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ソードアート・オンラインーツインズー

作者:相宮心
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SAO編-白百合の刃-
  SAO32-白百合の決意、雪音の勇気

 貴女の人生は幸福ですかと聞かれれば、私は首を振って違いますと言う。何故かと聞かれれば、私は答える。
 私だけが家族と居場所から引き裂かれたからであるからだと。そうなった時点で、どんな楽しいことがあろうと、小さい幸せを感じろうと、今まで生きてきて幸福だと一度も思わない。
 私はそういう人間。気がついた時から、私は誰にも理解できない恐怖の塊でできた人間だ。
私はとある家族の双子の妹として生まれてきたそうだ。本来なら、その家族として双子の姉と一緒に成長していくはずだった。だけど運悪く、とある事故によって私は家族や双子の姉と生き別れてしまった。年が経ってから調べてみれば、私のことは幼い頃に死んだという扱いとされていた。
 それは仕方がないことだった。最近まで自分に生き別れた家族いるってことを知った。気がついた時には私の家族はもういないんだと思っていたから、私はそういう人間だと割り切るしかなかった。
でも悲しかった。運悪く、自分だけが家族と居場所から引き裂かれてしまった取り残された人間だということに納得し切れなかった。そして、私は今も生きているのに、母と父、そして双子の姉は私がいなくなっていることだろうと悟ってしまった。
 あんまりだ。どうして私だけが家族と居場所から引き裂かれてしまったのだろうか。 運が悪かっただけで、私はずっと独りぼっちだった。ずっと誰にも理解されない恐怖に囚われていた。そして、ずっと誰の助けを求めようとしなかった。

