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ドリトル先生と幸せになる犬

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第十幕その七

「あの人が」
「はい」
 奥さんが答えました。
「あの人が」
「そしてあの人がですね」
 癖のある黒髪を短くしたすらりとした白のシャツに黒のスラックスの若い男の人が奥さんの隣にいてやっぱり色々喚いています。
 その人も見てです、先生は尋ねました。
「ご主人ですね」
「そうです」
 奥さんはまた答えてくれました。
「夫婦の」
「うわ、卑しい顔してるね」
「身体全体にも出ているわ」
「何て人相」
「エゴと欲丸出しで」
「酷い顔だね」
 動物の皆はその彼等を見て目を顰めさせました。
「言ってることも滅茶苦茶じゃない」
「ふわりを返せって」
「家族だからって」
「捨てたのは自分達なのに」
「そんなこと一切言わないで」
「全くだね、あれがね」
 まさにとです、先生も言いました。
「本当に卑しい人だよ」
「何か雰囲気が凄く悪いよ」
「卑しさと浅ましさが全開で」
「見ていて嫌になるよ」
「見ているだけでも」
「全くだね、そしてふわりは」
 先生は彼女のことにも考えを及ぼしました。
「何処かな」
「ええと、何処かな」
「何処にいるかな」
「玄関の方に行ったのに」
「いないね」
「あそこだよ」
 見れば玄関の近くの二人のいる場所からは見えないところに隠れています、そこからまずは様子を窺っています。 
 そのふわりを見てです、先生は言いました。
「元々賢いうえに捨てられた経験からね」
「慎重になっているんだね」
「自分達を捨てた人達を見て」
「そうなのね」
「そうだよ、もうふわりは彼等を家族と思っていなくて」
 自分を捨てた彼等をというのです。
「そして信用もしていないからね」
「だからだね」
「まずは身を隠して見ているんだね」
「用心して」
「そうだよ、ふわりもね」
 こう皆にお話しました。
「もう彼等との間に絆はないからね」
「あの、家族の誰かが家に帰ったら」
 息子さんが先生にお話しました。
「いつもケージから跳んで出て来て」
「お迎えしてくれますね」
「玄関にちょこんと座って尻尾振ってワンワンと」
「そうですね」
「そうしてくれるんですが」
「出る時もいつも見送ってくれて」 
 奥さんも言いました。
「そうしてくれるんですが」
「それはふわりがご家族を信頼してです」
 そしてというのです。
「愛情を持っていて皆さんもです」
「愛情を持っている」
「だからですか」
「ふわりもそうします、絆を持っていて守っていますから」
 ご家族がそうだからだというのです。
「だからです」
「それで、ですか」
「ふわりも私達を出迎えて見送ってくれるんですね」
「隠れないで」
「いつもそうしてくれるんですね」
「そうです、誰でも自分を裏切って捨てて死んでしまえばいいなんて言葉を言って行動に移した相手を信用しません」
 例えそれが親と思っていた相手でもというのです。 
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