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非日常なスクールライフ〜ようこそ魔術部へ〜

作者:波羅月
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第131話『来訪者』

 
前書き
あけましておめでとうございます。2024年もよろしくお願いします。 

 
狐太郎とその両親の仲直りができ、一段落を迎えた。しかし、出し物の仕事を放り出して突発的に教室を出て行ってしまったことを思い出し、晴登と狐太郎の2人は急いで戻っているところだ。


「ねぇねぇ三浦君」

「何?」

「魔術部に入るって成り行きで決めちゃったけどさ、魔術って何なの?」


早歩きで戻る道中、狐太郎は当然の疑問をぶつけた。
晴登は今まで、魔術部をマジック部のようなニュアンスで話していたが、屋上や魔術室での会話を経て、事実は異なるものだと狐太郎も理解できている。
魔術部に入部することも決まった訳だし、信頼できる彼になら話しても良いだろう。


「う〜ん、詳しくは部活の時に説明するけど、とりあえず魔法とか超能力とかそういう類の非現実的な力だよ」

「へぇ〜凄いね。その力が僕にもあるってこと? というか、この耳や尻尾の正体がそれなんでしょ? 全然気づかなかったな〜」

「うん、本当に気づきませんでした……」

「あ、ごめん、別に責めてる訳じゃないよ!」


狐太郎はそう言うが、晴登としては今回の一件は自身の不徳の致すところなので、申し訳ないという気持ちが大きい。初めて出会った時から近くにいたのに、全く気づいてあげられなかった。
そんな罪悪感に苛まれる晴登を見て、狐太郎はすぐさま話題を変える。


「そ、そういえばさっき、僕のこと『狐太郎君』って呼んでたね」

「あ、あれはご両親の前だったから……! もしかして嫌だった?」

「ううん。むしろ……これからもそう呼んで欲しいかなって」

「もちろん! じゃあ俺のことも『晴登』って呼んで!」

「うん、晴登君!」


互いの呼び方を改め、一段と仲が深まった気がした。

……彼には今まで名前呼びするような友達はいたのだろうか。ご両親の話を聞く限り、友達という存在そのものがいなかったのかもしれない。だからこそ、彼は友達という関係に固執するし、名前呼びに人一倍の喜びを見せる。
これからはクラスメイトというだけでなく、魔術部の仲間として彼を助けてあげたい。


「晴登君、ありがとう」

「え? どうしたの急に」

「僕は晴登君にずっと助けられてばっかだなって。学校に行く一歩を踏み出した時も、林間学校の時も、それにさっきだって。僕、晴登君がいなかったら今もずっと引きこもってたと思う」


ほんの半年前だ。あの時晴登が狐太郎と友達になろうとしなければ、今この瞬間は生まれなかった。言わば、晴登の存在が彼の運命を変えたということだ。そう考えると己の図々しさに少し恥ずかしくなってくる。


「晴登君は僕のヒーローだよ」


だが、とびっきりの笑顔で、狐太郎は言った。
ヒーローと言われたのはこれで二度目だろうか。晴登自身がそうは思っていなくとも、助けられた相手は決して忘れない。


「べ、別にそんなことないって。友達として当たり前だよ」

「……やっぱり晴登君はかっこいいね。結月さんが好きになるのもわかるな」

「え?」

「な、何でもない! 何でもない!」


「ヒーロー」と呼ばれて照れていると、続けて狐太郎が何かをボソッと呟く。結月がどうとかと聞こえたが、訊き返すとはぐらかされてしまった。


「いつか恩返しができると良いんだけど。あ、そうだ、僕の尻尾触ってみる? 他の人は抵抗あるけど、晴登君だったらいくらでも触っていいよ」

「え!? いや、それはさすがに……」

「遠慮しなくていいって。自分で言うのもなんだけど、結構触り心地良いと思うよ」


そう提案して、狐太郎はふさふさの尻尾を揺らす。その艶やかな毛並みを見ていると、触るどころか抱きしめたくなる衝動に駆られてしまうが、


「す、凄く魅力的な提案だけど、またの機会にしておくよ」


2人きりならまだしも、今は文化祭中で周りに人も多い。人前で狐太郎の尻尾に抱きつこうものなら、それはセクハラと相違ないのではないだろうか。ゆえに、晴登は唾を飲み込んで我慢する。

