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竜のもうひとつの瞳

作者:夜霧
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第十七章~終幕、そして~
  第八十九話

 巨大な第六天魔王が流星が振る薄暗い空の下に立っている。
魔王はぐるりと辺りを見回して、九州の方角に向けて口を開く。
何となく嫌な予感を覚えた瞬間、口からどす黒いビームのようなものが放たれた。

 ドォン、という重々しい爆発音と共に、何か光のようなものが天へと昇っていくのが見える。
何というか、この光景には見覚えがある。金曜日の夜に古いアニメやってたよなぁ……焼き払え! って言ってたような。

 「……駆除は失敗、か」

 私達の背後に現れたのは松永だった。渋い顔をして巨大な第六天魔王を見つめている。

 「どうやら私が想像していたよりも、遥かに強大なウイルスへと進化してしまったようだ……」

 「アレ、どうにかならないの? GMの権限で……っていうか、あの自称神様とかは」

 そんなことを言うと、松永が頭が痛いとばかりに溜息を吐いてくる。何なのよ、その反応は。

 「……卿らの世界にゲームというものが一体どれほどあると思っているのかね。
私もアレも、このBASARAの世界だけを管理しているわけではないのだよ。
……これは、始末書を覚悟しなければならないか」

 始末書って……またリアルな話が出てきたな、オイ。っていうか、始末書はともかくどうにかしないと、アレを。

 不意に松永が片手を上げて魔王の動きを止める。
光の鎖のようなもので括られた魔王は、必死に動こうとしているが、身動きがとれずにいる。
例の口からどばーってのも出来ないみたいで、身動きがとれずに人とは思えないような咆哮を上げている。

 「動きが、止まった……」

 「これも所詮は時間稼ぎに過ぎない。……これは最悪の事態を想定して動かなければなるまいな。
今の攻撃で九州の三分の二が消滅した」

 三分の二!? あの口からどばーっで!?
もしかして、光が空へと上がっていくのが見えたってのは……アレって、まさか。

 「数字の羅列、この世界の構成要素だ。また同様の攻撃を食らえば、食らった場所が消滅するだろう」

 「なっ……おい、松永! テメェどうしてそんなことを」

 詰め寄る小十郎を軽く退けて、松永は動きを封じられている魔王を見る。

 「……あまりやりたい手ではないのだが、こうなっては致し方ないか」

 何処か諦めたような松永は、いつも鞘に納めて使わない刀を抜き地面に軽く突き立てた。
その途端、刀から白く眩い光が放たれ、ゆっくりと光が人の形を作っていく。
一体何をしているのかと思っていれば、光が消える頃に浮かび上がったのは、自称神様だった。

 「ちょ、神様!?」

 「や、やぁ、ひ、久しぶり……」

 気味の悪い笑みを浮かべて挨拶する自称神様の背中を松永が思いきり足蹴にしている。
変な悲鳴を上げて倒れた神様をしきりに踏みつける松永は、どう考えても怒っている。
まぁ、表情には出してないけれど。

 「卿が余計なことをしたお陰で、この世界は消滅の危機に立たされている……どう、始末をつけるつもりなのかね」

 「ご、ごめん……だ、だって」

 「言い訳を聞くと思っているのかね、卿は……」

 散々に足蹴にして止めに爆発させてみたりとか炙ってみたりとかして、自称神様を散々に甚振る姿に私達は揃って唖然としてしまった。

 「や、やめて! ぼ、僕は男に殴られて喜ぶ趣味は……で、出来ればかすがちゃんか、お、お市ちゃんか、
……あ、い、いつきちゃんでもいいかな?」

 うわ、キモッ! つか、その発言に松永が更に容赦なくなったような気がする。

 「卿がそれほど望むというのならば、むさ苦しい男共を集めて袋叩きにさせてやっても良いのだがね」

 「ご、ごめんなさい……ま、真面目にどうにかするから、ゆ、許して……」

 ボコボコに蹴られて腫れ上がった顔は気持ち悪く、眼鏡なんか完全にフレームが歪んじゃってる。
何のキャラだか分からないTシャツは土で汚れてるしさ、本当……何か情けないというか何と言うか。
何というか、神様の威厳ってものが本当にないのよね、この人。

