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Fate/WizarDragonknight

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魔力量

 フロストノヴァ。
 その姿を初めて見るであろうビーストは、じっと彼女を見つめていた。
 やがて彼は、ウィザードへ小突く。

「おいハルト。アイツがフロストノヴァか?」
「ん? うん、そうだよ。コウスケは見るの初めてか」

 頷いたビーストは、もう一度フロストノヴァを見つめる。
 やがて彼は、ウィザードへ耳打ちした。

「目つき悪ィ女だな」
「やめなさい」

 ビーストのその一言に、フロストノヴァは不快感を露わにする。

「お前がビーストか……」

 フロストノヴァはその鋭い眼差しのまま、ビーストを一瞥する。

「ランサーのマスター、だったな?」
「オレも随分と有名になったもんだな。そろそろサインの一つもせがまれてもよくえねか?」
「何バカなことを言っているんだよ」

 ウィザードは隣のビーストを小突き返し、少し離れたところにいるえりかと結梨が巻き込まれない位置にいることを確認する。(えりかは結梨を抱き寄せ、「うぎッ!」と結梨が小さな悲鳴を上げた)

「よし……コウスケ、フロストノヴァ! 行くよ……!」
「ああ!」

 ウィザードとビーストはともに頷き合い、駆け出した。
 一方、その場から動かないフロストノヴァ。
 彼女の氷もウィザードとビーストとともに、キメラへ向かう。
 それに対し、キメラは大きく吠える。
 夜の大学を揺らす咆哮。腐敗した声帯からくるそれは、まさに地の底から聞こえてくる怨霊のようにも思えた。
 そして声の振動は、そのままフロストノヴァの氷を砕き、圧し潰す。

「っ!」

 背後から、フロストノヴァの息を呑む声が聞こえた。
 だがウィザードは構わず、キメラの頭上まで跳び上がる。

「はあああっ!」

 振り下ろされるウィザーソードガン。
 赤い残滓を残すそれは、キメラの頭部の兜と激突する。

「硬い……!」

 兜をはじめとした装飾品は、外部からの影響があれば、少なからずずれが生じる。
 だが、このキメラの兜はそれとは全く違う。
 兜が頭部の一部とでも言うように、それは全く動かない。
 まるで。

「兜が肉体と一つになってるみたいだな……」

 ウィザードがそんな感想を漏らしている間に、キメラの骨の腕がウィザードを叩き落とす。

「ぐっ!」

 身を翻し、着地したウィザード。入れ替わりに、ビーストがその首元を、杖状の武器、ダイスサーベルで貫く。

「オラァ!」

 だが、色が変色し、脆くなっているはずの肉体にも、ダイスサーベルの先端は刺さらない。

「ゾンビの癖に頑丈じゃねえか!」

 キメラは、足元のビーストをうっとおしそうに前足で振り払う。

「なら、これでも食らいやがれ!」
『2 ファルコ セイバーストライク』

 ダイスサーベル内部に仕組まれたダイスが指し示す2。
 現れたオレンジの魔法陣から、二体のハヤブサが出現、それぞれキメラへ向かう。
 だが。

「そんなチャチな魔力、敵じゃないわ」

 アウラが鼻で笑うように、キメラが翼を大きく動かす。
 すると、翼の軌跡が黄色の斬撃となり、二体のハヤブサを打ち落とす。

「だったらならもう一丁!」

 ビーストはもう一度、ダイスサーベルを発動した。

『5 ドルフィン セイバーストライク』
「あの武器、消費魔力の割には効果が運次第なのね……今回なんて、魔力消費のわりに高威力じゃない」

 アウラのコメントを聞き流しながら、ビーストが今度は紫の魔法陣を五つ出現させた。
 すると、魔法陣より出現した五体のイルカが、地中を泳ぎながらキメラへ向かっていく。
 だがそれも、キメラには通じない。
 兜の角を地面に突き刺すと、そこを中心に地面に大きな亀裂が走る。
 やがて地中を遊泳していたイルカたちは地より投げ出され、空気中で霧散していった。

「んなっ!」
「でも通じないわよ? そんな運任せの魔法なんて」

 アウラの冷笑。
 彼女を見上げながら、ウィザードはウィザーソードガンの手のオブジェを開いた。

『キャモナスラッシュシェイクハンド キャモナスラッシュシェイクハンド』

 本人の代わりに呪文を詠唱するウィザーソードガン。
 そこに魔力が込められた指輪を読み込ませることで、簡易的に魔法が発動した。

『フレイム スラッシュストライク』
「はああああっ!」

 炎を纏い、遠距離を滑空するウィザーソードガンの刃先。
 だがキメラは、それ程度では揺るがない。
 白い眼でウィザードを睨み、その口から緑色の炎(ヒート・バイパー)で迎撃した。
 それは、スラッシュストライクの炎を飲み込みながら、ウィザードへ迫る。