もう教室は目の前だ。早く戻ってみんなに謝らないと──


「今戻りました──」

「遅い」

「ひっ」


晴登が入口から顔を出すのと同時、鋭い視線と低い怒声を浴びる。それに気圧された狐太郎が小さく悲鳴を漏らした。


「伸太郎!? 何でそこに──」

「誰のせいだと思ってんだ。理由も言わず出て行きやがって。そのせいで突然表に駆り出された俺の気持ちを考えてみろ」


今にも人を殺しそうな険しい表情をしていたのは、会計の担当だったはずの伸太郎だった。彼は晴登と狐太郎の欠員を埋めるべく、裏から引っ張り出されていたのである。
様子を見るに、かなり怒っているのは言うまでもない。ここはちゃんと謝って穏便に済まそう。


「すいませんでした……」
「ごめんなさい……」

「ちっ。早く持ち場に戻れよ」

「あ、そうだ、聞いてよ──」

「話は今日の仕事が終わってからにしろ」

「……はい」


と、弁明がてら狐太郎について話そうと思ったが、呆気なく一蹴されてしまう。彼にとっては、今すぐ仕事を代わってもらう方が優先らしい。

当然その要求に逆らえる訳もなく、それから2人は黙々と仕事をこなすのだった。







「やっほー! やってるー?」

「思ったより人来てるな」

「あ、ダイチ、リナ、いらっしゃいませ!」

「うお、イケメン……」

「そりゃ集客もバッチリな訳ね」


午前が過ぎようとしていた頃、シフトの交代がてら大地と莉奈が顔を出してきた。


「よく似合ってますよ、結月ちゃん」

「完成度高いですね〜」

「ユウナ! トキ!」


他にも優菜と刻が一緒だった。大地と莉奈は2組の劇を観に行くと言っていたから、その後合流したのだろう。


「4名様ですか?」

「そうそう! 何なら後ろに──」


結月に応じる莉奈の後ろには、見慣れた3人組がいた。


「来たよ、結月お姉ちゃん!」

「チノまで! いらっしゃいませ!」

「「こんにちは〜」」

「3名様ですね、どうぞ!」


智乃率いる3人組は夏祭りの時と同じ3人組だ。晴登から3人分の招待状を貰ってやって来たのだった。日城中の文化祭にはこうして小学生が訪れることは珍しくないそうで、今日も既に何人も見かけている。


「三浦君、あれ莉奈ちゃん達じゃない?」

「え? あ、ホントだ。大地と優奈ちゃん、あと天野さんもいて──智乃もいる!?」


厨房では、晴登も智乃の存在に気づいた。いつか来るだろうとは思っていたが、まさか大地達と一緒にいたとは。


「智乃ってあの小さい子? どんな関係?」

「妹です」

「あ〜噂の。確かに可愛いね〜」

「噂……? 俺何か言いましたっけ?」

「いやいや、結月ちゃんからよく聞いてたのよ。可愛い義妹ができたって」

「義妹って……まぁ間違ってはないのか」

「……もしかして既に結婚してる?」

「は……? い、いや、違う! 決してそう意味では!」


知らぬ間に結月が誇張した噂を流していたせいで、晴登が被害を受けてしまう。でも誇張と言っても、いつか本当になるかもしれないことを考えると嘘という訳ではないのだからタチが悪い。


「あ、お兄ちゃんいた! おーい!」

「やべ、見つかった」

「手振り返してあげないの?」

「妹にこんな姿見られたくなかったよ……」


笑顔で手を振る智乃に、晴登は顔を背けて応える。どうせなら晴登がいない時に来て欲しかったものだ。もっとも、シフトは全て把握されているのだが。


「なんかお兄ちゃん、隣にいる女子と親しげに話してない?」

「うわ出た過保護妹。あれぐらい普通でしょ」

「お兄さんはもう彼女いるくらいなんだから、もうコミュ障じゃないんじゃないの?」

「そんな! お兄ちゃんが遠い人に……!」


一方、智乃は智乃で兄のコミュ力を目の当たりにしてショックを受けていた。ちょっと前まで莉奈以外の女子と話す時はおどおどしていたというのに、環境はこうも人を変えるのか。早く中学生になりたい。


