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100年後の管理局

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第七話 夜天、遺失物

 
前書き
ひさめさんの回。少し長めです 

 
「護送任務?」
「ああ。新しく発見されたロストロギアの護送を八神に頼みたいんだ。」
ひさめは自身の所属する部隊、本局026部隊の部屋で上司に任務を言い渡されていた。
ただ、本来自分に回ってくるはずのない任務内容にひさめは上司に問い返す。
「そう言った仕事は、遺失物管理課の仕事やないんですか?なんでわたしに?」
「今、遺失物管理課の連中が他のロストロギアの解析に向かっているらしくてな、しかも見つかったロストロギアもわりと厄介な代物らしくて、どんな組織が狙いに来るかわかったもんじゃないらしい。で、そういった事情からなるべく強力な魔導師に護送をお願いしたいらしくてな。うちにお鉢が回ってきたってわけだ。」
「はー………。なんや面倒な任務やなぁ。」
ひさめは思わずと言ったようにため息と愚痴がこぼれ出す。
そこまで大きな声ではなかったが、目の前た上司にはさすがに聞こえていた。
「仕事を面倒とか言うな。………ま、何にせよお前に回ってきた仕事だ。しっかりやってくれよ。」
「分かってますー。」
ひさめは上司に軽く返事をして部隊部屋を後にした。


第138管理世界、名称グラール。
グラールは管理局に初めて発見された段階から、知的生命体の住まう世界ではなかった。
一切の知的生命体が存在せず、また世界は荒廃しきっており、砂漠の多い世界になっていた。
しかし、グラールには誰が残したのかもわからない多くの遺跡があり、考古学の研究者にとっては興味深い研究対象となる世界として認識されていた。
ひさめはそんな世界の空を音速に達しようかと言う速度で飛行していた。
「本当にグラールはロストロギアがよく見つかる世界やなぁ。」
通常ロストロギアはそう簡単に見つかるものではない。
なぜならロストロギアと呼ばれるほど、強力な力を秘めた遺失世界の遺産はそう多くないからだ。
しかし、通称遺跡世界とすら呼ばれるほど多くの遺跡が存在するグラールでは、今まで多数のロストロギアが見つかっていて、今回も新しいロストロギアが発見されても何ら不思議はなかった。
「でもなんでわたしにこの仕事が回ってきたんやろ?」
ひさめにとってそこが一番の疑問であったりする。
本来ならばこのような仕事は遺失物管理課が行う仕事で、他の部隊、もしくは課にそういった仕事が回ってくることなど、非常にまれなことなのだ。
しかも、遺失物管理課の職員たちは基本的にロストロギアバカで、その発見や解析に自分の持ちうる力の全てをつぎ込むのが当たり前のような人達ばかりなのだ。
そんな人たちが新しいロストロギアの発見を見逃すだろうか?
まともに考えればそんなことは100%あり得ない。
と言うことは何かしらの事情があると言うことなのだが………。
「ま、ええか。頭を使うんはわたしの仕事やないし。な、クロイツ。」
『Ja.(はい)』
「……そこまであっさりと肯定されてもそれはそれで、って感じがしてまうんやけど……。」
ひさめがクロイツと呼びかけたのは、彼女が右手に持つ、円環をあしらった十字槍の騎士杖のことである。
それを正式名称シュベルトクロイツと言い、八神はやてが愛用したデバイスである。
元々意思を持たないデバイスであったが、ひさめが所有者となってからデバイスと会話する誠也とアリスをうらやましく思って、男性人格を搭載した。
そして、シュベルトクロイツと言う長い名前で呼ぶのを嫌ったひさめがクロイツと愛称で呼んでいるのである。
『Es ist wahr.(事実です。)』
「ムムム………。」
愛機に辛辣な返事に何とも言えない苦い表情のひさめ。
釈然としない思いを抱きながら飛行していると、目的地の上空へとたどり着いていた。
「うーん………あんま人おらへんのかな?」
下を見ると、作業員らしき人が一人か二人いるだけで、ほとんど人がいない。
「とりあえず、聞いてみよか。」
ひさめは展開していたバリアジャケットを解除しながら、人のいるあたりに着地する。
「こんにちは。本局から護送任務で来た八神ひさめいいます。担当の方はどなたですか?」
近くに居た女性に声をかける。
突然現れたひさめに対し、女性は怪訝な目で見ていたが、ひさめの所属を聞いて、納得したような表情を浮かべた。
「ああ、あなたが今回担当してくださる局員の方なのですね。はじめまして、私はアーデル・スクライアと言います。今回の発掘の責任者の元へ案内しますので、ついてきてもらえますか?」
「お願いします。」
ひさめは女性の後ろについて歩いて行った。


