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IS《インフィニット・ストラトス》‐砂色の想い‐

作者:グニル
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足りない者の決意

 学年別トーナメントまで残り二週間と迫った6月の月曜日。

 来週の月曜日からは学年別トーナメント用にアリーナが整えられるため練習は今週いっぱいで最後ということになります。流石に一週間前にもなるとほとんどの人がペアを決めて互いの理解を深めるために練習に力を入れています。
 それは私たちも同じで、今日から一週間は本格的なトーナメント対策です。

「では今日もよろしく頼む」

「はい。では今日から本格的に対策を立てましょう」

 そう言って以前と同じように各ISのデータを空中に映し出す。

『白式』&『ラファール・リヴァイブ カスタムⅡ』
 単一仕様能力『零落白夜』と瞬時加速による圧倒的攻撃力を誇る一夏さんと、『高速切替』による多様性役割切り替え(マルチロール)戦法で様々な状況に対応できるデュノアさんの組み合わせ。

『ブルー・ティアーズ』&『甲龍』
 両機共に第三世代兵器を持ち、遠距離狙撃とBT兵器により圧倒的アドバンテージを持つセシリアさんに、『龍咆』による見えない攻撃と『双天牙月』での脅威の連続攻撃が可能な鈴さんの組み合わせ。

そして『シュバルツァ・レーゲン』
 AICという一対一ではほぼ無敵の第三世代兵器を持ち、6本のワイヤーブレードと大口径レールカノン、更には鈴さんをも圧倒する熟練度を持った近接格闘能力を誇る一年生の中では恐らく最強と言っても間違いではないボーデヴィッヒさん。

 ちなみにボーデヴィッヒさんは締め切りまでにペアが見つからなかったらしく抽選ということになりました。と言う訳で相方は分かりませんが恐らく他の一年生は皆さん『打鉄』か『ラファール・リヴァイブ』と考えていいのでここでは除外します。

 問題は未だに一度も会ったことの無い4組の日本の代表候補生、更識(さらしき) (かんざし)さんなんですけど、今回は都合でお休みだそうです。
 ただ彼女のIS、全然情報が無いんですよね。
 機体名は『打鉄弐式』。名前からして『打鉄』の改良強化型の第3世代なんでしょうけど……
 製作は『白式』と同じ倉持技研のはずですからデータが無いなんてはずはないんですけど、おかしいですね。

 まあ今回は不参加ということなので考えても仕方ありません。このことはまた後日調べましょう。

 そして私たちは『デザート・ホーク・カスタム』&『打鉄』
 長所を上げれば『ラファール・リヴァイブ』『甲龍』に似たコンセプトの『デザート・ホーク・カスタム』は防衛戦闘に耐えるために非常に燃費がよく作られており、どんな戦況にも対応できます。また『打鉄』は安定したガード型のISのため、こちらも後付装備により様々な戦闘に対応できる万能な組み合わせです。

 ただ……それは悪く言えば決め手にかける組み合わせなんですよね。せめて私のISに第三世代兵器が搭載されていればまた状況は変わるんですけど……
 この『デザート・ホーク・カスタム』は第3世代ISではなく、正確には次期第3世代試作改良型IS。つまりスペック上は第3世代に匹敵するものの、ボーデヴィッヒさんや鈴さんのような空間干渉兵器やセシリアさんのBT兵器なようなものは存在しないのです。
 現在本国では急ピッチでオーストラリア独自の第3世代兵器を開発中ですが、いつになるのかはまだ分かりません。
 ですから他の国の技術者から見た『デザート・ホーク・カスタム』の扱いは2,8世代型IS。ボーデヴィッヒさんのように未完成の不良品という人もいます。

 とりあえず今はないものねだりをしてる場合ではないので、今ある現状で何とかできるように頑張りましょう。


―『白式』&『ラファール・リヴァイブ カスタムⅡ』に対する考察―


「ふむ、やはり私が一夏を抑えてその間にカルラがデュノアを、というのが常道ではないか?」

 箒さんの言葉に私は素直に頷きます。
 箒さんと一夏さんはどちらも近接格闘を得意にする型で、腕は箒さん、機体は一夏さんが上といった具合なのでなんとかなるでしょう。
 問題は私がデュノアさんを抑えられるかどうかですが……しかしそれは事が全て上手くいった場合の話。