 「と、とりあえず、こ、このバグを、ど、どうにかしないといけない。
きゅ、九州を復活させるにも、ま、まずこれをどうにかしないと、し、システムを回復させることが困難だ」

 「そんなのは分かってんのよ! 具体的にどうするのか、ってのを知りたいわけ!!」

 「こ、これは、か、身体は大きいけど、き、基本的にバグを吸い上げて、ふ、膨れ上がっただけのものだ。
う、ウイルス自体は然して強力なものじゃない。だ、だから、この外殻さえ、は、剥がせれば」

 なるほど、この黒いのはバグの鎧なわけか。ってことは、さっき口から吐いた奴はバグの塊ってことかな。
それが直撃したから九州がデータ的な意味で吹っ飛んだと。

 「でも、一撃必殺技とかで散々に叩いたけど、すぐに足とか生えてきちゃったよ」

 「う、うん。ご、五人で駄目なら、か、数を増やせばいい。
ぼ、僕の力で、あ、あのバグに、こ、攻撃が出来るようにするから、あ、あとは皆で、ち、力を合わせて」

 戦えってか。まぁ、一人よりも二人、五人よりも十人。数は多い方が良いか。
てか、神様なんだから簡単にどうにかならんのかね。コレ。

 「ぼ、僕は、ぷ、プログラムを組まないといけないから、じ、時間稼ぎをしてくれると、た、助かる」

 そこら辺は上手く出来てないわけね。……ま、身から出た錆なわけだし、これもしょうがないか。

 「じゃあ、佐助。悪いけどちょっと三河まで行って、皆を呼んで来てよ」

 「いや、その必要は無さそうだぜ?」

 ほら、と佐助が指差す方向を見れば、家康さんと石田が率いる東軍と西軍が関ヶ原の地に現れていた。
石田の愛想の無さは相変わらずだったけど、でも西軍からきっちりと受け入れられてるって感じがするし、
家康さんもまた私達を見てばつが悪そうに笑っていた。

 「おーい、小夜! 第六天魔王を倒すんだろ!? 今度こそ、俺らも仲間に入れてくれ!」

 まるで遊びの仲間に加わるようなアニキに、私は苦笑してしまった。
アニキの傍らには鶴姫ちゃんがいて、アニキってばしっかりと鶴姫ちゃんの肩に手を回している。

 「アニキ! ついに鶴姫ちゃんモノにしたのね! おめでとう!! リア充爆破しろ!!」

 「ばっ……何言ってやがる!! 大体何なんだ、その最後の物騒な一言は!」

 「うん、幸せな人を祝福するとっておきの言葉♪」

 意味をきちんと理解している自称神様と松永は呆れ顔だったけれど、祝福と聞いてアニキは満更でもなさそうだ。
鶴姫ちゃんも顔赤くしてるし。
いやいや、アニキの恋が実って良かったよ。というか、鶴姫ちゃんの好きな男って結局誰だったんだろう。
後でさりげなく聞いてみるかね、孫市さん辺りに。

 「景継殿! ワシらも手伝うぞ! 今度こそ、偽らぬ絆の力で!」

 「絆などどうでもいい……が、恩には酬いらねばならん。刑部が起こした始末もしなければならんからな」

 対照的な家康さんと石田にも笑えたけれど、まぁ……そろそろ終幕(フィナーレ)といきましょうか。

 「おっしゃ!! 皆でアレ倒して戦勝祝いするよ!!」

 力強く振り上げた拳に、皆も揃って応、と答えてくれる。

 これで幕引きにしよう。東西を二分した戦いの幕引きに。 
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