『ディフェンド プリーズ』

 一方で発動する、炎の力を練り込んだ防壁。それは緑の炎と互いに衝突し、より大きな炎の渦となる。
 同じ炎であれば。
 ウィザードはソードガンで、浮かぶ深紅と緑の炎を突き刺す。
 すると、空中に浮遊する炎はウィザーソードガンに吸収されていく。それはやがて、深紅と緑の色合いとなり、ウィザードの面をそのコントラストで彩る。

「はああ……っ!」

 ウィザードは大きく息を吐く。
 振り下ろした刃が二色の炎を飛ばす。
 だが。
 キメラの背にある、天使と幻竜のような翼が大きく動く。
 すると、そこから凄まじい速度の風が舞い、それが集い、竜巻となる。

「嘘ォ!?」

 発生した竜巻は、跳ね返した炎を掻き消し、そのままウィザードたちへ迫ってくる。

「蒼井が防いで見せます!」

 だが、結梨の傍から離れないえりかが手を伸ばす。
 すると、彼女の円を描く六つの機械が、ウィザードたちの前で花のように開く。
 描かれた六角形が見えない防壁となり、竜巻を打ち消す。

「今です!」
「サンキューえりか!」
『3 バッファ セイバーストライク』

 三度振るわれるダイスサーベル。
 三つの赤い魔法陣より、三体の闘牛がその姿を現す。それぞれが力強い勢いを持ったまま、キメラへ迫る。
 一方、キメラも今度は左腕の虫のような腕を振るう。節足動物の形で牛たちを挟み込み、即座に両断していった。

「器用じゃねえか……!?」
「だったら……」
『チョーイイネ スペシャル サイコー』

 そしてウィザードが発動する、炎の最大魔法。
 ウィザードの胸元に生成されるドラゴンの頭部。
 周囲の氷を吹き飛ばす炎の息を吐きながら、それは口の中に炎を溜めだしていく。

「はああああっ!」

 フロストノヴァの氷を蒸発させながら放たれる火炎放射。
 だが、それに対して、キメラもまた赤い火炎放射で迎撃する。
 それぞれが膨大な威力を誇り、互いに相殺。
 大きな爆発が大学を飲み込んでいく。

「ぐっ……!」
「無様ね」

 苦戦を強いられるウィザードたちへ、アウラが冷笑する。

「そんな小さな魔力なんて、この怪物に勝てるわけないじゃない」
「そんなに魔力が大事だったら……」

 ウィザードはそう言って、ルビーの指輪をホルスターの指輪と差し替える。
 それは、アマダムとの決戦の時に変化した指輪の一つ。フレイムと同じく変化した、サファイアの指輪。
 ルビーと同じくドラゴンの力を宿したその指輪を、ウィザードライバーに読み込ませる。
 それは。

「これで抵抗してみることにするよ」
『ウォーター ドラゴン』

 そうして指輪より現れたのは、青い魔法陣。ウィザードに触れると、魔法陣よりドラゴンの幻影が飛び出した。

『ジャバジャババシャーン ザブンザブーン』

 ドラゴンの幻影は、ウィザードの深紅の炎を書き換えていくように、何度も何度もウィザードの周囲を旋回する。やがてウィザードの体に取り込まれると、その体は一転、水を示す青へとなる。
 それは青を越えた、瑠璃色のウィザード。
 ウィザード ウォータードラゴン。

「姿が変わった……?」
「面白いじゃない。確かに魔力の量が比べものにならないほどになってるけど、それで何が出来るのかしら?」

 ウィザードのスタイルチェンジを始めて目撃するフロストノヴァとアウラは、それぞれ驚嘆を口にする。
 同じく、青のウィザードが初見であるえりかも、ぽかーんと口を開けていた。

「増えたとは言っても、所詮それ程度。何が変わるっていうの?」

 キメラの頭部で腰を落とすアウラは、頬杖を突きながら尋ねた。

「さあね? 俺も初使用だから、これからのお楽しみだよ」

 ウィザードはそう言って、早速魔法用の指輪を付け替える。

『バインド プリーズ』

 発動した拘束の魔法。
 水で作られた鎖が、キメラの体を拘束する。
 そして、発動した数。それは、これまでのウィザード ウォータースタイルが発動させた鎖の比ではない。
 全身の至る所を鎖が締め付け、もはや生身の部分が見えなくなっている。

