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100年後の管理局

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第四話 百年後、異世界

 
前書き
少し長め。割とコメディよりと思うけれども、コメディ苦手です。 

 
新暦165年5月30日  時空管理局本局内某所
ここには審判を待つ一人の少年と、審判を下す一人の老齢の男性がいた。
二人の間に流れる空気は緊張で張り詰めていた。
少年の方はいつ判決が下されるのかと、びくびく怯えていたし、老齢の男性の方は厳かな雰囲気を漂わせていた。
ただ、もし一言付け加えておくならば、少年がびくびくしている様はもしその手の趣味の人が見ていたなら一発で籠絡されていたと言えるほどであった。
それはさておき。
怯えている少年に向かって、老齢の男性は一片の容赦なく判決を下す。

「高町一等空尉を三カ月の無給に処す。」


「はぁぁ………。」
この世の終わりとすら思えるような盛大なため息が漏れる。
そんなため息を漏らしたのは、先ほど大幅な減給をくらった高町誠也一等空尉その人である。
「あぁぁ………。」
またもやため息が漏れる。
もはや見ているこっちが重苦しくなるような雰囲気で、その雰囲気はもしかしたらお通夜に近いものがあるかもしれなかった。
「誠也ー。こんなところで突っ伏して何してんのー?」
誠也の放つ雰囲気とは似ても似つかない明るい声で誠也に声をかける人物がいた。
その人物は手にお弁当を持ち、後ろで輝くような金髪を二つに結った、将来の楽しみな容貌をした少女であった。
「なんだ、アリスか………。」
しかし、誠也にとっては見慣れた人物だったのだろう。
それだけ言って興味を失ったかのようにまた机に突っ伏す。
アリスは弁当を置き、誠也の隣の席に座る。
「なんだとはなにさー。せっかくこの天才美少女アリスさんが悩みを聞いて上げようと思ったのにさー。失礼しちゃうわ。ぷんぷん。」
などと言いながら、わずかに拗ねたような口調で食事を開始する。
しかし、その表情は一秒と続かなかった。
食事を一口、口にした途端、きっとその食事がおいしかったのだろう、幸せそうな表情に変わった。
それを見た誠也はただぼそりと一言。
「………いいなー。」
その声には心の底からの羨望が込められていた。
「んん?………もしかして、また減給された?」
羨望を受けたアリスが誠也の落ち込む理由をズバリ言い当てる。
そこまでぴたりと言いあてられると言い訳も出てこないのだろう。
誠也は素直に頷いた。
「あははははは!何、誠也また減給されたの!?あははは!」
誠也が頷いたのを見た瞬間、アリスは爆笑した。
ちなみに誠也が減給されたのはこれが初めてではない。
以前にも今回の事件と似たようなことをやらかし、一年の減給を二回ほどくらっていたりする。
「………向こう三カ月、ただ働きだよ………。」
そこに来てさらに三カ月の無給である。
誠也の懐具合はもはや風通しが良すぎてどうにもならなくなっていた。
「あははは………。ああ、笑った笑った。でも給料もらえなくてもどうにかなるでしょ?生きていく分には。」
「まあ、最低限ならね………。」
笑うのをやめたアリスの言葉に、絶望したかのような声色で返事を返す誠也。
アリスの言うとおり、管理局勤めである以上最低限生きていく分には給料がなくても一切問題ない。
寮はそもそも最初から天引きで、衣服についても支給品があるし、食事も最低限ならば支給される。
つまり最低限の衣食住は保証されているのだ。給料がなかったとしても生きていく分には何一つ問題ないのである。
そう、《ただ生きていく分には》、である。
「三カ月携帯食料づくしとか………。死にたい………。」
携帯食料。
文字通り携帯できる食料である。
50年ほど前に完成したとある技術により、その時から現在に至るまで携帯食料の需要はかなり高くなっている。開発される以前と以後ではその数十倍ほど変化している。
需要は発明の母とはよく言ったもので、それにより携帯食料の発展は非常に著しい。
しかし、なぜだろうか。携帯食料に関する技術的発展は栄養価や腹もち、生産性にのみ偏り、味と言うものが置き去りになっているのである。
はっきり言ってしまうのならば、まずい。
無味無臭過ぎて美味しくなく、むしろ薬のような感じすらしてしまうのだ。
ただ、そのおかげと言っては何だが、高すぎる生産性ゆえに、安価で飢えを防ぐには十分役立っているという大きなメリットも存在している。現に誠也のような減給で給料がなくても働いてさえいれば携帯食料が支給され、飢え死にとは無縁になっているのだから。
しかし、まずいものはまずい。
いくら飢えをしのぐためとはいえ、三カ月もそんなまずいものを食べ続けるのはただただ苦痛でしかない。
とはいえ、美味しいものは携帯食料含めて有料であることが多く、お金をもらえない誠也はまずい携帯食料で我慢しなければならなかった。