ひさめは遺跡の近くに建てられている、研究所らしき場所をアーデルと名乗った女性と二人で歩いていた。
二人の間には特に会話などはなく、足音だけがカツン、カツンと響いていた。
ひさめはそんな沈黙に耐えられず、口を開いた。
「今回発掘を担当していたのはスクライア氏族やったんですね。」
「ええ。遺跡の発見から調査、発掘まで全てスクライア氏族で行っています。それにしても意外ですね。あなたのような現場の局員がスクライア氏族を知っていたとは。」
スクライア氏族は遺跡の調査、発掘を生業とする一族のことである。
その仕事内容からして非常に地味であり、裏方の仕事のため、関わりのある仕事についている人間でなければ、知っている人も少ないように思われてもおかしくない一族なのである。
しかし、ひさめは首を振って否定する。
「そんなことありまへん。遺跡を発見してからの調査、発掘までの完了期間は、発掘を生業にする一族の中で最短で、かつその仕事の完成度も非常に高いと、本局内では有名です。」
次元世界のは広い。それこそ時空管理局も未だに全容がつかみ切れていないほどである。
そんな広い次元世界の中で、遺跡の発掘を生業にする一族はスクライアだけではない。
スクライアから分化したスリアイナの一族もそうだし、ファルドーラの一族もそうだと言える。
しかし、スクライアの一族はこれら多くの同業者のなかで、最も優秀な実績を残している。それゆえに管理局の内部、特に遺失物管理課には非常に有名なのである。
よっていくら現場の人間といえども、知っている人は知っている程度には有名なのである。
加えて、ひさめにとってもスクライアの名は完全な無関係と言いきれるものではないこともあるが。
「そうですか。それほどまでにスクライアの一族が評価されているのは嬉しい限りです。………さて、ここが担当の者がいる部屋になります。」
連れてこられたのは『遺失物研究第一室』というプレートがかけられた部屋であった。
アーデルはコンコンとノックをして入室の許可を得ると、ひさめを中へ案内した。
「どうもこんにちは、管理局の方。」
そこに居たのは研究者と思しき男だった。
20程度の男だろうか、男はいかにもな白衣を着て、しかも寝起きのようなぼさぼさの髪をしている。はっきり言ってしまえば大分みっともない格好をしていた。しかも眼鏡の奥に見える瞳はなんだか眠そうで、隈もうっすらと見えていた。
ザ・研究者とでもいうような姿であった
「はじめまして。今回ロストロギアの護送任務を担当します、八神ひさめ言います。よろしくお願いします。」
「これはこれは、ご丁寧にどうも。僕の名前はラルク・スクライアと言います。見た目通りしがない研究者をしております。どうぞよろしく。」
男は自分よりもはるかに年下な少女に深々と頭をさげられ、自分も頭を下げる。
「それで早速仕事の話をしたいんですが………。」
顔を上げたひさめがすぐさま本題を切り出す。
「そうですね。それじゃあその辺に座っていただいて、僕は現物を持ってきますので、待っていてください。」
「いえ、ラルク。私が持ってきますので、運んでもらう物について先に説明していてください。」
第一研究室のドアに向かって歩き出そうとしていたラルクを止め、自分が代わりに行くと言いだすアーデル。
「そうだね。それじゃあお願いできるかな。」
「はい。それでは失礼します。」
