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帝国兵となってしまった。

作者:連邦士官
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23


  「そんなことはない。私の心はここにある。あちら側にはないさ。」
 そうは言うものの内心、俺はかなりゲッソリしていた。否、ゲッソリしかしていない。どうしてだろうか一般人の俺がなんでこんな目に合うのかな。いやだが今こうやって、俺は後方にいるだけだが、この今にも兵士たちが長らく続く塹壕での戦闘の中にいる最前線に気持ちを馳せた。窓を見る雨が降っていた。

 そこは焼けたような土埃の匂いがする。塹壕から出た兵士が突撃と言われてわけも分からず進み、新兵故に乱射をする。それを止めるはずの軍曹なども皆新兵で木霊するように敵味方が射程圏も無しに撃ちまくる。そして、眼前に敵を捉えて両手にライフルを持った兵士が叫び声を上げて引き金を引くが弾が切れているから、そのライフルを捨ててお互いに殴り合う、その上を飛ぶパイロット達は敵味方関係なしに彼らに砲火を浴びせる。

 その舞台である当のイスパニア国民は安全で自分たちが関係ない戦場で野蛮人が殺し合ってるぐらいにしか考えてない。それにどちらが税金が安いかが彼らには大事なのだ。どんなに大義を掲げようが人々には暮らしがある。営みこそが、彼らの胃を満たしてくれるものが正義なのだ。

 「不思議だな。」
 誰もがイスパニアのためと言いながらも誰も市民の顔を見ようとはしない。自分の正義のために殉ずるのがかっこいいと言わんばかりだ。殉ずるのが正義なら残された者は悪で卑怯者か?しかし、親しいものはそれでも死んでほしくないはずだ。両側ともに誰かの子で、誰かの兄弟で、誰かの親で‥‥卑怯でも生きてほしい人間が必ずいるはずだ。身寄りがなくても友とかが待っているだろうになのにこうやって死に向かう。それを盛り囃し立てるマスコミ・メディアがいる。こうしている間にもそれに煽られた若者が死に、年寄りは長生きをし何も変わらないのかもしれない。

 しかし、若者にはない知見で年寄りは目に見えない形で若者を生かすのだ。真新しい情報はないがイスパニア共同体は死守命令を乱発しており、頼みの綱の同じ社会主義であるルーシーが帝国に対して宣戦布告をするという妄想に取り憑かれているらしい。それはありえない。ルーシーは今は粛清による立て直し期間であり、直接宣戦布告をされたならば戦うかもしれないが、決してする側ではない。まず、肥料や工作機械を帝国に彼らは頼っている。まだ5年計画の完遂はしていない。

 それにイスパニア共同体はルーシーの庇護下ではない。そして、同盟をしているわけでもない。結構な支援をしているので同盟を結んでいない相手に対する支援の義理は果たしている。肥料や工作機械ほどの重要度はイスパニア共同体にはないのだ。

 そんな話が出るのが末期の証拠であり、彼らが出すラジオからは、首都の近辺の街道を守る徴兵されたパン屋の娘が魔力を得て青く輝きながらイルドア軍を食い止めていると伝えていた。マルフーシャ・エレイシア・チェン・ウー・メルキオットという名前らしく、階級は上級准尉兼国民防衛隊十三英雄らしい。存在がプロパガンダだろ。話を聞くだけでイルドアの戦車16両、航空機42機、野砲18門、嚮導駆逐艦1隻、上陸艇70隻が撃滅されたらしく、13人もそんなやついてたまるかよ。更にはイスパニア共同体の星と言われ、クーデター軍やイルドアからは街道上の怪物というコードネームを頂いており、いわく、2個連隊が溶けたとか、彼女の部下13人で深夜の奇襲4200人をすべて跳ね除けたとか、帝国もその地域には警戒をするようにと何故か俺の部隊を差し向けるらしい。なんで?

 眼の前にいる彼らも正体はよくわからないが同じ戦線に行くのだから、彼らとも仲良くしないといけないよな。というか何だよそのパン屋の娘って‥‥ソイツなんだよ。なんで、本当にそんなのがいるとして人間なのか?資料については戦争伝説の一種と参謀本部は書いていたが、バークマンや帝国のスパイからは認識コードや名称に破壊された跡や死体袋の発注などがあるため実在の可能性が高いと言われている。

 もしかしてまさか、ターニャがなにかの手違いでイスパニアに行ったのか?イスパニアの軍人に拾われたとか、そうだとすればこちらに降伏するのだろうか?現状としては、クーデター軍やイルドアに降伏するよりも、帝国に降伏するのは得策といえばそうだろう。何故なら恨みが少ないのだから。

 しかし、情報を見る限り降伏するとしたら、イルドアだよな。イルドアには女性を尊ぶ文化があり、民兵の捕虜であっても接収したホテルの一室を与えられ士官待遇を受けると聞く。更にはゲリラ兵も女性であれば捕虜として待遇を受けるらしく、連合王国から紳士のバルブとあだ名されるぐらいにはそうしているようだ。

