| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

竜のもうひとつの瞳

作者:夜霧
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第八十八話

 幸村君にぶん殴られて完全に伸びている佐助を回収して、私達は奥をひたすらに目指していく。
風景が混ざり合って現在地が分かり難かったけれど、周辺に掲げられた旗が皆西軍のものであるのに気付くと、
大体の位置が分かるようになった。

 もう終着点は近い。明智を倒したから、奥に待つのは大谷だけだ。
……ひょっとしたらお市もいるかもしれないけれど、無事でいてくれれば良いんだけどなぁ……。

 「ヒッヒッヒ」

 西軍の本陣らしき場所に辿り着いた辺りで、気味の悪い笑い声が辺りに響いた。
この笑い方は聞いた覚えがしっかりある。

 「大谷殿! 何処におられる!! 姿を見せよ!!」

 幸村君の馬鹿でかい声に、ふわりと何者かが姿を現した。

 「……誰?」

 現れたのは輿に乗った、目つきの鋭いなかなかの美男子だ。
蝶々みたいな変な頭巾を被って輿に乗ってなきゃ、一体コイツが誰なのか分からなかったわ。

 「大谷、何でそんな詐欺っぽい姿してんのよ。全身に包帯巻いて輿に乗ってんのがアンタじゃないの?」

 そんなことを言ってやれば、カッコイイ大谷がにやりと笑う。

 「あのような姿が本来の我ではない……この姿こそが、病に罹る前の我の姿よ。ヒッヒッヒ」

 「……折角カッコイイのに、あの笑い方で台無しだわ」

 それに姿は戻っても精神状態までは戻らなかったのか、それともバグに侵食されて完全におかしくなってしまったのか、歪んだ表情は変わらない。
私はそっと懐中時計を見る。既にあれから二時間が経過している。
まぁ、あと四時間残ってるから平気だと言いたいところではあるんだけど……
ボス戦、ってのは苦戦するからボス戦なのであって……チェーンソーで一撃でバラバラになったらいかんのですよ。
まぁ、アレはアレでアリだとは思うけどもさ。
つまり、時間があるから大丈夫、という安心は出来ないということだ。

 「てか、何であんな胸糞の悪いもん見せたのよ。人のトラウマ引き摺り出して楽しい?」

 「我は幸ある者が嫌いでなァ……どうだ、不幸になったか? 主らの関係に亀裂は入ったか?」

 ニヤニヤと笑うコイツが結構ムカつく。皆も武器を構えて飛び掛らんとしてるしさ。

 「……主らに掛かっている厄介な術、それを解くための時間稼ぎよ。
この闇に侵食されずにいるのは、その術のせいであるからな。
……それには時間が決められているのであろう?
既に一刻は消費している……完全に解ければ、皆この闇に等しく取り込まれる。
そして、何より魔王復活を阻止されては困るでなぁ。術の完成の為にも時間はあればある方が良い。
……これで、我の望む不幸が更に現実のものとなる! ヒッヒッヒ!」

 ……このウイルス、性質が悪いな。プロテクトが掛かってることをしっかり理解してやがるのか。
とっとと駆除しちゃった方が良さそうだな。何か厄介な罠とか作ってそうだし。

 「政宗様、小十郎、幸村君、佐助……とっとと倒して戻ろう。数字の羅列になって取り込まれるのは正直嫌じゃない?」

 「Ha! 俺らもあんなになっちまうってか。……上等、とっとと倒して帰るか」

 「長居は無用! 早く戻り甲斐を建て直し、そして小夜殿を迎えに行かねばならん!!」

 「テメェ、俺を差し置いて何を言ってやがる!! テメェにだけは絶対に渡さねぇ!!」

 「貴殿のものではなかろう!!
それに竜の右目は片倉殿がおるではないか、二つもあるのは欲張り過ぎでござる!!」

 ……おいおい、喧嘩してんじゃねぇよ。こんなところで女の取り合いとかみっともないっての。
つか、反省してねぇな? こいつら。

 「……小十郎、あの二人に鳴神」

 「しかし」

 「いいから、お仕置き」

 小十郎は戸惑っていたが、割合手加減して二人に鳴神をぶちかましてくれた。
直撃を避けられなかった二人は揃って抗議していたが、私が鋭く睨み付けると途端に大人しくなる。
全く、こんなところで子供の喧嘩しないでよ。タイムロスが痛いんだから。

 大谷は自分の周りに浮かぶ珠を操り、私達に巧みに遠隔攻撃を仕掛けて来る。
五人もいれば踏み込む隙はあるかと思ったけれど、珠の動きが割に早い上に予測が出来なくて、迂闊に踏み込むことが出来ない。
砕こうと思えば砕けるんだけど、幸村君が砕いた破片が一つ一つ複雑な攻撃を繰り出してくるものだから、
うっかり砕くのも出来ない。

 イロモノキャラだとばっかり思ってたけど、なかなかやるわね……。

 「ヒッヒッヒ……どうだ、不幸になったか? 不幸か? ヒッヒッヒ!!」

 「喧しい!! 何が不幸よ! アンタ、そんな姿になってて今でも不幸だって言うつもり!?
すっかり健康体じゃないの!!」

 「ヒッヒッヒ……」

 駄目だ、話が通じない。満月の夜でもないってのに……やっぱりバグに侵食されて精神的におかしくなってるのかしら。
いや、人の不幸を望んでここまでやったんだから元々か?

