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ソードアート・オンラインーツインズー

作者:相宮心
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SAO編-白百合の刃-
  SAO1-氷の漆黒

「ちょ、ちょっとタンマ!」

 鈍色(にびいろ)に光る剣尖(けんせん)を咄嗟に体制を低くして回避した。
 

「タンマって言っているのに……」

 私が静止するように言ったところで止めてはくれないだろう。そんなことをわかっていながらも、『イービルラビットマン』と言うモンスターに言ってしまうものだ。例えそれが、いかにも悪巧みしそうで可愛い毛のない表情をしていたとしても。奴は鋭い牙に、人と同じような体系に右手に持つ剣の攻撃をしかけてくる。危うく、私のHPバーと呼ばれる生命の残量を可視化した青いものが減らされそうになった。
 七十四層の主街区の転移門に向かう途中、鍛えていた索敵スキルで十メートルほど離れた茂みの中に隠れている『イービルラビットマン』の姿が視界に浮き上がった。
 先ほど全体的に能力高めの『ブラック・ホーク』と戦闘したばかりなのに、相手はこちらの動きを呼んだかのように素早く近づいてきて、今に至る。戦闘は避けられない。

「たく、可愛い気のない顔して……うさぎは可愛い小動物なのよ」

 そう言っても、イービルラビットマンは返事をしない。話しかけても無駄だと言うことはわかっている。だけどあのモンスターの顔は、非常に悪巧みのことしか考えていないんじゃないかと思う。それだけ、モンスターの表情が良くできている。
 『イービルラビットマン』の特徴は、奴のソードスキルを喰らってしまうと、一定の確率でアイテムが盗まれる仕様になっている。そしてこちら側の思考を読んだかのように、一番イラつかせる行動をするのが奴の特徴だ。主に被害があるのは、ギリギリのところで即行で逃げ出すことだ。
 AIプログラムが動いているとはいえ、奴らは唯一無二の存在。次に会っても同じようには通用しないことを意識したほうがいいわね。
 だったら……。

「すぐにケリをつけさせるわ」

 こんな時こそ私は余裕の姿勢を保ち、カタナを左腰の鞘にしまった。
 相手は相変わらずの悪巧みの表情。つか、他の表情を見たことない。
 『イービルラビットマン』の表情が固定されていることに考えていると、奴は上段構えから高く飛び、飛び斬り技のソードスキル『メテオ・インパクト』を使ってきた。
 『メテオ・インパクト』は名の通り、隕石の落下のような衝撃で威力も高いし、下手に避けても地面に叩きつけられた衝撃でもダメージを負ってしまう。けど、それは体格が大きい人とか隙があるものに対して使うべきだったわね。
『メテオ・インパクト』を私は“簡単”に避ける。
 奴の隙ができた瞬間を見逃すわけにはいかなかった。
 上位ソードスキル、『舞闘(ぶどう)』宙に水色の軌跡のエフェクトを残すかのように、踊るように回し斬りを4連続斬りつけた。
 4連続、イービルラビットマンの心臓、クリティカルヒット。
 悪巧みの可愛くないうさぎは奇声を上げ、斬られ役が名演技ばりのように背中から倒れて、奴の動きは静止。そしてガラスを割り砕くような大音響とともに微細なポリゴンの欠片となって、風とともに舞い散り、消滅した。
 そう、イービルラビットマンのHPが0になり死亡したと言うことになるのだ。
 これが現実世界とは違う。

 ソードアート・オンラインの死。

 格好つけかもしれないが、ブンブンとカタナをペン回しのように振り回して鞘に収めた。いや、女だけど一度は憧れるんだよね、ポーズ。
 モンスターを倒した私には、経験値と時々アイテムが貰える。視界中央に紫色のフォントで浮き上がった加算経験値とドロップアイテムリストを一瞥してみた。

