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カンピオーネ!5人”の”神殺し

作者:芳奈
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第二部
  エリカ出陣

『神様にお困りではありませんか!?』

 イタリアの名門魔術結社【赤銅黒十字】の総帥であるパオロ・ブランデッリは、一枚のチラシを手に溜息を吐いた。その顔には疲れが見えており、最高の騎士としての威厳は見えない。

「叔父様、イタリアの件ですが・・・。」

 彼の前の席に座っていた女性が話しかける。流れるような美しい金髪、ただ座っているだけなのに溢れ出る才気。煌くようなその美貌は、百人が見たら百人が美しいと言うだろう。彼女こそは、【赤銅黒十字】が誇る天才、エリカ・ブランデッリである。

「南米にいるサルバトーレ卿には既に連絡してある・・・が、現場に着くのは数日かかるようだ。」

「・・・よりにもよって、サルバトーレ卿が留守にしている時にまつろわぬ神が出現するなんて。なんと運のない・・・。」

 一瞬暗い顔をするエリカだったが、直ぐに顔を引き締めて、

「こうなったら、その最終手段に頼るしかないですわね。叔父様も、そう思ったからそのチラシを取り出したのでしょう?」

 まつろわぬ神襲来。この非常事態に対応出来るサルバトーレ・ドニが不在だというのに、エリカが取り乱さないのには理由があった。

 それが、このチラシである。

『まつろわぬ神や神獣が現れた!でも、頼りになるカンピオーネはこの地域には居ない、もしくは留守にしているという状況に陥った事はありませんか?
そんなときは【伊織魔殺商会】へご連絡下さい!何時でも何処へでも、貴方のために颯爽登場(さっそうとうじょう)!私たちの結社の四人のカンピオーネが直ぐに駆けつけます!
お値段は、事件解決後に難易度によって上下します。分割払いやローン払いもOK!【伊織魔殺商会】の金融プランをご利用下さい!
神に怯えて眠れぬ夜を過ごす事はもうありません!さぁ、今すぐ最寄りの大手魔術結社か【伊織魔殺商会】支部へGO!』

 チラシの随所に、デフォルメされた可愛らしい四人のカンピオーネの姿が描かれている。

 これ以上ないくらい馬鹿げたチラシであった。魔王であるカンピオーネの派遣業など、歴史上考えた人間なんていないであろう。そもそも、魔王なのだから金銭で困ることなどそうそうありはしないのだ。彼らのように商売などしなくても、自分の傘下の魔術結社に細々とした事はやらせればいい。現に、サルバトーレ卿なども、旅の資金や食事代などは近場の魔術結社が出しているのだから。

 カンピオーネとはとびきりの変人ばかりであるが、ここまで突き抜けた存在は今までいなかったであろう。そもそも、表と裏の世界全て合わせた富豪ランキングで、既にトップを独走している癖に、まだ儲けようというのか?【伊織魔殺商会】の資金は、既に小国の二つか三つくらいは楽に買える程あるとさえ言われているのに。

(・・・世界でも買うつもりかしら?)

 一瞬浮かんだこの恐ろしい考えを、彼女は即座に頭から追い出した。カンピオーネという肩書きと、十分な資金さえあれば、あの【聖魔王】ならば裏から世界を操ることくらいは簡単に出来そうだったからである。

 彼女の権能は、歴史上類を見ないほど特殊であり、希少だ。今ですら、裏の人間にとって彼女はなくてはならない存在になってしまった。なんと、アメリカのカンピオーネである『ジョン・プルートー・スミス』や、イギリスのカンピオーネ『黒王子(ブラック・プリンス)アレク』などとも商売を通じて交流があるらしいのだ。

 しかも、この二人とは、既にこのチラシに書いてある契約をしているらしい。つまり、自分たちが別の案件に手を取られてまつろわぬ神との戦いが出来ない場合に、【伊織魔殺商会】が代わりに戦ってくれるというものだ。

 ジョン・プルートー・スミスは、アメリカ全土を守護している。邪術師という敵もいる中で、広大なその土地全てを管理仕切ることは不可能だ。黒王子アレクは、自身のライフワークである研究を行うために、常に世界中を飛び回っているため、イギリスに居ない事が多い。この二人にとって、【聖魔王】のこの事業は願ってもないことだったろう。

 更に、今はまだ裏の世界にしか流通させていないが、『ミスリル』や『オリハルコン』などといった伝説の素材を、『新素材』などと言って表の科学社会に持ち出されたら、大変な事になる。間違いなく技術限界点突破(リミット・ブレイク)が起こり、人類は新たな時代へと突入するだろう。

 オマケに、カンピオーネは長命だ。歴史上、寿命で死んだカンピオーネは存在しないため、どれくらい生きるのかは分からないが、少なくともヴォバン侯爵が現在まで三百年生きている。

 富、名声、力、そして長大な命。人類の永久の夢であるそれら全てを手に入れた彼女は、世界の真の王となるのではないか・・・。

 ・・・

 ・・・・・・

 ・・・・・・・・・


(か、考えすぎね・・・)