 「見やれ、魔王の復活を!!」

 大谷が手を掲げた途端、大谷を囲むようにして黒い光が放たれ、地鳴りと共に黒く地面が膨れ上がっていく。
そして巨大ロボくらいの大きさはあるんじゃないかと思うくらいの黒い人形(ひとかた)が二体、私達の前に姿を現した。

 「あ、あれは……第六天魔王!?」

 幸村君の叫びに、一体のスタイリッシュな西洋鎧のおっさんが第六天魔王こと織田信長だと知る。
そしてその傍らに立つ黒い人形には酷く見覚えがあった。

 「……お市?」

 あのすすり泣くような声を上げながら、お市が私達を見る。
もしかしたらとは思ってたけど……こんな形でバグに取り込まれたんだ……。

 「ヒャッヒャッヒャ!! 不幸だ、不幸が現れたぞ!! ヒャーッヒャッヒャッヒャ!!」

 不気味な笑いを振りまく大谷を、魔王が踏み潰す。舞うのは血飛沫ではなく数字の羅列。
それが全て魔王に吸い込まれていく。
魔王は口を開けて、バグを身体に取り込んでいる。
お市の形をした人形も少しずつ数字になって魔王に取り込まれていき、このバグで作られた空間そのものをも取り込もうとしている。

 ……大谷と明智さえ倒せば終わりかと思ったけど、まさか大谷や明智のデータを吸い込んでこれがウイルスになったとか……?
ちょっとそれって、ヤバくない? アレ以上膨れ上がったらどうしようもなくなるんじゃ……。

 「このバグ……じゃなかった、闇を全部あの第六天魔王が吸い取る前に倒すよ!!
全部吸い取られたら余計にパワーアップして収拾がつかなくなる!!」

 ゲームの信長との戦闘も、確か一定時間内に陣を落とさないと魂を吸収されて、倒しても何度も復活する破目になったはずだ。
まぁ、四回以上復活させると特別褒賞がついた覚えがあるけど、この状況でそんな褒賞を付けたくはない。

 「なっ……それは急がねばなりませんな!!」

 「なら、やるしかないか……旦那!」

 「おう!」

 「行くぜ!!」

 四人が揃って繰り出したのは婆娑羅技だ。しかもドライブ時の最高に強い奴。
でも魔王はそんな四人を蝿でも払うかのようになぎ倒しちゃって、べしゃっと揃って地面に叩き付けられている。
ああもう、何やってんのよ。ちょっとは頭使って攻撃してよ。

 「政宗様!TESTAMENT使って下さい!! 小十郎は輝夜! 二人は政宗様と小十郎の技がきちんと発動
出来るように立ち回って!!」

 咄嗟に指示を出すと、政宗様が軽く舌打ちをして刀を構えている。

 「二人揃って一撃必殺ってのは粋じゃねぇが、四の五の言ってられる状況でもねぇか」

 「今は手段を選んでいる場合ではありませぬ! 行きますぞ、政宗様!!」

 「上等! しっかり付いて来い、小十郎!!」

 「はっ!!」

 ……うーむ、何だかんだであの幸村君と信玄公張りに暑苦しい。
つーか、公の場でイチャイチャすんな、お前ら。恥ずかしいから。つか、幸村君が何か羨ましそうに見てるし。

 「佐助! 俺達も」

 「俺はあの掛け合い絶対やらないから!!」

 何となく寂しそうな幸村君は政宗様のバックアップに走って行った。佐助も小十郎のフォローに走っている。

 さて、私の役割は……と。私の身体が小十郎と同じなら、きっと出来るはず。

 「迎え討て、鳴神!!」

 思いきり鳴神を放って魔王の注意を引き付ける。やっぱ出たよ、鳴神。もう一本あれば霹靂も出来るかな?
で、私を叩き潰そうと動く魔王の攻撃をかわしながら、時折鳴神を撃ちながら二人の技の発動を見守っている。

 タメが完了したのか、二人が放った技に魔王の足が砕け散った。

 「やったか!?」

 しかし、あんだけでかいモノが瞬時に消えるはずもなく、吸収したバグと思われるそれを身体に変換してにょきっと足を生やしてくるからキモイ。
それに呆気に取られた四人は魔王に蹴り飛ばされて呆気なく吹き飛ばされてしまった。

 「ちょっと、無敵並の飛び方しないでよ!!」

 「無茶言うなよ、小夜さん!! ってか、あんなん無理だって!!」

 「諦めんな、佐助!! そんなこと言ってると幸村君に頼んで減給にしてもらうからねっ!!」

 「ちょ、酷ぇ!!」

 結局一撃必殺技を繰り広げて何度も魔王の足を砕けさせてはいるんだけども、結局にょきにょき生えちゃって意味が無い。
ちまちまダメージを削っているとは思うけどもさぁ……一のダメージってのを延々と与え続けてるみたいで面倒だ。

 バグを吸い込み続ける魔王の隣でお市の人形が消滅する。次第にバグも綺麗に晴れて、バグの外側が露になり始めた。

 「まさか、コイツ……この外側も飲み込むつもりじゃ」

 私の呟きに四人が血相を変える。
必死に攻撃を繰り出す私達をあざ笑うかのように、魔王は長いマントをはためかせて私達を吹き飛ばした。

 その瞬間、バグが綺麗に晴れて正常な関ヶ原が露になった。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