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非日常なスクールライフ〜ようこそ魔術部へ〜

作者:波羅月
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第110話『夢現』

 
魔導祭2回戦第2試合、【日城中魔術部】対【タイタン】は、【日城中魔術部】の勝利で終わった。しかし、


「三浦!」

「マズいぞ! 2人とも気を失ってる!」


その試合のラスト、空中に浮かんだ無防備な相手を叩き落としたところまでは良かった。だが、晴登と結月は着地のことを一切考えておらず、上空で魔力を使い切ってしまっていたのだ。
最後に僅かだが身体を空中に浮かせていた晴登の魔力も尽き、2人は意識を失ったまま頭から落下していく。


「助けねぇと!」


その様子を見て助けようと試みるが、どうやっても間に合う気がしない。運動音痴の自分は当然として、ここにいるメンバーも誰一人として、晴登たちのような高速移動の術を持ち合わせていないのだから。フィールドは目と鼻の先だと言うのに──


「よっと」

「あの人は……!」


そんな時、墜落寸前のところで誰かが2人をキャッチする。さっきまで姿もなかったのに、瞬きの間にそこに彼は立っていたのだ。そして、その優しく甘い声と輝くような金髪には覚えがある。【覇軍(コンカラー)】のアーサーだ。


「ふぅ、間に合って良かった」


アーサーは両脇に抱える2人を一瞥し、そう言って安堵していた。
チームメイトでもないのに、わざわざ観客席から飛び出して助けてくれたというのか。そのあまりの聖人ぶりに、開いた口が塞がらない。


「あの! うちのメンバーを助けてくれて、ありがとうございました!」

「いいんだよ。面白い試合を見せてもらったからね」


魔術部一行はようやくアーサーの元へとたどり着き、終夜が代表してお礼を言う。それにアーサーは笑って応えた。


「この結果を知ったら、彼はどんな反応をするかな……」

「彼?」

「あぁごめん、こっちの話。次はいよいよ準決勝だね。頑張って!」

「「はい!」」


そしてアーサーはここにはいない誰かに向けて何か呟いたかと思うと、なんと声援を送ってくれた。敵に塩を送るような行為だが、これは彼の純粋な本心だろう。どこまでもお人好しな人だ。


「それじゃ、彼らをよろしくね」


アーサーはそう言って、晴登を終夜に、結月を伸太郎に渡して──


「うぐ……!」

「どうした暁!?」

「あの、俺1人だとキツいっす……」

「マジかよ」

「えぇ……」


女子、それも友達の彼女に触れること自体にそもそも抵抗があったのだが、ここではその話は置いておこう。問題はその次だ。

アーサーから手渡された結月をお姫様抱っこの要領で持とうとした伸太郎だったが、悲しいかな、すぐに腰が曲がって嫌な音を上げ始めたのである。
以前、体育祭の折に晴登を運んだ時もそうだが、さすがに非力すぎないだろうか。決して結月が重い訳ではない。悪いのはこの貧弱な腕と足腰だ。
これには終夜も少し引いており、何より軽蔑するような緋翼の視線が痛かった。


「えっと……手伝おうか?」

「い、いえ、大丈夫です! おーい2年生! 誰か手伝ってくれ!」


見かねたアーサーに気を遣われてしまったので、たまらず終夜が観客席の2年生を呼ぶ。


なんかホント、すんません……。





「……ん」


ふと意識が覚醒し、晴登は唸りながら目を開いた。その瞳には、見たことがあるようなないような天井が映っている。


「起きたか、三浦!」

「暁君……? ここは……」

「ホテルだ。見覚えあるだろ?」


そう言われて、ようやくこの天井の既視感に合点がいく。

ベッドの上に乗せられた自分の身体と、傍らに座っている伸太郎。
さっきまで試合をしていた気がしたが、この構図から察するに、既に試合は終わっており、その後ここに運び込まれたようだ。生憎、意識を失った辺りの記憶が曖昧で、勝敗がどっちだったか──