「こ、これはっ」

 手に入れた物は食料品。

「ラグー・ラビットの肉!?」

 だがしかし、それは滅多に手に入らないアイテムであることに驚愕した。
 たかが食料品に驚くことはないと思ってはいけない。本来は超レアモンスターであるラグー・ラビットを倒せば手に入れられるが、そのモンスターは逃げ足の速さに関して、モンスターの中でも最高の位置にあたるために、倒すところか接近戦になるのも難しいので、なかなか出に入れないのが、ラグー・ラビットの肉だ。ラグー・ラビットの肉は値段にすれば十万コルで取り引きするのもよし、最高級の美味と設定されているから食べるのもよしと、どちらにしても嬉しいアイテム。……前から思っていたけど、コルより円の方がわかりやすいのでは? いや、円にしたらファンタジーの世界観なくなるか。
 イービルラビットマンがラグー・ラビットの肉を持っていたのは、他のプレイヤーから奪って逃走したまんま、私と遭遇したのか。奪われたプレイヤー、ご愁傷様です。
 さて、と。S級のアイテムが持っている以上、下手に進んで盗賊プレイヤーかイービルラビットマンに盗まれたらもったいない。せっかく手に入れたのだから、自分で使うべきだと解釈して腰の小物入れから青色の宝石を取り出した。
 魔法の要素がほどほど排除されているこの世界で、わずかに存在するマジックアイテムは全て宝石の形をとっている。
 大変貴重ではあるけど、“今後の誓い”と言う形での対価だと言い聞かせて青い宝石を使用、瞬間転移で七十四層の転移門に行かずに五十層のアルゲードへ転移した。



 アルゲードは簡潔に表現すれば猥雑(わいざつ)の一言に尽きる。
 広大の面積なのに巨大な施設はひとつとして存在せず、無数の狭くて通行困難な道が重層的に張り巡らされているし、何を売るとも知れぬ怪しげな工房や、二度と出てこられないのではないかと思わされる宿屋などが軒を連ねている。雰囲気的には現実世界の電気街に似ているかもしれない。
 “彼”を含めた一癖も二癖のあるプレイヤーがホームにしているから、私も癖があるかと思うと、やっぱり“彼”に似ているものがあるんだと、改めて思ってしまう。つか、他人から見れば似ている以上か。私自身も“彼”に一番似ているって自覚はしている。
 とにかく、ラグー・ラビットの肉とアイテムを買取したいので、顔馴染みのゴツイ体系ながらも笑うと愛嬌のある、エギルと言うプレイヤーが経営している買い取り屋へ足を向けた。
 ラグー・ラビットの肉は食べたかったけど、料理スキルが高いので無理だし、S級の食材を扱える知り合いは皆無。美味を感応するのは残念だけど、手持ちにあったって宝の持ち腐れにしかならないので、金にしたほうが使い道はいいだろう。金は増えても困らないしね。
 転移門のある中央広場から西に伸びた目抜き通りへと踏み込み、人ごみを縫いながら数分歩くと、エギルの買い取り屋についた。五人も入ればいっぱいになってしまうような店内に入った途端だった。

「あっ……」

 店内には嫌でも見知っている“彼”の存在を捉えた。
 私が全身白に対して彼は全身黒。古ぼけた黒いレーザーコートに同色のパンツとシャツ。同じ金属製防具が少なくて、美肌で顔立ちが良い生意気な奴なんて、この世に一人しかいない。

「ちーす、キリト君元気ぃー?」
「うわぁっ」

 なによ、その反応。まるで私が来ることなんて微塵も思ってなかったのか? なんか失礼するわ。

「なんだ……キリカか……」
「そう、キリカちゃんでーす」
「会うたびにいちいち変わった挨拶とかするなよ」
「ユーモアがあっていいじゃない」
「ユーモアと言うよりかは、アホな子だな」

 クールで皮肉? なのかはどうなのかは知らないが似合わないであろう
 数少ないフレンドリストの一人で、私と同じソロプレイヤー。そして、私と同じ一つ屋根の下で住んでいる。私、桐ヶ谷優香の実の兄であり双子の兄、桐ヶ谷和人ことキリトでもある。
 私達は一卵双生児の双子。普通は男女で一卵双生児にはならないけど、極まれに男女の一卵双生児の双子が私達である。一卵双生児は双子のように瓜二つの容姿でないことが特徴。実際に私達は双子に見えないと言われたことはある。でも双子故なのか、似ているところは似てしまうようだ。例えば、桐ヶ谷和人の最初の二文字と最後の一文字でキリト。桐ヶ谷優香の最初の二文字と最後の一文字でキリカ。キリまでは一緒というHN。他にも住んでいるところが五十層だとか、ジャンルは違うけどゲーム好きだとか、目が似ているところとか、たまに声がハモッたりとか似ているところは似ている。これが双子の宿命なのかしらね……。
 最初は二人で攻略していたけど、“ある出来事”を期に、今はお互いにソロプレイヤーとして攻略している。最近はボス戦でしか会わないか。
 キリトか……。今ソロなら、パーティー組もうかな。信頼出来る人の方が相性言いと思うが嫌がるかもしれないな……。
 それは後で話すことにして、まずはラグー・ラビットの肉でも売ろう。

