| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

魔法戦史リリカルなのはSAGA(サーガ)

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

【第一部】新世界ローゼン。アインハルト救出作戦。
【序章】ベルカ、新たな〈次元航路〉の出現。
   【前編】ルートメイカー、起動する。

 
前書き
 皆様、お久しぶりです。
 去る1月21日にプロローグの掲載を終了した段階では、『3月の下旬あたりから、また毎日の掲載を再開できるのではないか』と予想していたのですが……実際には、いろいろあって、「第一部の後半」がまだほとんど書けていません。(トホホ)
 仕方が無いので、まずは「第一部の前半」だけを今日(3月22日)から24日間に亘って一節ずつ掲載し、それから再び何か月か休載させていただくことにします。
 我ながら遅筆で申し訳ありません。

 ところで、プロローグに関して、ひとつ「お詫びと訂正」があります。
「第2章 第2節」では、つい勢いで「スターライトブレイカー」と書いてしまいましたが、実際には、なのはが〈ゆりかご〉の内部でクアットロを倒した魔法は「スターライトブレイカー」ではなく、「ディバインバスター・エクステンション」でした。
 冷静に考えたら、スターライトブレイカーには、そもそもカートリッジなんて必要ありませんよね。我ながら恥ずかしい間違え方をしてしまいました。(汗)ここに謹んで訂正させていただきます。
 なお、プロローグでは、他にも「文字や句読点の重複」といった誤植を幾つか見つけてしまいましたが、そうした誤植はどれもあえて書き直さず、「恥の記録」としてそのままにしておきました。個人的なこだわりですが、何とぞ御了承ください。

 それでは、「第一部・前半」の掲載を始めます。この第一部は、内容的には原作から最も遠くかけ離れた「部」になりますが、御笑納いただければ幸いです。
 なお、この「序章」は内容的に「プロローグ」とかなりの重複があります。これもまた、悪しからず御了承ください。
 

 
   
 さて、ベルカ世界はかつての戦乱で荒廃したまま、〈大脱出〉の終了後は長らく放置されていました。

【なお、ベルカ世界からの〈大脱出〉は、古代ベルカ暦では1031年から1080年まで。ミッド旧暦では272年から321年まで。新暦で言えば、前268年から前219年まで。つまり、ミッドにおける「聖王オリヴィエの昇天」から数えれば、その12年後から61年後までの「足かけ50年間」の出来事です。】

 ベルカ世界は、〈本局〉から見れば「北方やや西寄りに180ローデの距離」にあり、また、ミッドから見ても〈無5マニクヴァリス〉を経由して「ほぼ真北に200ローデの距離」にあり、少なくとも距離的には、決して「辺境の世界」という訳ではありません。
 それでも、『まだ大気や土壌の汚染が残っていて危険だから』という名目で、上陸や遺跡の発掘はおろか、ただ立ち寄ることすらも、管理局の手によって長らく禁じられ続けていたのです。
 そうした状況が変わったのは、新暦76年の3月。あの〈ゆりかご事件〉から、およそ半年後のことでした。
 実のところ、「三脳髄」はミッドの地下に〈ゆりかご〉を隠匿(いんとく)したまま、アルハザードや古代ベルカに関する情報も可能な限り自分たちだけで独占しようと(たくら)んでいたのですが、彼等が三人そろってドゥーエに殺されたことにより、管理局の基本方針もいろいろと改められたのです。

【現実には、ベルカ〈中央大陸〉の自然環境は、新暦60年代の初頭には、もう「それなりに」居住可能なレベルにまで回復していました。
 その時点では、まだ緑にも乏しく、全体的にかなり荒涼とした雰囲気でしたが、すでに「場所によっては」雨水(うすい)を利用して特定の植物を育てることも、一応はできるようになり始めていたのです。】

 新暦76年に、遺跡の発掘調査や研究を目的とした人々と、彼等の日常生活をサポートする職種の人々に限って、ベルカ世界への渡航が限定的に解禁された結果、今では発掘や研究の重要拠点である「七つの地区」にはそれぞれ小さな居住区が築かれ、「第一地区」から「第七地区」の名前で呼ばれていました。今では、『ベルカ世界全体では、もう何千人もの人間が「常住」している』といった状況です。
 そして、当然ながら、スクライア一族も「長老アグンゼイド」の率いる支族を中心に、今では相当の人数がベルカ世界に来ており、無限書庫のユーノ司書長とも(今では彼の従者も同然のダールヴを(かい)して)しばしば連絡を取り合っていました。