 助けを求めることが、恐怖だと思ってしまったから……。

 私が世間では死んでいること、実は家族と引き裂かれたことを知らない私は、気がついた時には施設で私と同じ境遇の人達と一緒に暮らしていた。
 幼少期から私は人との接し方、友達の作り方、輪に溶け込む入り方、みんなと手を繋ぐ繋ぎ方がわからなかった。故に私は、不器用で、弱虫で、泣き虫などうしようもないような存在になってしまった。
 そのせいか、独りでいる時間の方が圧倒的に多かった。幼稚園で楽しかった思い出は忘れてしまった。
 楽しかった印象がないからか、それすら忘れていたのか、そもそもの楽しいと思ったことはなかったのかわからなかった。
 気がついたら、私は小学校を通っていた。そして小学校から、周りの人達はどうしようもない私のことをあんまり良い目で見るようなことはなかった。
 嫌いな食べ物が出された時の苦い顔、そのような目で私を見ていた気がする。でも、そう思われるのも仕方がなかった。私はそういう人だった。
 勉学は身につけられず、運動は誰にもついていけず、暗くて、地味で、弱虫で、泣き虫で、臆病者のどうしようもないのが私。だから、そんな私を見て、苛立ちを湧かせてしまったのだろう。そしていつからか、私をいじめる人が現れた。それと同時に私と関わらないように避ける人も現れた。
 痛かった。とても痛い思いをした。これだけはどんなに忘れたくてもハッキリと覚えている。避けられる原因は私であることはわかっているのに、疑問に思ってしまい、苦しかった。体に蹴られることも殴られる原因は私にあることをわかっていたのに、痛くて痛くて、泣きそうになった。なによりも私をいじめてくる人と避ける人が恐かった。本気で殺されてしまうのではないかと怯えてしまい、恐怖に呑み込まれてしまった。
 それでも、痛くても苦しくても、私は誰かに助けを呼ぶことはしなかった。誰かにすがりつかずに、私は自分だけで解決しようとした。痛かったら痛みが治まるまで耐える。苦しかったら落ち着くまで耐える。それでも涙が出るのであれば、独りで泣いたほうがいい。
 だって私は“そういう”人間だから、誰かに助けを求める方法が恐怖だと思っていたどうしようもない存在。独りでなんとか耐えようとしていた、愚かなでバカな存在。
 そんな駄目でバカな私を見過ごさない人もいた。けど、その人の接し方もわからない私は不器用にその手を振り払ってしまった。「助けて」の一言を言えば、救われたはずなのに私はそれを拒んだ。
 でもね、それはしょうがないと思ってしまうのね。自分になんの価値もないから、誰かの助けを拒んでしまう。私なんかよりも、もっと価値のある人に助けを求めてほしい……なんて思えれば、何かが変わったのかしらね。
 いや、無理な話ね。いつのまにか独り取り残された感覚で生きてきた私は、なによりも人との接し方も恐くて仕方がなかった。誰にも理解されない私の恐怖が、誰かにわかるはずもなく、私もそのことを話すことはなく、私という存在自体はどこにいても独りだった。
 私が悪いことはわかっていた。いや、そんなこともわからなかったかもしれない。そんなバカでどうしようもない私は、改善する方法を取らず、誰かに愛されたいと、戯言のような願望を何度も抱いていた。
 本当にバカで愚かで救いようがないわね。でも、そんなことすらわからなかったのよ。仕方ないじゃない。
前に踏み出して「助けて」の一言さえもわからない私が、まともなことができないはずがないのよ。
 どこにても私は独り、ずっと独りぼっちで恐怖に耐え抜いたまま時が流れていく。いっその事、消えて無くなりたいと何度も思いながら、それに実行できずにいたまま自分にとっての転機が訪れた。
 ある日の深夜、私は前触れなしに施設から逃げ出した。
 前から決めていたことではなかった。その日の夜、ただ遠くに行きたくて、誰かに見られない自分だけの居場所を探すように、そして先の見えない迷路の中で真っ暗な出口を探すように施設から逃げ出した。
 自分には何もない。
 自分は孤独。
 それ以外が恐怖。
 自分が存在する意味がない。
 消えたい。
 楽になりたい。
 だけど消えたくない。
 誰かに助けてほしいけど、誰かに助けることが恐怖だと感じる矛盾。
 そんなぐちゃぐちゃに混ざり合った、恐怖がより一層濃いものを感じ取ってしまった私は目的もない道を無我夢中に走る。自分の体力が切れてたどり着いた場所はどこにでもあるような公園。だけど私の知らない公園。暗闇に一つの街灯が物寂しそうに照らされている公園。
 その時の私は公園も私と同様に独りぼっちなんだと、一つの街灯が命のようのに、ぽつりとただあるだけだと、勝手に同類認識をしていた。バカでもわかる話だ。公園と人は違う。同類を求めていたのは寂しい想いを埋めたかった共感。
 そんなこともわからず、私は街灯の側にあるベンチで休憩するのではなく、灯りから一番離れているベンチで休憩をした。理由をあげるのなら、そっちの方が落ち着くのとしか言えない。一応帰る場所から逃げたところで誰にも理解されない私が変われるはずがなかった。ずっと誰にも理解されず、独りぼっちなんだろうと……思っていた。
 一人の女性が、灯りから一番離れている暗いベンチにいる私を見つけてくれるまでは。

『悩んだら相談。かっこ悪いと思っても気分がスッキリするよ』

 私を見つけてくれた人は『高道結弦(たかみちゆづる)』と言い、落ち着いていて優しく完璧そうに見えて、たまに子供っぽくお茶目で変わった女の人だった。初対面で、しかも他人に対して第一声が相談しろとか言ってくるのだから、最初は幻聴だと思ってしまった。
 当然、私は彼女に敵意を表し警戒をした。初対面で相談しろと言う変わった人に抱えていた恐怖を相談できるはずがなかった。
 
