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非日常なスクールライフ〜ようこそ魔術部へ〜

作者:波羅月
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第108話『VS.巨人』

 
これから始まるのは2回戦第2試合、【日城中魔術部】対【タイタン】の試合だ。ここまで来ると、メンバー全員が中学生だというのに、予選、1回戦と順調に勝ち上がってきている【日城中魔術部】に注目する観客も増えてきていた。

そんな中、黒い龍翼をはためかせ、空から観客席に降り立つ人物が1人。


「どうしたんだ影丸。今日は部屋でゆっくりするんじゃなかったのか?」

「はっ、こんな連絡寄越しといてよく言うぜ」


白々しくそう訊いてくるアーサーに、影丸はスマホのメッセージ画面を見せながら答える。それを見て、アーサーは口角を上げた。


「はは。だって影丸がずっと気にしてた2人だからね。教えない方が良かったかな?」

「いいや、助かる。これでようやく、間近で実力を見れるんだからな」


そう言って、影丸は静かに笑みを浮かべ、席へとつく。
今日は絶対に試合には出ないと言って取った休みを、わざわざ返上して彼がここに出向いた理由。それはひとえに、ある2人を見に来たからだ。彼らのことは開会式の時から目をつけている。
予選まで突破してきたのだ。きっと価値あるものを見せてくれるに違いない。


「てか、試合どころか選手紹介もまだみてぇじゃねぇか。何であいつらが出るってわかったんだ?」

「見てればわかるよ、それくらい」


そう言ってアーサーが指さす先には、フィールドの横、選手の入場口に集う【日城中魔術部】のメンバー達の姿があった。出場するであろう黒髪の少年と白髪の少女に、リーダーの少年や小さい少女が声をかけている。なるほど、その様子を見れば、誰と誰が出場するのかなんて明白だろう。


「そうか。さて、お手並み拝見だな」


そう呟いて、影丸はまたも不敵な笑みを浮かべた。






『それでは出場選手の紹介です!』


そんなジョーカーの快活な実況とともに、魔導祭2回戦第2試合が始まろうとしていた。


『まずはこのチーム! 【日城中魔術部】より、三浦選手と三浦選手!……っと、苗字が一緒ですね! なんという偶然でしょう!』

「実は偶然じゃないんだけど……」


フィールドに上がりながら、その紹介に晴登は頬を掻いた。
学校で慣れたかと思っていたが、苗字を並べて呼ばれるとかなりこそばゆい気持ちになる。やはり同じものにするんじゃなかった。……隣にいる本人は全然気にしてないんだけど。


『そしてお次は、チーム【タイタン】より、(とどろき)選手と建宮(たてみや)選手! 2人とも身長は190cmオーバー! う〜んデカいですね!』


晴登たちの正面、フィールドの逆サイドから呼ばれた2人が登ってくる。遠目から見ても大きかったが、こうして目の前に立たれると余計に大きく見えてしまう。まさに巨人だ。
ちなみに、身長だけじゃなくてそもそもの体格が筋肉質で横にも大きい方の男が轟で、対照的に細身でメガネを掛けている方の男が建宮である。体格的にはどう見ても不釣り合いなタッグだ。


『それでは両チームに手錠を用意します。なお、手錠をどちらの手首に付けるかはお任せします。ただし、手首以外に付けたり、壊したりすることはルール違反で失格ですので、注意してください』


ジョーカーのその言葉とともに、空から手錠が降ってきた。キャッチして見てみると、それはスライムのような柔らかい素材をしており、とても伸縮性がある。


「えっと……結月が右手を使えた方が良いから、俺が左側かな?」

「別に右も左も気にならないから、ハルトが戦いやすい方でいいよ」

「ならお言葉に甘えて右側で」


相談の結果、晴登の左手首と結月の右手首を繋げることにした。実際に付けてみると、スライム手錠は吸い付くように腕にフィットし、次第に石のように固くなっていく。
なるほど、これだけフィットしているなら激しく動いても手首を痛めることはなさそうだ。とはいえ拘束されている以上、動きにくいことに変わりはないが。