 こうして「古代ベルカ時代」(およそ1400年前から、およそ320年前までの時代)の謎は随分と解明されて来たのですが、200年に亘る〈空白の時代〉以前の「先史ベルカ時代」(1600年以上前)のことになると、アルハザードとの具体的な関連なども含めて、まだまだ解らないことだらけです。

【もう少し細かく言うと、第二中間期の開始(およそ660年前)以降の時代については、文献資料も数多く残されており、古代ベルカ史の解明も順調に進んでいるのですが、それ以前の「およそ140年も続いた第二戦乱期」には多くの貴重な文書が失われてしまったため、その戦乱期より前(今から800年以上も前)のベルカ社会については、実のところ、まだそれほど詳しいところまでは解っていません。
 また、古い伝承によれば、『アルハザードは今からざっと二千年ほど前に他の諸世界との交流を「最終的に」すべて断ち切った』とのことですが、それ以前には、「先史ベルカ」を始めとする幾つかの世界と「時おり」直接の交流を持っていたようです。】


 一方、フェイト・ハラオウン執務官は新暦92年の10月に、90年の4月に新設されたばかりの「上級執務官」という役職に就いていました。他の執務官たちに対して「現場で指示を下す権限」を持った役職です。
(この役職に就くための最低必要条件は、「執務官として現場での勤続を20年以上」というものですが、フェイトは新暦69年の4月に13歳で執務官に就任しているので、エクリプス事件の後の「三年半の休職期間」を除くと、92年の10月でちょうど勤続20年となります。)
 執務官は元来、極めて独立性が高く、通常の指揮系統には属さない特別な役職なのですが、広域次元犯罪の増加と凶悪化に伴い、複数の執務官が協力して動かざるを得ない状況もまた増加した結果、従来は執務官同士の「個人的な」人間関係に依存していた指揮系統を「組織として」明確にする必要が生じ、こうした上級職が新設されたのです。
(なお、これによって、フェイトの階級は二佐相当となりました。)

 そして、実際に、翌93年の夏に始まった〈ヌミコス事件〉では、フェイト・ハラオウン上級執務官(37歳)は、自分の「孫弟子」であるメルドゥナ・シェンドリール執務官(31歳)だけではなく、現地マグゼレナ出身の「ベテラン」ナスパルヴェム・クラムザウガ執務官(49歳)やその弟子である「ド新人」のトスカミエム・ゼイドリクサ執務官(19歳)をも指揮下に置いて、各々の補佐官たちとともに犯罪組織〈永遠の夜明け〉の「本部復興計画」を打ち砕きました。

【この事件では、〈管13マグゼレナ〉の廃都ディオステラの北方、タナグリス山脈の南側に拡がるヌミコス高原が舞台となりました。おそらく、フェイトは今も「廃都ディオステラにまで逃げ込んだ組織の残党たち」から相当な恨みを買っていることでしょう。】

 また、フェイトは以前から執務官としては「ロストロギア関連の事件」を専門分野にして来たのですが、94年の8月には「古代遺物管理部・捜査四課」に所属するコロナ・ティミル中級一等技官(准尉待遇)からの依頼を受けて、四課が担当する「昨93年の10月から多発している一連のロストロギア盗難事件」の広域捜査に参加しました。
(ちょうど、『カナタとツバサが初等科学校への潜入捜査を終えて、ヴィヴィオやアインハルトも含めた家族六人で、丸四日間の臨時休暇を満喫した』その直後のことです。)


 なお、アインハルト執務官は93年に映画「クラウスとオリヴィエの物語」が公開されて以来、ますます覇王クラウスによく似た雰囲気の持ち主となっていましたが、「覇王流」そのものに関しては、自分なりにまたいろいろと思うところがあったようです。
 新暦91年に大叔母のドーリスから受け継いだ「曾祖父ニコラスの遺品」は、八割以上が「覇王流の型や技などの解説書」でしたが、94年の春になると、アインハルト(27歳)はそれらの解説書を全部まとめて、育児を一段落させた「弟子」のアンナ(25歳)に無償で贈与しました。
 アンナはしきりに恐縮しましたが、アインハルトにとっては、それらの内容はもうすべて「体に刻み込まれているモノ」なので、(たい)したことではありません。
『これをよく読んで、またいつかあなた自身が弟子を取る機会があったら、指導のためにこれらの伝書を役立ててください』
 アインハルトのそうした言葉を、アンナは『ここに書かれたすべての技を習得したら、もう「免許皆伝」なので、自由に弟子を取って構わない』という意味に受け取り、さらに鍛錬を続けたのでした。

