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魔法絶唱シンフォギア・ウィザード ~歌と魔法が起こす奇跡~

作者:黒井福
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AXZ編
  第180話:寂しがりやで、でも人見知りな兎との接し方

 カリオストロとの密かな面会を終え、少し心を落ち着けてから奏達の前に颯人は顔を出した。本部内をあちこち探しても彼女達の姿が見当たらなかったので何処にいるのかと思えば、彼女達はシミュレーションルームに居た。

「よ~ぅ、皆ここに居たのか?」
「あ、颯人」

 カリオストロとの話で少し気分が盛り下がってしまったのを誤魔化す様に明るい口調で声を掛ける颯人だったが、彼の心配は杞憂だったようだ。というより、今は彼の僅かな変化も気にしてはいられないらしい。奏や翼、マリア達が軒並み何やら深刻そうな顔をしている事に颯人は何かあった事を察し内心で嫌な予感を感じたが、同時にほったらかすと余計に面倒な事になりそうな予感も感じたので思い切って何が起きたのかを訊ねてみた。

「何か辛気臭いけど……何かあった?」
「あ~、まぁ、ちょっとね」
「えぇ……」
「さっきの訓練での事なんだけれど……」

 話を聞く限りだとこうだ。先程、装者達でシミュレーションを用いた訓練を行った。先日のカリオストロとの戦いで敵がこちらの連携を露骨に崩そうとしてきた事を鑑み、普段とは異なる組み合わせを意識しての訓練だ。響と切歌が上手くいったので、他の面子でもなんとかなると最初は誰もが思っていた。
 実際、クリスはマリアと高い連携・ユニゾンを叩きだした。透に依存している節がある彼女ではあったが、最近の一件でお互い相手に頼ってばかりではいけないと言う事を自覚したのかクリスは積極的に他の装者達と連携を取ろうと意識が変化していたのだ。長く共に戦ってきた響・翼は勿論、マリアとまで高い連携を実現できたのはとても大きな一歩である。

 そこにはきっと、透を心配させまいと言う意識も多分に関わっていたのだろうと奏達は見ていた。

 だが問題は調だった。彼女は切歌と高いユニゾンを示し、それでもって魔法少女事変ではオートスコアラーのミカを。そして愚者の石回収作戦では襲撃してきたプレラーティを退ける事に成功した。が、逆を言えば彼女が連携する事が出来るのは切歌とのみであり他の装者とはどうしても壁を一枚隔てた様な対応を取るのである。
 先程の訓練でも、1人先走った挙句訓練相手として名乗りを上げた慎次をアームドギアで膾切りにする一歩手前まで行ってしまった。もし彼が空蝉の術で逃れていなければ、重大事故と言う言葉では片付けられない事態になっていた事は確実である。

 この結果に奏達は改めて、調の人見知り加減を実感し頭を悩ませていたのだった。

 一連の出来事を聞いて、颯人は彼女らと共に頭を悩ませた。

「な~るほどねぇ。まぁ確かに、調ちゃんって切歌ちゃんとセットってイメージ強いから、他の子と組んでる姿がちょっと想像できないってのはあるか」
「そうなのよ。ねぇ颯人、何とかならない?」

 縋る様なマリアからの問いに対し、颯人はこめかみを突いた。今回は先日のクリスと透の件ともまた毛色の違う問題だ。一筋縄ではいかない。

「……マリアはどうなんだ? 切歌ちゃん程じゃないにしても、マリアも調ちゃんとは付き合い長いんだろ?」

 ちょっと考えてふとこの事が気になった颯人が訊ねてみれば、マリアからは難しい表情が返って来た。

「残念だけど、私も言う程あの子とは上手く連携できなかったわ」
「マリアでも?」
「なんつーの? こう、マリアに対しては背中を預けるっていうより、背中に隠れてるって言うかさ……」
「月読にとってマリアは頼れる姉の様なポジションであり過ぎた為に、逆に縋ってしまうと言う面があるみたいです。単純な連携はともかく、ユニゾンとなるとその頼り過ぎてしまうのが仇となって……」

 なかなかに頭の痛い話である。姉妹同然に、それも上下なく対等に接し続けなければ心を通い合わせる事が出来ないとは。それだけ調の心がデリケートであり、過去の彼女が心に負った傷は深いと言う事だろうか。F.I.S.の研究所時代は揃って過酷だったと聞く。
 或いはそんな過去を抱えながらも、明るく爛漫に居続ける事が出来る切歌の方が大物なのだろうか?

