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カンピオーネ!5人”の”神殺し

作者:芳奈
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第一部
  三月の戦闘 Ⅲ

【二一世紀初頭、新たにカンピオーネと確認された日本人についての報告書より抜粋】

 アペイロンとは、ギリシア語で『限定されないもの』の意であり、古代ギリシアの哲学者であるアナクシマンドロスが紀元前6世紀に提唱した宇宙論の中心的な概念です。彼の遺した資料はその殆どが失われており、詳細は明らかになっていませんが、彼は万物の根源(アルケー)は、無制限無限定な量―――すなわち、『アペイロン』―――であると考えていました。
 アペイロンは成熟することも衰退することもなく、新鮮な物質を永遠に生み出し続けており、我々生物が知覚対象とする全てのものは、これらの物質に由来しているとされています。ある種、原初の混沌(カオス)のことであると考えられていたようです。
 熱冷や乾湿といった両極の性質を併せ持ち、事物の運動を統御して、世界に現れる多数の形態や差異のすべてを生じさせると言われています。
 
 ―――すなわち、アペイロンとは、全ての属性を併せ持ち、永遠に朽ちないという、【混沌】【無限】という概念を神格化した神であると言えるでしょう。
 名護屋河鈴蘭は、この無限の象徴とも言える神を殺害し、カンピオーネとなった女性なのです。


――――――――――――――――――――――――――――――――



「いやー、翔希は強かったなぁー!あれで、同類(カンピオーネ)になってまだ半年もたってないなんて信じられないよ。他の三人も、これくらい強いのかな。」

 【剣の王】と呼ばれるサルバトーレ・ドニは、翔希との戦闘の後、上機嫌で様々な場所を徘徊していた。それこそ、無駄なスキルを無駄に高レベルで駆使して、自身を発見し、本国へ連れ戻そうとする【王の執事】アンドレアやその部下たちから逃げながらである。

 しかし、【王の執事】に協力を要請された、この国を牛耳る正史編纂委員会の目からは流石に逃れる事は出来ず、翌日の深夜、遂に追い詰められてしまった。しかし、流石にカンピオーネであると言える。この国の裏を知り尽くしている組織から、丸一日も逃げ延びたのだ。それも、殆ど暴力に頼らずに。

「さあ、これ以上面倒を起こさないうちに帰るぞこの馬鹿!」

 二人きりの時ならまだしも、普段なら他人の目がある場所で、自身の主であるドニにこんな言い方はしないアンドレアなのだが・・・今回は流石に心労が大きかったと見える。

 他国のカンピオーネが、他のカンピオーネが支配する土地に、誰にも許可を取らず勝手に現地入り。挙句に、既に【魔眼の王】長谷部翔希に喧嘩を売り戦闘しているのだ。その後も他のカンピオーネを探して徘徊する彼を捕らえる為に、正史編纂委員会の力まで借りた。きっと彼は方々に頭を下げて回ったのだろう。とてもやつれていた。

「まさか、ここまで来て帰る事なんて出来る訳がないじゃないか!他のカンピオーネとも戦ってみたいんだ!」

 元気よくそう言い放った彼は、背負っていたゴルフバックのような物から剣を取り出した。

「悪いけど、これだけはどうしても譲れないんだ。昨日翔希と戦って火が付いちゃってね!せめてもう一戦!それくらいはしないと、帰る気にはならないな!」

 邪魔するなら押し通る!と叫ばれ、顔面蒼白になるアンドレア。彼は悟ったのだ。

(この馬鹿本気だー!!)