 そして、アインハルトとヴィヴィオは互いに仕事が一段落したこの機会に、いよいよ子供を作ることにしました。二人でよく話し合ったのですが、やはり、なのはとフェイトのように「同時に」産むのではなく、ノーザとザミュレイのように「交互に」産むことにします。
 先番となったヴィヴィオは、同94年の5月に万全の態勢で、アンナの父親が経営する「ファーリエ総合病院」に入院しましたが、残念ながら、最初の疑似受精卵は上手く着床せず、施術の数日後には流れてしまいました。
『こうなる確率が5割ほどある』という話は、二人とも事前に聞いていましたが、実際に体験してみると、やはり相当に(つら)いものがあります。
 それでも、7月には、なのはやフェイトと一緒に「潜入捜査を無事に終えたカナタとツバサの丸四日の臨時休暇」に付き合って大いに気分転換をした後、8月には再挑戦をして……ちょうど『フェイトが広域捜査に参加して長らく家を()ける』と決まった頃、ヴィヴィオ(25歳)は今度こそ無事にアインハルトの子供を妊娠しました。
 出産予定日は翌95年の5月下旬です。


 一方、カナタとツバサ(11歳)は、同94年の10月に陸戦Aランク試験に合格すると、翌11月には休暇を取って、初めて「カルナージでの合同訓練」に参加しました。
 場所は、もちろん、一般の陸士も訪れる首都ベルーラ郊外の「大規模演習場」の方ではなく、今や「特別な場所」となったホテル・アルピーノの方です。
 今回の参加者は……まず八神家からは、いつもの八名。高町家からは、なのはとアインハルトとカナタとツバサ。ナカジマ家からは、スバルとウェンディとディエチとノーヴェ。さらには、現地在住の五人組に加えて、ティアナやミウラ、ブラウロニアとその弟アルカイオスまで参加して……総勢で25名にもなりました。
 実のところ、「アルピーノ島での合同訓練」に二桁(ふたけた)の人数が揃ったのは、92年3月の「キャロの産休明け直前の合同訓練」以来のことです。

【なお、ウェンディは92年の〈グヴェラズム事件〉で危うく死にかけ、基礎フレームの交換までされてしまいましたが、85年のノーヴェと同様、半年ほどでリハビリを終え、93年の夏が来る頃には、もうすっかり元どおりになっていました。】

 ただし、今回の日程は基本的には「八神家の皆さん」の仕事の都合に合わせたものだったので、執務官のフェイトおよび広域捜査官のギンガとチンクは、「長期に亘る仕事」の途中で、どうにも休暇を取ることができず、やむなく欠席となりました。
 また、アインハルトは、9月になってから始めた仕事をひとつサクッと片づけた直後だったので、普通に参加できましたが、一方、彼女の補佐官パルディエは、ミッド地上の行きつけの病院における「毎年恒例の健康診断」と日程が重なってしまったため、今回はカルナージへの同行を見送りました。
 そして、ヴィヴィオもこの訓練に一応は同行しましたが、まだずっと膝を痛めたままなので、いつもどおり訓練そのものには参加せず、マダム・メガーヌやシスター・フェネイザ(ティアナの事務担当補佐官)とともに観戦する側に回りました。
(それでなくても、今はもう妊娠中なので、あまり無茶なことはできません。)

 なお、リインとアギトとミカゲも、今回はずっと人間サイズのままユニゾンは一切せずに、もっぱら個人スキルの訓練と他のメンバーのデータ解析などを行ないました。
(ユニゾンそれ自体も「第二級の特秘事項」なので、まだ「二等陸士」でしかないカナタやツバサには見せられないのです。)
 八神家の「末っ子たち」であるフユカとハルナも、今年でもう「戸籍の上では」10歳であり、春には正式な局員になっていたのですが、今は二人して医局で精密検査を受けている最中だったため、今回は参加できませんでした。
 この二人は、年齢の近いカナタとツバサにとっては「お互い、話にはよく聞く間柄」でもあり、カナタとツバサも内心では『そろそろ実際に会えるかな?』などと考えてもいたので、その意味では、今回は少々残念な結果となりました。