アーデルはそう言って第一研究室を退出する。
「アーデルさんは気の利きはる女性ですね。」
「あはは。僕にはもったいないくらいの部下ですよ。………それで、今回護送していただくロストロギアですが。」
いくつかのファイルを研究室の棚から取り出すラルク。
それらのファイルから取り出されたのは、三枚の書類だった。
「あれ?三つもあるんですか?」
「ええ。ほぼ同時期に三つのロストロギアが発見されまして………。どれも大きいものではないですし、厳重に封印もしてあるので一緒に運んでいただけたらなと。」
「はぁ………。」
仕事を言い渡された段階では一つしかなかったロストロギア。
しかし、実際問題として三つもは運ばなければならなくなってしまった。
遺失物管理課から回ってきた仕事と言い、疑問点の尽きない仕事である。
「すいません。本題の前に二つ質問ええですか?」
「ええ。いいですよ。」
「まず、遺失物管理課が今どんな仕事に取り掛かっているかご存知ですか?あと、仕事では一件のロストロギアの護送やったはずが、なんで三件のロストロギアの護送になってるのか教えていただけますか?」
ひさめは仕事が回ってきた時点で不思議だった点と、実際の仕事と言い渡された仕事の違いについて問いかけた。
「そうですね。一つ目は今、遺失物管理課の方々は別のスクライアの発掘チームが発掘したロストロギアの解析に向かっているからです。その発見されたロストロギアはスクライアの研究チームによる解析だけではどうにもならず、封印もできなかったため、遺失物管理課の多くの方に出張ってもらっているんです。」
「そのロストロギアっていうのは一体………。」
「すいません。詳しいことは機密ですので言えませんが、おそらくS級ロストロギアになります。」
その言葉を聞いた瞬間、自分に仕事が回ってきたのも仕方がないなと納得し、それと同時に滅多に聞かない言葉に戦慄を覚えた。
S級ロストロギア。正式名称 特級危険指定遺失物
ロストロギアには五つのランクが存在する。
それは下から、
D級 正式名称 危険指定なし
C級 正式名称 対人危険指定
B級 正式名称 準危険指定
A級 正式名称 危険指定
S級 正式名称 特級危険指定
下に行くほど強力なロストロギアであることを示し、S級に至っては発動や条件など制限はあったとしても、大規模次元震を引き起こし、幾つもの次元世界を滅ぼすに足るだけの力は持っていると言える。
つまり、遺失物管理課の人間は皆そちらにかりだされていて、本来回ってくることのない護送任務がひさめに回ってきたのである。
ひさめはこの答えでどうして自分に仕事が回ってきたのか十分に納得がいった。
「二つ目は、本当は一つの予定だったのですが、その後仕事の担当部署を決めている最中に二つほどロストロギアが発見されまして、しかも大したものではなかったので、すぐに解析・封印が終了しましたから、一緒に運んでもらおうかと。」
二つ目の答えは納得のいくような、いかないような答えであった。
「まあ、厳重封印ができてるなら問題ないんですけど……。」
「そうですか。ありがとうございます。」
ぼそっと呟いたような一言にしっかりと反応し礼を返すラルク。
「これらが、今回運んでもらうロストロギアの資料になります。」
ひさめはラルクに言われて、先ほど差し出された三枚の資料に視線を落とす。
資料に書かれていたロストロギアはそれぞれ、