 単に金儲けが好きなだけかもしれないと思い直したエリカは、叔父の姿を見つめた。

「それで、一体何を悩んでいるんですか?確か【聖魔王】様たちは今、世界を思うがままに旅しているそうですが・・・もしかして、連絡が付かないのですか?」

 そんな馬鹿な・・・とは思う。

 こんな事業を始めるくらいなのだから、キチンと連絡手段を確保した上で旅行しているはずだ。特に、あの船には四人のカンピオーネの他に、プリンセス・アリスなどという超VIPまで乗っているのだから、組織と連絡が取れないなどという事態になれば、必ずコチラにも情報が来るはずである。

「・・・いや、連絡は付く・・・筈だ。恐くな。」

 エリカは、予想もしていなかった叔父の言葉に固まった。

「・・・まだ、連絡していないのですか?何故・・・?」

「・・・・・・・・・サルバトーレ卿から、連絡が入った。『鈴蘭たちには連絡しないでね?もししたら・・・斬っちゃうから☆』とな。イタリア全ての魔術結社、及び、魔術結社に属していないフリーの術者や魔女にも全てだ。」

「は・・・?」

 さしものエリカも、サルバトーレ・ドニ(変人)の思考は理解出来なかったらしい。普段の彼女からは想像も出来ない、口を可愛らしくポカンと空けた状態で固まっている。

「・・・た、確か、鈴蘭王と契約していた筈ですわよね?どうして今更、約束を反故にするような事を・・・?そもそも、何故『王の執事(アンドレア)』様がそんな横暴を許していらっしゃるの?」

「拉致、監禁されたようで、現在行方不明だ。『王の執事』とは連絡が付かない。」

「・・・何て不憫な人・・・・・・!」

 ドニの暴走を止める事が出来る唯一の人間が、行方不明。その上で、鈴蘭王との契約を無視するということは・・・

「さ、最悪の展開が見えますわね・・・。」

「ああ。恐らくサルバトーレ卿は、コレが原因で【伊織魔殺商会】との戦争になっても構わないのだろう・・・。というより、そうなることを望んでいる。」

「確か、三月の戦いでは、【魔眼王】と【聖魔王】の二人としか戦っていないですし・・・狙いは残りの二人ですか・・・。」

「案外、全員と戦うことになっても良いと考えているかもしれん。【魔眼王】とは引き分け、【聖魔王】には敗北しているのだ。それと同等の力を持つと言われる残りの二人や、配下に存在が確認された『アウター』なる者たち。サルバトーレ卿にしてみれば、【伊織魔殺商会】は最高級のご馳走の山だ。何時までもお預けされたままで我慢出来る訳がない。」

 二人揃って頭を抱え、深く溜息を吐く。今すぐ鈴蘭王たちを呼べれば、サルデーニャ島の被害は最小限で抑えられるのだ。どうやら彼女たちは、隔離世・・・つまりアストラル界に、対象を強制的に引きずり込む権能(?)を持っているらしい。

 アストラル界は、現世とは切り離された時空だ。そこでなら、いくら暴れようとも現世に影響は一切出ない。正直、サルバトーレ卿に暴れられるよりも、全て【伊織魔殺商会】に任せたいとさえ思っているのだ。報酬はかなり高いらしいが、カンピオーネとまつろわぬ神との闘争で街が破壊されるよりはよほどマシだ。避難誘導も街の復興作業も、犠牲になった親族への保障もしなくて済むのだから、後始末をする側としてはこれ程嬉しい事はない。

 ・・・が、サルバトーレ卿が彼女たちに連絡することを禁止したのなら、従わなくてはならない。魔王に逆らえば、待っているのは死のみ。自分の命だけで済むのならいいが、周りまで破壊されては堪らないのだ。

「・・・仕方がないので、現地の調査に誰か派遣しようと思う。せめて、敵の名前だけでも知っておきたい。サルバトーレ卿が到着するまでの時間稼ぎをしなければ、サルデーニャ島も、その周辺の地域も全て滅ぶ。」

「・・・・・・叔父様、それでは・・・。」

 コレが、彼女の運命の歯車が回りだした瞬間であった。
 
 

 
後書き
エリカの丁寧語って難しい。エリカと言えば、自信満々で女王様のように話している状況しか思い浮かばないんですよね。
本当は、この話で護堂さんを出すつもりでいたんですけど・・・原作と殆ど変わらないし、原作の文章を殆ど丸写しして、少しだけ改変するようなのってどうかと思って書きませんでした。
むしろ、護堂さんが倒す神をウルスラグナ以外の神にするんだったら書く意味もあるんでしょうけど・・・。
どうでしょうか?書いたほうがいいですか?それとも、次の話はいきなり護堂さんが神を倒した次の瞬間から書いた方がいいですか?はたまた、オリジナルの神を出して、その神を倒させたほうがいいでしょうか?
実は、オリジナルの神については、既にアイデアができています。・・・まぁ、かなりネタなんですけど。 
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