 また、これだけの人数になると、さすがにもう「メンバーを2チームに分けて全員で模擬戦」という訳にはいきませんでした。
 それでも、カナタとツバサにとっては、第一線の大人たちと一緒に訓練したり、少人数での陸戦試合に参加したり、なのは母様(かあさま)たちの空戦試合を間近に観戦したりと、いろいろな意味でとても良い経験になったようです。
 大人たちからも、『自分専用のデバイス無しで、ここまでできるのならば、立派なものだ』と、それなりの高評価を得られました。

 ちなみに、スバルは〈エクリプス事件〉の最終戦の頃からもう「両手で」リボルバーナックルを使いこなしているので、それ以来、ギンガは日常的に、より軽量化された「量産機」を使っています。
 今回は、ミウラもそうした量産型リボルバーナックルの「IS無しでも使えるように改良された新型機」を使って、〈エクリプス事件〉でも活躍したラプターの量産型である「機械兵」などと(ブレイカーは封印したままで)対戦しました。
 その新型機の性能は、もちろん、「本家」のリボルバーナックルにはまだまだ及びませんでしたが、それでも、「誰にでも扱える量産機」としては充分な性能であることが実証されました。

 また、今回の訓練では、それ以外にも、量産型ライディングボードの、やはり「IS無しでも使えるように改良された新型機」が使用され、カナタとツバサも特別に「試し乗り」をさせてもらいました。
 こちらも、やはり「本家」に匹敵するほどの性能ではなく、地表からあまり高度を取ることもできなかったのですが、「空戦スキルに乏しい陸戦魔道師」にも充分に使いこなせるものであることが、ミウラやジークリンデによって実証されました。
 どうやら、八神提督にとっては、こうした量産機の「最終テスト」もまた、今回の合同訓練の目的の一つだったようです。
 なお、そうしたテストのデータ収集も、リインとアギトとミカゲの仕事でした。
 と言っても、ミカゲは『ほとんど、ガリューたちと遊んでいた(ガリューたちに遊んでもらっていた?)だけだった』という話もあるのですが。(笑)

【実のところ、ナンバーズの「IS装備」に関しては、76年以降、いずれも「ISが無くても、よく似た効果が得られるような形」への改良計画が地道に進められていました。
 最初に「改良と量産化」が上手く行ったのは、上記のとおり、ウェンディの「ライディングボード」でしたが、他にも、チンクの「シェルコート」や、オットーの「ステルスジャケット」の改良計画が、今も地道に進行中です。
(それ以外のIS装備に関しては、まだまだ難航しているようです。)】

 参加者たちの中で、アルカイオス(18歳)だけは『これって、Cランク用の訓練じゃありませんよね?!』などと悲鳴を上げていましたが、七歳(ななつ)も年下のカナタとツバサに励まされて、何とか姉ブラウロニアたちの「しごき」にも耐え抜きました。(笑)

【ちなみに、「プロローグ 第10章」でも述べたとおり、この合同訓練と同じ時期に、リンディは一人でひっそりと「四度目の里帰り」をしていたのですが……その話は、また第二部と第三部でやります。】

 そうした3泊4日の合同訓練の後、八神家の八名とブラウロニアだけは〈グラーネ〉で一足先にカルナージを離れて、とある無人世界を訪れ、虫すら()まぬ一面の荒野で「人知れず」自分たちだけの特別演習を実施しました。
 中でも、はやてとヴィータは、リインやミカゲとユニゾンして「新たに習得した専用の魔法」を全力で使い、各々(おのおの)実際にその威力を確認します。
 それらの魔法は、通常の管理世界では、そもそも「使用許可」が()りないレベルの魔法でした。
(どちらも、新暦92年の3月に〈無限書庫〉へ転送されて来た「雷帝の離宮の隠し書庫」から得られた情報に基づいた、極めて特殊な資質が要求される魔法です。)


 さて、翌12月の上旬、フェイトは西方での一連の捜査が(から)振りに終わると、補佐官たちとともに一旦(いったん)ミッドに戻って数日間の「臨時休暇」を取り、三人とも、それぞれの実家で大いに体を休め、英気を養いました。

【その際に、フェイトは母リンディの旧友であるエルドーク・ジェスファルード提督から、ひとつ「お願いごと」をされていたのですが……シャーリーの進退にも(かか)わって来るその話は、また第二部でやります。】