「……ねぇ、今恋人繋ぎはやめない?」

「え、何で?」

「いや、恥ずかしいからだよ……」

「ちぇっ」


さりげなく指を絡ませてきた結月にそう言うと、彼女は残念そうに手を離した。
恋人とはいえ、さすがにこんな大勢の人の前で、ましてや今から戦闘(バトル)という時に手を繋ぐのはよろしくない。TPOを弁えろとはこういうことだろう。


「……やっぱりデカいな」


目の前の対戦相手を見て、ポツリと呟く。何せ身長差は30cm以上あるのだ。顔を見るのにも見上げる必要がある。


「でもイグニスと比べるとそうでもないよね」

「比較対象がおかしいよ。でも、そう思うと可愛く見えてきたかも」


そんな時、結月の小言が緊張を和らげてくれた。
そう、晴登たちは裏世界で、体長が何mにも及ぶドラゴンと遭遇し、そして戦ったのだ。その経験を鑑みると、たかが身長の高いだけの人間なんて可愛いものである。

そうして肩の力が少し抜けたところで、相手チームが話しかけてきた。


「君たちが中学生だろうと、ここまで勝ち上がってきたその力は認めざるを得ない。存分に力を発揮して戦いましょう」

「相変わらずお前は堅苦しいことしか言わねぇな。とりあえず勝ちゃいいんだろうが」


建宮と轟が見た目にそぐうセリフを言う。どうやらもう、晴登たちを中学生だからと侮る人はいないようだ。逆に言えば、油断から生まれる隙もなくなる訳だが。


『両者とも手錠は嵌めましたか? それでは第2試合、開始!』


「「はぁっ!!」」


ジョーカーの試合開始の宣言とともに、晴登と結月は遠距離からの先制攻撃を仕掛ける。今回は相手を怪我させる心配をしなくていいので、初手から"鎌鼬"を放った。


「初っ端から手加減なしだな。そう来なくっちゃ面白くねぇ! そらよ!」


「防がれた……!」

「さすがに一筋縄じゃいかないね」


しかし、轟の右手に突如として現れた大斧に、2人の攻撃はあえなく弾かれてしまう。やはり本戦をここまで勝ち上がっただけのことはあり、この程度の攻撃では動じてくれない。
というか、1m以上にも及ぶ大きさの斧を片手で振り回すなんて、相当な怪力である。


「こんなもんか? 次はこっちの番だ!」


「距離を詰めてきた!」

「退こう!」


体格こそ不釣り合いな2人だが、身長と歩幅が同じくらいとあって、それなりの速度で近づいてくる。
あの斧の一撃を喰らう訳にはいかないので、たまらず晴登たちは距離を取ろうとした。が、


「ふん!」

「くっ!」


腕も長い轟の斧のリーチは思いの外長く、危うく直撃しそうになってしまう。しかしそこは、結月が反射的に氷の壁を張ったおかげで何とか凌げた。ただ、


「これで終わりではないですよ!」

「……! ハルト、逃げよう!」

「え……うわぁっ!?」


建宮がそう言って指を鳴らした直後、目の前で爆発が起こり、壁が跡形もなく破壊される。もし結月の声掛けがなければ、壁ごと吹き飛ばされていた。間一髪である。


「大丈夫、ハルト?!」

「あぁ、ありがとう結月。それにしても爆発か……」


距離をとって体勢を立て直す2人。やはり、近距離は向こうに分があるようだ。どうにかこの距離を保たなければならない。


『開幕から強烈な攻撃を加えた【タイタン】でしたが、【日城中魔術部】は辛うじて耐えました! この勝負、1秒たりとも目が離せません!』

「「「うおぉぉぉぉ!!!!」」」


ジョーカーも観客も大盛り上がり。歓声で会場の空気が震えるのを肌で感じながら、晴登は打開策を探る。

今の交戦から、轟の能力(アビリティ)は物理属性の"斧"、建宮の能力(アビリティ)は"爆破"と推測できる。どちらも威力も範囲もありそうなので、結月の"氷"とは相性が悪そうだ。