「はっ、結月は大丈夫?!」

「二言目にはそれかよ。心配すんな。大丈夫だよ……と言いたいところだけど」

「何かあったの?! ……うぐっ」

「おいおいまだ動くなよ。お前は魔力切れを起こしてるんだ。しばらくは寝ていた方がいい」


試合のことを思い出そうとすると、ふと結月のことが頭をよぎった。
そこで伸太郎に彼女の行方を訊いたのだが、曖昧な答えが返ってきたので、つい勢いで身体を起こしてしまう。その瞬間、猛烈な倦怠感と吐き気が催され、再びベッドインとなった。

伸太郎の言う通り、この感覚は魔力切れによるものだ。体力もかなり消費しており、今は身体を起こすことすら難しい。

落ち着け、まずは深呼吸だ。一度心を鎮める。……そして、再び伸太郎に問う。


「結月に、何があったの?」

「そんなシリアスな顔するなよ。前と一緒だ。発熱を起こしてる。ただ今回は魔力切れも相まって、少し症状が重い」

「それって治るの?!」

「だから焦るなって。部長によると、ここには治癒魔術が使える医者がいるから、1日もすれば治るだろうって。ただし、その間は絶対安静。残念だが、明日の準決勝は出場できねぇ」

「そう、か……」


危惧していた通りの事態になってしまった。いや、こうなることはもはや読めていたが。
結月はまだ"鬼化"を完全には使いこなせていない訳で、長時間使うとデメリットとして負担が体調にフィードバックしてしまう。

回復期間こそ前回と一緒だが、治癒魔術があってそれなので、やはり今回の方が症状が重いということか。


「えっと、試合はどうなったの……?」

「覚えてねぇのか? お前らの勝ちだよ。すげぇ戦闘(バトル)だった。見ていて痺れたぜ」

「そっか。良かったぁ……」


恐る恐るの質問だったが、その答えを聞いて一安心した。こうして自分と結月がぶっ倒れるまで戦った甲斐があったのだから。
それに、格上相手に勝てたという時点で既に嬉しい。


「──そういや少し気になったんだが、お前あのメガネ男の"バリア"に気づいてたのか?」

「……え? どういうこと?」

「だってよ、トドメ刺す時に直接触れて吹き飛ばしただろ? あれって、予めバリアを張るってわかってねぇと無理じゃねぇのかなって。あいつが初めにバリアを使った時って見えなかったんじゃないのか?」

「え? あぁ……あ? うん? あれ、何でだろ……?」

「無自覚かよ!?」


ようやく頭が冴えて試合のことをだんだんと思い出してきたが、伸太郎の言うことに心当たりがない。"バリア"って何のことだろう。

……いや、強いて言えば、記憶の最後にそんなものを見たような気がする。あれが"バリア"だとすると、試合中に大技を防がれたのはそれが原因に違いない。なるほど、それが正体だったのか。

パズルが1欠片ずつ埋まっていくように、記憶と謎が補完されていく。そうだ、そういえばあの時、


「……終盤、周りが炎に囲まれて逃げ場がなくなって、大きい人に斧を振り下ろされようとした時。ふと頭の中をよぎったんだよ。俺が風を放ったら、バリアで防がれてる様子がさ」

「は、何だそりゃ?」

「自分でも何言ってるのかよくわかんない。でも、それで遠距離じゃダメだって思ったんだ」


ちょうど最後の作戦を思いついた時のことだ。いや、正確には"それを知ってから"作戦を建てた。
この時頭の中に浮かんだのは、『お互いが空中にいて、自分が風を放ち、それをバリアで防がれた』シーン。その後どんな風に思考回路が機能したかは覚えていないが、『相手を空中に打ち上げ、ゼロ距離攻撃で撃ち落とす』という作戦をすぐに導けたのは、自分でもよくやったと思う。