「エギル、買い取りよろしくね」
「おうキリカ。買い取りって、何売るんだ?」
「ラグー・ラビットの肉」

 私はS級のアイテムを買い取りすることにキリトは驚くかと思ったら、別の反応で顔がこわばっていた。
 
「なんだよ、驚かずにお前もかって言う……」
「被った」
「え、被った?」
「何だ、キリカもラグー・ラビットの肉持っているのか。二人して仲がいいんだな」

 エギルは被ったことに笑いだした。

「なんで被るの!?」
「それはこっちの台詞だって」
「こっちの台詞だってあるわよ!」

 まさか双子そろって同じ日に同じ高級食材を手に入れていたとは……偶然にもありすぎる。なんか今日はあるかもしれない。
 あれ、ラグー・ラビットの肉を持っていて、エギルのところにいるってことは、兄も料理スキル足りないんだな。別に期待していなかったけど。つか、知っているしね。

「キリカは食べないのか? 多分二度と手に入らないんじゃない?」
「じゃなきゃこんなところに来ないわよ」
「それもそうだな」
 
 エギルに一瞥すると、失笑しぴきぴきと額に怒りマークを浮かべる。うん、見なかったことにして話し続けよう。

「ねぇ、知り合いに料理スキルを上げている人とかいないの? どうせモテるんだから、いるはずだよね」
「後半、言葉に悪意があったようだが……あいにくそんな奴い……」
「キリト君」

 誰が言葉を挟みかけて、キリトの背後から肩をつつかれた。
 キリトは左肩に触れたまま相手の手を素早く掴んで「シェフ捕獲」と、振り向きざまに言った。
 どうやら兄のくせして、知り合いがいたらしい。私も振り返ればキリトの手を掴まれたまま、いぶかしめな顔であとずさった。

「珍しいな、アスナ。こんなゴミ溜めに顔を出すなんて」

 その人の名はアスナ。私と同じ女性プレイヤーだ。

「なによ。もうすぐ次のボス交流だから、ちゃんと生きているか確認に来てあげたじゃない」
「フレンドリストに登録してんだから、それくらい判るだろ。そもそもマップでフレンド追跡したからここに来られたんだろ?」

 …………。
 ……キリトのくせに、こんな茶髪美人と知り合いとかどういうことだよ。つか、その子、私好みの可愛くて美人さんじゃないか。それなのに、なんかさ……なんか、なんか嫌なフラグの匂いがする。
 あ、兄の――兄のアホ――――ッ!! もう、エギルとか護衛のABCの三人組とかどうでもいい。とりあえず、私も接する!

「キリト……私に彼女の紹介してくれない?」
「あれ? 知らなかったか?」
「良いから紹介してよ」

 相手が誰だろうが、知っていたとしても。私に紹介するのが兄の役目だと勝手に思うんだけどなー。なんて、良く見ればキリトの言う通り、知っている人物でした。

「ボス戦で何回か顔合わせているだろ? まぁ、紹介するか、『血盟騎士団』のアスナだ。で、アスナ、こっちは俺と同じソロプレイヤーのキリカ」
「いや、知っていたし、会話もしたことあるから。それもこれもキリトのせい」
「なんでだよ、おい」

 理不尽にキリトのせいにして、アスナの方へ視線を向ける。
 純白と真紅に彩られたその騎士服、誰もが認める最強のプレイヤーギルド『血聖騎士団』『Knights of the Blood』の頭文字を取ってKoBとも呼ばれる。そしてアスナと言えば、そのギルドにおいて副団長を務めているという、凄腕のプレイヤー。細剣述は『閃光』と異名を持っている。