「三浦君、もうすぐ午前は終わりだよね? だからお客さんストップさせた方がいいかな?」

「いけね、忘れてた。狐太郎君、整理券お願いできる?」

「はーい!」


整理券とは、今並んでいる人が午後からも同じ順番で並べるようにするためのものだ。
というのも、出し物は午前の部と午後の部に分かれており、その空いた少しの時間は休憩時間となっている。その間お客さんを並ばせっぱなしにする訳にはいかないので、それを解決するシステムが整理券という訳だ。
時計をしっかりと確認していた狐太郎のおかげで、お客さんに迷惑をかけずに済む。


「……三浦君って罪な男だね」

「何を悟ったの!?」


そのやり取りを見ていた隣の女子からの謎の発言に、晴登は困惑するのだった。







「ふ〜やっぱり晴登の飯はうめぇな!」

「はいはいありがとう」

「でも本当ですよ。こんなに美味しいオムライスは初めてです」

「え、優菜ちゃんまで? あ、ありがとう」

「照れてる〜」

「言わなくていいから!」


大地や莉奈には言われ慣れているが、優菜にまで言われるとさすがに嬉しさを隠せない。趣味程度ではあるが、やってて良かったと思った。


「午前の売上はどんなもん?」

「良いか悪いかわかんないけど、ずっと満席だったよ」

「ずっと!? お昼時だから並んでるのかと思ったら……」


晴登は思ったことをそのまま大地に伝えたのだが、とても驚かれてしまった。文化祭は人が多いし、どこのクラスもそういうものだと思っていたのだが、違ったのか。


「結月とか狐太郎君とか、接客してる人達のおかげかな」

「む、何言ってるの。ハルト達が作る料理が美味しいからに決まってるじゃん」

「でも客寄せしてるのは結月達でしょ?」

「評判になってるのは料理が美味しいからなの!」

「違うって!」


お互いが正論の水掛け論。傍から見ればそれはもはや、


「はいはい痴話喧嘩しないの。他のお客さんも見てるよ」

「「あっ……」」

「ふふっ」

「ホントに仲が良いんですね〜」


注目を浴びていることに気づき、恥ずかしさで俯く2人。そんな中学生らしい甘酸っぱい青春に、お客さんもみんな朗らかな笑みを浮かべている。


「そ、そういえば、優菜ちゃんはともかく、天野さんも一緒だったんだね」

「はい。私が一緒に行こうと誘ったんです」

「天野さんのマジックを見せてもらいたかったからな。でもありゃ確かに凄いわ」

「ね。本物のマジシャンって感じ」

「も〜褒めても何も出ませんよ〜。あ、優ちゃんのポケットからカードが」

「いつの間に!?」


有言実行する大地の積極性に驚かされるし、刻のマジックも絶好調。大地と莉奈もすっかり仲良くなったようだ。もはや晴登よりも馴染んでいる気すらする。この差って何だろう。


「さて、この客足を途絶えさせないよう午後も頑張らないとな」

「ハードル高いな〜」

「頼んだよ二人とも。目指せ最優秀賞、だっけ?」


大地と莉奈にそう声をかけると、二人とも苦い顔をする。初動が肝心とは言ったが、ハードルを上げすぎてしまったらしい。晴登だってプレッシャーをかけられたのだから、やり返しても文句は言えないだろう。


「じゃあ俺達は着替えて来ようかな。行こ、結月」

「はーい。じゃあまたねみんな」


午前のシフトはこれで終わりなので、窮屈な女装を脱ぐために更衣室に向かった。







「ふ〜疲れた疲れた」

「お疲れ様、晴登君」

「狐太郎君もね。大丈夫だった?」

「うん。接客にも少し慣れてきたよ。明日はもっと頑張れそう」

「それは良かった」


ようやく女装から解放され、羽を伸ばすように大きく伸びをして、晴登と狐太郎は更衣室から出る。


「ハルト〜早く行こ〜!」

「結月が呼んでるから行くね。ごめんね、一緒に回れなくて」

「ううん、僕なんかが晴登君の邪魔しちゃいけないからね。それに、お父さん達に会う時間が欲しいから」

「うん、それがいいね」


狐太郎の半年ぶりの両親との再会は中途半端に終わってしまったので、今からその続きをしに行くようだ。晴登としては、再び両親に向き合ってあげようとする彼の決意と優しさがとても好ましい。手を振って、狐太郎とは別れる。