 こうなった彼は誰にも止められない。それこそ、同じカンピオーネか、神々くらいしか彼を止めることなど出来はしない。

「・・・仕方がない・・・・・・。この手だけは使いたくなかったのだが・・・!」

 彼は悲痛な表情で、空に向けて叫んだ。

「お願いいたします!死なない程度にボコボコにしてください!」

「は~い!毎度有り~!」

 その時、どこからか女性の声が響いた。

「これは・・・!?」

 アンドレア達とドニの中間あたりの空間が歪む。次の瞬間、そこにはメイドが立っていた。

「・・・え、メイド?」

 流石のドニも、この状況についていけていないのか、ポカンとその女性を見ている。

 どこの世界に、深夜だというのに高級そうなサングラスをかけ、M16を首から下げながら、超高等魔術である空間転移をしてくるメイドがいるというのか?かなりの美少女、または美女に見えるのだが、そのファッションセンスと、ニヤニヤと軽薄に笑う顔がその美貌を台無しにしている。

「私は、この国のカンピオーネの一人、【聖魔王】名護屋河鈴蘭!貴方を倒して、報酬を頂く!」

 そう言いながら彼女は、指をパチンと鳴らす。その瞬間・・・

「グッ・・・!?」

 非常に不快な感覚が、その場にいた全員を襲った。バチン!と何かが弾けるような音と共に、周囲の景色が歪み・・・次の瞬間、世界は静寂に包まれた。街中であったため、少なからず存在した筈の一般人。犬や猫などの動物。それら全てが消え去り、今この世界に存在するのは彼らと無機物のみ。

「・・・は?」

 それは、誰の言葉だったのだろうか?あまりにも彼らの常識から外れたこの現象は、彼らの言葉をなくすのには十分すぎた。

「隔離世。私たちはこう呼んでいる世界。貴方たちの言葉ではアストラル界って言うんだっけ?流石に、御老公とやらが居る領域まで潜る(・・・・・・・・・・・・・・・)のは貴方たちに負担が大きいから、この浅い階層で戦おうね。」

「何だ・・・ソレは。」

 アンドレアは、思わず呟いていた。

(それでは・・・それではまるで、アストラル界に階層がある(・・・・・)ような言い方ではないか・・・!)

 そんな話は今まで聞いたことがない。そもそも、アストラル界に渡るなど、かなり大掛かりな儀式魔術でも使用しない限り不可能だ。それを、こうも簡単に、しかもその場の全員を転移させるなど・・・と、そこまで考えて、アンドレアは思った。

(成程・・・日本(ココ)は確かに【魔界】だ。我々の知らない法則、常識が溢れている。コレは、今後の対応を考えたほうがいいな・・・)

 彼らの常識では、アストラル界には普通の生物は出入り出来ない。それこそ、魔女の才能を持つものなどの、ごく一部の人間でなければ不可能だ。それは、難易度云々というよりも、アストラル界に体がついて行けないからである。

 開闢から全ての歴史を内包していると言われているアストラル界は、普通の人間には毒でしかない。アンドレア自身、こうしてアストラル界に入ったのは始めてであった。

「ここなら現実世界に影響を与えずに戦闘できるよ。浅い階層だから、何の害もないし!」

 と笑いながら、鈴蘭はアンドレアに向き直り、

「じゃ、成功したら二億円。約束は守ってね!」

「わ、わかっております・・・。」

 今日、ドニをどうやって連れ帰ろうかと悩んでいた彼の前に、突然鈴蘭が現れて言ったのだ。

 『私が追い払ってあげる』と。

 その代わりに報酬を要求されたのだが、たかが二億でこの問題を解決出来るのならそれが一番だと思い、この要求を飲んだのだった。

 鈴蘭としても、このままではいずれドニと戦うことになったのだから、それを先回りして仕事にしてしまおうという魂胆だった。人生は面白可笑しく。弾丸の一発でフェラーリを稼ぎだせを信条とする彼女である。タダ働きなど以ての外だった。本来は骨折り損のくたびれ儲けになる筈だったのが、臨時収入として利用出来るようになったのだから喜んだ。