「うちのキリトがお世話になっていますー。こいつ生意気ですみませんね~。迷惑かけていませんか?」
「なんで、近所のおばさんぽくなっているんだよ。あ、気をつけろよ、アスナ。こいつ見た目はいいが、ぶっちゃけ中身はざけぶっ!?」

 余計なこと+キリトのくせに=で、問題にならない力加減で腹に肘打ちを喰らわせた。ちょっと黙ってほしいな。始めが肝心なんだから。
 そんなやり取りにアスナは苦笑いしながら話しかけてくれた。

「キリト君には、そ、その……いろいろとお世話になっています」

 まぁ、ボス戦とかソロプレイヤーとギルドは協力するけど……。な、何でほんのり頬が赤くなっているの? ま、まさか!?

「ふんっ!」
「ごほっ」

 再び問題ならない程度に腹に肘打ちをキリトに喰らわせた。

「お、おい! さっきから何するんだよ!」
「悟りなさい」
「ど、どう言うことだよ……っ!」

 残念ながら、アスナさんはすでにフラグがかかってしまったようだ。
 く、くそっ! うらやましい……じゃなくて、恋愛は自由だけど、ここはギャルゲーじゃないのよ! 現実世界ではモテなかったキリトが、こんなどこの二次元にいてもヒロイン美人のアスナから好意を抱いているなんて、なんか理不尽!
 だけど仕方ない。本当に仕方がなく、私は応援しているよ。でも、しぶしぶね!
 アスナ、頑張ってね。相手は鈍感だと思うけど。フラれたら私のところに来てね。へこませるくらいにしてやるから。

「ところでなによ、シェフどうこうって」
「あ、そうだった。お前、今、料理スキルの熟年度どのへん?」

 どうやらキリトにとって、ラグー・ラビットの肉の扱えるシェフかもしれない。それは私にとっても同じになる。
 キリトの問いに、彼女は不敵な笑みを滲ませると答えた。

「聞いて驚きなさい、先週にコンプリートしたわ」
「なぬっ!」

 キリトは驚き。

「なん……だと!?」

 私は少々大げに驚いた。ちょっとわざとらしくしてしまったが、驚いたことには変わりない。これは期待大だ。だって、アスナが言っていることは結果、ラグー・ラビットの肉を料理出来るって言うことになるんだから。
 熟練度はスキルを使用する度に気が遠くなるほどの遅々とした速度で上昇してゆき、最終的に熟年度1000に達したところで完全習得となる。ちなみに経験値によって上昇するレベルはそれとはまた別で、レベルアップで上昇するのはHPと筋肉、敏捷力(びんしょうりょく)のステータス、それにスキルスロットと言う習得可能スキル限度数だけだ。
 私は現在、十二のスキルスロットを持つが、完全習得に達しているのはカタナスキルと、一ヶ月くらい前にコンプリートした裁縫スキルに、特集で“一部しか知らないスキル”の三つだけである。
 キリトは戦闘の役に立たないスキルをつぎ込んだと思っているけど、そのおかげで食べられるかもしれないのよ? 戦闘以外のスキルをバカにしちゃいけないよ。

「よし、その腕を」
「アスナさん、いえ、アスナ様!!」
「おい、お前!」
「キリトは黙ってて、女装が似合う顔立ちのくせに!」
「今関係ないだろそれ!」
「別の人に作って貰えって言ってるの!」
「さっきの言っていることと絶対に違うよな?」

 私だってラグー・ラビットの肉を食べたいんだから、こういうのはレディーファーストって言うでしょ? ちょっと我慢して。
 私はアイテムウィンドウを他人にも見える可視モードにして示した。いぶかしげに覗きこんだアスナさん、いやアスナ様は、表示されているアイテム名を一瞥するや眼を丸くしてしまった。