「不思議なこともあるもんだな。"未来予知"みたいなもんか?」

「言われてみると、そんな感じなのかな……?」

「だったら超強くね? 要は相手の行動が読めちまうんだろ?」

「確かにそういうことにはなるけど、でも俺にそんな力なんて──」


そこまで言いかけて、ふと思い止まる。


──そういえば、あの夢は何なんだろう。


「予知」と聞いて、「予知夢」という言葉が真っ先に脳裏に浮かんだ。
というのも、晴登は今年に入ってから、不思議な夢を何度も見ている。
草原に1人で立ち尽くしているだけの夢。
天気が代わる代わる移り変わっていく夢。
時々、誰かが話しかけてくる夢。

ずっと疑問に思っていた。意味もなくあんな夢を見続けるのも変だと。例えば、あの夢が何かを知らせるもの、それこそ「予知夢」だという可能性は否定できないのではないか。つまり、晴登は"予知能力"を持ち合わせているのでは──


「どうした? 何か心当たりがあるのか?」

「……いや、何でもない」


そこまで考えたところで冷静になる。
もしそんな力があるならば、最初に能力(アビリティ)を調べた時にとっくに明らかになっていたはずだ。今さら発現するなんておかしな話である。
それに"予知"なんてチートじみた力、素人目で見てもレベル4は下らないだろう。それに比べて、晴登の能力(アビリティ)はレベル3。そんな力を持っているはずがない。

今回の件はたまたま無意識下で建てていた予想や作戦が頭に浮かんだとかそんなんで、夢についても偶然同じものを見ただけじゃないのか……?

きっと気のせいだ。"未来予知"なんて、できる訳がない。


「そうか。まぁ、勝てたんだから何でもいいんだけどな。さて、じゃあお前が起きたことを部長たちに伝えてくるわ」

「わかった」


そう言い残して、伸太郎は部屋から去っていった。

部屋に1人残されてやることもないので、晴登はさっきまでのやり取りを思い出す。

"未来予知"云々はともかく、不思議な夢に関しては疑問が尽きない。だって夢の中だというのに、色も風も匂いも全て感じていたのだから。
だからと言って、あれが予知夢だと断定はできない。なぜなら、実際に予知をしたことがないからだ。あの夢が示すものでわかりやすいのは"天気"だが、精々天気予報くらいにしか役に立たな──


「……待てよ」


天気予報。晴れとか雨とか知らせてくれる便利なあれ。的中率100%だとすればどれだけ嬉しいだろうか。

──思い返すと、大雨が降った体育祭やキャンプの前には、雨が降る夢を見ていた。

偶然か必然か。サンプルが少なすぎて判断はできないが、まさかという可能性が生まれた。あの夢は天気を教えてくれる?
……だとしても、天気予報だけなんて興ざめもいいとこだ。そんな力、あってもなくても困るものではない。期待して損した気分だ。


「……今は忘れるか」


解決の糸口が見えないので、この件については一旦保留することにする。結論を急ぐ必要もないし、また今度考えることにしよう。

もうじき伸太郎が終夜たちを連れて来て、明日に向けてのミーティングが始まるはずだ。思考をそっちに切り替えておかないと。


「そういや、一昨日の夢も雨が降ってたなぁ……」


ふと、そんなことを思い出す。
またイベントが雨に邪魔されるのだけは勘弁だと、晴登はため息をついた。







「それじゃ、明日のミーティングを始める。あ、三浦は寝たままでいいぞ」


時刻は夜9時。夕食も入浴も何とか済ませ、いよいよミーティングが始まる。さっきと比べると多少は動けるようになっていたが、明日に備えて安静が命じられた。
ちなみに結月は医務室で休むことになっているので、このミーティングには参加していない。