「ま、あきらめるしかないでしょー。自業自得だから仕方ないし………。あ!」
アリスは何かにひらめいたように声を上げる。
そして誠也を見ながら何かいたずらを見つけたような嫌らしい笑みを浮かべる。
「ふふふ~。誠也ー、はい、あーん。」
にやにやといった擬音が似合う笑みを浮かべながら、スプーンに載せた食事を誠也に向けて差し出す。
誠也はそれを見て、ついごくりと喉を鳴らしてしまった。
実はアリスが今食べている食事は、とある有名店の限定弁当なのだ。
それはなかなか手に入るものではなく、しかも向こう三カ月は食べたくても食べることができないことが確定しているのだ。
できるなら食べたい。
しかし、アリスの浮かべている笑みが警戒心を煽る。
誠也は食欲と警戒心のはざまで葛藤する。
そしてついに食欲が勝ち、差し出されたスプーンに食らいつこうとする。
が、しかしその直前、アリスは差し出していたスプーンを引っ込め、すいっと自分の口に運んでしまう。
「んー!おいしー!!」
アリスはこれでもかと言うほどの満面の笑みを浮かべる。
その笑みには誠也の眼の錯覚だろうか、してやったりという言葉がはっきりと原子できてしまうような笑みであった。
誠也はがっくりと肩を落とす。
誠也の中でおそらくこうなるであろうことは、なんとなく予想がついていた。
アリスはかなりのいたずら好きなのだ。
だからこういう意図があるのだろうと思っていた。思っていたのだが。
やはり欲望には抗えず、一縷の望みにかけて食らいついていた。
「ふふーん。誠也はいやしいな~♪」
「ぐぅ………。」
満面の笑みで勝ち誇られても、何も言い返すことができない誠也。
心に屈辱を感じつつも空腹を耐え凌ぐため、もう一度机に突っ伏そうとする。
「誠也君、アリスちゃん、こんにちは。」
「あ、ひさめ~。」
「ひさめか………。」
胸のあたりまで伸ばした長く濃い茶色の髪を後ろで一つにまとめた少女がそこに居た。
「ねーねー、聞いてよ、ひさめ~。誠也ってばねー。」
「ん。ちょいまってアリスちゃん。わたしが当てて見せるから。」
ひさめと呼ばれた少女に嬉々として誠也の現状を話そうとするアリスを制止するひさめ。
そんな火サメは顎に手を当て、誠也の現状について考える。
三十秒ほど思考した後、ひさめが口を開く。
「んーと、出動命令かけられて、本来ならオペレーターのグレイル君の指示を待たなあかんところを独断専行。」
「ぐはっ。」
「で、調子に乗ってアクセルシューター連発。」
「ぐひっ。」
「最後の最後にグレイル君の制止を振り切って無許可でのスターライトブレイカーを使こて、大損害。」
「ぐふっ。」
「そのせいで局長から三カ月の減給を言い渡されたってとこかな。」
「ぐへっ。」
そんな、ひさめの当事者かとすら思えるくらい正確な事実に、誠也はダメージをくらいノックダウン寸前の状態になっていた。
「あれ?もしかして………図星やった?」
「ぐほっ。」
ひさめの最後の一言に誠也はKOされた。
「そ、そんなに分かりやすいのか、俺………。」
幼馴染で互いを良く知る間柄とはいえ、まさか自分の問題行動をここまで言いあてられるほど自分が分かりやすく、そしてそういった目で見られているのかと思うとかなりのショックであった。
「日頃の行動が悪いわね、誠也♪」
「自業自得やで、誠也君♪」
「ぐぬぬ………。」
二人の勝ち誇ったような満面の笑みに何も言えない誠也。
確かに、確かにだ。誠也の問題行動は割と多い。
それは二回の年間減給に現れているから、ただの事実である。
しかしだからと言ってここまで正確に事実を当てられるものだろうか。
いや、普通は無理だ。もし言いあてるのならば、それこそ当事者に事情を聴く必要がある。
(ん?)
そこで誠也はあることに気づく。
今回の事の当事者は誠也ただ一人ではないことに。
「ひさめ………、グレイルから聞いたな?」
「あ、わたしちょっとご飯買うてくるわ。」
「いってらっしゃーい。」
誠也はひさめに追求しようとするも、ひさめはさらっと逃げ出した。
「グレイルめ。余計なことを………。」
誠也はグレイルに復讐を誓う。またあいつがオペレーターの時に胃に負担のかかることをしてやろうと。
「やめといた方がいいんじゃない?これ以上グレイル君の胃に負担かけると、給料なくなるよ?」
「ぐっ!」
アリスはその表情から誠也の考えていることを読み取り、あっさりと論破する。
グレイルにとって胃に負担のかかることというのは、さまざまな問題行動であり、それを誠也が行えばまた誠也の給料が減っていくのは目に見えている。
「くそぅ。グレイルに復讐できないじゃないか………。」
「誰に復讐だ、この阿呆。」
べしっ。っと誠也の頭が何者かにはたかれる。
「おー、噂をすればなんとやら。」
グレイル・ロウランの登場である。
グレイルはアリスに席が空いているかどうかを確認し、着席する。
「そもそもあれはお前が悪いんだろうが。人のせいにするな。」
「むぅ。」
誠也も自分が悪いことはきちんと理解している。それをグレイルのせいにする気など毛頭ない。