「うわっ! こ……これ、S級食材!?」
「実はキリトも持っているんです、生意気ですよね~」
「生意気関係ないだろ」

 いや、生意気なところあるよ、キリト。

「そ・こ・で、アスナさんにはラグー・ラビットの肉を調理できませんかね? 取引はキリトのラグー・ラビットの肉を食べていいですから」
「それは取引とは言わないだろ。アスナ、こいつの言うことなんか、まったく聞かなくていいからな」
「ちょっと、それじゃ取り引き出来ないじゃない! たかがラグー・ラビットの肉でしょ!?」
「勝手なこと言うな! つか、それは取引じゃないだろ!」

 剣と剣が交差し火花が散すように双子の兄妹は(にら)み合った。他所から見ればソロプレイヤー同士のケンカに見えるが、私達兄妹はケンカじゃなくケンカ風はただある。ケンカ風はケンカと違って、すぐに仲良くなれるし、からかいとケンカの境みたいなものだ。
 だから、からかうのもこのへんにしようかと思ったら、

「二人共! こんなところでケンカはやめなさい!」

 私達の間にアスナさんが入り、互いの肩に手を当てられて引き離した。
 ……怒られた。まぁ、私が滅茶苦茶なこと言っているから悪いのは同然か、反省。
 そしてどうやら、アスナさんは風紀員に似合う生真面目な人らしい。うん、似合いそうだ。

「ケンカって……アスナ、別に殴り合いの展開にはならないから安心しろ、」
「でも、キリトが素直にあげたらよかったんだよ」
「そんな結論にはならないからな」
「いやなるよ。キリトが素直にあげたら、アスナ様にも注意されずに済んだから」
「元を辿れば、お前が無茶苦茶なこと言っているからだろ」

 その通りなんだけど、やっぱりムカつくんだよね。アスナさんからキリトに恋をしているってさ。そこは多少許してほしい。
 熱を冷めずにまた口論に発展しようとしていた私達を見て、アスナはうんざりした様子なのか、考え始めた。そして額に手を当て、ピカンと電球マークが浮かび上がったように提案してきた。

「じゃあ、皆で仲良く食べましょう」
「「え~」」
「いいわよね、二人共?」
「え、え…」

 キリトが反対する前にアスナさんが右手をキリトの胸倉をガッシと掴み、そのまま顔を数センチの距離までぐいと寄せる。

「い・い・わ・よ・ね?」

 アスナの顔は笑顔だけど、楽しいとか嬉しいとか喜びの笑顔ではなく、脅しの笑顔をしていた。
 そうじゃなくても、不意打ちにドギマギしたキリトは頷いてしまった。アスナさんは笑顔でこちらへ向いてきたので、私は脅される前に頷いた。仕方ない、アスナと一緒に食事するためなら、キリトも一緒でも構わないわ。
 
「悪いな、そんな訳で取引は中止だ」

 キリトは振り向き、エギルの取引を断った。そう言えば私も取引しに来たんだっけな、アスナさんのことですっかり忘れていたわ。

「あ、私も中止ね」
「いや、それはいいけどよ……。なあ、オレ達ダチだよな? な? オレにも」
「嫌」
「即答かよ!? まだ言い終わってないぞ!」
「だ~め」
「せめて聞いてから断れよ! なぁ、キリト、何か言ってくれよ。オレにも味見くらい……」
「感想文を八百字以内で書いてきてやるよ」
「そりゃあないだろ!」

 キリトのとどめの言葉。それはこの世の終わりか、といった顔でエギルは情けない声を出していた。悪いね、エギル。自分で手に入れてね。

「じゃあ、あとは場所だね。キリトは論外として……」
「わ、悪かったな、論外で」

 料理スキルは、料理道具と釜戸、オーブンの(たぐい)が最低限必要になる。キリトの部屋は行ったことあるから論外だと言える。キリトの部屋は、それはそれはとても女の子を招く部屋ではなかった。例えるなら、女子を招くことを想定してない一人暮らしの部屋だったわ。
 それなら、私の部屋か。あ、でも私も人を招くような部屋じゃないんだよなぁ……。 
 どこで調理するか悩んでいるのを見越したアスナは、ありがたい提案を発言してくれた。 

「じゃあ、今回だけ、食材に免じてわたしの部屋を提供してあげなくもないけど」
「是非ともお願い致します!」
「お、おい。つかお前は少し遠慮しろよ……」

 言っておくけど、選択はそれしかないの。アスナの家で食べるほうがいいんだって。だから私は遠慮などしない。兄は戸惑っているけど、反対したら元の項もないのよ。
 そういうことで、今晩はアスナの家でお食事会を開くことに決定。すると、アスナは護衛ギルドメンバーABCの三人に向き直って、命じた。