結月と合流すると、隣には優菜と刻がいた。


「おまたせ。あれ、智乃達は?」

「智乃ちゃんは晴登君の女装姿を堪能したようで、お友達を連れてどこかへ行ってしまいましたよ」

「あんまり嬉しくない報告ありがとう。3人だけで大丈夫かな? 迷子にならなきゃいいけど」

「私達が会った時も既に3人で行動していたので、大丈夫だと思いますよ」

「そっか」


智乃は強かな性格だが、人も多くて知らない場所となると、兄として心配にもなる。だが優菜の言葉を聞いて少し安心した。


「えっとそれじゃあどうする? 今度はこの4人で回る?」

「いえ、私達は2人で回って来ますから、そちらも2人で楽しんで来てください」

「そう? じゃあお言葉に甘えて──」


そうなると、これは結月とのいわゆる文化祭デートということになる。初めての文化祭なのにそんな贅沢して良いのだろうか。


「え、ユウナとトキは一緒に来ないの? 4人で行こうよ!」

「でも……」

「うちらがいたら、お二人の邪魔になりませんかね?」


しかし夏祭りの時と同じように、結月にとっては友達と楽しみたい気持ちの方が強いようだ。結月のことだからどうせそう言うと思っていたし、晴登もどちらでも構わなかった。


「邪魔? 邪魔なんて思わないよ」

「俺も結月も気にしないから、2人さえ良ければ一緒に回らない?」

「晴登君がそう言うなら……わかりました」


2人の配慮は嬉しかったが、そうよそよそしくされると逆に寂しいというもの。結月との文化祭デートは明日にでも取っておこう。


「2組の劇って明日はいつから?」

「今日と同じく午前の1枠目からですよ」

「あ、なら明日は観に行けそう。楽しみにしてるね」


晴登はまず一番行ってみたい2組の劇の日程について訊いてみる。今日はシフトが被って行けなかったが、明日は問題なさそうだ。


「晴登君に見られるのは少し恥ずかしいですね」

「お、優ちゃんにここまで言わせるなんて……部長さんやりますね」

「え、何が?」

「もう、刻ちゃん!」


晴登の言葉に対する優菜の反応は至って普通だと思ったが、何かおかしかっただろうか。さっきもそうだが、どうも気づかない内に何かしでかしているらしい。何かがわからないので対策しようがないが。


「じゃあ他に案は……みんなは行きたいとこある?」

「はーい! それなら"シャテキ"に行きたい!」

「"射的"? それならこの前夏祭りで……あ、結月はやってなかったか」

「そうそう。それにハルトが上手ってユウナが言ってたから見てみたい!」

「そうですね。とても上手でした」

「褒めすぎだよ」


夏祭りの思い出の一つ、射的。大地と勝負して、"晴読"の力を使って勝ったのは記憶に新しい。この力については父さん以外の誰にも言っていないので、傍から見れば晴登の射撃技術が優れているように見えることだろう。あまりやりすぎると面倒なことになりそうだし、今日は普通にやることにする。


「2人は?」

「うちは"マジックショー"に行きたかったんですけど、午前にもう行っちゃいました。ついでに途中で乗っ取っちゃいました」

「の、乗っ取った?」

「はい。うちのマジックショーになってました」

「さ、さすが」


言ってることはめちゃくちゃだが、刻ならやりかねないという謎の確信があった。
ということは、大地が刻のマジックを見たのはその時だろう。もしかして、最初から乗っ取るつもりで行ったんじゃないだろうか。そんな気さえしてきた。


「私も午前に莉奈ちゃん達を案内したんですけど、お二人を美術室に招待したいです。文化祭の間は展覧会をやってるんですよ」

「そういえば美術部だったね。優菜ちゃんが描いた絵もあるの?」

「はい。とっておきのがあるので楽しみにしていてください」


とっておきがあると言われたら、それは行くしかないだろう。優菜の絵が上手いのはとうに知っているし、楽しみである。


「晴登君はどこに行きたいですか?」

「俺は"お化け屋敷"かな。憧れてたんだよね、文化祭の"お化け屋敷"」

「"オバケヤシキ"って何?」

「何と言うか……あ、林間学校の時の肝試しみたいなやつだよ」

「あ〜。でもあれってあんまり怖くなかったよね」

「「え?」」

「え?」


文化祭のお化け屋敷と言えば定番な出し物だろう。林間学校の時ほど本格的なレベルは願い下げだが、程よいレベルなら楽しめそうだ。
そう思っていたのだが、約1名、ホラーへの耐性が上振れていた。あの肝試しを怖くないと言うのはさすがに強がりにしか聞こえない。でも結月がお化けにビビる姿は想像できなかった。