『デザイアシード』準危険指定
『エンドレスレボリューション』指定なし
『デリバリバード』指定なし

とあった。
ひさめが資料の内容に簡単に目を通して見ると、『デザイアシード』は人の欲望に反応し欲望をかなえるロストロギアで、『エンドレスレボリューション』はなぜか延々と一定の速度で回転し続ける独楽のような物であることが分かった。しかし、どちらのロストロギアも以前にも似たような品が何度か発見されていて、そのたびに解析されているために危険度は大したことがないと判断されている。『デリバリーバード』は次元世界のどのような場所であっても、送り先さえ分かっていれば、一瞬で物を送ることのできるロストロギアであった。しかし、全体の原理や構造は解析されているが、その技術を再現できない。というものであるようだった。
「この三つを運べばええんですね?」
「ええ。お願いします。どのロストロギアも謎が残されている部分も多いですが、封印もしっかりと施してありますし、おおむねどれも危険は皆無ですから。」
ラルクは最後にひさめを安心させるような言葉で締めた。


ひさめは本局に戻るべく、転送ポートに向かってグラールの空を高速で飛行していた。
「クロイツ。あとどのくらいや?」
『20 Minuten.(20分)』
「もう少し早く着きたいな。もっととばそか。」
ひさめはさらに加速し飛行する。
それ以降、ひさめとシュベルトクロイツの間に会話はない。
シュベルトクロイツが無口なのもあるし、ひさめもそこまで積極的に会話しようとしていないのもある。
そのまま会話がないまま飛行すること五分ほど、いままで黙っていたシュベルトクロイツが急に反応する。
『Nahenden Feind.(未確認物体接近中)』
「なんやて!?」
一気に制動をかけ、急停止し周囲を警戒する。
未だに自分が確認できていない状態での接近。この場合、一体どのタイミングで不意を打たれるかが予想できないために常に周囲を警戒する必要がある。
『Beachten die nach vorne.(前方注意)』
クロイツの指摘にひさめは前方に最大限の注意を払う。
すると、三つほどの人影がこちらに向かって接近してきていた。
人影はひさめから五メートルほど離れた位置で停止する。
ひさめは敵の挙動に対し、すぐさま反応できるようにシュベルトクロイツを構える。
「あなたは八神ひさめ一等空尉で間違いありませんか。」
相手はまず対話という選択をしてきた。
敵と思しき相手が対話と言う選択をしてきた以上、局員である自分がいきなり武力行使と言うのはまずい。ひさめはその対話に応えることにした。
「そうや。わたしが八神ひさめや。」
対話に応えたとはいえ、その警戒が弱まっているわけではない。
ひさめはいまだ最大限の警戒をしたままである。
「そちらに持っている物はロストロギア、デザイアシードで間違いありませんね。」
すると、相手はいきなり核心を突く言葉を投げてきた。
ひさめの警戒レベルは一気に跳ね上がる。
「………なんでそんなことを聞くんや?」
今、ひさめの置かれている状況は非常にまずいと言える。
それはひさめ自身が危険と言うわけではない。実際、ひさめは相手から感じる魔力で切りぬけることは可能だろうと考えているからだ。
しかし、そんなことよりももっとまずいのは、こちら側の情報が相手に漏れていると言うことにほかならない。
ロストロギアの情報は厳密に管理されているはずであった。なにしろ今回何が運ばれるのかは、運ぶ張本人のひさめですら直前に知ったくらいなのだ。かなり厳重に管理されている。
しかし今の状況をみると、ロストロギアの情報が漏れているということがはっきりと証明されてしまっている。
この状況は大局的に見るとまずい。非常にまずい。
ひさめはどうにかして相手の所属を聞き出せないかと、普段使わない頭を回転させる。
「デザイアシードを我々に渡していただけませんか。」
相手からの唐突な要求。しかしこれに応じるほどひさめはバカではない。
「なんや、ほんなら自分たちも名乗ってみい。名前の知らない人間に仕事を預けるほど私はバカやないで。」
相手は口元以外はバイザーで覆われ、しかも全身は黒のスーツで統一されており、服装や人相から相手を割り出すことは不可能に近かった。
そんな相手の正体を引き出したいと言う本音が透けて見えるようなひさめの返答。
本当ならもっとうまく交渉し、相手の正体を引き出すのだろう。
しかし、ひさめではこれが精一杯であった。
当然相手もそれに乗らない。
「我々の正体は言えません。ですが、それを渡してほしいのです。」
「ふざけとんのか。正体は明かせませんが、荷物は任せてほしいで任せる相手がどこにおんねん。」
ひさめは警戒態勢を戦闘態勢に移行する。
相手の所属を聞き出すためにぐちぐちと交渉するのも自らの性に合わず、さっさと突破することを考える。
「できればあなたとは戦いたくはなかったのですが………。」
相手も戦闘態勢に移行する。
「せやったら、初めからこんなことせんかったらええねん!」
『Dolch shoot.』
十二の短剣が展開され、相手に向かっていく。