「それは当然相手も危惧してくると思います。向こうとしてはその逆が有効……なので恐らく箒さんにはデュノアさんが来て、私には一夏さんを当ててくるでしょう」

「む、それもそうだな……」

 となれば二人同時は無理ですね……

「ならデュノアを先に二人で落とせばいいのではないか? 一夏は接近しなければ戦えない。一夏を牽制しつつ、デュノアを二人で倒す。その後また二人で一夏を倒す。これでどうだ?」

「そうですね。方針はそれでいいでしょうけど……一夏さんは行動が読めないのが厄介なんですよね」

「うむ、それには全くもって同意する」

 箒さんがうんうんと頷く。そもそも格闘オンリーの機体と組んだデュノアさんの動きはまだ見たことがありません。そうなると当然デュノアさんは援護に回るのでしょうけど、そういう固定概念は持たないほうがいいでしょう。何せほぼ一瞬で武装を入れ替えられるんですから2トップで突っ込んでくる可能性もあります。
 となれば……

「箒さん、『打鉄』って後付装備で射撃武器ありますよね?」

「あ、ああ。確かにあるが……ちょっと待ってくれ」

 箒さんがデータを見せてくれます。『これ』は……使い道によっては……

「これ使えますか?」

「むう……この装備は使ったことが無いからな。正直使えるかどうかは微妙なところだ」

「なるべく形になる程度でも使えるようにできますか?」

「一週間か……ギリギリだがなんとかやってみよう」

「お願いします」


―『ブルー・ティアーズ』&『甲龍』に対する考察―


「これはオーソドックスな前衛後衛タイプだな」

「はい。以前の模擬戦の時もセシリアさんは近接武器を出し損ねていましたし、2人の機体上恐らくそうでしょう」

「それにこの二人は仲が悪いのではないのか? ならば案外楽だと思うのだが……」

 それだといいのですけどね。

「油断は禁物です。仲が悪いとは言っても二人とも第三世代ISの使い手の上に代表候補生。型に嵌ったときは私たちは恐らく何も出来ずに負けますよ」

 鈴さん、セシリアさんと私は連続稼働時間の点では勝るとも劣っているとも言えませんが、箒さんは絶対的に足りない。そういう意味でもこちらが油断することは出来ない。

「うむ……そうだな、油断はいかん」

 BT兵器と狙撃で動きが止まったところに衝撃砲とあの連続攻撃を受ければそれこそ私たちの腕では唯の的になってしまいます。

「相手の意表をついてペースを握らせない。この二人に関してはこれが一番ですね」

「ふむ、ならば鈴に肉薄してBT兵器を使わせないのが一番だな」

 箒さん分かってますね。
 BT兵器は一対多と一対一では非常に有効な兵器ですが2対2などの味方がいる状態だと味方の動きも考慮にいれなければならない分非常に使いどころが難しくなります。
 味方を巻き込む可能性が大きいBT兵器はその味方に接近戦を挑むことでそれを抑制することが出来ますからね。
 ただ問題が……

「正直言って鈴さんにISでの格闘戦はきついところがあります」

「私も負けるつもりはないがISの技術では鈴の方が圧倒的に上だからな」

 ふむ、鈴さん相手では一対一の格闘戦は不利ですね。

「鈴に挑みつつ隙を見てセシリアを落とし二人で鈴を、そういうことか」

「はい。その方向で行きましょう」

 上手くすれば先ほど一夏さんたちの時に考えた武装も使えるかもしれません。


―『シュバルツァ・レーゲン』に対する考察―


「…………………………」 
「…………………………」 


 流石に私も箒さんも考えが出ませんね……

「流石にこれは二人同時に挑んでもきついな」

「そうですね……」

 私も箒さんもボーデヴィッヒさんと戦うには腕が全然足りません。AICという特性上二人で戦わないと絶対に勝てないうえに、二人で戦っても勝てる確率は2割から3割といったところでしょうか。私のブーメランも初見で読まれましたし。