「林間学校! くぅ〜羨ましい! うちも前の学校で夏休みに企画されていたんですけど、その……引っ越した都合で行けなくなっちゃって」

「うわ、それは残念だったね」

「なので、良ければ皆さんの林間学校のお話を聞かせてくれませんか?」

「もちろん。どこから話そうかな──」


林間学校に参加できなかった刻のために、晴登達の林間学校での出来事を一から話すことにした。海で遊んだことやみんなでカレーを作ったこと、肝試しやスタンプラリー、花火の話なんかも。


「さらっと話しましたけど、崖から落ちたって言いませんでした?! 大丈夫だったんですか?」

「え!? いや、正確には崖から落ちる前に引き上げたんだよ! ね、優菜ちゃん?!」

「は、はい! 晴登君が引っ張ってくれたおかげで何とか!」

「なるほど、それはお手柄でしたね部長さん」


つい話してしまったが、説明が難しい話題なので慌てて捏造して誤魔化す。優菜もすぐに乗ってくれたおかげで、刻も特に言及はして来ない。セーフ。


「それと、部長さんとゆづちゃんが付き合ったのはまだ最近の話なんですか? まるで夫婦のような距離感ですけども」

「そもそも結月と会って半年も経ってないしね。あと夫婦は恥ずかしいからやめて欲しいな……」

「良いじゃんハルト。どうせ本当のことなんだし」

「え、もう結婚してるんですか!?」

「してないよ! というかできないからね!?」


本気なのかネタなのかわからない刻の言葉に、慌てて否定する。
最近、色んな人にそう言われてる気がするのだが、そんなに距離が近いのだろうか。もう自分でも何が正しいのかよくわからない。


「ふふ、刻ちゃんは晴登君と結月ちゃんとも上手くやれてるようですね」

「もちろんですとも! 部長さんとゆづちゃんとはもう仲良しこよしですから!」

「それなら魔術部をオススメした甲斐があったというものです」


最初こそ不安だったが、優菜が仲介してくれたおかげで刻ともかなり打ち解けた。さすがにそろそろ隠し事するのも申し訳なくなってきたし、文化祭が終われば魔術について教えてあげるとしよう。


「晴登君、どうかしましたか?」

「いや、何でもない。じゃあ、一番近い美術室から行こうか」


それはそれ、これはこれ。今は文化祭を楽しもう!







「ハルト! 見てこれ! 飛び出て見える!」

「それはトリックアートというものです。目の錯覚を利用したアートなんですよ」

「すごーい!!」


初めて見るものばかりで、目をキラキラとさせている結月。美術室に着くや否や、まるで遊園地にでも来たかのようなはしゃぎようだ。芸術が文化の垣根を越える奇跡的な瞬間と言えよう。

トリックアートの他にも、もちろん油絵や彫像なんかもある。どれも美術部の力作だ。晴登はあまり美術について造詣が深い訳ではないが、少なくとも見ていて退屈はしなかった。


「アートにも色々あるんだなぁ──あれ?」


歩きながら作品を眺めていると、ある一つの作品に目が留まる。それはとりわけ目立ったところのない風景画ではあったが、晴登にとってはちょっぴり思い入れのある風景だった。


「気づきましたか? 晴登君」

「だってこれって、GWの時の」

「そうです。覚えててくれてましたか」

「懐かしいな。完成してたんだ」

「はい。晴登君に早く見せたくてうずうずしてました」


あれはGWの合宿の時。たまたま出会った優菜と絵を描くために森の奥に入ったのが始まりだった。
天然の透き通った清流の中に、荒々しく大きな岩が聳え立つ。大自然を感じるその光景はそう簡単に忘れるものじゃない。