「皆もわかっている通り、明日結月は出場できない。だから場合によっては、暁を補欠として出場させなきゃいけない。それはわかってるか、暁?」

「も、もちろんっす」


レギュラーが欠員となれば、当然白羽の矢が立つのは控えの伸太郎。戦闘(バトル)に関しては経験不足だが、他にメンバーもいないので仕方ない。本戦は"メンバー4人"が前提なのだから。
なお終夜の言う"場合"とは、特別ルールが1日目の時のようにランダム選出だったり、例えば4人選出だったりした場合のことだろう。その時は有無を言わさず伸太郎にも出場して貰わなければならない。


「じゃあ次の内容だが、準決勝に進むチームについてだ」


ここで、今回の本質とも言える話題が振られる。2回戦での情報不足を反省し、準決勝では事前にできるだけ相手のことを把握しておきたいという終夜の考えだろう。さすが手際が良い。


「1つ目は当然だが、優勝候補【覇軍(コンカラー)】。アーサーさんや影丸さんの存在で隠れてはいるが、チームメンバー全員が相当な実力者。今日の2回戦はアーサーさんとアローさんのコンビで突破していた」

「さすが……」


大会1位の実力を誇る【覇軍】。晴登は今のところ全く彼らの試合を見れていないのだが、予選を1位通過して、ここまで勝ち上がっていることが何よりもの証明になる。
アローさん、という人の名前は初耳だが、この人も強いのだろう。試合が見れなかったことが悔やまれる。


「……何よ、私がぶっ飛ばしてやるわ」


そんな中、意外にも1人だけ奮起している人物がいた。拳を握りしめ、文字通りメラメラと燃え上がりそうな情熱である。
彼女にしては珍しく、冷静とは呼べない発言だ。


「その自信はどこから来るんだ。てか、そんなキャラじゃないだろお前」

「だって私、予選の時にナメられて情けをかけられてるのよ! あの借りを返さないと気が済まないわ!」

「へぇ〜」


ここで驚きのカミングアウトがされるが、終夜はあまり興味を示さない。

……待てよ。ということは、魔術部が予選を突破できたのはそのおかげという可能性もある訳か? それは確かになんか悔しい。でも助かってもいるのだから複雑な気分だ。


「話を続けるぞ。2つ目も本戦上位常連、【ヴィクトリア】。もし【覇軍】がいなければ、このチームが優勝すると言われているほどの強豪だ」

「うわぁ……」

「まぁでもこの2つのチームは特別強いからな。同じ舞台に立てるだけでもラッキーと思おう」


終夜はそう言って、乾いた笑いを零した。その表情には諦めの色が見て取れる。

いくら優勝という目標を掲げているとはいえ、彼我の実力差もわからないようでは三流止まり。終夜はこの2チームには敵わないことを初めからわかっていた。
そもそも、予選を勝ち上がったこと自体が奇跡に近いのだ。そして何やかんや本戦も勝ち上がり、ベスト4にまでたどり着いた。これだけでも十分凄い快挙なのである。

彼が悔しそうな表情をしないのは、そういう理由だろう。


「……さて、遠回りをしたが、ここからが今日のミーティングの本題だ。3つ目、俺たちと準決勝で当たるチーム。まさかこのチームが上がってくるとはな。──【花鳥風月】だ」


ただ、そう言い放った終夜の瞳には、闘志が宿っていた。
 
 

 
後書き
中途半端に終わってごめんなさい! 長くなりそうだったんでまた2つに分けました! ……え? さっさと準決勝行けって? だって早く更新された方が良くない? 良いよね? 良いと思うよ(全肯定)

ということで、今回は結構ハテナな話をしましたが解説はしません。そのうちまた出てくるでしょうし。全く、フラグ回収って大変ですよホント(自業自得)

さて、後書きはこの辺にして、さっさと次を書いていくとします。9月中には更新したいですね。
今回も読んで頂き、ありがとうございました! 次回もお楽しみに! では!


9/11 追記:ちょっと矛盾点見つけたので修正しました。 
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