 また、歴戦の勇士には一般兵だろうが将校待遇で捕虜として扱っており、古き良き戦に栄えと華があった頃の善良な戦い方をしているとまで称されている。バークマンもバルブを褒めているし、出来るならパン屋の娘を見てみたいから捕虜にしてくれとも書いていた。

 そんなファミレスでドリンクバー行ってくるぐらいの気軽さで言われても困る。いやどう考えてもやばいだろ。そんなやつと戦えるのを喜んでいたのはリーデルくらいだ。

 「不思議ではない。この世界は明確な線引をしている。文化が違う、気候が違う、肌の色が違う、考え方が違う、違う違う違うで一時の力で主従になるのを繰り返す。結果的に我々はその理の中で生きるしかないのです。」
 いきなりなんだよ。そんな訳のわからないことを言われても困る。

 「だが、君たちは同じ人間だ。そんなことすぐにわかるだろう?理がそうならそれごと破壊し、前に進めばいい。それが生きている人間の特権だろう?」
 緑茶を飲む。するとマルセルが俺に向かって話しかけてきた。

 「ただそんな簡単なことのために我々は700年も待っています。700年は怨嗟の歴史であり、それを忘れて生きろとでも?」
 明らかに怒りを含んでいた。いや、怒りしかなかった。俺はそのマルセルに対して怒りがあった。

 「力による支配は反感しか買わない。クーデター軍やイスパニア共同体を見ればわかるだろう?力があるのは良いが力は行使するためにあるのではない。力のために力を集めればやがて力自体に支配される。であるのならば合法で進めるしかない。連合王国はあれでまだ理性的だ。理性と知性と知力は別に同じではない。彼らもまた苦しんでいるんだ。列強内でも国内搾取があるのだから仕方ない。仕方ないからと言って前に進まなくていいというわけじゃない。前に進むべきなのだ。」
 そう言い終わると料理が運ばれてきた。グリルチキンを引き裂いてそれにカレー粉をかけただけの簡素なものとフライドポテトだ。

 「とりあえずは軽食だが食べようか。」
 誤魔化せたなと席に座るとモーズレリィーが顔をしかめてすぐに茶を飲んだ。周りも似たような反応だ。少しパンが乾いているようだ。齧ってみる。確かに乾いている。

 「このパンは古いようだな。」
 誰かがいった。「そうだな。」と声が上がる。新しいものに変えてほしいのかこちらを見る。が、パン屋で思い出したことがある。

 「古いパンでも新しいやり方をすれば美味しくなるものだ。例えば湯を沸かしたポットを開けてその蒸気に当ててやるとこのとおり。また食べれるものだ。古いから悪いのではない。食べ方の問題だ。古いものを温める。温故知新だな。」
 などとつぶやきながら蒸気に当ててからサンドイッチを食べるとなるほど結構美味い。やり方によりけりなのだなぁ。

 「なるほど。そういう意味か。」
 モーズレリィーがこちらに来てサンドイッチを同じくやる。それを見た他の人々もそれをやる。宗教かな?

 「つまり、我々が古い体制を駄目だと決めつけるがそれは間違いで、古い体制をある程度継承しつつも新しいものを作り上げるべきだと言いたいわけですね?」
 そんなこと一言もいってないけど頭大丈夫か?これだから島国の奇妙なおっさんは困る。否定しようと口を開くが。

 「なるほど。」「だから、このサンドイッチなわけか。」「固定概念というやつか。」などなど賛同の声が上がり、一致する。サンドイッチだけに賛同を一致させなくていいから。そんな深い意味ないぞ。深淵をのぞく時、深淵もまたこちらをのぞいているのだという言葉があるが浅いものを深く見ようとする彼らは何がのぞいているのだろう?疲れたから頷くことにした。こんなことに体力を使うのは無駄だ。

 そこから2時間に及ぶ話し合いを終えたが、見知った顔が見えた。お前の名前は‥‥。

 「リーニャ・ガスコ・ベロー・デ・カッザ‥‥。」
 ソイツはこちらを見ていた。そして、床に座った。勘違いされるだろうが!だが聞きたいことはある。

 「待て!まず、お集まりになってくれた皆様、お帰りください。あそこの彼と私は話さねばならぬのです。」
 リーニャはやつれているようだった。それだけはわかった。そして、俺とリーニャを残して会場は静まり返った。