『何を企んでいるんですか? 私のことなど構わずに放っておいてください』

 そもそも私は誰に対しても自分が抱えている恐怖を誰かに打ち明けることなどできなかった。それをすること自体が恐怖であり、特に結弦さんは何を考えている人かわからない変わった人だから、尚更打ち明けるのが恐かった。
 だけど、結弦さんは私の警戒も敵意も私の都合も無視して、私に近づき「そんなに恐がらなくてもいいよ」と、優しく語りかけてくれた。
 本当に恐かったの。人と人が触れる温かいものが私にとっては恐怖だった。誰かに触られるのが恐くて仕方なかった。だから結弦さんみたいに私のことを思って温もりを与えようと触れてくる人を拒み続けた。
 でも、結弦さんが触れようとしてくる温もりを拒むことはできなかった。
 いや、そうじゃなかった。既に結弦さんは私の抱えている恐怖を見抜いていた気がする。証拠というものはないけど、結弦さんは今までの人とは違っていた。
 だから、私は結弦さんは予想外の人に分類されているから、拒むことを怯んでしまったのかもしれない。
 そして私は特に警戒と敵意していた結弦さんに、誰も話したこともなかった、抱えている恐怖を打ち明けてしまった。
 
『私には施設と呼ばれる場所を居場所だと思えないんです。何故だかわかりませんが、施設の人達を家族として認識することに違和感があって、共に生活している皆でさえ馴染めることができませんでした。誰にも触れてほしくないから、触れてこないように拒み続けたんです。そんな風に生きてきたから私は独り取り残され、どこにいても独りでいることが多くなってしまいました。友達の作り方がわからないし、人との触れ合いがわからない。私は駄目だから、何やっても駄目な人だから、相手になにかすることなんて、できやしないんです。だって、私には何もない。何もないのに、相手のためになにができますか? 何もできない、ただの迷惑をかけるだけ駄目な存在なんです。そしてみんなを気分悪くさせ、みんなを怒らせる駄目な奴って言われているのも当然でした。学校に行っても独り、帰る場所も独り、施設にいても皆の迷惑にかける、自分には何もない。弱虫で、泣き虫で、臆病で、運動も勉強も駄目、暗くて地味で何もできない、わけもわからない恐怖に恐れているような存在。そんな自分が嫌いで嫌いで消えてなくなりたい。でも、消えたくない。誰かに助けてほしいさえ思ってしまう。そんなことできないこともわかっているくせに、これからのこともよくわからないのに施設から逃げ出すような私が幸せを夢見てしまう。それが私なんです……誰にも理解されない、生きていること全てが恐怖なんです。いっその事、全部が全部楽になれたら……どんなに幸せなんでしょうか。私は……なんで生きているのですか……』

 こんなこと誰かに話したところで誰にも理解されない。だって、普通は恐い人が恐いのに対して、私は誰であろうと恐いと思ってしまうような存在。こんなこと言ったところで困らせるだけなのに……やっぱり、言わなければよかったと思った。拒むのではなく、逃げるべきだったと後悔した。
 
『そっか……』

 当時、どんな顔をしているのかが恐くて目を逸らしていた。そしてそのまま逃げようとも考えた。
 でもそれは、結弦さんが私の頭に手を当て、撫でてくれるまでだった。

『無理にいろいろと頑張ったちゃったのね……』

 不意に人の温もりに触れた私は、自分の意志なんて関係なく、誰にも見せなかった涙を流してしまった。

『だから、もう頑張んなくていいんだよ』

 そしてその言葉がとどめだった。その言葉のせいで私は感情に身をまかせるしか自分を保てなかった。

『恐いよ……恐いよぉ……っ』
 
 恐かった。
 とても……恐かった。
 人が恐かった。
 私をいじめてくる人が恐かった。
 私を見る目が恐かった。
 私を触れようとする手が恐かった。
 私を助けようとする人が恐かった。
 なんで私には母や父のような家族がいないことが恐かった。
 周りのなにもかもが私にとって恐ろしいものだった。幼い頃からずっと見えてしまった世界観は恐怖そのもの。私にしか見えない世界はとても恐ろしくて、恐くて恐くて誰にも打ち明けることなどできなかった。それすら恐怖だと感じてしまった私は、ずっと今までなにもかも恐れ続けて生きていた。
 でもそんなの、私がバカなだけなのよ。難しいことで一生無理だと思い込んでいた私が愚かだった。ただ簡単なことを伝えれば世界観が変わるだけのことを、私は今まで伝えようとしなかった。

