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万華鏡

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第十話 五月その一


               第十話  五月
 琴乃は自分の教室で里香と話をしていた。里香は琴乃の席の前に自分の椅子を持って来て座りこう言った。
「ゴールデンウィークは終わったけれどね」
「それでもよね」
「うん、やっぱりね」
 こう笑顔で琴乃に言うのである。
「五月よね」
「五月よって?」
「五月って皐月があるじゃない」
「あの花のことなの」
「私皐月好きなの」
「あっ、そうだったの」
「お花は何でも好きだけれど」
 その中でもだというのだ。
「五月のお花だとね」
「皐月が一番好きなの」
「そうなの。赤とか白とかピンクとか」
「緑の丸い中に咲いてね」
「それが好きなの。ただ蜂も寄りやすいけれど」
「えっ、蜂」
 琴乃は蜂と聞いてすぐに嫌な顔になった。
「そういえばお花っていえば蜂よね」
「特に皐月には多いのよね」
「そうね。ミツバチとかクマンバチとか」
「だから下手に近寄ったら危ないのよね」
「刺されるからね」 
 何故蜂が危ないか、これに尽きる。
「だからね」
「そうよね。私蜂は」
「苦手?」
「だって刺すじゃない」
「だからなのね」
「そう、嫌いなの」
 こう里香に言う。
「死ぬしね、刺されたら」
「スズメバチだと特にね」
「普通の蜂でも死ぬわよね」
「一回刺されたら抗体が出来るけれど」
 少し聴くといいことだが実はこの抗体が厄介なのだ。
「それが下手に反発するから」
「それで二度目は」
「本当に死ぬから」
「やっぱり特にスズメバチは、なのね」
「あれは蠍より怖いらしいから」
 里香もスズメバチについては特に言う。
「もう何度も刺すし」
「何度もなの」
「そう、ミツバチは一回刺したら針が内臓ごと出て死ぬけれど」
 一度刺したら死ぬ、の言葉通りミツバチはそうなるのだ。ミツバチにとって攻撃はまさに命を賭けたものなのだ。
「それでもね」
「スズメバチは違ってなのね」
「何度も何度も刺してくるから余計に危ないから」
「本当に蠍より怖いのね」
「そうなの。特に」
 ここでまた言う里香だった。
「スズメバチは牙もあるから」
「噛んでもくるのね」
「刺すのと同時に噛んでもくるのよ」 
 その口がまたやけに鋭いのだ。しかもかなり禍々しい。
「大抵群れで来るし」
「怖い要素がどんどん出て来るね」
「民家の傍にも巣を作るから注意してね」
「何でそんな怖いのが日本にいるのかしら」
「まあそれは言わない約束で」
「とにかく怖いのね」
「そう。気をつけてね」
 里香は琴乃にスズメバチの恐ろしさを細かく話す。とにかく日本にはそうした恐ろしい生物がいるということは琴乃もよく知った。
 その話の後で琴乃は何となく窓を見た。するとそこには。
「蜂いるけれど」
「あの蜂は」
 里香もその窓の方を見て言う。 
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