「一対一だと絶対負けますからね。常に二人で挑まないと……」

「む? このAICは範囲内の奴を全て止めるのではないのか? カルラの言い方だと一人しか止められないようだが」

「恐らくその解釈であっていると思いますよ?」

「その根拠は?」

 ああ、そういえば箒さんはあの戦闘の時いないんでしたね。なら説明が必要でしょう。

「あの戦闘の時、AICで私が止められて攻撃されそうになった際に真上から鈴さんが攻撃に入りました。それだけならボーデヴィッヒさんはAICで鈴さんもまとめて止めてしまえばいいだけの話です。なのにあの時ボーデヴィッヒさんはわざわざ私を撃墜せず鈴さんを迎撃しました。ということはAICはある程度の距離内の一人しか止めることは出来ない、と考えることができます」

「な、なるほど」

「更にその後私のAICが解除されました。ということはあのAICは無条件に全てを止められるわけではなく、ボーデヴィッヒさんの認識した対象一人、ある程度の有効射程、かなりの集中力を要する、というのが私のあのAICに対する考えです」

「よく分かるものだな。一回しか戦わなかったのによくそこまで分かるものだ」

 と言ってもこれ私の考えだけではなく映像分析をしてくれたリース先輩たちのおかげで確信した内容なんですけどね。

「でもこれは推測です。確証はありませんしボーデヴィッヒさんは眼帯をしたままだった、というのも忘れてはいけません。AICが無くてもあの人は十分に強い。私たち二人で掛かっても勝率は2割がいいところでしょう」

「カルラにそこまで言わせるとはな」

 そう、問題はそこです。
 AICが無い程度で勝てるならあの3人で挑んだ時点で確実に勝てたはず。それをさせなかったのは機体でも兵装でもなく、私たち全ての攻撃を受けきり、攻撃を行ってきたボーデヴィッヒさん自身の腕以外の何者でもありません。

「『打鉄』に何かもう一つありませんか?」

「むう……もう一つか……これなんてどうだ?」

 箒さんが映し出してきた武装は……え……でもこの武装って……

「箒さん? これ使えるんですか?」

「む……こ、この一週間で……」

「さっきのやつと同時ですよ? 無理なら他の簡易な武装にしたほうが……」

「いや、やる! やってみせる!」

 まあ……本人がこう言ってるんですし任せてみてもいいでしょう。
 それ以前に私はボーデヴィッヒさんに通じる術をほとんど持っていないのですから箒さんに任せるしかありませんね。

「すいません。よろしくお願いします」

「うむ! 任せろ!」


―結論―


 これ……ほとんど箒さん頼みじゃありませんか?

「うう、箒さん。申し訳ありません」

「うん? 何がだ?」

「私が力不足なばっかりにあなたに負担を押し付けるような形になってしまって……」

「何だ、そんなことか。ならば謝るのは私の方だぞ?」

「え?」

 ど、どういうことでしょう?

「私の相方はカルラで良かったと思っている。それにお前も言っていた話だが、私はお前以外の奴と組んでいたら一夏たちには勝てないかもしれない」

「で、でも鈴さんやセシリアさんの方が腕前では上ですし、一夏さんやデュノアさんならここまで箒さんに無茶をさせることは……」

「くどい!」

 申し訳なさで頭を下げていた私にそう言った箒さんは、何を思ったのか展開していたブレードを突きつけてきました。
 えっとぉ……

「私はお前でよかったと言っている! 私がお前の謝罪を望んでいると思うのか!? そんなものでこの状況が変わるのか!」

 箒さんの顔は明らかに怒っている。いや、これは怒りというより……

「誰と組んだところで私が強くなるわけではない! そいつの負担が減るわけじゃないんだ! 専用機も無い! 連続稼働時間も一夏にすら及ばない!」

「箒さん……」

 悲しみ……

「私に何が出来るか必死に考えて……必死にやって! それでも未だにお前たちの足元にも及ばないと分かっているさ! いつか一夏にも及ばなくなるというのもな! その気持ちがお前に分かるか! 誰と組んでも足手まといにしかなれない私の気持ちが専用機持ちのお前に分かるものか!!」

 今まで我慢していたんでしょう。いくら授業で頑張ろうと、放課後に稼働時間を上げようと……専用機持ちはすぐその稼働時間を追い抜くことが出来ます。
 それに卒業時に専用機が全員にもらえるわけじゃない。卒業の時点でその人が国家代表になれる見込みがある人だけに専用機は与えられる。
 何せISの専用機持ちになれるのは全世界でも数百人。全世界の人口が70億としてその半分が女性だとしても35億人。そのうちの数百人。可能性は限りなく0に近い。
 そして今は一夏さんが師事してはいますが、専用機のある一夏さんはいずれ箒さんよりも強くなる。そうなれば箒さんの必要性は?
 一夏さんは決してそんな人じゃないというのは分かってます。しかし……箒さんはその考えを捨てきれない。否、捨てられるわけが無い。
 今以上に好きな人に近づく機会はなくなる。そうなれば待っているのは一般人と国家代表者という別次元の隔たり。何ヶ月、何年と会えないなんていうのも当たり前。下手をすれば一生会えないという可能性もある。