『助けて……』
 
 無駄なのかもしれない。届かないかもしれない。そして、その言葉は簡単なことだけど、私にとってはとてもとても難しい言葉。きっとこれからも、私はその簡単な言葉を言うことは難しい。それでも、そのことを伝えるだけで世界は一新できることは理解した。
 なにもかもが恐れてしまっている私にさえ、誰かに助けてほしいと願望を抱いている。
 孤独も恐い。
 独りぼっちは恐い。
 ずっと独りぼっちはもっと恐い。
 結弦さんに抱えていたものを全て吐き出すように告げ、今まで溜めた雫を全て流し出すように人に泣き出した。子供のように、ただ涙を流すことしかしなかった。
 そんな私を結弦さんはもう一度、温かい手で頭を撫で、優しい声で言ってくれた。

『行くところがないなら、わたしのところへ来ない? その居場所は貴女が無理に頑張る必要はないところだからね』

 その時の声。
 その時の手。
 その時の温もり。
 その時の優しさ。
 その時の出会いを。
 私は覚えている。
 結弦さんの一言がなければ、ずっと恐怖の世界から取り残されたままでいただろう。結弦さんに救われても、世界は変わらない。結弦さんも怖いし、見るもの全てが恐怖だと思ってしまう。それでも、少しだけ楽になれた樹がした。結弦さんの言葉で私は救われた。私に声をかけ、私の頭を撫でてくれて、頑張らなくて良いという言葉が、とても嬉しくて心に沁みた。
 私は初めて人に甘えるように結弦さんにしがみつく。そして涙が自分の叫び声で枯れるまで泣き付いた。
 そんな私を結弦さんは優しく包み込むように抱きしめ、付き添ってくれた。
 その後、私はお言葉に甘えることを承諾。改めて施設から出て結弦さんと暮らすことになった。ただ、結弦さんは仕事が忙しかったから、結局一人でいる時間が多いことには変わりなかった。それでも、施設にいた時よりも心地良くて、一人でも恐くなかった。そして施設にいた時と違って、結弦さんは少ない時間の中で私と積極的に声をかけ、他愛のない話を始め、私の手を触れ合ったことがすごく嬉しかったし、安心した。
 結弦さんのおかげで私は今ここにいる。私は結弦さんに助けられ、救われた。そのことに感謝している私は結弦さんに恩返しをしたい気持ちが湧き上がった。誰かのためになにかをするように、私の対象は結弦さんに向けるように頑張って目指すことにした。
 良い学校に入って、良い大学にも入って、良いところへ就職して、安定の未来を手に入れる。そして結弦さんに恩返しすることが私の夢。今の自分では無理だけど、時間をかけて必ず恩返しをする……はずだった。
 思い通りにいかないことがあることを知っていたはずなのに、私の目標への道しるべは、唐突に狂い始めることになった。
 ……それは…………ある日のこと。
 結弦さんが私にお願いことをされた。

『じゃーん』
『……結弦さん、急になんなのですか?』
『もうっちょっとオーバーリアクション取れないの? このナーヴギアというVRMMORPGのコントローラーを見せた感想が淡々としていいわけ?』
『そう言われても……ヘルメット見せられてどういう反応をすれば……』
『まぁいいわ。じゃあ、協力して』
『はい?』
『実は今度、ソードアート・オンラインというゲームが発売されるんだけど……雪音自身でそのゲームにバグがないかを確かめてほしいの。大丈夫、フルダイブなんてすぐに慣れるから』
『それ、私じゃないといけないのですか?』
『本当は誰でもいいけど、わたしは雪音がいいの』
『は、はぁ……』
 