「まだまだいくぞ!!」


「くっ……結月、飛ぶよ!」

「わかった!」


『おっと、ここで【日城中魔術部】、空へと退避! これは良い判断です!』


「ふむ」

「上手く逃げやがったな」


再び距離を詰められそうになったので、場外に追い詰められないためにも、2人は大きくジャンプして戦況のリセットを図る。高身長の彼らの頭上を軽々と飛び越えられるのは、"風の加護"様々だ。


「だが着地は隙だらけだぞ!」

「"氷槍一閃"!」

「ちっ……!」


『着地を狩ろうとしたところを、氷の槍で牽制! 上手く凌ぎました!』


「ナイス結月!」

「当然!」


結月の機転により着地は成功し、両チームの位置がちょうど開始時の正反対の位置になる。攻防は一段落と言ったところか。


「これからどうする、ハルト?」

「近距離は勝てないから遠距離一択なんだけど……離れて戦おうにも、防がれるならどうしようもできない」


開幕の攻撃を防がれたということは、ちょっとした遠距離攻撃じゃビクともしないだろう。つまり、隙を見て大技を叩き込む必要がある。


「問題はどうやって隙を作るか……」


隙を作る上で厄介なのは、"斧"ではなく"爆破"の方だ。威力も規模も未知数なので、このままでは小細工ごと吹き飛ばされかねない。


「……だったらいっそのこと、ぶっぱなしてみない?」

「それはさすがに脳筋すぎじゃ……いや、やってみる価値はあるか」


隙が作れないのであれば、上から力でねじ伏せるという結月の強引な提案。ちょっと手詰まりになっていたところなので、この作戦が状況を打開するきっかけを作ってくれれば、あるいはそのまま本当に押し切ってくれてもいい。物は試しだ。


「なら、この技だな」

「よっ、待ってました」


さっきは断ったが、今度は晴登から結月と手錠で結ばれている側の手を繋ぐ。そして背中合わせになり、2人の魔力を握った手に込めていった。

これこそ、2人が繰り出せる最大の技。


「「合体魔術! "氷結嵐舞"っ!!」」


氷と風。2つが合わさり、猛吹雪を巻き起こす。地面が割れるほどの衝撃と、大気が凍りつくほどの冷気が、轟音を鳴らしながら相手チームに襲いかかった。


「合体魔術だと!?」

「へぇ。思った以上にあの2人は手強そうだね」


観客席では、影丸とアーサーが驚きを見せていた。
つまるところ合体魔術とは、この2人にとってさえ、目新しい高難易度魔術ということだ。


『ここでまさかの合体魔術! 威力も凄そうだ! チーム【タイタン】、どう凌ぐのか?!』


「はっ、面白ぇ!!」

「ふっ!」


迫り来る猛吹雪に対して、叫びながら轟が斧を構える。続いて、それに呼応するように建宮が爆破を起こした。
避ける訳でもなく、真っ向から防ぐ姿勢。爆風が壁となり、さらに斧でも防御する。しかし、いくら何でもそれくらいでこの技を耐えられるとは思えない。

吹雪が爆風に触れ、水蒸気爆発を起こす。灰煙が巻き起こって視界が悪いが、果たして──



「……どうした、もう終わりか?」


「えぇっ!?」

「嘘だろ……」


なんと【タイタン】は無事だった。しかも、見るからに傷一つ付いていない。あの技を無傷で防がれるのは、さすがに想定外だった。

しかし、一体なぜだ。結月の氷結は並大抵の炎ならそれごと凍り尽くすほどの威力。あの爆炎で多少は威力が弱まるにしろ、完全に防がれるはずがない。まして、晴登の風も加わっているのだ。その後に構える斧のガードを突破できないなんて、果たしてありえるのだろうか。


「となると、あの"斧"に何か仕掛けが……? それとも"爆破"に……?」

「ハルトハルト、こうなったらやるしかないよ」

「やる? やるって何を?」


彼らの能力(アビリティ)のタネについて考え込んでいると、結月が何か決死の策を思いついたようで、覚悟を決めた表情でそう告げてきた。言い方的には晴登も知っていることのようだが……


