだけ販売するという設定です)。

当然、公式設定ではありませんので、異論はあると思います。

次回は勇者(主人公にあらず)が登場します。 
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