 そして、同月の中旬、フェイトは再び捜査四課からの情報に基づいて今度は北方へ向かい、やがてベルカ〈中央大陸〉北部州の中東部に拡がる荒野で(古代ベルカでは「禁足地」とされており、現実にずっと「無人の辺境」だったはずの土地で)その地下に「巨大な空洞」と地下遺跡があるのを発見しました。
 フェイト自身は、ロストロギアの行方を追って「大規模窃盗団の根拠地」もしくは「秘密の盗品集積地」を探していたつもりだったのですが、どうやらまた(から)振りだったようです。地表にまでは誰かが訪れたような形跡もありましたが、どう見ても、この地下遺跡の内部にまでは、近年になって誰かが実際に出入りをした形跡はありません。
 巨大な地下遺跡(神殿?)の建築様式があまり「古代ベルカ様式」には見えないことや、天井となっている岩盤が必要以上に加工されているように見えることが、少し気になりましたが、遺跡の調査はさすがに専門外です。
 そちらは現地のスクライア一族に任せ、何かあったら自分にもすぐに知らせてくれるよう頼んだ上で、フェイトはまたシャーリーやマルセオラとともに「一連のロストロギア盗難事件」の広域捜査に戻ったのでした。

 しかし、翌95年の3月15日、フェイトが見つけたその地下遺跡で、神殿(?)の内側に隠されていた「謎のシステム」が不意に起動しました。
 その神殿を内側から丸ごと破壊して上昇し、そのまま岩盤をも突き破って、「巨大な銀色の、妙に(たけ)の短い正六角柱」が地上にその姿を現します。
 それは、各側面が「高さも幅も20メートルあまりの正方形」という、巨大な謎の構造物でした。底面と上底の正六角形は、当然ながら、「一辺の長さが20メートルあまり、対角線の長さはその2倍」という大きさです。
 材質などは全く不明でしたが、その正六角柱の側面には、各面の(へり)の部分だけを除いて、一面に「見ているだけでも目が回るような、曲線で埋め尽くされた奇怪な文様」が彫り込まれていました。
 しかも、その構造物は地面から「わずかに」浮き上がったところで「空間座標を固定」され、もう何をしてもビクとも動かなくなります。
 そして、その構造物が謎の「怪光」を発すると同時に、極めて局所的な次元震が起きて、ベルカ世界の上空に突如として新たな〈次元航路〉が出現しました。
(もう少し正確に言うと、今まで長らく「潜在化」していた四等航路が、いきなり「二等航路」に変化しました。)

『アルハザードには〈次元航路〉を自在に()けたり閉ざしたりする技術があった』という話がありますが……どうやら、この「(たけ)の短い正六角柱」は〈アルハザードの遺産〉のようです。
 フェイトはスクライア一族からの報告でこれを知ると、『あの時、地下遺跡の奥に何かが隠されていると、自分が事前に気づいていれば』と、この状況を少しばかり()やんだりもしましたが、それは今さら言ってもどうにもなりません。
 そのシステムは以後、〈ルートメイカー〉(航路を作る者)と呼ばれ、管理局の厳重な監視下に置かれることになりました。もちろん、一般には、その「存在」それ自体が秘匿(ひとく)されます。
 そして、かつての禁足地は丸ごと「第八地区」に指定され、全く秘密裡に各種の専門家たちから成る「ルートメイカー調査隊」がそこに駐留することになったのでした。

 また、フェイトはその一件と同時に、とうとう「ロストロギア大規模窃盗団」の正体を突き止めていたのですが、その背後にいたのは「思いもかけぬ連中」でした。
 もしも彼等が何らかのロストロギアを使って「意図的」に〈ルートメイカー〉を起動させたのだとすれば……何やら「とんでもない規模の広域次元犯罪」の予感がします。
 しかも、その直後に、決して世間一般には具体的な内容を明かす訳にはいかない「もうひとつの大事件」が(ごく大雑把に言えば、「テロリスト集団の暗躍」が)起きてしまいました。
 フェイトは〈管17イラクリオン〉の第二大陸でそれを知ると、『今後の対策について、はやてと大急ぎで話し合う必要がある』と感じましたが、それと同時に、『今回もまた、〈JS事件〉の時の三脳髄と同じように、管理局の〈上層部〉が何かしら裏で関与しているのではないか?』という懸念がどうしても(ぬぐ)いきれませんでした。