 「あの一回しかあったことがないがリーニャさん‥‥数カ月ぶりだな。死んだと聞いていたが。」
 リーニャは何も答えない。いや、嗚咽している。

 「すまない!こんなことになるとなんて思わなかったんだ!ただ俺はガスコ人が生きていていい地域を作りたかっただけなんだ!だが、俺がイルドアの誘いで死んだことにして、独立支援を貰いながら、帝国からも独立支援を貰い、連合王国からも武器援助を貰っただけなんだ!戦う気なんてなかった!ただ事件を起こして、それに乗じてガスコ人が民族意識を強くして、中央政府と戦える武器を持って交渉に望みたかっただけなんだ!俺は父親も母親もいない!誰かに褒められて認められて皆が笑えてそこに俺もいて憧れられたかった。昔話に出てくるような英雄になりたかった!ただそれだけなんだよ!リーニャさんならできると言われてそれが辛かった!こんなことになっても自分のせいだと言えなくて辛かった!俺が全部悪いんだよ!だからもうやめてくれ!俺を殺してくれてもいいだから、もう誰かが誰かを殺すなんて沢山なんだ!全部俺が悪いんだ!だから、戦場で死んでいってるみんなを止めてくれ!頼む!俺はもう俺自身が嫌いなんだ!嫌なんだ!助けてくれ!頼む‥‥頼むよ‥‥。」
 いきなり、情報のシャワー浴びせてくるな。知らん俺だけじゃもう止まらない。相手がいることだから。

 「リーニャさん、立ってくれ。まず最初に言わないといけない。これはリーニャさんが引き金になった話だ。引き金を引いてしまったんだからこの惨劇を止める語り部になれるのは貴方しかいない。貴方が終わらせるんだ。これは貴方が始めたことなんだから。その為には協力する。しかし、止めるのは始めた本人しか出来ないんだ。早く準備をしてくれ。イスパニア共同体を倒しに行くんだろ?その為には一人でも必要だ!誰かの犠牲の上に成り立ったのなら犠牲になった人間のためにも止まることは許されないんじゃないか?覚悟を決めて自分の臆病に縮まった背中を押すんだ。その先に道は続いている。なんの道かはリーニャさん。貴方が決めるんだ!どこにも逃げ場なんてないぞ!だから、立つんだ今から始めるんだ。ここから、今すぐに。やるんだ!死んだ人々を犬死ににしないためにその責任と義務がある。そうだろう?」
 とりあえず適当に対応しておく。ナニがそうだろうなのかは分からないがと相手に聞き返しとけば問題ないだろう。

 「もう辛いんだ‥‥立てない。もうどうしようもならない。俺にはできないんだ。俺は単なる有名になりたかっただけなんだよ。愛も知らないし、愛を受けた事はない。だから、地域を民族を愛していた。なのにどうして‥‥。やっぱり辛いんだよ。もう俺を楽にしてくれ‥‥もう駄目なんだよ。俺が、俺の、俺こそが悪いんだ。だから、俺を裁いてみんなを助けてくれ。俺にはもうできない。」
 はぁ?たかがそれぐらいで甘ったれるんじゃないよ!俺が何回そうなりかけたと思ってるんだ!お前だけが逃げれるわけ無いだろう!逃がすか!

 「つらいのか?だが、まだ足はある、手はある、口もある。無いのは勇気だけか?なら、まだやれるだろう?立てよ、リーニャ、お前は立たないといけない。あの爆発から決まったんだ!あの時から始まったんだ!だから、立てよ!みんなを‥‥ガスコ人が生きていていい地域を作るんだろう!今のままだとガスコ人はフランソワでも虐げられているままだ!お前が夢を見たのなら夢を走り続けろ!血を吐いても死んだとしても無理だとしても!リーニャ、君は戦士なんだ!力がない民ではない!戦士は戦士の義務がある!ガスコ人を連れて行ってやれよ!これは選択肢じゃない義務なんだ!もう一度言う、リーニャお前ならできる!」
 リーニャを立たせてホコリを払う。目を見るとまだ迷っていたので顔に水をかけた。

 「この水はこのイスパニアの大地で磨かれた水だ。君も今、大地に磨かれたんだ。迷うな!死んだあとに迷え!もう止まることはできない永遠に続く輪舞曲は流れた!しっかりしろ!」
 そして、目が点になったリーニャに何かを食わせようとサンドイッチを手に取る。それを湯気に当てるとリーニャは声を上げた。

 「俺はそのサンドイッチだったんだな。わかった。ガスコ人を‥‥世界を救いに行くよ!その先に何が待っていようとも俺は進み続ける。例え地獄に落ちようとも地獄ごと走り抜ければいい。死んだあとに死んだ人たちに謝ればいいからな。」
 ふと、リーニャが見つめる窓の外を見ると晴れ渡る澄み切った空が見えた。

 「いい天気だな。」
 俺が言うとリーニャは笑いながら答えてきた。

 「あぁ、早くこうやって空を見れればもっと色々と変わったかもしれないな。」
 二人で窓の空を見つめた。次の場所は同じ空のもとにいるだろう街道上の怪物だ。途端に俺は笑ってしまった。なんで俺がこんな目に合うのか!一般的な日本人に過ぎないのにな!

 リーニャは何を勘違いしたのか照れた目でこちらを見てきた。おっさんとボーイ・ミーツ・ガールならぬ、オールドマン・ミーツ・オールドマンだろ。青春がしたいのならターニャ捕まえてきてやるからな任せておけ。

 一段落をしてパン屋の娘とは何なのかで俺の頭はいっぱいだった。
 
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