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魔法少女リリカルなのは・限界状況に挑む少女達(難易度大幅UP)

作者:歪んだ光
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戦う理由

赤い液体が宙を舞う。黒いマントを纏った少女の喉元にギロチンの刃が触れ、その柔肌を切り裂いて頭と胴体を切ろうとしたとき、横合いから桃色の刃がギロチンの頭と柄を切り裂きながら吹き飛ばした。
「え?」
フェイトは思わず自分の首もとに手を触れた。生暖かい血が手に付着したが、それ以外はどうという事は無かった。
「け、ケホッ……一体……何が?」
酸素が頭に行き渡らず、未だに何が起こったか理解出来ない。自分の命が、ギリギリで助かったという事実すら、実感が湧かない。ただ、
「ジュエルシード、シリアルナンバー8封印」
誰かが、私が手に入れないとならないジュエルシードを封印してしまったという事実だけが頭に響いた。
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ジュエルシードが封印されて、漸く重力が元に戻った。大きく息を吸い、頭に酸素を送り込む。その上で、改めて冷静に状況を観察した。
「これは……?」
恐らく射撃者は、ギロチンとジュエルシードを同時に狙撃したのだろう。刃の形状をした魔力弾を放ち、ギロチンを切り裂いて、それを構成していた魔力すらも取り込み、そのまま特大の砲撃魔法でジュエルシードを封印。だからこそ、宝石を覆っていた魔力障壁を突破出来たのだろう。
「フェイト!」
「アルフ……」
もう危機は切り抜けたと考えたのか、アルフが尻尾をパタパタ振ってやって来た。
「怪我は無いかい?」
心の底から心配しているといったふうに声をかけられた。
「アルフ……大丈夫。私は平気だよ」
大切なパートナーに心配をかけまいと、笑顔で虚勢を張る。――いや、張らなければならない。
表情を一変させ、さっき別の砲撃が放たれたと思われる地点を睨み付ける。
「誰?さっき撃ったのは?」
――未だ、危機を切り抜けた訳では無いのだから。
さっきフェイトが見た芸当――ギロチンとジュエルシードを撃ち抜く離れ業――余程射撃の腕が優れていないと出来ない離れ業だ。こんな事が出来るのは、管理局でもそう居ない。優秀な魔導師、それも後衛に特化した厳めしい人物しか想像出来なかった。故に、フェイトは今日2度目の驚愕を味わう事になった。
果たしてそこに居たのは
「……」
純白のバリアジャケットに青いレースが栄える、栗色の髪を持った可愛らしい少女だったからだ。
……ただし、その目は死に絶えていたが。
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“Stand by ready , set up”
夜の森に、機械的な声が響き渡る。誰も居ない暗い闇を、迸る程の光が拭い去る。
「いける?レイジングハート」
“No problem ”
光から現れたのは、未だ二桁もいかない幼い少女。身に纏うのは、青の縁が栄える白いバリアジャケット。少女の名は「高町なのは」
魔法を手にして、僅か2週間で7個のジュエルシードを封印した天才的魔導師。しかし、その表情は死んでいた。これから行う事を……してきた事を考えたら、無理もない。なのはが周囲に魔力を散布し始める。
“Master ”
「どうしたの、レイジングハート?」
しかし、そんななのはに声をかける存在がいた。
“There is a girl at the point ”
レイジングハートの言葉に従い、そちらの方に目を向けると、金髪をツインテールにした可愛らしい女の子が歩いていた。
「……予定変更。魔力散布は中止、あの子の様子を見るよ」
“OK , mode change . Snipe form ”
瞬間、レイジングハートは主の意を察し、自身の形状を変化させた。それは、さながらボーガンのような砲だった。肝心な矢と弦は魔力で編まれ、その下にレイジングハートが発射台として付けられていた。
これは、戦闘より狙撃――奇襲に特化した形体だ。なのはが人差し指を引くだけで、目標にコンマ一秒もかからず直撃するだろう。矢がつがえられているので、発射までのスピードも0に近い。難点を挙げるとすれば、連射が出来ない事と再装填に時間がかかる事くらいだ。敵を1人仕留めるなら、これ以上は無い。
今、なのはの瞳には一人の少女が写っている。水着の様な黒い服に、美しい肢体を覆い隠す黒いマント。――間違っても、夜のハイキングどころか現代の日本で公然と着て良い服装ではない。つまり、
「あれは、魔導師かな?」
少し期待するようになのはが声をあげる。
“Yes…… ”
レイジングハートもそれを肯定するように返すが

