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IS《インフィニット・ストラトス》‐砂色の想い‐

作者:グニル
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タッグ&メカニック

「というわけで箒さん、私と組みましょう」

「何故だ……何故こうなってしまったのだ……」

「箒さん?」

 部屋に戻ると箒さんはベッドに座って頭を抱えていました。どうしたんでしょうか?

「あのー……」

「そもそもあの約束は私と一夏だけのものではないか……確かにあの時声は大きかった気がするがどうしてあんな風に伝わったのか……」

「………………あー」

 もしかして……いえ、もしかしなくても『学年別トーナメントで優勝したら一夏さんが恋人になってくれる』騒動の原因は箒さん。しかもその内容は自分が優勝したら箒さんが一夏さんと付き合える、というものだったということですか……
 噂というものは刻一刻と変わっていくものなのです。既に付き合うという曖昧な表現は消えて恋人という完全なる言葉が出ています。
 その時、今まで下を向いていた箒さんが何かに気づいたように顔を上げました。

「そうだ! ペア戦になったのだから私が一夏と組めば……!」

「それは無理ですよ」

「うお!? カ……カルラか!? いつの間に帰っていたんだ!?」

 うわーお、全く気づいてなかったんですか……ちょっと傷つきますよそれ。
 それに気付いたのか箒さんが大きな咳払いと共に話を続けます。

「ご、ゴホン! け、怪我はもう大丈夫なのか?」

 あ、別に気付かなかったことに何か言うわけじゃないんですね。
 でもその気遣いは素直に嬉しいです。

「ええ、ただの打撲でしたからそこまで痛いわけでは……痛っ!」

 ベッドに座ろうとして腰に痛みが響きました。

「まあ……なんだ。無茶をするなよ」

「え、ええ。ありがとうございます」

 私が大丈夫と言ったので箒さんもそこまで深く言うわけにもいかないのでしょう。少し呆れ気味にそう言ってくれました。

「で、先ほどのはどういう意味だ?」

 これは一夏さんのペアが無理と言った件ですね。

「一夏さんは既に同室のデュノアさんとペアで出ると決めたそうです。なので一夏さんは無理です」

「な、何!? どういうことだ!」

「どうもこうもそのままの意味です」

 先ほどの保健室のやり取りを詳しく教えると最初は怒っていた箒さんの怒りも徐々に収まってきました。

「そうか。そのようなことがあったのなら一夏も断れなかったろう……今回は仕方ないか」

「ええ、ですので私と組みましょう」

「そ、そうか? 私でいいのか?」

 何を言ってるんですか。

「既に鈴さんとセシリアさんのペアは決まってるんですよ? 他の専用機持ちは4組の人とボーデヴィッヒさんのみ。私とその二人と誰が良いですか?」

「む……」

「正直に言いますけど一夏さんとデュノアさん、鈴さんとセシリアさんのペアに普通の人と組んでも勝てませんよ?」

「ぬ……」

「ボーデヴィッヒさんなら勝率は上がるでしょうがあの人と連携できるんですか? 私はボーデヴィッヒさんか、4組の人か、箒さんかと聞かれれば迷い無く箒さんと答えますよ」

「う……む。そうだな。確かにそうだ」

 はい、そう言うと思ってました。ポケットから先ほど貰ってきた申し込み用紙を取り出します。

「というわけで既に私と箒さんの名前を書いた申し込み用紙を持ってきています」

「じゅ、準備がいいんだな……」

「問題は既に解決済みです」

 でも名前は書けても本人の承認が無いとどうしようもないんですけどね。

「で、だ。カルラ? お前はどこから聞いていたんだ?」

「はい?」

「だ……だからあの……独り言をだな……」

 箒さんはモジモジしながら聞いてきました。
 あー……よし。

「箒さん」

「ん?」

 私は箒さんの肩に手を置いて……

「私は箒さんと一夏さんを応援しますよ」

「う……うむ」

 そう言うと箒さんは顔を真っ赤にして俯いてしまいました。
 聞こえてたと言ってるのと同じですからね。
 でもこう言った以上私も責任を持たなくてはなりません。

 他の人のデータ研究、ギリギリまでしますか。


――――――――――――――――――――――――――――――


 箒さんとの申込書を出した後、私はその足でIS学園の第1整備室の前にやって来ました。
 IS学園は2年生から1クラスだけですが『整備科』というクラスが作られます。将来的にISの操縦ではなく、IS関連の仕事に就職したい人用にと作られたこのクラスは学園内でも非常に重宝されています。学園内で精密な調整を施せるのは整備科だけということもあってISを使用したイベント、今回のようなトーナメント戦や模擬戦では整備科に協力を仰ぎ、複数名からなるチームをつけてもらうのが基本です。
 ただそれはあくまで2年生からであり、1年生の時点ではそこまで必要とされてません。

