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セビーリアの理髪師

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14部分:第一幕その十四


第一幕その十四

「見つけたぞ、よく見ろ」
「何だ、こんなもの」
 伯爵はその免除証をすぐに取り上げた。
「こうしてやればいいんだ」
「むっ、何をするっ」
 何と破り捨ててしまったのだ。これで奇麗さっぱり終わってしまった。
「この通り。では僕はここに」
「おい、まだ言うのか」
 バルトロもいい加減本気で頭にきていた。元々結構そうであったが。
「では容赦しないで」
「ほう、面白い」
 伯爵は彼が怒ったのを見て柄に手をかけてみせた。
「僕は兵隊なんだがね。それでもいいかな」
「五月蝿いっ、貴族として勝負を挑むのだ」
「何も持たないのに?」
「それでもだ」
 バルトロは怒ったままであった。
「味方もいないのに」
「それは貴殿も同じこと」
 バルトロは伯爵を見据えて言い返した。
「違うかな、それは」
「それが違うんだよ」
 伯爵は余裕の笑みでバルトロに言った。
「僕の味方はね」
「味方!?そんなものは何処に」
「ほら」
 ここでロジーナに顔を向けるのだった。
「そこに」
「まあ」
「またしても戯言をっ」
 バルトロはさらに怒り狂うのだった。
「許さん、許さんぞっ」
「だから。そんなことを言ってもね」
 ここで何かを投げた。
「むっ!?」
「これは!?」
 それはバルトロに投げたと見せ掛けてロジーナに投げていた。何と手紙であった。
「あらっ、これは」
「さて、これは失敬」
 伯爵はおどけて誤魔化す。
「失敗しました」
「いえいえ」
「一体何を投げたのだ?」
「何にも」
 バルトロにはふざけた返答だった。ロジーナはその間に手紙を服の中に隠してすばやく洗濯屋のリストに交換するのだった。その間の動きが実に素早かった。
「ありませんが。では続きを」
「待てと言ってるだろうが」
 バルトロは激昂したままであった。
「さもないとだな」
「さもないと?」
「承知しないぞ」
 今度はロジーナにも顔を向けた。
「いい加減に何を出したのかをな」
「あら、仰いますこと」
 伯爵と完全に共犯関係のロジーナはしれっとして言葉を返す。
「おじ様、もっと落ち着かれて」
「わしは落ち着いているっ」
 これは本人だけがそう思っていることであった。バルトロにとって残念ながら。
「だからじゃ。さっきの手紙をだな」
「これですか?」
 出してきたのはさっきの洗濯屋のリストであった。バルトロはそれを見て目を剥く。
「何っ!?」
「これが何か」
「あっ、いや」
 これには完全に戸惑ってしまった。
「何でもない」
「おやおや、どうされたのですか?」
 その横から伯爵が彼を囃し立てる。
「そんなものが必要なのですか?」
「いや、何でもない」
 そう言うしかなかった。
「こんなものには」
「あれっ!?」
 ここで家の中にバジリオがやって来た。すぐに家の中の只ならぬ様子に気付く。
「どうされたのですかな」
「いつもこうなのよ」
 ロジーナはわざと泣いてみせた。勿論嘘泣きである。
「私に圧政を敷いて。この圧政者」
「人聞きの悪いことを言うなっ」
 圧政者と言われてはインテリゲンチャであるバルトロとしては黙ってはいられなかった。
「わしの何処が圧政者なのだ」
「だってそうじゃない」
 ムキになって言い返すロジーナであった。
「本当に。圧政者で」
「まだ言うのか」
「圧政者は許せないな」
 伯爵も参戦してきた。にこにこと笑いながら。
 
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