| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

冥王来訪

作者:雄渾
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第三部 1979年
孤独な戦い
  匪賊狩り その2

 
前書き
 作中のブラウン国防長官は、史実でも軍縮交渉に力を入れたハロルド・ブラウン氏です。
米国の内閣は、原作設定のある大統領と、副大統領、CIA長官だけ別にして、あとは史実通りにしました。 

 
 スリランカ政府がマサキたちにタミル・イーラム解放のトラ壊滅を依頼したのはなぜか。
それは、この地域でのインドのプレゼンスが拡大することを恐れたためである。
 史実ではインド軍はスリランカ内戦に介入し、結果として解放の虎を肥え太らせる結果になった。
タミル人を支援し、スリランカ政府の停戦交渉を妨害し、この内戦を深刻化させた。
 また同様の事はモルディブにも言えた。
英国艦隊がモルディブから去った後、1988年のクーデター未遂事件を理由にモルディブに駐留し、政府に影響を及ぼしたのだ。
 ここで、著者の意見をわずかばかり述べたいと思う。
 今日のスリランカ政府の親中姿勢は、この内戦時のインドの軍事介入というトラウマが遠因の一つとは考えられないではなかろうか。
インドに軍港を貸すより、人民解放軍に課した方が良いと考えてしまったのではなかろうか。
ここにも英帝国の根深い植民地の爪痕が、見え隠れする事例である。

 さて、視点を異世界のスリランカに戻してみよう。
 今回の作戦は、何時ものようにマサキが単騎で乗り込む方式ではなかった。
陽動としてグレートゼオライマーを南部から来る政府軍と同時に動かすことにした、
 作戦の計画を立てたのは御剣で、主力は戦術機2機とヘリ一機。
機種は、f-4J2と、a-10サンダーボルトⅡB型である。
 まず機体に関して説明をしたい。
 f-4J2とは、ファントムの日本仕様『激震』の改良J2型。
管制ユニットそのものをマサキが再設計したもので、マッハ1以下の低速なら、最悪、専用のヘルメットとフライトスーツでも可能で、強化装備なしでも操縦できるようにされていた。
操縦席は複座で、上空での脱出用に座席自体にロケットモーターとパラシュートを装備していた。
 これは操縦席と装備ごと守る管制ユニットより退化したつくりだが、価格面では優れていた。
またゼオライマーなどの八卦ロボの思想も取り入れられ、網膜投射が使えない場合は予備のモニターで外部が観察できるようになっていた。
 もう一基のa-10サンダーボルトの改良版であるB型は、従来からの弱点であった滞空時間の短さが軽減されていた。
専用の機関砲、アヴェンジャーの使用時は、連射すると失速するというのは無くなっただが、減速することには変わりなかった
このB型は、後日、河崎重工でのライセンス契約が結ばれ、『屠龍』で生産が決定している。
 ただF‐5系統の戦術機と比べて鈍重なため、迅速な航空支援などといった体制が取りづらい機種であることは変わりがなかった。
BETA戦でいえば、光線族種のいない戦場、対人戦でいればソ連の防空コンプレックスが整備されていない戦場でしか活躍できない欠陥は残したままだった。
 

 さて、マサキは、白銀と鎧衣から敵基地の襲撃に関して詳しい話を聞いていた。 
今回は美久とグレートゼオライマーを陽動に使い、マサキが乗り込む算段になっていたからである。
 ゼオライマーも、グレートゼオライマーも、マサキが操縦する前提ではあったが、一応美久の自動操縦による戦闘も可能であったからだ。
ただ50発以上搭載した核弾頭は、マサキの生体認証が必要なために使えず、通常のトマホークミサイルとクラスター弾に切り替えて装備した。
 また、人工知能搭載の無人戦術機も使えたが、美久自身がゼオライマーの操縦にかかりきりになるので、今回は推論型AIの負担を軽減する意味で、使用しないことにした。 
 
 マサキがソ連を憎むことは、ひと通りでなかった。
前々世では、ソ連と通じた防衛庁長官の仕向けた刺客によって、志半ばで落命したためである。
「なんで、俺が露助どもを助けに行かねばならんのだ」 
鎧衣は、さして苦にする様子もなく、かえって彼に反問した。
「詳しい話は、今から合う人物に聞くとよい」
「き、貴様……露助二人を救うだけのために貴重な戦力を割くのだぞ」
 奮然マサキは、反抗しかけた。
だが、美久になだめられて、不承不承(ふしょうぶしょう)
「どういうことか、わかっているのか」
「君にも悪くない話が合ってね。
一人では余りにももった得なくてね。私も日本の為に、たぎる愛国心に燃えて相談に来たのだよ」
 鎧衣は、敢然と答えた。
すこし小癪(こしゃく)にさわったような語気もまじっていた。
なぜならば、昨日、大統領官邸で面談したときの態度と、きょうの彼の様子とは、まるで違って見えたからである。
「僕も、とにかく何のことかわからないけど鎧衣の旦那が行うからついてきたわけで……」
 やり場のない心を抑えるために、左胸のポケットに入ったホープの箱を取り出す。
馬鹿を言えといわぬばかりに、マサキは鎧衣の顔をしり目に見ながら、タバコに火をつける。
「訳を利かせよ」
紫煙を燻らせながら、ふと(おもて)の怒気をひそめていた。
「我々が、ラトロワさんたちを救出しようと計画していることをソ連が知ったらどうなるか……
ソ連の国家の威信を傷つけることを、必死になって避けるはずだ。
KGBに命じて、彼らを救出することになるだろう」
 マサキは内心、どきとした。
だが、何時ものように不平顔を見せると、鎧衣は笑って、その肩を撫で、かつなだめて、
「特に、一緒にいるグルジア人の彼は、グルジア共産党第一書記の息子だ。
ソ連の中央政界とのつながりも深い……そんな人間が他国の軍隊の手で救出されてみたまえ。
そうしたら、KGBのスリランカ支部の人間は、全員これだろうね」
 鎧衣は、不敵の笑みを浮かべ、立てた親指で首のところに一筋の線を書いた。
斬首される……つまり処刑されるという暗示である。
「分かったかね。木原君……
つまり作戦が成功すれば、この地のKGB支部は壊滅して、ソ連の影響は削げるという事だよ」
「話は分かった……
それで、二人の露助どもの容姿は……」
 マサキは、なにせソ連嫌いで、大のロシア人嫌いでもある。
ラトロワの容姿も、一緒につかまっていた赤軍大尉の容姿も、気にして覚えていなかったのだ。
 白銀の説明は、こうだった。
助けに行く女の名前は、フィカーツィア・ラトロワ。
 人種はロシア人、目の色が薄い青色(アクアマリン)で、端正な目鼻立ちをしている。
 雪のような白い肌に、明るいブロンド色の長い髪の毛をポニーテールに結っている。
ロシア人女性だが、かなりの高身長で、運動選手のような体格をしている。
 グルジア人大尉に関しても説明を受けた。
黒の短髪に、オパールに近い碧眼。
190センチ越えの偉丈夫で、30歳前後だという。