「今日はここから直接『セリムブルグ』まで転移するから、護衛はもういいです。お疲れ様」

 思ったんだけどさ、護衛いるの? ABC?
 それはともかく、アスナの命に、護衛Aが気にくわない様子でいた。……いや、正確に言えばキリトが気にくわないみたいでいた。彼の視線はアスナではなく、キリトにまるでゴミを見るような眼をしていた。それでも、アスナの命じには、賛成できないことは同じか。
 そして、護衛Aは我慢の限界に達したとでも言うように荒々しい言葉を発した。

「ア……アスナ様! こんなスラムに足をお運びになるだけに留まらず、素性の知れぬ奴らを自宅に伴うなどと、とんでもない事です!」

 護衛Aはなんか口調と容姿も合わさって、ネチネチしてそう。よくて噛ませ役、悪くてやられ役。あれ、一緒か。
 ともかく、様づけ相当にアスナはうんざりとした表情である。

「キリト君はね、腕だけは確かだわ。それに……」

 ちらっと私の方を見て、向き直した。

「彼女も腕はあるのよ。多分あなたより十はレベルが上よ、クラディール」

 護衛Aはクラディールと言うのか。と言うか可愛い上げすぎじゃないですか? 私はそんなに強くはないですよ。
 ゴミ扱いに似た私達双子の強さを聞かれた、護衛Aことクラディールは信じられない様子でいた。

「な、何を馬鹿な! 私がこんな奴に劣るなどと……!」

 そう言われても、嘘はついていない。私はともかく、キリトは『ソードアート・オンライン』の『ベーターテスター』なんだ。それは、もう、腕も確かで、情報も持っている。そんなキリトに、私は兄の経験をもとにマネして覚えて、独自の解釈を得て、ソロになってここまでたどり着けることができた。

「だが、アス」

 諦めが悪いのか、理由つけて、どうにかキリトと一緒にいるのを避けようとする言葉をかけた時。

「騒がしいのだけど?」

 透き通った、雪の結晶のような綺麗な声色が響き耳に入る。

「醜い争いなら、私のいないところでやってほしいわ」

 それと、どこか印象に残る声。

「苦労しているわね、アスナ。ギルドやめて、ソロになったらどうかしら?」

 長すぎる黒髪に、全身漆黒と蒼色に彩られた和風チックな服装。まるで、雪の世界に光臨した大和撫子。そんな美少女が私達の目の前に現れた。

「ド、ドウセツ?」

 アスナはここに現れることを想像にしてなかったので、驚きながら彼女の名前、ドウセツを呼ぶ。

「ドウセツ!」

 しかし、驚く以外にも名を呼ぶ人がいた。眼鏡で嫌味そうな黒髪の護衛Cがドウセツに、怒りに近い|憎々(にくにく)しげに声を発した。

「ドウセツ! 貴様はアスナ副団長に泥を塗った『裏切り者』が安々とアスナ副団長のところへ現れるな!」
「エギルさん。取引お願いします」
「お、おう……」

 ドウセツさんは護衛Cの言葉を無視して、エギルに買い取りをする。護衛Cのことなんか目に入っていなかった。
 無愛想と言うか、マイペースと言うか、クールな人。変わっていない、初めて会った時も彼女はそうだった。
 無視された護衛Cは、無視されたことに油が注がれ、冷静に対照出来ずに勢いづいて叫んだように発した。

「き、貴様ァ! 『ビーター』のくせに、我々やアスナ様を裏切ったくせに、冷ました顔をしてムカつくんだよ!! 」
「うるさいわね、ストロングス。貴方が言う、『ビーター』って比較したところでなに? 現実世界にしても、ゲームにしても、不平等あってこそ成り立つものでしょ?」
「黙れ!」