「ともあれ、このままだと結構問題だぞ。調だけいざって時に切歌意外と連携出来ないじゃ、そこを敵に突かれるかもしれない」
「何とかして月読の心を開かせる事が出来れば……」
「簡単じゃなさそうだけどな~。天照大神とまでは言わんが、調ちゃんも事人付き合いに関しちゃなかなかに頑固だと思うぜ?」

 年長組4人が揃って唸り声を上げた。これは思っていた以上に難しい問題だ。切歌に対しては何処までも強く信頼できる調の純粋さ。しかしそれが他者に対しては一気に反転し一定のラインからは決して相手を近付けない壁になるとは。

 颯人を交えて悩んでいると、そこにふらりと弦十郎がやって来た。彼はシミュレーションルームの待機室に装者全員とガルドを除いた魔法使い2人が揃っているのを見て口を開いた。

「訓練は順調か?」
「旦那も知ってるでしょ? ちょっと今悩んでるところ」
「だろうな。そんなお前達に、少し頼み事だ」

 弦十郎の言葉に、颯人達は顔を見合わせた。言動から特に含みは感じないので、本当にただの頼み事の類なのだろう。それにしたって戦闘要員ほぼ全員と言うのは…………

「……気遣いがお上手な事で」

 思わず零した颯人に、弦十郎が頼もしい笑みを返してきた。




***




 颯人達が弦十郎から言い渡されたのは、パヴァリア光明結社の企みのヒントとなり得る情報を得る為にある神社へと向かう事であった。

 その神社の名は、調(つき)神社。その神社には何でも神いずる門の伝承とやらがあるらしい。

『多くの神社はレイライン上にあり、その神社も例外ではありません。さらに神いずる門の伝承があるとすれば……』
「つまり、指し手の筋を探る事で、逆転の一手を打とうとしている訳ね」

 そう言う訳で、颯人と透を交えた総勢9人の若者達は、普段滅多に足を運ぶ事はないだろう神社の鳥居をくぐって目的の神社を訪れた。

 神社の境内に足を踏み入れてまず最初に目を引くのは、本来狛犬がある筈の場所に兎が居る事だった。それだけではなく、境内にある池の中央には水鉄砲を放つ兎の石造があるし、手水舎で水を出しているのも兎の石造と言う徹底さ。これ以上ない位兎を前面に押し出している光景に、ある種微笑ましさと異様さを同時に感じてしまった。

「うへぇ~、何処を見ても兎、兎、兎……この神社を建てた奴はそんなに兎が好きだったのかねぇ?」
「因幡の白兎っているだろ?」
「うさぎさんがあちこちに……可愛い」
「……マリア、今何て言った?」
「……はっ!?」

 兎尽くしの境内を見渡しながら進んでいくと、彼らを宮司と思しき壮年の男性が迎えてくれた。

「話には伺ってましたが……いやぁ、皆さん、お若くていらっしゃる」
「もしかして、ここの宮司さん?」

 如何にも貫禄がありそうな男性に響はそう問い掛けた。すると男性は頷いて答えた。

「はい。皆さんを見ていると、事故で亡くした娘夫婦の孫を思い出しますよ」
――……ん?――

 そう言いながら宮司は颯人達を見渡し……ある一点で少し長く視線を止めた。彼の視線の動きに颯人は違和感を抱き彼の視線の先を追うが、その先を見る前に彼は視線を動かして口を開いた。

「生きていれば、ちょうど皆さんくらいの年頃でしてな……」

 ちょっぴりしんみりした雰囲気でそう呟く宮司に響や切歌も看過されてかちょっぴり湿った雰囲気を纏う。が、それは純粋な2人だけの話。少し頭の回転が速い者は、宮司の彼の発言に違和感を覚えた。

「……ん? おいおい、あたしら上から下まで割とバラけた年齢差だぞ? いい加減な事ぬかしやがってッ!」

 初対面の相手に揶揄われた事に思わず激昂するクリスを透が宥める。そんな彼女の怒りを当の本人である宮司は何処吹く風と言った感じに笑顔で受け流してさらりと冗談と宣った。

「冗談ですとも。単なる小粋な神社ジョーク。円滑な人付き合いには不可欠な作法です。初対面ではありますが、これですっかり打ち解けたのではないかと」

 そうは言うが、しかし先程の視線と言葉の中に込められた感情に颯人は気付いていた。本人はジョークとして上手く誤魔化しているようだし、事実奏達はそれを彼なりの冗談と捉えていた。その証拠に響と切歌はもう既に安心した様子だし、クリスに至っては呆れた目を宮司に向けていた。