 突然、結弦さんは私にSAOの試作の協力を頼んできた。ゲームに関してはあまり触れていなかったので断ろうとしたけど、私には結弦さんの恩があるのと、何よりも結弦さんが私を頼んでいることから、私はその協力を引き受けることにした。
 テストというから、どんなことをするのかといろいろ想定と想像を詰め込んで挑んでみたけど、試作用のSAOを単独でプレイして一・二時間ぐらい好きなようにゲームをするだけで終わってしまった。
 本当にこれでいいのかと問いかけると、「それでいい」と簡潔に答えた。
 どうやら、第三者から仮想空間のバグとか不自然なところがないかの確認だったらしい。そんな数時間で確認できたのかを訊ねられると、質問を返さずに『楽しかった?』と訊ねてきた。
 私は『新鮮でした』と答えると、結弦さんは嬉しそうに笑っていた。
 結弦さんに喜んでくれるだけで、私も喜ぶという感情が溢れた気がした。
 次に、結弦さんからSAOの二か月限定のベーターデストをプレイすることを勧められた。これも身近な第三者が体験した感想を聞きたかったそうだ。私は結弦さんの役に立ちたい想いで、触れることがなかったオンラインゲームの知識を得て、ベータテストの参加者として私は剣を振った。
 ベータテスト中はタカネという男性プレイヤーで操作して、“キリト”というプレイヤーと時々組んだりして、短期間で十層まで行けることができた。そのキリトとは、後にいろいろと関わることになるが、当時は彼と組んでも会話なんてほとんどないに等しいし、最低限の会話しかしない、目的だけの仲間の関係。そしてそれは一般的にいう仲間とは程遠い関係だった。
 割と楽しめたベータテストを終えてから何ヶ月後に、SAOを結弦さんがプレゼントしてくれた。

『結弦さん……これって……』
『今めちゃくちゃプレミアム物だけど、雪音には手伝ってくれたお礼』
『でも、私は……』
『あ、それ売ると多分、高価になるかもしれないわね。わたしのプレゼントだから好きに使っていいわよ』
『……前から思っていましたけど、結弦さんは……』
『うん。思っている通りだよ』

 私のことを見透かすように答える。
 最初にSAOの手伝いをしてくれと頼んできた時から薄々感づいていた。
 結弦さんは、萱場晶彦に加わったSAOの開発に関わっていた一人であった。
 ゲームの開発に関わっていた人なら、私に試作をやらせることも、私をベータテストに当選させることも、入手困難のSAOを手に入れることなんて容易いことなんだろう。そして開発に関わっていた結弦さんの身近な存在とSAOとは全くの無関係だった私を協力させたことで、より良い完成度を磨かせたんだろう。
 感づいていたことが本物になったとしても、私はSAOを捨てることができなかった。
 だって、結弦さんが開発に協力して作ったものを私は簡単に捨てることなんてできなかった。
 今に思えば、捨てる選択といのが正解だったなのかもしれない。当時の私には捨てるということが間違いだった。
 その結果、ゲームを始めたら結弦さんが関わったSAOが萱場晶彦によってデスゲームへと変貌。条件を満たすまでゲームの世界へ永久に脱出することなど不可能。そして現実世界と同様に死は平等、コンテニューなど存在しない。
 
 そんな世界で私はまた独りになってしまった。

 私を救ってくれた結弦さん、結弦さんに与えてもらった居場所へ帰ることができなくなってしまった。

 単なる娯楽でしかなかったゲームから、茅場晶彦の言葉で現実に似て異なる世界へ変貌してしまった事実を突きつけられた私は、狂うほど気が動転しそうになった。
 その時から、私は昔のような弱くて全てが恐いと思い込んでいた自分に戻りたくない一心で、必死に平然を保とうとした。ただでさえ、現実世界と似て異なったゲームの世界ではいつかタイムリミットが迫っていることを悟ってしまったことと、誰かと協力しなければ現実世界へ帰れないことゲームであることを理解してしまった。
 恐くても恐くても誰かがやらなければ現実世界へ帰られない。それは私も誰かに入っている。昔のように部屋の隅っこで時間が経過して行けばいつかは時が解決してくれるのかもしれない。そうしたかった。この世界で死んでしまえば、私は現実世界も死んでしまう。そんな恐怖が耐え切ることなんてできなかった。
 それでも、歯を食いしばっても我慢しながら、剣を抜き、振るわなければ、結弦さんが与えてくれた居場所へ帰れることなんてできない。それと、私を救ってくれた結弦さんに恩返しをしていないまま死にたくはなかった。
 どんなに辛くても恐くても、泣きだしそうになっても私はなんとか前に進んで行った。茅場晶彦が現実世界へ帰る方法である、百層のボスを倒すこと以外の隠しボスを探しつつ少しずつ現実世界へ戻るようにと、さまざまな困難に打ち勝ってきた。