 しかし、フェイトはそこで偶然にも、「頼れる先輩」ラウ・ルガラート上級執務官(48歳)と出くわすことができました。聞けば、『俺も、ちょうどこちらでの仕事が終わったところなので、これから〈本局〉に立ち寄って息子と合流してから家に帰ろうかと思っていたところだ』とのことです。
 なお、彼の息子カルドゥバウロ(第三子で次男、22歳)は今、〈ヴォルフラム〉でルキノ操舵長(36歳)に続く「第二操舵手」を務めています。
 フェイトにとって、これはまさに「渡りに(ふね)」でした。
 さらに聞けば、『最初に建造されてからもう14年になる〈ヴォルフラム〉は、いよいよ本格的な改修が必要な状態となっており、つい先程、本局のドックに入港した』と言うのですから、これはなおさら都合の良い状況です。
 フェイトは「自分も〈上層部〉から監視対象とされている可能性」を考慮し、「全く秘密裡に」八神はやて准将と接触することにしました。
 ラウも相談を受けると、ノリノリでフェイトに協力してくれます。(笑)

 そこで、フェイトはまずラウの補佐官に変装し、イラクリオンの次元港でシャーリーやマルセオラと別れ、ラウとともに即時移動で〈本局〉へ飛びました。
 そして、まだ入港した直後で、艦内も周囲も何かとごった返している〈ヴォルフラム〉に、二人して堂々と乗船します。
 それから、フェイトは(息子と合流したラウと別れてから)一人で提督執務室を訪れたのですが……そこには意外な先客がいました。これまた巧みに変装した、ヴェロッサ・アコース上級査察官です。
 はやてとフェイトとヴェロッサは三人だけで互いの情報を交換し、いろいろと話し合った結果、フェイトは「これからは正式に、ただし秘密裡に」八神はやて准将の指揮下で動くことに同意したのでした。


 一方、高町なのは(39歳)は、とうとう断り続けることができなくなり、同95年の3月6日には、実際の異動に大きく先行する形で「三佐」の辞令を受け取っていました。
〈上層部〉から『あなたほどの人物がいつまでも尉官のままでは、一般の空士たちの昇進に対するモチベーションも上がりにくい』とまで言われてしまったのですから、これはもう仕方がありません。
 その時点では、3月の末には戦技教導官を()めて、4月には新設の「首都圏・特別航空武装隊」の部隊長を任される予定だったのですが……。
 3月21日、なのはは突然、教導隊に籍を置いたまま「長期休暇」を取りました。
 表向きは「リンカーコアの不調」が原因で精密検査のため入院したことになっているのですが、実際には、はやての指示で「全く秘密裡に」フェイトの現場担当補佐官であるマルセオラ・タグロン・ブラーニィ(23歳)と「すり替わった」のです。
【マルセオラはイラクリオン第二大陸の次元港でフェイトと別れた後、シャーリーが操縦する小型艇で、彼女とともにミッドに戻って来ていました。】

 マルセオラは、昔から外見的な諸特徴がなのはに少し似ていたのですが、12月の「臨時休暇」の際には思いがけず懐妊しており、5月には産休を取る予定でいたため、今回は予定よりももう少し早めに産休を取りつつ、夫グラストが勤務する局員専用病院の特別病棟で「敵の目を欺くための極秘任務」として、なのはの『影武者を演じる』ことに(と言うよりは、『アリバイ工作に加担する』ことに)なりました。
 また、なのはとフェイトが14年前の〈エクリプス事件〉でリンカーコアを損傷した時には、まだ一介(いっかい)の研修医でしかなかったグラスト・ブラーニィ医師も、今では立派な「リンカーコア研究の第一人者」となっています。
 彼は一昨年の5月に、31歳で当時21歳のマルセオラと結婚していましたが、今回は八神提督の計画に同意して、「なのはさん(実は、マルセオラ)」の主治医を務めることになりました。
(表向きの話としては、「なのはさん」が入院した理由も「リンカーコアの不調」だったので、グラストは単純に「その主治医として」最も適任だったのです。)

 そして、八神提督は『管理局の〈上層部〉の中には、今も「敵」に内通している者がいる可能性が高い』と考え、すべて自分の責任で、この「すり替わり」を局の〈上層部〉に対しても「絶対の秘密」にしたのでした。
 これを知っている者は、まず、当事者であるマルセオラとグラスト。次に、なのはとフェイトとシャーリー。さらには、はやてと八神家一同とルーテシア。他には、クロノとユーノとカリムとヴェロッサ、といったところです。
 また、八神提督は、今回の「芝居」に協力してもらうため、ヴィヴィオとアインハルトとカナタとツバサにも、この「秘密」を早々に打ち明けることにしたのでした。



 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