「なになに、何の話?」

「俺と優菜ちゃんが出会ったばかりの頃の話だよ。まだ結月とは会う前かな」

「へ〜聞きたい聞きたい!」


結月にせがまれて、ついこの間のことなのだが懐かしむように話す。
といっても、絵を描いている最中に熊に遭遇した記憶が強烈すぎて、それ以外はあまり覚えていない。


「"クマ"? "クマ"ってあの"オンベア"みたいな?」

「えっと……オンベアが何かわかんないけど、たぶんそんな感じ」

「へぇ〜。あんなのと戦った経験があるなら、ウォルエナ相手にやけに肝が据わってたのも納得だよ」

「いやいや、あの時もめちゃくちゃ怖かったからね?」


久々の異世界用語に困惑しつつ、今となっては武勇伝とも呼べる異世界での戦記を思い返す。
かつての自分は未熟で役立たずだったが、成長した今ならもっと上手く立ち回ることができたかもしれない……なんて、今さらそんなこと考えてもしょうがないのだが。


「話がよく見えないんですが、さっきの話といい今といい、部長さんってもしかしてヒーローか何かですか?」

「普通の中学生、のはずなんだけどね……」


熊と戦い、鬼と戦い、ドラゴンと戦った。そんな戦歴を持っている訳だから、自分で「普通の中学生」と言っていて笑いが込み上げてくる。魔術師になってから、日常がすっかり非日常になってしまった。


「晴登君はヒーローですよ」

「ボクもそう思う」

「ちょ……!?」


でも苦労した一方で、得たものもある。

少なくともここに2人……いや、狐太郎も含めれば3人、晴登をヒーローだと呼んでくれる人がいる。照れくさいが、彼女達の期待に応えるためにも、晴登はこの非日常を強く生き抜かなくてはならない。


「……部長さん、やっぱりやりますね」

「だから何が!?」






美術室を出た後、各々の行きたい所を回ってきた。

射的では晴登が再び持ち弾全てで景品を獲得し、名誉として黒板に名前を書かれた。普通にやると決めていたのに、結月達の期待を裏切れず、つい"晴読"を使ってしまったのだ。名誉は嬉しくもあり恥ずかしくもあるが、ズルしてるとは口が裂けても言えない。

お化け屋敷では1組2人までということで、結月とペアで入ったのだが、確かに結月はリアクションこそすれ、全然叫んだりしなかった。むしろ、晴登の方がギャーギャー叫んだと思う。また負けた気分だ。

そして途中から気づいたのだが、美少女3人に囲まれてるこの状況は凄く人目を引く。むしろ女装していた方が目立たなかったかもしれない。
周りの視線を感じながら4人でぶらぶら歩いていると、


「何だろう、あの人集り」


何やら前方が騒がしいのに気づく。廊下を塞いでしまうほどの人集りができていて、まるで有名人でも来たかのような、そんな具合に女子達の黄色い声が飛び交っている。


「ごめんね、少し通してもらえるかな。人を探してるんだ」


申し訳なさそうに集団を掻き分ける男性。彼は一回り背が高く、遠くからでもよく見える金髪をしている。やっぱり有名人だろうか。晴登にはあまり心当たりはないが──


「……あれ?」


ようやく集団を突破したその男性と目が合った。その瞬間、記憶が呼び起こされる。やはり、有名人ということに違いはなかった。枕詞に『魔術界隈の』と付くが。


「あ、あなたは……!」

「やぁ、三浦 晴登君。久しぶりだね」

「アーサーさん!?」


金髪でイケメンの最強魔術師、アーサーが手を振りながら笑顔で挨拶をしてきた。 
 

 
後書き
あけおめことよろ波羅月です。気づいたら前回の更新から3ヶ月経っていましたし、何なら年を跨いでいました。本当は12月中に更新するつもりでしたが、インフルエンザに体力を全て持っていかれました。情けない限りです。

さて、今回の話ですが、いっぱい詰め込んでしまったせいで文字数がエラいことになってます定期。ダメとは言わないんですけど、もっとこう上手くまとめられないもんですかね。もうすぐ連載8年にもなるのにこういうところが未だに下手くそです。まぁ書きたいことを書く自己満小説なので良いんですけどね。次回作はプロットと文字数に気をつけます。

順番的に日常サイドの章のはずなのに、何だか怪しい展開になって来ました。次の更新を震えて待ちましょう(いつになるのやら)。
今回も読んで頂き、ありがとうございました! 次回もお楽しみに! では! 
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