「すごい魔力量だな」

 さらに、ウィザードが手を地面に押し当てることで、鎖もキメラを地面に押し付けるように下がっていく。

「あら……」

 キメラから飛び降りたアウラ。

「確かに魔法そのものは大したものね。いいわ。そろそろこれの氷も溶けてきたし……」

 アウラが、自らの手に収まった天秤を見下ろす。フロストノヴァの氷がすでに小さくなっており、天秤の動きを阻害することはもうなくなっていた。
 そして、

服従させる(アゼリュー)……」
『ライト プリーズ』

 だがウィザードは、彼女の魔法が発動するよりも素早く指輪を発動。
 油断しきったアウラの目の前で、強化された光の魔法が発動した。

「何っ!? う……あああああああああああっ!」

 突然の光量。夜も相まって、急激な視界の変化に、アウラは目を抑える。
 その隙に、ウィザードは彼女の腹部を蹴り飛ばし、その手から天秤が零れ落ちる。
 それにより、彼女の魔法拘束力が弱まり、一瞬キメラの体から力が抜けた。
 その隙に、ウィザードはアウラへ接近、その手から天秤を蹴り飛ばす。

「よし!」
「やってくれるわね……」

 アウラはウィザードを睨む。だが、急激な明暗により彼女の視界ははっきりしていないのだろう。彼女の手はただ、虚空を掴んだだけだった。
 だが、それでキメラの動きが消えたわけではない。
 死骸の主であるアウラを守ろうと、キメラの骸の前足がウィザードを襲う。

『リキッド プリーズ』

 だが一手早く、水のウィザード十八番(おはこ)の魔法が発動した。
 液状化の魔法。文字通り、効果継続中はいかなる物理攻撃もウィザードには通用しない。
 キメラの攻撃は全てウィザードの体を通り抜け、そのまま問題なくウィザードはキメラから離れた。

『チョーイイネ ブリザード サイコー』

 そして発動する氷の魔法。
 これもまた、ドラゴンの力を得て強化されている。
 極寒の氷が魔法陣より放たれ、キメラの体を凍り付かせていく。
 だが。

「そうはさせないわ」

 視力を取り戻したアウラの手から、魔力が走る。
 たとえ服従の天秤がなかったとしても、彼女には人心掌握にたけた魔力が残っている。
 それは、彼女よりも魔力が遥かに少ないウィザードの魔法を大幅に弱める効力を発した。

「何……っ!?」

 魔法陣がみるみるうちに小さくなっていく。このままアウラの効力を受け続ければ、間違いなく魔法は消滅してしまうだろう。

「ぐっ……!」

 ウィザードは魔法陣に当てている右手に左手を重ねる。より氷の魔力を込めるが、それでもアウラによる魔力制限には敵わない。

「魔力で私に勝てるわけないじゃない。そんな微差程度の魔力変化で」

 アウラは笑みを見せたまま、ウィザードへ再び手を伸ばす。
 ウィザードの体を簡易的にでも乗っ取ろうとしているのだろう。
 だが。

「フロストノヴァ!?」

 突如として、ウィザードの背に置かれる手。
 フロストノヴァが、ウィザードの体にその冷気を注ぎ込んでいた。それは、ウィザード自身の水と氷の魔力と共鳴し合い、瑠璃色の体に白い冷気が帯び始めてもいた。

「同じ氷の能力なら、私の力を合わせられる……!」
「フロストノヴァ……あなた、聖杯戦争のルール忘れたの?」
「お前が生き残るより、ウィザードが生き残った方がまだ良い」

 フロストノヴァの冷気が、次々にウィザードの魔力に重ねがけされていく。
 二つの氷の累乗効果により、ウィザードの魔力は一時的に爆発的な増加を見せる。

「これは……!?」

 果たしてそれが、アウラの莫大な魔力に匹敵するかは分からない。
 だが少なくとも、目の前のキメラのゾンビを圧倒するには十分な量になっていることは間違いないようだ。
 キメラの全身は次々に凍り付き、体を震わしながらも白く染まっていく。

「!?」

 それは流石のアウラも危機感を覚えたのだろう。
 彼女は慌ててその場を飛び退き、氷の波の射程圏外へと避難する。
 同時に氷は、キメラを一気に氷の牢獄に閉ざす。

「……お前が何者なのか、何でこんなところでそんな姿でいたのかは知らない」

 ウィザードは静かに、仮面の下で目を閉じる。

「ただ一つだけ。眠ってくれ。どうか、安らかに……」
『チョーイイネ スペシャル サイコー』

 続けて発動する魔法。
 ウィザードの腰に青い魔法陣が発生する。それは、ドラゴスカルを召喚した魔法と同じように、青いドラゴンの幻影が魔法陣より召喚され、ウィザードの周囲を旋回する。
 幻影が再びウィザードの体に吸収されると、その腰に巨大な尾が召喚される。黒く雄々しい尾は、その力を示すかのように力強く地面を叩いた。