「むしろ不信感が万里の長城を築くってのはどういうこった……」

 まぁ真面目でお堅い人物に比べれば、小粋なジョークを挟める人間の方が打ち解け易くはあるだろう。それは認める。そのジョークの内容が面白いかどうかは別として、ユーモアがある人間であると言う事は円滑な人間関係を築くのに一役買ってくれる。どんなユーモアも無いよりはマシだ。

「では早速、本題に参りましょうか」

 一頻り挨拶を終えた所で颯人達は宮司に案内されて神社の中に通されそこで彼から詳しい話を聞く事になた。四角い机を囲んで畳みに座った颯人達の前で、宮司が古めの地図を取り出しながら話し始める。

「ところで皆さんは、氷川神社群と言うのをご存じですかな?」

 誰もピンとこないと言った様子で視線を彷徨わせる装者達と透。しかし颯人だけは薄っすらとだがその単語に覚えがあった。

「あ~、この辺りの神社の総称だっけ? 確か神社同士を線で繋げると星座の形になるって言う」
「左様、よくご存じで。ちょうど、この様になります」

 頷きながら宮司が広げた地図には、赤い点と線で繋がれた一つの見覚えのある星座の形が描かれていた。

「これは……オリオン座ッ!?」
「正しくは、ここ調(つき)神社を含む、周辺7つの氷川神社により描かれた、鏡写しのオリオン座とでも言いましょうか……」
「颯人、あなた良く知ってたわね?」
「そこはほれ……この間の事件の時、ちょいとね」

 キャロルが巻き起こした魔法少女事変に於いて颯人はキャロル、メデューサを欺く形でレイラインを利用して両者の企みを台無しにした。その下準備の為、彼もまた龍脈……レイラインに関する情報を頭に叩き込んでいたのだ。その時に一緒に見たのが、この氷川神社群の存在である。

「受け継がれる伝承において、鼓星(つづみぼし)神門(かむど)……この門より神の力がいずるとされています」

 パヴァリア光明結社が狙っているのが神の力であり、伝承でこの地から神の力が顕現する。偶然と言うには出来過ぎた一致に、翼も険しい顔になっていた。

「憶測と推論に過ぎないが……、それでも、パヴァリア光明結社の狙いと合致する部分は多く、無視はできない……」
「……神いずる門……」

 翼の言葉に何かを感じた様に響が言葉を紡いだ。
 その直後、彼女のお腹から盛大に空腹を知らせる腹の虫が鳴り響いた。

「――うあッ!?」

 あまりにも大きなその音に、全員の視線が一斉に彼女へと注がれる。

「けたたましいのデス……」
「ん~、お夕飯までもう少しってところか?」

 圧倒された様に呟く切歌に対して、颯人は懐から取り出した懐中時計で時間を確認する。そう言えばここに来る時点で既に夕方だった。時間的には早めの夕飯といっても良いかもしれないが、それにしたって今の音は少しデカすぎだとクリスは半眼で響の事を見ている。

 周囲からの視線、取り分けクリスからの視線が痛い響は、慌てながらも腹の虫が鳴った事への弁解を口にした。

「わ、私は至って真面目なのですが、私の中に獣がいましてですね……」
「んなもん透とそこのペテン師の中にだっている。なのに腹鳴らしてんのはお前だけだぞ」
「あ、あうぅ~……」

 ファントムとただの腹の虫を同列に扱っては、ドラゴンもデュラハンも納得しないだろうが、クリスの言葉に響は仰る通りですと言わんばかりに身を縮こませる。
 そんな彼女に何を思ったのかは分からないが、宮司は朗らかな笑みを浮かべながら立ち上がった。

「では、晩御飯の支度をしましょうか。私の焼いたキッシュは絶品ですぞ」
「そこは和食だろッ! 神社らしくッ!」

 まさかのキッシュと言う献立に、クリスの鋭いツッコミが神社の中に響く。神社でキッシュが出される事への是非はともかくとして、颯人達は飽く迄情報を得る為に来ただけでありそこまで世話になるのは申し訳ないと翼がやんわり断ろうとした。

「ご厚意はありがたいのですが……」

 しかし今回は宮司の方が一枚上手だった。翼が断ろうとするのを遮るように、彼女足りが腹ごしらえをする必要がある理由となる要因を告げた。

「ここにある古文書……、全て目を通すには、お腹一杯にして元気でないと」

 そう言われてしまえば、なるほど断る訳にもいかない。彼がそう言うからには、古文書の内容は相当な量になるのだろう。パヴァリア光明結社の企みを打ち砕く為には、何としてでもその古文書の内容を理解しなければならない。
 それに時間が掛かるのであれば、確かに腹ごしらえは必須と言えた。何より、相手の好意を無碍にするのはそれはそれで失礼に当たる。