 それで手に入られるものは、けして隅っこで独りになって時が解決する選択が間違いだったと、今の私ならそう言えるだろう。

 だって、恐くて独りで辛いと泣き出してしまったものの、それ以上に希望に溢れる大切な温かさに私は触れたのだから。
 


「そっか……結弦さんのために、戦うことを選んだんだ」

 私は自分の一部のことを聞いたキリカは悲しそうな顔をしていた。
 なんでキリカがそんな顔をしているのかを考えてみると…………私の辛かった過去を聞いてしまったからなんだろう。とてもじゃないが、私の過去は人に話すようなものではない。話したらキリカみたいに悲しい顔になることは、分かり切っているからだ。
 それでも私はキリカに知ってほしかった。

「じゃあ、ドウセツは結弦さんのためにゲームクリア目指して頑張ろうね」

 キリカなら笑顔で前に進んでくれると、思っていたから。

「……ねぇ、キリカ」
「ん?」
「私を必要としてくれるのは……とても嬉しい」
「うん」
「貴女の手に触れて、私は救われた」

 私は弱虫で臆病でどうしようもない存在だから、キリカみたいに引っ張ってくれる人がいてくれるだけでいろいろと救われた気がした。キリカと出会わなければ……何かが変わっていたことは明確だ。

「それは……お互いさま、かな。私もドウセツに会わなければ、後悔の念にいつまでも憑かれて……ドウセツに助けられなかったら、今頃取り返しのつかない後悔を抱えたまま、死んでいたと思うんだ」

 あの時のキリカ、『白の死神』とも呼ばれている彼女は…………結弦さんに助けられる前の私と似て異なっていた。
 恐怖に怯え、自分という存在が許されず、助けての一言がいえずに、誰かを救おうと自暴自棄になりながらも前に行動していた。例えそれが自分自身の崩壊へと招き、時が経過しても解決できないとしても、誰かを助けたい気持ちは本物だった。あの時の私と違って、誰かのために前に進んでいた。
 それが羨ましくて、でも過去の自分を見ているようでイラついてしまい、それでも助けたいと思った私は『白の死神』を助けた。

「そういうことなら、私とキリカは二人で一緒にいるべきだと私は思う。だから、本当は貴女と一緒に前線へ戻るべきなんだけど……」
「いいよ」
「え……」
「まだ、戻るのは恐いんでしょ? だったら恐くなくなるまで私が一緒にいるよ」

 ……敵わない。

「独りより二人以上が側にいた方が、良いのは私も知っているから、さ。無理に前に進もうとしなくてもいいんだよ」

 とてもじゃないが、適わない。
 貴女の優しさには、どんなに強く偽装しても、いくら手を振り払おうと、否定しようとしても…………敵わない。
 それと同時に、私が一番欲しがっているもの。
 
「キリカ……ごめんなさい」
「そうやって、泣く時は我慢しなくて泣いてもいいんだから」

 ごめんなさい。
 まだ、貴女に言えないことがある。でも、それは……私がその人に最初に言わなければいけないことだから、まだ貴女には言えない。

 それでも、そんな自分を優しくしてくれて。

「ありがとう」
「……うん」

 返事をすると、キリカは優しく頭を撫でてくれた。少々恥ずかしいけど、受け入れたいものだから拒む必要はない。
 怖くなっても大丈夫。支えてくれる人がいるから。
 
 結弦さん。
 貴女のプレゼントは、萱場晶彦によって最悪なものにしてしまったけど、おかげで大切な人と出会うことができました。
 ありがとうございます、結弦さん。
 必ず、恩返しをするために無事に帰ってきますから。
 だからそれまで、待っていてください。 
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