「そのようなことまでは、どうでもいい。
それよりラトロワというのは、ユルゲンの妻・ベアトリクスより大女か。
俺は、そんな大女(のっぽ)を負ぶってはこれぬ……
最悪、ひもで縛って引きづってでも連れて帰るしか、あるまいな」
 マサキの不満を聞いて、白銀は、からからと笑った。
意識的にくだけた調子で、
「博士、大丈夫ですよ。
僕の見たてでは、彼女は60キロ無いですから」
 あきらかに、マサキの面は憤懣の色におおわれた。
しかしと、白銀は、唇を舐めてそれに言い足し、
「バストは、USサイズ(インチ表記)で、32のHで、トップバストとアンダーバストの差が、26センチ。
バスト98.5、ウエスト70、ヒップ100と、かなりグラマーで、とにかく(はく)い人。
……ですから、ベアトリクスさん同様に、一目見れば気に入るでしょう」
 マサキは、眉をひそめた。
変なことをいう男かなと、いぶかったのであろう。
急に怒る色もなく、それ以上、()いる言葉も、諭す()もなく、マサキは口をつぐんだ。
 この男は、いつの間に、ソ連兵の体格を調べたのであろうか。
まさか体格指数(BMI)でも計ったのであろうか……
 マサキさえ、知らなかった、ベアトリクスのトップバストとアンダーバストの差。
それを、一目見ただけで、30センチメートルと、ぴたりと言い当てただけの男だ。
 ベアトリクスへの贈り物に悩んでいた際などは、マサキの悩みへ即座にこたえて、
「32Iのサイズのブラジャーを送ればいい」
と、はばかる色もなく直言した。
 本当かどうか、心配になって、夫のユルゲンに訊ねたことがある。
さしもの彼も、大層おどろいていたのは、記憶に新しい。
工作員特有の、観察眼なのだろう。
 眼をみひらき、耳を立てて、マサキは始終を聞き入っていた。
だが白銀は、相手の顔色が変ったのを見ながら、すぐ自分で自分のことばを打消した。
「アハハハハ、いや冗談、冗談」
と、かえって、声を放って笑った。

 出発前、マサキ達は、ある男に引き合わされた。
その人物とは、スリランカまで秘密裏に来た、CIA長官であった。
彼は背広姿のシークレットサービスに物々しく護衛させて、マサキの元に出向いた。
 白銀らはあわてて敬礼した。
返礼して、CIA長官は答える。
「CIA長官だ。まあ、楽にしなさい」
彼は、諸兵の顔を見渡しながら、ここでちょっと、言葉を休め、マサキの顔にその目を留めて言い足した。
「国務省のヴァンス長官、国防総省のブラウン長官とも相談したが、君たちの作戦は非常に役に立つ。
ソ連に大きな貸しを作ることによって、我が陣営の交渉が楽になる。
特に戦略兵器制限交渉(SALT)では、優位に立てるであろう。フハハハハ」
CIA長官は、大口あいて、不遠慮に笑いながら、
「ワハハハ、アハハハ。実に素晴らしいことだ。
合衆国政府はこの件に関してCIAのみならず軍・国務省も協力しよう」
 あらましの指令は終った。
命をうけたマサキ達は、勇躍して立ち去った。



 
 

 
後書き
 ラトロワさんが大女という表現は、白銀が1970年代の日本人女性の平均身長152センチと比較しての見解です。
なので、作中では、大女の前提で書いてます。
 今のロシア人女性は平均身長は、166cm(Global Burden of Disease Study, 2017)。
日本人女性は158.2cm(令和元年の「国民健康・栄養調査」より)。
今のロシア人は体格は割と良くて、ドイツには負けますが、アメリカといい勝負です。


 3月以降は、休日投稿出来る時間があったらします。
というか、ハーメルンの方で連載している18禁外伝も、アイリスディーナの結婚式IFをぶん投げっぱなしだし、どうしようか、悩んでます。
 やっぱ読者の皆様は、アイリスディーナの旦那さんはテオドールの方が良いのかな……
これに関しては本当に意見が欲しい。
 お兄ちゃんと禁断の恋か、それとも王道中の王道で主人公テオドールとのEX時空で結婚か……
そうすると、リィズ・ホーエンシュタインが報われねえんだよな……
 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