 でも今、私はその整備科に頼んでおいたものがあります。
 先のボーデヴィッヒさんとの戦闘によって損傷を受けた『デザート・ホーク・カスタム』の修理、改修が必要だったからです。ISには自動修復機能が備わっていて時間があれば治りますが、今回の損傷ではトーナメントまでに修理が間に合いません。

 圧縮空気の抜ける音と共にドアが開き、中に入ります。

「そっち持ってきて早く!」

「さっさとする! 時間は待っちゃくれないよ!」

「そこ! どけっていってんの!」

 そこに広がるのは夜だというのに明々と部屋を照らす明かり。それに照らされるのは慌ただしく動き回る人。そして飛び回るのは怒号と聞き間違うばかりの指示と注文。さらには金属を削る音や電子音も加わり物凄いうるさい。
 学年別トーナメントが近いからでしょう。その場はかなり殺伐としたものを感じます。

「よーう、来たかー」

 その殺伐とした空気を崩すかのようにのんびりした声が後ろから掛けられました。振り向くと私の後ろには背の高い女性が立っていました。
 オーストラリア出身の整備科3年生、リース・マッケンジー先輩。私の『デザート・ホーク・カスタム』の修理・改修をお願いした人です。
 ショートカットの薄い青髪に碧眼で、身長は180cmと女性ではかなり長身の部類に入ります。
 美人にも関わらずその顔には整備のときについたと思われる油を擦った後があり、服装は私たちとは違う整備科用の灰色のジャージ。その胸元はその豊満な胸をしまえ切れないと主張するかのように大きく開かれており、谷間が余計強調されています……
 横に入っている線が赤色のため、3年生ということがより分かりやすくなっています。

「マッケンジー先輩」

「名前でいいって。同じ国出身なんだから」

「は、はい。リース先輩」

「とりあえず注文されたのは出来てる。こっち来な」

 私の先に立つとリース先輩は目的地に向かって歩き出します。この人、見た目美人なのにかなり男っぽい話し方と性格をしています。

 って、今もう終わったって言いましたか?

「でも頼んだの4時間くらい前ですよ? もう直ってるんですか?」

「百聞は一見にしかず、ってな。とりあえず見てみろ」

 着いたのは整備室の一角に置かれている一つのブース。そこでは展開された『デザート・ホーク・カスタム』が完璧に修復された状態で置かれていました。
 思わず近寄って壊れていた部分をなぞってしまいます。先ほど破壊された装甲はしっかりと作られ、今まであった細かい傷も全て直されていて初めて受け取った時と同じように輝いています。

「すごい……」

「ま、直すだけならな」

 私の意識せず出した言葉にリース先輩が答えてくれる。

「何言ってんのよ。こんな忙しい時期に他の仕事持ち込むなんてさぁ。ちょっとはウチらの苦労も考えてよね」

「あ、ISが喋った!?」

 い、今ISから声が聞こえましたよ!

「何だ、そこにいたのか綾香」

 リース先輩が声を掛けると、ISの後ろから黒髪を肩のところで切りそろえてある女性が出てきました。
 あ、なんだ。後ろに人が居ただけだったんですね。

 身長は多分160cmあるか無いかくらいでしょうか。格好はリース先輩と同じく灰色のジャージ。線の色も同じく赤なので3年生ですね。

「他の連中はどうした?」

「フィリとマヤなら疲れて仮眠室で寝てるよ。毎度アンタの無茶に付き合わされる身にもなれっての」

「あー、まあ怒るなよ。可愛い後輩のためなんだからさあ」

「それはさっきも聞いた。で? その子があんたの言う可愛い後輩?」

 綾香と呼ばれた先輩はツカツカとこちらに近づいてくると私の顔の前に自分の顔を付き合わせてきました。

「え、えっと……その……」

 わ、私は何をしたら……とりあえずお礼を言った方がいいんですかね。

「可愛いけどまだまだ甘さの抜けない顔ね。これからに期待……か」

 そう言うと先輩は顔を離してくれて右手を差し出してきました。

「初めまして。神月(かみづき) 綾香(あやか)よ」

「あ、えっと! カルラ・カストです! この度はありがとうございます!」

 その手を握り返してお礼を口にすると神月先輩は肩をすくめて……

「礼なんていいって。当然のことなんだから」

「あんたが言うな!」

 リース先輩の声に神月先輩が突っ込みを入れました。仲、良さそうですね。
 
「あのねリジー。今はただでさえ学年別トーナメントの時期で忙しいのよ? しかも何か知らないけどペア戦ってことになったせいでその調整が忙しいんだからこれ以上他の仕事は持ち込まないでよね!」