“ but she isn't a office worker ”
「そう……管理局は未だ来ないんだ……」
期待が外れたように、声のトーンが下がる。しかし、直後になのはに緊張が走る。金髪の女の子がジュエルシードに駆け寄ったからだ。
「駄目だよ……アレはフェイク」
誰に言うでも無く、ボソッと呟いた。
「あれを封印するには、回りの媒体と成るものを消さないと……」
なのはは聞き手の無い独白を1人続ける。しかし今、重力で押し潰されそうになっている少女を助けるために動く事は無かった。ただ冷静に、状況を観察し続ける。
なのはは知っていた。あのジュエルシードの他にもう一つ、未確認のジュエルシードが在ることを。そのジュエルシードがこの森の狩人を難攻不落にしている事を。知っていて、目の前で、樹の根に束縛されている少女を助ける気は無かった。少なくとも、今はまだ。
“Master……”
「まだだよ、レイジングハート。まだ……」
レイジングハートの照準を、地面に縫い付けられている少女の喉元付近に合わせる。
「チャンスは一回。上手くいけば……」
ギロチンの刃が少女の喉に迫り、その肌を切り裂いた瞬間
「……今!」
引き金を引いた。
“Spiral ”
文字通り、螺旋の様にネジくれた刃の魔力がギロチンを切り裂き、その魔力をも糧としジュエルシードを覆う障壁を貫き本体を穿った。
「ジュエルシード、シリアルナンバー8封印」
淡々と告げた。そこに達成感からの喜びは感じられない。ただ
「ありがとう、レイジングハート。……もうひと頑張り出来る?」
自身のデバイスに話かける時だけ、優しく笑いかけた。
“No problem ”
心外だと、少し非難するように声をあげるレイジングハート。
「ごめんごめん……それじゃあ、行こうか」