射出された刃は相手に避けられ、空を切る。
しかし、相手が避けた先に打ち込まれるのは白色の弾丸。
猛烈な速度で迫るそれを、一人はシールドで防ぎ、一人は避け、一人は魔力弾で相殺する。
攻撃はそこで終わらない。この隙にと言わんばかりにもう一度十二の刃が三人に迫る。
三人はそれぞれに向かってくる短剣を、全て避けきる。それもできる限り最小限の動きで。
避けた三人はそのタイミングで射撃魔法を行使する。
そこに現れたスフィアはそれぞれ三つ。
それらは寸分たがわずひさめを狙い撃たんと迫るが、軌道が分かりやすく、ひさめにとっては避けるにたやすかった。
「さっきのをあそこまできっちり避けきるとは思わへんかったわ。」
「あなたこそ。あのタイミングの攻撃をああもたやすく避けられるとは、驚きでした。」
ひさめの目には言葉通り、やや驚きと言った色があらわれているが、相手は口で言うほど驚いているような声色ではなかった。
ひさめはそれにやや疑問を感じるが、今は戦闘中。意識を切り替える。
「こっちは急いでるんや。さっさと終わらせてもらうで。」
その言葉を皮きりに四人はそれぞれ一気に動き出す。
高速に動きながら、ひさめは無数の刃と白い弾丸を形成する。
しかし、相手も負けじと三人で無数の魔力弾を形成する。
四人はそれぞれ打ち合うが、しかし、一つとして相手に攻撃は届かない。
ひさめは相手の射撃を物量で押し流すように打ち込むことで通さず。
三人は押し込まれるように飛んでくる射撃魔法を一つ一つ迎撃するように相殺していく。
ひさめのそれは、物量、力業とも言えるような手法で、相手のそれは、戦術、技巧と呼べるようなそれぞれ対極の手法で互いの攻撃を防ぎ合っていた。
しかし、その均衡は次第に崩れ始める。
徐々にひさめの攻撃が届くようになってきたのだ。
ひさめのとった方法の欠点は、スタミナが持つかどうかの一点に限る。相手の攻撃を見切る必要もなく、自分の力が持つ限り、押しつぶすように攻撃していけばいいのだから考える必要も特にない。
しかし、相手のとった方法はそうもいかない。スタミナの消費は少ないと言えるが、精神的なスタミナの消費は相当に激しい。雨あられと続く攻撃を見切った上で迎撃しなければならないのだから。
三人は無理を悟ったのか、すぐさま頷きあい、三人とも射撃魔法をやめ一人がシールドを展開する。
シールドを展開した一人は、たった一人ひさめの攻撃の重さに耐える。
残る二人は一人の背後からそれぞれ左右に展開し、別の角度から射撃魔法を打ち込む。
しかし、ひさめもこれに慌てない。すぐさま射撃魔法を中止し、勝利の布石を一つ残してその場を離脱する。
相手の放った射撃魔法は先ほどまでひさめがいた位置を通過していった。
「あの攻撃を耐え抜かれるなんて予想外やったわ。」
ひさめの表情には驚きがあった。
ひさめとしては先ほどの物量攻撃で三人とも倒すつもりであったのだが、思ったよりも防御が硬く、倒しきれなかった。
「でも、これで終わりや。」
咄嗟にしかけた決着への布石。
布石から導かれる勝利への道筋。
すでにひさめの目には決着が見えていた。
「本当にそうでしょうか?我々はそう簡単にやられたりしませんよ。」
「いいや。終わりや。」
相手の四肢から白色がきらめき、光の縄となってその場に拘束する。
「「「なっ!!」」」
三人は驚愕する。三人には一体いつバインドの魔法を使われたのか分からなかったからだ。
「い、いつの間に!?」
「これでチェックメイトや。」
右手で持ったシュベルトクロイツを掲げ、目の前に三角形のベルカ魔法陣を出現させる。
「なっ!その魔法は、まさか!?」
三人は魔法陣の出し方から使われる魔法の予測がついていた。
ひさめはそれに構うことなく、気にすることなく魔法の呪文を唱える。
「響け!終焉の笛!」
『Ragnarök.』
「ラグナロク!」
ベルカ魔法陣のそれぞれの頂点に配置された小さな魔法陣からそれぞれ一本ずつで計三本の光線が放射された。
バインドで拘束されている三人は特に抵抗することもできず、ラグナロクに飲み込まれる。
しかしラグナロクの攻撃が終わった後、バインドを解き、バリアジャケットをぼろぼろにしながらもそこにかろうじて立っていた。
「………まさかこれも耐え抜かれるやなんて。」
「………三つに分けたラグナロクがこれほどの威力とは………。」
ラグナロクは本来三つの光線を束ねて一つの対象を打ち抜く魔法である。
けれど今回はラグナロクを三つの光線をそれぞれバラバラに撃ち出した。
単純計算で威力は三分の一のはずである。しかし、それでもぼろぼろになってしまうほど高い威力があった。
「撤退するぞ………。」
一人がそうぼそりと呟き、他の二名もそれに頷く。
その瞬間、三人の足元にそれぞれ魔法陣が出現する。
しかし、ひさめがそれをただ見過ごすはずはない。
「させへん!」
30の魔力弾を三人に向かって放つ。
それぞれ10ほどの魔力弾が向かっていく。
それらの魔力弾は全て強力な魔力を込められたものであった。
並みの魔導師ならばシールドを張らなければ一撃で墜ちてしまったほどだろう。
しかし、それほどの魔力弾もただ虚しく空を切る。
「逃げられてもうたか………。」
目の前にはただ、砂漠の世界が広がるのみ。
 
 

 
後書き
シュベルトクロイツのドイツ語については何も言わないでください。
もしも何か間違いがあって指摘しないと気が済まないのであれば、どのような文章にすればいいかまで教えてください。直します。 
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