 アンドレアは、これ以上馬鹿(ドニ)が問題を起こす前に止めたい。

 鈴蘭は、何の利益にもならない戦いはしたくない。

 二人の利益が重なった瞬間であった。

 もっとも、アンドレアは鈴蘭がドニを倒せるとは思っていない。カンピオーネになってたったの数カ月。たった一つしか権能を持っていない彼女に、歴戦の戦士である【剣の王】が負けるとは思えなかった。だが、いい勝負をしてくれさえすれば、ドニも満足して帰ってくれるかもしれないという考えである。神々の権能というのは特殊なものも数多くあり、一概にどれが強いとは言えないのだが、それでもドニの勝利を信じて疑わないあたり、主人への信頼が見え隠れする。

「じゃぁ・・・。」

 そう言いながらM16をドニに向ける鈴蘭。

「ヤバっ・・・!?」

 本来、カンピオーネがそんな銃器で傷つく筈がない。特にこのドニならば、【鋼の加護(マン・オブ・スチール)】を使用すれば、例えアンチ・マテリアル・ライフル弾の直撃すら軽々防ぐだろう。だからドニは、ホンの少しだけ【鋼の加護(マン・オブ・スチール)】を発動するべきだと考えていた。この権能は、体の硬度を飛躍的に上昇させる代わりに重量も極端に増える。強く発動すればするだけ、突撃の速度が下がるのだ。故に、近接戦闘能力しかない彼はこの権能を強く発動することを嫌う。

 ・・・のだが、今の彼はそんなことを考えていられるほど余裕では無かった。カンピオーネならば誰もが持っている超直感。それが最大警鐘を鳴らしていたのだ。アレを無防備に受けるのはマズイと。

 その直感に従い、彼は【鋼の加護(マン・オブ・スチール)】を最大発動した。彼の周囲に、煌々と輝く多数のルーン文字が出現する。それは、翔希との戦いで使用したよりも遥かに強い発動。

 ・・・この直感に従った事が、ドニを助けた。

 ドガガガガガガガガガガガガガガ!!!

「い、痛い痛い痛い!!イタタタタタタタタタ!?」

 鈴蘭のM16から、銃弾がばら蒔かれた。ソレは、一発一発が爆撃レベルの威力を持っており、ドニと、その周囲を削っていく。隔離世の中の道路が、ビル群が、無残に破壊されていく。

(こ、この弾丸、明らかにヤバイレベルの呪力が込められてる!?)

 流石のドニも、この猛攻には手も足も出ない。何故なら、昨日翔希が撃ってきたライトニング・エクスプロージョンにも匹敵、もしくは凌駕する程の呪力が、一発一発に込められている(・・・・・・・・・・・・)のだ。

(でも、これ程の呪力を使っていたら、いくらカンピオーネといえども呪力が尽きる!そこを狙う!)

 彼は、ただ耐えることにした。この弾丸は威力も高いし衝撃も大きい。流石の【鋼の加護(マン・オブ・スチール)】でも、この銃弾の嵐の中を進むのは難しいと判断した。自分がいくら前に進もうが、敵が後退すれば一緒なのだから。特に、今の敵である鈴蘭は、空間転移などという超高等魔術を涼しい表情で行使する相手である。それならば敵の力が尽きるのを待つほうが賢明だ。

呪力切れ(弾切れ)を狙っているなら意味ないよ。」

 だが、防御の姿勢をとってひたすらに耐えるドニに、無慈悲な台詞が投げかけられた。その言葉の意味を彼が理解するより先に、鈴蘭の言霊が隔離世に響く。

「我は万物の父であり母である。この世の全ては我に由来し、我が支配出来ない者など存在しない。我は至高の存在也!」

 傲慢とも言えるその言霊。それが唱えられた瞬間・・・。

 ―――爆発した。

 


 
 

 
後書き
鈴蘭の言霊考えるのに凄い時間使ってます。でも、何か微妙なんですよね・・・。このあとの話で彼女の権能の能力が出たあと、『こういう言霊のほうがいいんじゃない?』っていうのがあったらコメントしてくれると嬉しいです。それがマッチするなら、それに差し替えます。 
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