「翼、諦めてご馳走になろうぜ」

 奏からもそう言われて、翼は観念して今暫くこの神社に厄介になる事を受け入れるのだった。




 その夜…………

 結局その日は神社に一晩泊まる事になった。颯人達は男女に分かれて、それぞれ別の部屋で夜を明かす。
 そんな中、翼と奏は本部への報告の為、借りた浴衣の上に上着を羽織って夜風から身を守りながらタブレット端末に映った弦十郎にここで得た情報を伝えた。

『門よりいずる神の力か……』
「皆の協力もあって、神社所蔵の古文書より、幾つかの情報が得られました」
「予想しちゃいたけど、やっぱり今回もレイラインを利用した計画を進めてるらしい」
「となると、対抗手段となるのはやはり要石……ねぇ奏? 颯人さんに頼んで前の時みたいにレイラインを弄ってもらう事は出来ないかな?」

 以前颯人は破壊された要石の代わりとなるレイラインの流れを制御する術式をあちこちに設置する事で、キャロルの計画とメデューサの計画を纏めて潰した。今回も同じ事が出来ないかと奏を通して頼めないかと思ったのだが、どうもそう簡単に済む話ではないらしいことが本部のアルドから告げられる。

『今回は少し難しいかもしれません』
「何でだ、アルド? 前も出来たんなら今回だって……」
『その肝心の魔法の為の指輪がもう無いのです』

 アルド曰く、そもそもレイラインレベルの大きな魔力の流れを個人の力で堰き止めたり流れを変えたりするのは相当な労力を要するらしい。事実キャロルは要石を破壊した上で、チフォージュ・シャトーと言う巨大な装置を必要とした。キャロルの場合はただ要石を破壊して魔力の流れを作り出せばいいだけだったが、その魔力の流れに干渉するのは簡単ではない。前回はこの為にアルドにより専用の指輪が作られたが、その指輪も颯人が最後に魔力の流れに干渉する魔法を使用した時点で耐えきれず砕け散ったらしいのだ。そして二度もレイラインに干渉する必要があるとは思っていなかったアルドは、同じ指輪を二つも用意してはいなかった。

『魔法にはそれぞれ適した魔法石を用意する必要があります。手持ちの魔法石では、レイラインの流れに干渉する魔法に耐えられる物は……』
「つまり、今回は要石に頼らざるを得ない……と?」

 翼が確認するとタブレットの向こうでアルドが頷き、その横で慎次が資料を捲っている。

『要石……キャロルとの戦いで幾つかが失われてしまいましたが……』
『それでもレイラインの安全弁として機能する筈です』

 つまり希望は失われていないと言う事になる。颯人に無用の苦労を強いる必要も無いと分かり、奏の顔にも安堵の表情が浮かぶ。

『……神の力をパヴァリア光明結社に渡す訳にはいかないッ! 何としてでも阻止するぞッ!』
「無論、そのつもりです」
「アタシらに任せな、旦那ッ!」

 鼻息荒く気合を入れる弦十郎に、翼と奏は力強く頷くのだった。




 その頃、颯人はある人物と境内の池の前で落ち合っていた

「どうも、こんな夜更けにすみませんね」
「いえいえ。それより私に聞きたい事があるとか?」

 颯人が訪ねたのはこの神社の宮司の所だった。彼は隙を見て周囲の者に気付かれないように、宮司と接触を図り全員が寝静まった頃に話をしたいとこの場に呼び寄せたのだ。

 一体颯人は自分に何の用があるのだろう? そう首を傾げながらもこの場に来てくれた宮司に彼は感謝しながら、ある一つの疑問を彼に投げかけた。

「宮司さん。単刀直入に聞くけど……調ちゃんの事何か知ってるでしょ?」

 颯人の口から出た問い掛けに対し、宮司は動揺する事も無く静かに彼の目を見つめ返していた。 
 

 
後書き
と言う訳で第180話でした。

調と調神社の関係に関しては、原作は勿論XDUでも匂わせる程度で明言されてはいません。ですがスルーするにはあまりにも惜しい内容なので、本作ではそこら辺を独自設定交えて絡めていこうと思います。まぁそんなにガッツリ絡ませる訳ではなく、飽く迄本作独自の話を作り出す為のエッセンス程度な感じになるとは思いますが。

執筆の糧となりますので、感想評価その他よろしくお願いします!

次回の更新もお楽しみに!それでは。 
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