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万華鏡

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プレリュードその九


「一旦入部したら退部できないんだって」
「退部は駄目なの」
「掛け持ちはいいけれどね」
 だがだ。退部はだというのだ。
「辞めるのは駄目なの」
「ううん。幽霊部員っていうのもね」
「あまりよくないわよね」
「私は嫌いよ」
 琴乃の性分だった。一旦入ったらとことんまでやらなければならない、彼女はこうした考えなので幽霊部員になるというのも嫌だったのだ。
 それでだ。こう里香に言ったのである。
「そうしたことは」
「そうなのね。私もね」
「里香ちゃんもなのね」
「ええ、やるからにはね」
 それならばだというのだ。
「やっぱり真面目にやらないとね」
「そうよね。幽霊部員とかはね」
「よくないと思うから」
「じゃあやっぱり雅楽部は止めておきましょう」
 これが琴乃の出した結論だった。
「他の部活にしましょう」
「何処がいいかしら。それじゃあ」
「そうね。吹奏楽部もあるわね」
 琴乃は今度は吹奏楽部を見た。丁度全員で演奏をしていた。吹奏楽部の制服、詰襟の軍服を思わせるそれを着て演奏をしている。
 それを見てだ。琴乃は里香にまた尋ねたのである。
「ここどう?」
「吹奏楽?」
「そう。どうかしら」
「ううんと。そうね」
 首を少し捻ってだ。里香は琴乃のその言葉に応えた。
「私吹奏楽結構好きなの」
「じゃあここにする?」
「そうしようかしら」
 傾きかけた。だが、だった。
 ふと右手に今度は管弦楽部が目に入った。そのオーケストラを聴いてだ。
 里香は目を瞠った。それでこう琴乃に言ったのだった。
「えっ、この学校って」
「うん。オーケストラもあるのね」
「それもよ。本格的だけれど」
「私もちょっとね」
「びっくりしてる?」
「ええ」
 そうだとだ。琴乃はそのオーケストラの演奏を聴きながら里香に答える。
「驚かない筈がないわ。けれど」
「けれど?」
「何か凄過ぎて。ここも」
 雅楽部と同じ理由でだった。
「ちょっとね」
「入部にはなのね」
「そんな感じになるわ」
「じゃあやっぱり吹奏楽部にする?」
「そうする?一緒に入る?」
「そうしましょう」 
 こうしてだ。二人は吹奏楽部に入ろうとした。だがだった。
 ここでだ。先程の茶髪で長身の新入生が二人のところに来た。ついつい里香にぶつかってしまったのだ。里香はそれを受けて少しよろめいた。だがその彼女を。
 咄嗟に琴乃が支えた。それは彼女だけでなく。
 新入生もだった。里香を咄嗟に支えに来たのである。そのうえでこう里香に言ってきた。
「悪い、大丈夫か」
「あっ、大丈夫よ」
 里香はその新入生に応える。琴乃に後ろから支えてもらいながら。
「私も前を見てなかったから」
「あたしもだよ。悪いね本当に」
「気にしないで。何もなかったから」
「だといいけれどさ。ところでな」
「ところでって?」
「あんた達部活探してるんだよな」
 新入生はこう二人に問うてきた。 
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