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非日常なスクールライフ〜ようこそ魔術部へ〜

作者:波羅月
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第112話『先陣』

 
『あ〜っと、アーサー選手の鋭い一撃が突き刺さる! たまらずダウンです!』


そんな驚きに満ちた実況をしているジョーカー。彼が見る先には、準決勝第1試合である、【ヴィクトリア】対【覇軍(コンカラー)】が行なわれている。
どちらも優勝候補と呼ばれるほどの実力派で、この試合に勝った方が実質優勝とまで言われるほどなのだが──


『2本目勝者、アーサー選手! よって2本先取したため、第1試合の勝者は【覇軍】です!』

「「「わあぁぁぁぁ!!!」」


あっという間だった。第1試合が開始してから、わずか30分足らずで決着がついてしまったのである。
特に2本目のアーサーは、数回剣を振るっただけで相手をダウンさせており、なんと5分も経っていない。圧倒的だ。


「【ヴィクトリア】だって決して弱いチームじゃねぇのに、やっぱりアーサーさんが相手だと霞んで見えちまうな」


共に観客席でその試合を眺めていた終夜が、ポツリとそう零した。だが彼の言う通りだ。アーサーの実力はそれだけ規格外なのである。


「というか、2本目にアーサーさんって良いんですか? リーダーだから大将じゃないんですか?」

「別にそんなルールはないぞ。大将は強いやつがやるっていうのはあくまで定番なだけで、そいつが1番目に来ようが2番目に来ようが違反じゃない。誰が戦おうと2本取れば勝ちなんだからな」

「なるほど……」


つまり相手は完全に裏をかかれた訳だ。いや、大将同士が当たったとしても【覇軍】が勝ったかも──


「よし、次は俺たちの番だ。気合い入れてくぞ!」

「はい!」


この後に昼休憩を挟んだら、いよいよ晴登たちの出番だ。自分が出場するとわかっているだけあって、今からでも緊張してしまう。


「けど、俺は結月の代わりなんだ。やるしかない」


実力で言えばNo.4の自分が3本勝負という舞台に立てるのは、結月が病欠だからに他ならない。言わば彼女の代理だ。みっともない姿は見せられない。

パシンと両手で頬を叩き、晴登は自らを奮い立たせるのであった。







「お疲れ」

「ありがとう影丸。残念ながら君の出番はなかったね」

「当たり前だろ。むしろ出たくないから大将になってるんだ。勝ってもらなきゃ困る」

「はは、そうだったね」


フィールドを下りたアーサーを出迎えたのは、ムスッとした顔で彼を労う影丸だった。
本来彼は2番手として出場するはずだったのだが、この通り駄々をこねて大将に替えてもらっている。とはいえ、大将を任せられるだけの実力を備えているだけに、誰も文句は言わなかった。


「じゃあ後は午後の試合を観戦するだけだね」

「あぁ。ったく、何で勝ち上がってんだあのガキ共は……」


影丸の言う「ガキ共」とは、言わずもがな【日城中魔術部】のことである。
昨日の試合ではもう覆すことができないくらい追い込まれていたというのに、どうして逆転して勝ち上がっているのか。甚だ疑問でならない。


「そういう言い方は良くないよ。彼らだって頑張っていたんだから」

「昨日お前から聞いた話じゃ信じられないんだよ」

「……そうだね。僕も驚いたさ」


事の顛末は全てアーサーから伝え聞いている。にわかに信じ難いが、確かに彼らは自分たちの力で強敵を突破していた。ただ一つ、不可解な点を残して。


「火事場の馬鹿力とはまた違う。むしろ、火事場の冷静さと言うべきか。追い込みの一手一手に無駄がなかった。まるで、そうなることがわかっていたかのように」


アーサー曰く、実際に見ていないのが悔やまれるくらい、鮮やかなクライマックスだったそうだ。
とはいえ、独りならともかく、疲弊した少女を連れてそんな動きが果たしてできるのだろうか。相手はまだ余裕そうだったし、遠目でもそれなりの手練だと思ったが。そんな相手に勝つにはそれこそ、


「じゃあ未来予知でもしてたってのか? 馬鹿馬鹿しい。大体、そんな能力(アビリティ)聞いたことないぞ」


考えられる要因の一つとして、何が起こるのか予測できたということ。相手の動きが読めれば、対策を建てることも可能だ。
ただ、少年の実戦経験がどれくらいのものかは知らないが、そんなことはそう易々とできることじゃない。それこそ、能力(アビリティ)に頼ったりしなければ。
しかし、彼の能力(アビリティ)は"風"にまつわるもの。"予知"とは関わりがないように思えるが……。