side フェイト
「あ、あなたは……?」
私の目の前いるのは、私と同じくらいの女の子。栗色の髪を持つ可愛らしい女の子。だからこそ、光を失ったその瞳が怖い。
「あんたは……」
「アルフ、知っているの?」
「ああ。ここに来る前、話しただろ。あの子だよ」
ああ、私と同じくらいの魔力を持っていると言っていた子か。確かに、凄まじい魔力を感じる。
「……」
しかし、さっきから女の子は一言も喋らない。じっと、私達を――いや、私を見つめている。
――息が、詰まりそうだ――
ただならない雰囲気を悟ったのか、お喋りなアルフが何も言わない。
(き、気まずい……)
こういうとき、何を言うべきなのだろうか?
「助けてくれてありがとう」「貴女は誰?」「そのジュエルシードを寄越せ!」……多分一番最後のは検討する間でも無いだろう。けど、私は
「あなたは、誰?」
「ひゃい!?」
考え事をしている途中で、いきなり白い服の女の子が話しかけてきた。
(びっくりした……)
はからずも、変な声が出てしまった。
「ねえ」
「あっ。ご、ごめんなさい。何の話だっけ」
「名前」
「へ?」
「名前を教えて」
女の子は表情を変えずに淡々と喋る。それ故か、何だか逆らい難い雰囲気を醸し出していた。一応助けられた身だし、そのくらいは答えた方が良いだろう。
「ふ、フェイト。フェイト・テスタロッサ。こっちは使い魔のアルフ」
「……」
依然、アルフは押し黙ったままだ。
“Hello ? ”
「そ、そうだったね。こっちはバルディッシュ」
自分が省かれそうになって、バルディッシュが機械音を鳴らした。
それに満足したのか、白い服の女の子は自分達の事も喋ってくれた。
「そう……私の名前は高町なのは。こっちはレイジングハート」
“Nice to meet you ”
高町なのはか……聞いたことの無い名前だ。やはり、管理局の人間ではないだろう。ならば、未だ交渉する余地はあるだろう。
「……そのジュエルシードを渡して貰えないかな」
改めてバルディッシュを構えて、その子に言ってみる。さっきの砲撃を見る限り、この子は明らかに後衛向きだ。近距離戦なら私の方が強い。力ずくでも奪えるだろう。素直にジュエルシードを渡せば良し、さもなくば戦う事も……
最も、相手が素直に渡すとは思えないけど。案の定、目の前子は目を伏せ答えた。
「いいよ」
「そう、残念だ……へ?今、何て?」
「だから、このジュエルシードはあげるよ。欲しいんでしょ」
「え、あ……うん」
何だか、凄く意外だ。こんなにあっさりジュエルシードを渡す何て。隣でアルフがあんぐり口を開けている。
「ただ、条件付きだけどね」
その言葉に緊張を取り戻す。流石に、ただで渡す何て旨い話があるわけがない。
「条件次第では……」
といっても、何も聞かずに切り捨てるには惜しい話だ。聴くだけ聞いてみよう。
「この海鳴市に散らばった残り13個のジュエルシードの回収、それを手伝って欲しいんだ。最終的にフェイトちゃんにジュエルシードを11個渡すから」
それは……正直、渡りに船だ。この子と共闘した方が効率が良いのは確かだし、何よりここの地理にはからっきしだ。色々、私達に有利な条件だ。しかし、分からない。話からすると、この子は既にジュエルシードを7個持っている。私と共闘する間でもなく、1人で問題無いだろう。
その事を訊いてみると、彼女は無表情に答えてくれなかった。
「明日の朝刊を見て。多分解るから」
それだけ告げると、彼女――なのははジュエルシードを残し、空に消えていった。
――――――――結局その日は、傷の手当てを兼ねてマンションに戻った。
「ねえ、アルフ。あの、なのはっていう子、何が目的何だろ?」
「う~ん。悪い子じゃ無いと思うんだけどね」
耳をヒクヒク動かしながら、手掴みでドッグフードを頬張る。一見豪快なようで、一切食い溢しを出してないのが不思議だ。
「とりあえず、明日の朝刊を見れば何か解るんじゃないのかい?」
朝刊か……生憎だが、ここは新聞を取っていない。明日、コンビニで見てみる事にする。
「そんな事より、少しは食事をとっておくれよ。最近、まともに食べて無いじゃないか」
「ごめんアルフ。でも大丈夫だから。私は大丈夫だから……」
嘘だ。本当はお腹が空いて堪らない。でも、いっこうに食欲が湧かない。どうしても拭いされないのだ。喉に迫った刃の冷たさが……

翌朝、眠れない夜を過ごした私は近くのコンビニに立ち寄った。あの子が言っていた事が気になったからだ。読めば、あの子の真意が解るかもしれないという期待を込めて。
新聞は、コンビニに入って直ぐの所に積み上げられていた。幾つもある新聞の中から無造作に一部掴み取る。
「えっと、まずは……」
活字印刷の媒体を読むのは久しぶりなので、とりあえず大見出しを見る。
「…………え?」
一瞬、そこに書いてある事が理解できなかった。改めて読む。漸く、書いてある内容が理解できた。そして、解ってしまった。あの子があれほどまでに、焦ってジュエルシードを回収していた理由が。
思わず取り落としてしまった新聞が、上向きに横たわる。そこにはこう書いてあった。
『海鳴不審死事件189件目.死者201名にのぼる』 
 

 
後書き
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