「はあああああああああああっ!」

 ウィザードは氷の上を滑り、一気にキメラへ肉薄。
 同時に体を大きく捻り、その尾を強くキメラの氷像に打ち付ける。
 氷と一体となっていたキメラ。それは、それまでの頑丈さが嘘のようにその破壊を受け入れた。
 全身がガラスのようにヒビが入り、すぐさまそれは全身へ走っていく。その体全てが粉砕され、氷を中心とした爆発が巻き起こる。キメラの体は氷片となり、雪のように大学のキャンパスへ飛び散っていった。

「驚いた」

 アウラは平然とした表情のまま、ウィザードとフロストノヴァを見つめる。

「すごいじゃない。あの化け物を倒すなんて」
「……死者を好き勝手に弄るお前を許さない……!」

 全身からあふれ出る水の魔力が、ウィザードの怒りを代弁する。左右に広げられた腕から怒涛の波のように溢れるそれが宙で孤を描き、アウラへ迫る。
 だが。

「そんな魔力。怖くないわ」

 その水は、アウラへは通じない。
 彼女の全身より放たれる白いオーラ。それは、水の奔流を押しのけ、周囲に霧散させた。

「なっ……!?」
「気付かなかったのかしら? 私の魔力に」

 アウラの表情は先ほどから一切変わらない。
 無表情ながら、彼女は話を続ける。

「赤い姿よりは多少は魔力が増えても、私には到底及ばないわね。ふふ……いつでもあなたを操れる……」
「……やってみろ……!」

 ウィザードはまだ出したままのドラゴテイルを強く地面に打ち付ける。
 力強い音が鳴り、その存在を誇示する尾。
 それを見つめていたアウラは、横目でビースト、フロストノヴァ、えりかを見やる。

「まあいいわ。また今度にしましょう」

 ウィザードたちへ背を向けた。

「……!」
「逃げんのか!」

 ビーストが怒鳴る。
 するとアウラは、笑みを浮かべたままゆっくりと振り向いた。

「追って来れば? どうなるか、分かると思うけど」
「……ッ!」

 すると、ビーストは押し黙る。彼も、アウラの追跡は賢明ではないと判断したのだろう。
 そのままアウラが悠然と大学を去っていくのを、ウィザードたちは見届けることしかできなかった。
 やがて彼女の気配が完全に消えたころ、ウィザードとビーストは同時に変身を解除した。

「……ふぅ……」
「クソ……面倒な敵が現れたもんだな」

 コウスケが毒づくのを聞き流しながら、ハルトはフロストノヴァへ駆け寄った。

「ありがとう。フロストノヴァ。おかげで助かったよ」
「……」

 だがフロストノヴァは何も答えない。
 ハルトへ背を向け、大学構内___おそらく別の大学出入り口___へ足を向けた。

「ああ、ちょっと!」
「フロストノヴァさん、ありがとうございます」

 フロストノヴァは、えりかの声で足を止めた。ゆっくりとえりかへ視線を動かすフロストノヴァは、やがて静かに口を開いた。

「勘違いするな。シールダー」

 フロストノヴァは、ようやく足を止めた。
 彼女はえりかを、そしてその背後にいるハルトたち(とついでに結梨)へ言い切った。

「戦士である限り、私たちは敵同士。今回はアウラを倒すことを優先させただけだ」

 その言葉を最後に、フロストノヴァは再び歩を進めた。
 今度はもうえりかも彼女を止めようとはしなかった。ただ、胸元に手を当てながら、その白い後ろ姿を見守っているだけだった。

「……なあ、コウスケ」
「んだよ」

 彼女を見送りながら、ハルトは顔を動かさずに口を開く。

私見(しけん)、言っていい?」
「……オレにもあるが、お先に」

 ハルトはゆっくりと頷いた。

「何でこの大学にあれだけの死体が埋まっていたのか、そして何であんな怪物がいたのか……この大学、結構ヤバイ奴がいるんじゃないの?」
「可能性はクソ高ェな。それともう一つ」
「うん」
「アウラは、ここの死体漁りが興味深いって言ってた。あのゾンビに驚いた様子もあるしな。つまり、普段はこの大学に来ることはねえっつうことだ」
「一方、フロストノヴァは当たり前のように大学にいた。それに、彼女の足取りに迷いもないから、多分大学の地図は頭に入ってる」
「つまり……」

 コウスケもハルトと同じ結論に達しているのだろう。
 ハルトの握る拳の力が強くなる。

「フロストノヴァのマスターは……」
「この大学にいるかもしれねえ……!」 
 

 
後書き
実はウィザードの形態の中でウォータードラゴンが一番好きだったりします
 
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