「聞いたことがなくても、可能性はゼロじゃない。それが魔術さ。君はそう教えてもらったんだろ?」

「……! そう、だな」


魔術において、能力(アビリティ)が他人と被ることはありえない。つまり、前例がないことは存在しないことの証明にならないのだ。

──昔、そう教えてくれた人がいた。


「あいつは、本当にあの人の……」

「また言ってるのかい? そんなに気になるなら、本人に訊けばいいのに。恥ずかしがっちゃって」

「な……タイミングがなかっただけだ!」

「はいはい、そういうことにしておくよ」


アーサーの軽口を退けながら、影丸は頭にある人物を思い浮かべる。
この疑念に気づいたのは、予選で少年と初めて話した時だ。あの時はたまたまだろうと思っていたが、


「可能性はゼロじゃない、ね──」






昼休憩が終わって日も真上から傾いた頃、ジョーカーの大きな声が会場に響き渡る。


『それでは、張り切って午後の試合も始めていきましょう!』

「「「わあぁぁぁぁ!!!!」」」


観客の盛り上がりは午前と比べて衰えてはいない。それもそのはず、


『【日城中魔術部】対【花鳥風月】! 若き戦士たちの争いをご覧あれ! 選手の入場です!』


この世紀の決戦をこの目で見ようと、誰もが期待に胸を膨らませているのだ。
午前の試合と比べると見劣りこそするが、学生同士の戦いという真新しさで言えば負けてはいまい。自分で言うのもなんだが、少年漫画なんかでよくある熱い展開だ。


『皆さんの盛り上がりも最高潮のようですし、早速1本目と参りましょう! 【日城中魔術部】辻選手VS.【花鳥風月】小鳥遊選手!』


「っ! 部長、これって……」

「やられたな。見事に当たりたくない組み合わせだ」


組み合わせの発表を聞き、晴登と終夜は顔をしかめる。昨日のミーティングで期待した通りにはいかなかった。

一方で緋翼はふん、と鼻を鳴らす。


「不利とか関係ないわよ。要は叩き落とせばいいんでしょ? やってやるわよ」


緋翼は自信満々にそう宣言する。
ちなみにこれは、昨日終夜が言っていた作戦のことだ。『空を飛ぶなら地面に落として戦う』。相手に有利な状況で戦わないということである。


「よろしくね! 緋翼ちゃん!」

「よろしくお願いします」


フィールドに上がる2人の少女。
舞は元気よく挨拶をし、緋翼もそれに笑顔で答える。……否、緋翼の目は笑っていない。


『両選手共、準備はよろしいですか? では、試合開始!』


「先手必勝! "居合い・焔の太刀"!」

「ひゃっ! 速いね〜」

「ちっ」


開始の合図と同時。飛ばれる前にと、緋翼は速攻で居合い切りを放つ。
が、舞が両腕を翼に変えて空へと逃げる方が僅かに早く、刀は空を切った。


「なら、"紅蓮斬"!」

「おっと危ない!」


それを見て緋翼は即座に刀を返し、続けて焔の斬撃を上に飛ばす。
しかし、これもまた身をひねられて避けられてしまった。緋翼の攻撃を二度もかわすなんて、楽観しているように見えてあの少女、相当に目が良いらしい。

鷹や鷲のような茶色く大きな翼を音を立てながら羽ばたかせ、彼女は上空を旋回する。当分降りて来るつもりはないようだ。


「やっぱり飛ばれるのは厄介ね。でも、それじゃああなたも攻撃できないんじゃないですか?」

「ふっふっふ、そうと見せかけて……そりゃ!」

「なっ! 羽根!?」


緋翼が舞に攻撃できないのと同じように、舞も緋翼を攻撃できないと思ったが、そうは問屋が卸さない。
彼女が己の翼を思い切りはためかせると、複数の羽根が勢いよく緋翼へと襲いかかる。
緋翼は辛うじて刀で打ち落とすが、あまりの威力に思わず後ずさった。


「羽根のくせに固くて重い……。当たるのはマズそうね」


ああやって投擲できて、しかも固い。まるでクナイのようだ。飛ぶ上に飛び道具だなんて、刀ではますます不利である。加えて、


「再生するなんてズルくない?」


舞の翼の羽根を失った部分はもう再生していた。つまり、あの武器は彼女の魔力が尽きるまでずっと存在するということだろう。


「まだまだ行くよー!」

「あーもう煩わしい!」


際限なく降ってくる羽根の雨。防げない程ではないが、このまま遠距離で戦っても埒が明かない。

痺れを切らした緋翼は、羽根の猛攻の合間を見計らって踏み込み、ジャンプして舞に接近を試みる。
早速終夜の作戦を破ったが、案外近づけばどうにかなるのではないかと思った故の特攻だ。