「謝りたいのは私のほうなんだ! 足手まといになってすまないと……苦労をかけてすまないと謝りたいのは私なんだ!」

 箒さんは俯いて唇を噛み締めている。我慢していても爆発した感情は収まっていないようで、いつも気丈に振舞っているその目からは大粒の雫が零れ落ちました。

「箒さん……」

 かける言葉が見つからない。この場合どんな言葉をかけても意味は無いでしょう。専用機を持ってる私と持たない箒さんではそれ程の言葉の違いがあるのですから。

「それでも……カルラ……お前が納得いかないというのなら……」

 今まで突きつけられていた近接ブレードを箒さんは降ろしてくれました。その顔はいつの間にか涙は無く、いつも通りの力が入っています。

「こういう時に言うのは礼だ」

 そう言った箒さんは少し微笑みました。
 何て強いんでしょうね、この人は……
 同年代とは思えませんよ本当に。

「分かりました、箒さん。ありがとうございます」

「ああ」

「それから……箒さんは足手まといではありません。それを証明しましょう」

「当然だ。第2世代でも第3世代に劣らないところを奴らに見せつけてやる! 改めてよろしく頼むぞカルラ!」

「はい!」

 見せましょう。私たちの底力を!


―――――――――――――――――――――――――――


 6月最終週の月曜日。
 今日からIS学園は一週間に渡り学年別トーナメントが始まる。そしてその慌ただしさは予想よりも遥かにすごく、今こうして第一回戦が始まる直前まで、全生徒が雑務や会場の整理、来賓の誘導を行っていました。
 当然例外なくですので私たち専用機持ちや上級生もであり、それがようやく解放された私たちは急いで各アリーナの更衣室へと走り準備します。

「きゃあ! ちょっとそっち詰めてよ!」

「無茶言わないで!」

「なんでこんななのよもー!」

 ちなみに各アリーナには更衣室がAピットとBピットの二つ。しかし今年は男性がいます。男性と女性の着替えを一緒にするわけにはいかないということでAピットの方は一夏さんとデュノアさん専用となり、他の人たちは全てBピット側に押し込まれてしまっているので着替えも大変です。

 しかも更衣室中央にはモニターが配置されていて、皆さんが見るために空けておかねばならないのでロッカールームは絶賛大混雑中。

 更衣室のモニターは試合の無いときは来賓席を映しています。来賓客には各国の政府の関係者や企業のエージェントなどの各国要人がズラリと並び、その人数はクラス代表対抗戦とは比べることの出来ないほどの人数がいます。

「一学園のイベントに随分と大仰なものだな」

 隣の箒さんが呟きました。

「3年にはスカウト、2年には1年間の成果の確認だそうですよ。私たち1年生は関係ないですが、有望な人へのチェックという意味合いが強いそうです。噂ですけどね」

「そうか……」

 そして会場の警備も万全。ISの扱えるほとんどの教員は会場の警備に出ており、クラス対抗戦のような侵入者が無いように備えられています。
 映し出される空には時々警備を行っている教員方が雲を引いて飛行していくのが見える。

「しかし随分時間が掛かりますね」

「仕方ないだろう」

 ペアへの試合内容変更のせいで従来のシステムに不具合が発生し、本来なら昨日の内に出来上がっているはずの対戦表の作成ができず、対戦表は今現在も手作りの抽選クジで行っているそうです。

「出たわよ!」

 誰かの声と共にその場の全員の視線がモニターに集まります。

 一回戦Aブロック……
 はあ……

「参りましたね」

「なに、私の切り札を見せないで済んだ分やりやすいさ」

「なるほど」

第一試合……
 『カルラ・カスト&篠ノ之 箒』ペア 対 『セシリア・オルコット&凰 鈴音』ペア
 試合開始まで残り30分…… 
 

 
後書き
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