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ソードアート・オンライン~幻の両剣使い~ 【新説】

作者:定泰麒
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アイズと【黒の剣士】の邂逅

 「キリト……君は弱い。君は強くならないといけない。それこそ、何かを犠牲にしてでもね」

 「そりゃ、アイズ。お前に言わせたら、俺は弱いかもしれない。でも、それは俺だけじゃなくて、全員に当てはまることだろ。犠牲にしろって言うけど、俺はこれ以上なにを犠牲にしたらいいんだ!?」

 「それはいずれわかること。だから今は、できる限りの努力をしないとね」

 「いずれ……わかるか……。でも、なんでお前は俺に目をつけるんだ? 俺も強い方だと自覚してるけど、お前のギルドメンバーにはざらにいるだろ」

 「君は……間違いなく『英雄の卵』だからかな」

 「『英雄の卵』、なんだそれ?」

 「そのまんまの意味だよ。君は間違いなく強くなる。それこそ、俺なんかよりも」

 「やめてくれよ、お前にそう言われるのはうれしいけど、俺はそんなだいそれた奴じゃない」

 「ふっ、そうだね。今はまだ、君は君を知らない」

 現実ではない、造り物の夜。
 1人は寝そべりながら、もう1人は彼の愛剣を地面に刺し、そこに手をつきながら現実のように感じる星空を眺めていた。
 現代の最新のグラフィックによって構成されたそれは、荒れた心を鎮めるには十分だった。





 いくつもの出会いが会った。アイズは、自身の目的のための準備を着々と進めていた。信用できて、使える仲間たちを増やすなかで、アイズという男はキリトという名前のプレイヤーに出会った。
 アイズはその名前を知っていた。夢の中で何度もその名を見た。『ソードアート・オンライン』の主人公。本名、桐ケ谷和人(きりがやかずと)。その最速の反応速度は、ヒースクリフいや兄にも認められ、【二刀流】というユニークスキルを得ることになった。
 【黒の剣士】その名は、現実でも知られておりSAOからプレイヤー達を救った剣士として有名になっている。

 アイズは、保険を懸けることにしていた。もし、自分が死んでしまった時、兄・ヒースクリフを倒せるのは、元々の主人公キリトの可能性が高い。アイズが率いているギルドメンバー達もその候補ではあるけれども、一番可能性が高いのはキリトであると思っている。

 だからこそ、β版から彼を気にかけ、常に強くなれるように先導していた。





 「これが、確かキリトがキリトになるイベントだった」

 アイズは、キリトに悟られないようにある程度距離を保って、戦闘を見ていた。このギルドが犠牲になればキリトは強くなる。彼らは中堅プレイヤーのギルド、キリトを選ぶか中堅の彼らを選ぶか……アイズにとってその答えはさほど難しくはなかった。

 心は人を強くする。愛や友情、義理、人情のような少年漫画の主人公が持ち合わせているような感情だけでなく、復讐、嫉妬、猜疑のような負の感情でさえも、人を強くするには十分だ。それに力を得るためには、負の感情のほうが役に立つ。
 とアイズは考えていた。それこそ、愛や友情なんて脆く崩れそうなもので強くなるなんて方が間違いなんだと。

 その瞳には、深い闇が見える。彼が力を得たのは、単なる遊び心。彼にとって現世はつまらないもので、兄を倒すこそが現時点での生きている理由であった。

 キリトが強くなるための犠牲。最初から彼らには不干渉を決めていた。それでも、見てみたいと思った。そして、見届けたいとも思った。一重に興味から。
 だが、それが彼の本心だったのだろうか疑問である。なぜか、アイズの目から溢れだしている涙。それをアイズは拭こうともしない。
 自分でも涙を流す理由がわからない。逃げたい、でも逃げる必要性がない。それに見届けないといけない、なぜ見届けないといけないと悩み続けた。