「いらっしゃーい」

「がふっ!?」


だがさすがにそれは淡い幻想だったようで、刀が届く前に翼で叩き落とされてしまった。
まるで巨人になぎ払われたかのような衝撃に耐えつつ、着地だけはきちんと行なう。


「やっぱりダメか……。空中じゃ小回りも利かないし」


それもあるだろうが、彼女の作戦は羽根を飛ばして相手を牽制し、向かってくるなら迎撃するというシンプルなものだ。つまり、今完全に彼女の策略に嵌ってしまっている。

であれば、突破口は別の切り口にあるはず。


「近づいても押し負けて、焔は避けられる。やっぱり私の能力(アビリティ)は相性が悪そうね」


そう現状を再確認したならば、次は攻略法を考える。
遠距離で、かつ相手に避けられないくらいの速度の攻撃。生憎そんな技は持ち合わせていないので、即興で組み合わせてみよう。名付けて、


「──"居合い・陽炎(かげろう)の太刀"」

「熱っ!?」


居合い切りの要領で刀を素早く抜くと、刀身が大きな焔へと変化し、舞に襲いかかる。
初見というのも相まって、さすがに彼女も反応できずに直撃した。ダメージがそれなりに入ったようで、よろよろと地上に降りて来る。


「何今の!? 凄い熱かった! ふーっ、ふーっ」

「落ちたわね!」


腕輪の仕様で実際に火傷などはしてないとはいえ、熱いという感覚は残る。それに舞が慌てている隙に、緋翼は一気に距離を詰めた。


「ふっ!」

「危なっ!?」

「この……!」


遠慮なく袈裟斬りにしようとしたが、それでも舞はしっかりと見切って避けてくる。
その後も上から下から横からと連続で刀を振るうも、全てかわされてしまった。

これは……飛ぶ飛ばない以前の問題かもしれない。


「ちょこまかと……!」

「隙あり!」

「がっ!?」


刀を振り上げたその一瞬、ガラ空きになった腹に舞の翼撃が突き刺さる。殴られるのや蹴られるのとはまた違う、大きく重い一撃に、口から空気が洩れた。


「もう一発!」

「くっ……!」


続くもう一方の翼撃。苦しむ身体を叱咤し、何とか刀の腹で受け止める。が、その威力までは消し切れない。あえなく後ろに吹き飛ばされ、フィールド上を無様に転がる。

そんな様子の緋翼を見ながら、体勢を立て直した舞は再び宙へと舞い上がった。


「しまった……!」


せっかく掴んだチャンスだったのに、一方的に攻撃されるだけで終わってしまった。
地上ですら彼女に敵わないならば、一体どうすればいいというのだ。


──もう一度落とすか?


いや、二度目は通用しないだろう。舞は強い。この短時間で、実力差は思い知らされた。格上の相手に同じ技を使うのは愚策だ。


──では為す術なく、空を見上げ続けるのか?


そんなの嫌だ。自分が無力だなんて思いたくない。ここまで導いてくれた後輩たちに、示しがつかないから。


──なら残された手段は、


「……いいわよ。見せてやるわ、私の奥の手」


少し早いが、ここで切り札を切ることにする。
覚悟を決め、大きく息を吸いこんだ。身体中に酸素を行き渡らせ、滾る血を、情熱を、さらに燃やすように。


「な、何……?」


舞が狼狽えながら見つめる先、緋翼の背中から双対の焔が伸びた。ゆらゆらと燃え盛るそれらは、次第に数本の緋色の刀へと変貌し、翼を象っていく。
そして握っていた太刀もまた焔に巻かれ、その後彼女の体躯に見合う長さの双剣へと姿を変えた。


「えぇっ!? 何それ?!」


「──"武装・緋連雀(ひれんじゃく)"」


地上がダメなら、空中戦だ。 
 

 
後書き
なんかもう夏休み終わってるんですけど。あの怠惰で平穏な日々はどこに行ったんだ?! どうも波羅月です。まだ暑くね?

さて、今回早速第2試合の1本目が始まった訳ですが、実のところ第1試合からちゃんと書きたかったんですよ。でも無駄に長引いてダレそうだったので、泣く泣く省略しました。許してください。

そして展開が早い気もしますが許してください。前回長引いた反省です。更新が遅いんだから、これくらいのペースが丁度いいですよね? 足りない場合は自由に妄想で補完して頂けると幸いです。その方が楽です()

はい。色々ふざけましたが、これからも真面目に書いていく所存なのでどうぞよしなに。
今回も読んで頂き、ありがとうございました! 次回もお楽しみに! では! 
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