「リジー?」

 今神月先輩がリース先輩のことリジーって呼びましたね。

「ああ、それ私のあだ名。基本綾香しか呼ばないけどね。こいつあだ名つけるの好きなの」

「と・に・か・く! これ以上仕事は請けないこと! 分かった!?」

「はいはい、分かったよ」

「あ、あの……すいません!」

 私のせいでお二人が喧嘩するようなするようなことがあっては大変です。原因は私なのですから謝らないと。

「ほら、可愛い後輩もこう言ってるんだしここは大目に」

「あんたのせいでしょ!」

 神月先輩は軽く溜め息を付くと私に向き直って言いました。

「別にカストちゃんのせいじゃないからいいよ。それにオーストラリアのISを弄れる良い機会だったしね。ま、私は寝るわ。仕上げはリジーがやっといてよね」

「あ、ありがとうございます」

 神月先輩は手を振りながら整備室を出て行きました。
 いい人みたい。とやかく言いながらも最後まで手伝ってくれてたみたいだし、リース先輩に伝えるために来るまで待っててくれた。
 うん、私の中でいい人決定。

「んじゃま、私達は仕上げ終わらしちゃいますか」

 そう言うとリース先輩は『デザート・ホーク・カスタム』のコンソールを開くとキーボードを弄ってデータを空中に映し始める。
 って物凄く早い!? あっという間に全てのデータが私の目の前に映し出されていく。

「基本的には修理前と変わらずかな。盾を多用する傾向があったから装甲を少しだけ削って、ちびっとだけだけど機動性が上がるようにしておいた。あとこれまだなんだけど、手甲のショットガン『マルゴル』の使用率10%切ってる。いらなくね? 外そうか?」

 リース先輩が映し出されたデータを指しながらそう言います。
 た、確かに私もあまり『マルゴル』は多用しませんし、言うとおりなんですけど……

「でも……」

「心情的には外したくない、だろ?」

「ふえ!?」

 な、なんで思ってることがばれたんでしょう……

「ISを使ってる人、特に専用機持ちはその機体に愛情に似たようなものがあるからなー。データで分かってても外せないって人は結構いるよ」

「そ、そうですか」

「ま、そう言うと思ってたから外す準備なんてなーんもしてないけどねぇ。カルラちゃん的に何か直したいところとかある?」

「今のところは特には……」

「そ、んじゃこれで終わりな」

 リース先輩は再びコンソールを叩いて今まで映し出されていたデータを全て仕舞ってコンソールを閉じました。うん、やっぱり早い。

「ちなみに銃は完全に吹っ飛んでたからこっちじゃ直せないので悪しからず。ちゃんと本国から新しいのを送ってもらえよ」

「あ、はい」

 明日朝一でやりましょう。メールなら今から送っても大丈夫かな?

「そんじゃ私は友達のIS整備があるからこれくらいで。また何かあったら言ってきてもいいよ」

「はい! ありがとうございます!」

「ただし!」

 リース先輩が人差し指をビシッ! と私に突き付けて思いっきり気持ち良い笑顔で言いました。

「今回は初回サービスでタダにしとくけど次からは何かお土産を持ってくること」

「は、はい……」

 し、しっかりしてる。

「こういうのは大事だからな。人に物を頼むときは何かお土産があったほうが物事はうまく進む。私も美味しい」

「そっちが本音ですか……」

「ま、それもある。とりあえず私たちの仕事はこれで終了。あとはカルラちゃん次第だから私の関知するとこじゃないさ。精々頑張りなよ、期待の新人(ルーキー)」

「あ……はい! ありがとうございます!」

 私がそう言うとリース先輩は手を上げてヒラヒラさせながらブースから出て行きました。
 私は『デザート・ホーク・カスタム』を待機状態に戻し、いつも通り鎖に通して首に掛けます。やっぱり戻ってくると落ち着きますね。
 その場で頭部のみ部分展開して情報を再確認……ってあれ?

「なんだろう、このデータファイル」

 預ける前には無かったはずのデータファイルが存在しています。
 ……うーん、とりあえず開いてみようかな。

―ファイルロック解除、映像を再生します―

 映像?

 そこで再生され始めたのは昨日のボーデヴィッヒさんとの戦闘映像。って、何でこんなのが……
 私がAICで止められた部分で映像が一時的に止まり、その映像に次々と文章が映し出されていきます。

「こ、これって……」

 映像分析? しかも、弱点!?
 まさかこの戦闘映像を見ただけでAICの弱点を見抜いたと言うんですか!?
 10分以上の分析と文字だらけの画面が消えて映像ファイルが終了。最後には『Fin♡』って……

 リース先輩……ありがとうございます。
 トーナメントが終わったら前に食べた羊羹を持って行きましょう。 
 

 
後書き
今回からちょくちょくオリキャラが登場し始めます。
ある程度まとまったら紹介します。すぐ知りたいって言う方がいたら前書きか後書きにでも書いていくようにしますのでよろしくお願いします。

誤字脱字、表現の矛盾、原作流用部分の指摘、感想、評価等などお待ちしてます。  
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