しかし、わざわざ自分の失態を人に、それも誠也にとって近しい友人に話す必要はないではないか。
そんなことになっては仕返しをしてやりたいと思うのも人情というものだろう。
誠也はグレイルに復讐することを諦め、もう一度机に突っ伏す。それと同時にお盆を持ったひさめが戻ってきていた。
「グレイル君や。さっきぶりやなー。」
「ったく、ひさめもうかつだな。誠也には話さないって約束したろ?」
「あははー。ごめんなぁ。誠也君をいじめるネタがあると、ついついいじめてまうんよ。」
ひさめはお盆を机に置き、椅子に座る。
ちなみにひさめの食事はシンプルなハンバーグ定食である。
しかし、ただのハンバーグ定食ではなく、局内食堂の中で最も高級なハンバーグ定食である。
お金のない誠也には手を出すことのできない額のハンバーグ定食である。
「うまそう………。」
誠也は無意識のうちにそんな感想を漏らす。
ひさめはそんな誠也の発言と欲しそうな誠也の目線に気付き、にやにやと笑みを浮かべ始めた。
誠也はその表情を見て、はっとした表情で自分の失態に気がつく。
「んー。誠也君食べたいんか?」
そう誠也に問うひさめの表情は、さきほどの笑みが消えていない。
「ふ、ふん。どうせ寸前で引っ込めるんだろ。分かってるさ。」
そう言って誠也はそっぽを向く。
自分の無意識の発言を聞かれたからだろうか、少しだけ頬に赤みがさしていた。
「そんなアリスちゃんが考えて実行していそうなことせえへんよ。本当に食べさして上げる。」
「ほ、ほんとか?」
ひさめの言葉で誠也の声に喜色が混じる。
「うん。その代わり………。」
ひさめは先ほどまでにやにやという程度だった笑みを、ニヤァと言わんばかりに笑みを深める。
それを見た誠也の脳裏には嫌な予感がちらついていたが、ハンバーグを食すと言う欲望の前に、それを無視した。
「………。」
ひさめは誠也に耳打ちをする。
一体何をしゃべっているのかはアリスとグレイルの二人には聞こえない。
ただ、おそらくろくでもない要求であろうことは、二人に予想できていた。
「で、できるかそんなことー!!」
案の定、誠也が顔を真っ赤にしながら勢いよく立ちあがる。
顔を真っ赤にしているところを見ると、恥ずかしい内容だったのだろう。
しかし、ひさめはそれに動じない。
「そうなんかー。それやったらこのハンバーグはなしの方向で………。」
ひどく残念そうな表情であるが、その顔には誠也に気付かれない程度のわずかな笑みがあった。
「い、いや。ちょっと待て。」
「なんや?言ってくれるんか?」
「言えるか!」
「それやったら、ハンバーグは………。」
「ま、待て!」
「なんやの、誠也君。言うんか言わないんか、はっきりしいや。」
「ぐっ………。」
誠也の中では大きな葛藤が渦巻いていた。
言うのか、言わないのか。
言えば高級ハンバーグを食べられる。それはおそらく三カ月、下手したら一年以上食べられないだろう。
できるのならば逃したくはない。
言わないのなら、恥ずかしい発言をする必要がない。
それを公衆の面前で発言するとは屈辱の極みである。
極力避けたい。
誠也はそんな葛藤の中で迷っていた。
「はよう決められないんやったら、この話はなしやで?」
ひさめが決断をせかす。
誠也は迷いに断ち切った。
所詮、一時の恥。耐え忍ぶべきであると。
「わ、分かった。言う。」
「おおー!」
ひさめは誠也の決断に喜ぶ。
「さあ、言ってや。」
ひさめが誠也の言葉を促す。
思わず隣で成り行きを見守っていたアリスとグレイルもどうなるのかと身を乗り出す。
あたりには静寂が立ち込めていた。
そんな中で誠也は羞恥に震えながら、口を開こうとする。
そして誠也が口を開いたその瞬間。

pipipipi

「あー、ごめんね。いいところだったのに。」
緊張した静寂の中、ある意味で空気を読んだ電子音の発信元はアリスであった。
アリスは制服のポケットに入れてあった己のデバイスを取りだす。
「どうしたの?バルディッシュ。」
取り出されたデバイスは黄色い三角形のデバイスであった。
『Sir, emergency call.』
その一言で四人の間にあったリラックスした空気は一瞬で消し飛ぶ。
「すぐに通信を開いて。」
『Yes, sir.』
アリスがそう言うと、バルディッシュから映像が投影される。
『ハラオウン執務官!こちら地上本部110部隊!AAランク級ジーンドライバーが街にて暴れています!至急応援をお願いします!』
「こちらアリス・T・ハラオウン。了解しました。大至急そちらに向かいます。そちらの座標を転送してください。」
そうした会話のあと、少しだけ会話をして通信画面を閉じる。
「一人で大丈夫か?」
グレイルがアリスに問いかける。
「心配無用。そんな大事にはならないよ。」
アリスの返事とその表情には自信が満ち溢れていた。
「それじゃあ行ってきます。」
最後に三人に声をかけてアリスは駆けだした。
 
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