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相良絵梨の聖杯戦争報告書

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アーチャーの苦笑

 遠坂凛に呼ばれたアーチャーだがその最初の令呪消費の後の翌日に、彼は聖杯戦争とか違う空気を感じる事になった。
 遠坂家の周囲に隠されていた監視カメラ。
 更に離れたマンションからこちらを見る監視の目。
 そして、パトロールにしては明らかに巡回の多いパトカー。
 このあたりをよく理解していたアーチャーは遠坂凛に説明を求め、内心頭を抱える事になる。

「政府に米国か。
 また大物が出てきたな……」

「警察署で刑事さんに脅されたわ。
 『何かやったら殺人容疑でしょっ引く』って。
 先に言っておくけど、マスター狙いはなしよ」

 これが遠坂凛の気分とかならば反論の一つもあるのだが、アーチャー自身が周囲を確認した上で遠坂凛の話が事実であると判断せざるを得なかった。

「つまり君はこう言いたい訳だ。
 『一騎当千の英霊たちのみと戦って勝利しろ』と?」

「マスター狙いが有効である事は私も理解しているわ。
 けど、この状況下で警告を受けた状況でなお聖杯戦争に絡む手段があるのならば言って頂戴」

 アーチャーは遠坂凛の言葉に皮肉っぽく笑う。
 彼の守護者としての莫大な経験から現状が限りなく不利である事を悟ったからに他ならない。

「今の段階では了承しよう。
 その上で聞きたいが、外のあれはどうにかする算段はついているのかね?」

「一介の女子高生にそれを聞く?」

 遠坂凛はまごう事なき才女である。
 だが、その才女とか社会に出ておらず、その社会というのは経験が馬鹿にならない。
 自然と令呪がある限り敵にはならないアーチャーに相談する形になる。

「そうだな。マスター。
 今のマスターにはいくつかの選択肢がある」

 アーチャーが低い声で言う。
 おそらく、遠坂凛がサーヴァントを召喚したという情報は監視している連中に伝わるだろう。

「まず一つ目は籠城だ。
 少なくともマスターがここに籠っている限りは連中は手を出してこない。
 それは同時にサーヴァントも手を出しにくい事も意味している」

「どうしてかしら?」

「サーヴァントがここに突っ込む場合、監視している連中の排除が必要になる。
 彼らから真名などの情報が漏れる事を普通のマスターならば恐れるだろうさ。
 今の君の屋敷は、檻であると同時に、砦でもあるんだ」

 アーチャーが指を一つ折る。
 これが一つ目の選択肢という事で、もう一つ指を折って二つ目を告げる。

「二つ目。
 打って出る場合だが、昼しか出ない。
 つまり夜はここに籠城するパターンだ。
 表の連中はマスターが決定的な戦闘を行うまでは手を出してこないだろう。
 情報を得る事と情報が洩れる事の表裏一体だが、籠城よりはましな選択だろう」

「アーチャー。
 得る情報と洩れる情報って何?」

「得る情報は動く事で、生の情報が得られる。
 相手サーヴァントやマスターの情報。ここでこれだけの監視をしているのだから、町全体にそういうのを張り巡らせている可能性は高い。
 洩れる情報で最たるものはマスターが表に出る事それ自体だ。
 さっき言ったが、今のこの屋敷は牢獄である同時に堅固な砦でもある。
 その安全な場所から出る愚か者という情報が知れ渡る事になるだろう」

「完全に私の事馬鹿にしているわよね!?
 で、昼籠城して夜出撃する選択肢を言って頂戴」

 面と向かって愚か者と言われた遠坂凛が膨れるが、彼女はアーチャーを詰る事無く続きを促した。
 アーチャーも三本目の指を折ってその選択肢を口にした。
 
「これが一番愚かな選択だな。
 サーヴァントだけでなく、見張っている連中すら敵に回す」

「魔術協会が外の連中を何とかする可能性は?」

 遠坂凛自身無意識だが己の選択であるサーヴァント召喚、つまり聖杯戦争参加が間違っている事を察していたからこそ、こんな言葉が出る。
 それでも参加したのはこの土地のセカンドオーナーであり、聖杯戦争御三家である遠坂の意地でしかない事も理解していた上での言葉には怯えが残っていた。

「ない訳ではないが、その可能性は低いだろうな。
 魔術師の連中は軽視するが、本気になった国家の怖さはえぐいものがあるぞ。
 悪い事は言わないから、ある程度盤面が動くまでは籠城する事をお勧めする」

 アーチャーはそこまで言い、遠坂凛は無言で頷く事でその方針を是とした。
 方針は決まった訳で、霊体化しようとしたアーチャーを遠坂凛が呼び止める。

「で、いつまで私たちは籠城すればいい訳?」

「外の連中が増えるか減るかした時だ。
 それは、他所でサーヴァントの潰しあいが発生した事を意味する。
 その時に外の連中は選択を迫られるだろう。
 マスターに接触するか、放置するかを」

「接触してきた場合は?」

「ほぼ間違いなく、取り込みに来るだろうな」

 そう言ってアーチャーが霊体化する。
 遠坂凛は部屋を出て冷蔵庫を開ける。
 籠城用の食材は念のために買っておいたものだ。

「ああ。そうだ。マスター」

「!?
 な、何よ!アーチャー!?」

 実体化したアーチャーが不意に声をかけてきて驚く遠坂凛だが、アーチャーの言葉は彼女の想定を軽く超えてきた。

「籠城するならば、缶詰と水の備蓄も確認しておけ。
 外の奴ら、その気になれば簡単にこの家の電気と水道を止めるぞ」

 遠坂凛はその言葉を理解したくなかったのは、電気と水を止められた場合には頑張っても一週間ぐらいしか籠城できないと分かったからである。
 特にトイレが致命的である事を察した遠坂凛がトイレの前で震えているのを霊体化したアーチャーは見なかった事にした。 
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