『ビーター』
『ビーター』は先ほどのベーターテスターに、ズルする奴を指す『チーター』を掛け合わせた言葉。ソードアート・オンラインの悪罵として使われている。自分達だけ有利でずるいという妬みであるんだけど、仕方ないものか。この世界はゲームだけど、遊びではなくなった。自分だけ良いの持っていてずるいって思うのは仕方ないかもしれない。
 それにしてもドウセツはブレることなく冷静に言う。

「黙ってほしいのは貴方よ。うるさいだけ。それに『ビーター』に嫉妬したり、私に怨みを抱いたりする暇があれば力をつけなさいよ。それと、もう少し冷静対処できたら? あ、出来ない性格だったわね。無駄に声がうるさいだけの必要ない猛犬さんだったね、失礼」
「き、貴様ぁぁぁぁぁっ!!」

 流石にこの状況は不味いと思ったのか、アスナが宥めようとする。

「ストロングス。ドウセツは悪気があったわけじゃないのよ」
「悪気があって言ったわ」
「ドウセツ!」

 あまりにもクールかつ自分を突き通す態度に私もキリトも呆然とするしかなかった。

「と、ともかく護衛の皆さん。今日はここで帰りなさい! 副団長として命令します!」

 ガシッっと、左手でキリトの手を掴んで、右手でドウセツの手を掴んで引きずりながらグイグイと、ゲート広場へと足を向かった。
 置いてけぼりにされた私は後についていく。

「お……おいおい、いいのか?」
「いいんです!」
「まだ買い取り終わってないわよ? 勝手に連行しないでくれる?」
「あれほど挑発し過ぎるのは駄目って言ったでしょ! 今日はラグー・ラビットの肉を料理して半分食べていいから、お説教しますからね!」
「買い取りの邪魔したのだから、お説教は省かせてもらうわね」
「ドウセツがストロングスを怒らせるからでしょ!」

 どうやら、流れで一人追加されるようだ。でも、それでいいと思った。久々に彼女と話せる機会に触れることができるのだから。
 
「ドウセツ」

 私はドウセツに声をかけた。

「あら、『白の剣士』さん。いたのね」
「いたって、エギルのところにいましたよ。つか、お久しぶり」
「そうね……」

 第一層の時から、ドウセツはキリト並に優れる腕を持っていた。ベータテスト中にキリトと同様に誰も到達出来ない層へ行ったと思う。ドウセツは昔からクールで慣れ合いを好まない一匹狼。そんな彼女がどのような形で入ったのかは知らないが、血聖騎士団に入団。その腕前は『閃光』のアスナと並べられていて、アスナが光ならドウセツは対比する陰の『漆黒』の二つ名がつけられた。でも、そんな彼女は四十九層攻略中に脱退した。
 あまりにも突然すぎる脱退は噂になったらしい。ふとした小さな噂が大きな噂になったのが、護衛cが言った『裏切り者』である。
 そして今ではソロプレイヤーでは誰もが知る、剣閃使いの抜刀、『漆黒』のドウセツと呼ばれている。
 彼女とはボス攻略の時にちょくちょく会うが会話はいつぶりだろうか。私のことを『白の剣士』と呼んでいるから、ドウセツも私と話すのはいつぶりなんだろう。その話は機会があれば二人っきりで話したいな。
 ふと、視線をキリトに移すと、女の子の部屋に行くことになったから、どこかしら緊張している様子だった。基本的に生意気なキリトと生真面目で可憐のアスナ。それに加えて、クールで猛毒舌のドウセツ。と私。なんだ、男性はキリトだけか、これじゃあ、キリトがハーレム状態になってしまうのではないか。生意気キリトめ。まぁ、別にいいけど。ドウセツも私もキリトに関しては恋愛対象として見ていないから、アスナといちゃいちゃしてればいいんじゃないの? ムカつくけど。
 今日は良いことづくしの日だと浮かれていた私は、後ろからの冷たい視線がなんなのか気づくことはできたけど、それがなんなのかは気づくことはできなかった。 
 

 
後書き
SAOツインズ追加
イービルラビットマン
まだよくSAOのことを知らなかったオリジナルモンスター。今思えば、盗賊系のゴブリンで十分だったかもしれないww

ストロングス
今作ヒロインである、ドウセツの敵対するためとドウセツがどのようなキャラであるのを知らせるために作り上げたキャラ。イメージは敵キャラにいそうな外見。 
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