 人には、心が存在する。血を送り出すポンプなんかではなく、魂とも言われるモノ。アイズには、人としての心がないなんてことはない。
 あまりにも、特殊すぎる生い立ちに全ての行動に合理性を求めてしまう。それが、彼の心を奥に奥に押しやった。それが涙の訳。
 助けられるのに助けないという決断をして、死んでいく者達を見届ける。それは、彼にとっては償い。忘れない、忘れないぞと。心からの思い。
 わざわざ、ここに来る必要がなかった。人の死など誰も見たくない。たとえいくら憎い人でも、その人が死ぬ瞬間など見たくない。見ていても、死ぬ瞬間は目を逸らす。
 でも、アイズは見続けた。その戦闘を記憶するため、自分が間違っているか、正しいかなんてことはどうでもいい。ただ、死にゆく彼らに報いるためにただひたすらに一瞬も目を逸らさずに、瞼を閉じるなんてこともしない。
 
 全てが終わり、キリトが絶望の表情を浮かべながら去っていく。

 アイズは見届け、彼らが生きていた場所に持ってきていた花を一輪置く。

 「すまない、ありがとう」

 それだけ言うと、アイズもその場から去った。





 「前にお前が俺に言った言葉があったよな。何かを犠牲にしてでも強くなれと……その結果がこれなのか!!!」

 キリトはアイズを殴りつけていた。その場所は、かつて共に月を見上げた場所。避けれたが、避けなかった。普段ならば、避けて一撃は加えるアイズがなんの回避行動もとらずに殴られた。更にそのまま押し倒され、ただひたすらに殴られ続ける。
 殴りつかれたのか、キリトは馬乗りになっていたアイズから立ち上がり、すぐ近くに寝そべった。

 「キリト……、今回の件は、これかい? ただ殴るために僕を呼んだのかい?」

 「……。噂を聞いたんだ、アイズがギルドを見殺しにしたっていう噂を」

 「妙な噂だね、それは違う。僕はプレイヤーを見捨てない」

 「嘘だな、なぜならお前は俺になんの抵抗もしなかっただろ! お前が見殺しさえしなければ、みんなは、サチは……」

 「それは、知っていたから。君が大切なモノを失って自暴自棄になっていると聞いたから、僕は君に殴られた」

 「……。そうか、殴って悪かったな」

 「いいさ、こんなものモンスターから受けるダメージなんかよりも軽い」

 「なぁ、アイズ。俺はどうしたらいい……」

 「強くなれ、強くなって彼らのような犠牲を増やさないようにすればいい。君はここから生まれ変わる。今まで以上に強くなる、より強く、より強く、そうすればいずれ僕さえも超えられる剣士になれる。君には、それだけの才能と心があるのだから」

 「……」

 あの時と同じような月だった。現実ではない、仮想の月。荒れた心を優しく優しく包み込む。前と違うのは、あれから幾月かの時間が経ったことと、キリトが大切なモノを失ったこと。
 アイズは、許されないことをした。彼が、見捨てず助けていれば、彼らは生きていたはず。

 それと、今回だけは、月に優しく包み込まれても、心に空いた穴だけは埋めれなかった。それだけ。

 ここからキリトは強くなった、前よりも、守りたい人達を守れるようになるために、ただひたすらに剣を振り、迫りくるモンスターを次々になぎ倒す。

 それを見るたびに、アイズの心は痛む。本人の意思とは別に、アイズを締め付ける。だが、アイズにはわかっていない。心は、今にも壊れそうで、脆く崩れさろうとしていることを。

 目的は達成した。なぜだろう。痛い。何が。わからない。ならばどうする。今まで通りさ、今まで通り。仲間達と兄さんを倒す。それだけでいい。それだけで。でも、なぜこんなにも虚しさしか得られないのだろう。目的を達成して嬉しいはずなのに……。

 少し、少しだけ疲れた……今は、少しだけ眠ろう。そうすれば、痛みも消えるかもしれない。

 だけど痛みは、何時まで経っても消えはしなかった。


 






 








 
 

 
後書き
 亀更新なうえ、文字数がかつてないほど少ない。申し訳ありません。今回は、作者が最も好きで嫌いなエピソードだったので、短くそして、詰め込みました。

 次回からは、文字数増やします。

 
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