「ボクが──"鬼化"する」

「……っ! けど、そんなことしたらまた熱が……」

「1日風邪引くくらい大したことないよ。この相手に出し惜しみなんてしてられない。そうでしょ?」


結月が提案したのは、彼女自身の切り札、"鬼化"だった。
確かにそれを使えば彼女の力は飛躍的に向上し、彼らを打倒できるようになるだろう。"氷結嵐舞"が防がれた以上、それに頼らざるを得ない状況だというのはわかる。
ただし代償として、彼女が熱を出して寝込んでしまった前例がある。

つまり、この試合を勝ち上がったとしても、結月はもう本戦に出場できない可能性があった。

魔導祭優勝を目指すのであれば、彼女の戦闘力は必須と言っても過言ではない。できることなら、この後の試合にも全て出場して、余裕で勝利を取ってきて欲しい。
……もっとも、本音としては頼りきりになりたくないし、無茶もして欲しくないのだが。

それでも、今の彼女は本気だ。自分がどうなろうとも、チームを勝利に導くという気概を感じる。だったらパートナーとして、それに応えない訳にはいかない。


「……わかった。けど少し待って。頑張ってついていけるようにするから」


晴登は一息つくと、意識を下半身に集中する。部位にして太ももの辺り、そこから足先にかけて風を纏わせていった。
"風の加護"とは一味違う。足先だけでなく、脚全体をカバーしている。
この技は、風香と特訓したことで会得した、"風の加護"に次ぐ自分専用の新しいサポート技──


「名付けて、"疾風(はやて)の加護"!」


この試合は一心同体がルール。鬼化した結月だろうとついて行く必要がある。そのためには、"風の加護"のスピードでは足りない。
そこでこの"疾風の加護"ならば、いつもより燃費は悪いが、桁違いの出力でスピードを底上げできる。身体がさらに軽く感じ、今にも飛べそうな気分だ。


「準備オッケーだよ、結月」

「いつもより風が強い……やっぱりハルトは凄いや。うん、ボクも負けてられない──"鬼化"!!」


その瞬間、空気の流れが変わった。そして身も凍るような冷気と、身の毛もよだつような鬼気が肌を刺す。この感覚は、2回目だろうととても慣れそうにない。

晴登の隣、鬼と化した結月が顕現する。


「……これだけ近いと、さすがに寒いな」

「ごめんねハルト。少しだけ我慢して」

「いや、夏だからちょうどいいかも」


今回もコントロールに問題はなく、きちんと理性を保っている。……いや、暴走したことはそもそもないんだけど、そこは心配しちゃうもので。

身に染みる寒さに軽口を叩いた晴登は、ひっそりと口角を上げる。前は見ているだけだったが、今回こそ鬼化した結月の隣で戦えるのだ。場違いかもしれないが、ついワクワクしてしまっている自分がいる。


「……ちょっと、あんまりこっち見ないで。こんな姿、見られたくないから……」

「え、何で? かっこいいじゃん」

「……! もう、ハルトのバカ……」

「えぇ?」


率直な感想を述べただけなのだが、結月がそっぽを向いてしまった。何かおかしなことを言ってしまっただろうか。


「もう、行くよ! ハルト!」

「お、おう!」


結月に急かされ、慌てて晴登は前を見る。

壁のように立ち塞がる巨人2人。字面だけ見れば、鬼やドラゴンにも匹敵するのではなかろうか。強大な敵だ。

それでも、この2人でなら立ち向かえる。そうやって、今まで修羅場を突破してきたのだ。もはや負ける気はしない。

そう思ってワクワクしながら、晴登と結月は地面を大きく踏み込んだ。
 
 

 
後書き
ジャスト1ヶ月で更新です。どうも波羅月です。ついに夏休みに入りました。やったぜ。

さてさて、今回は2回戦をやっていたのですが……なんか予想以上に長引いてしまったので分けました。1ヶ月待たせといてそりゃないだろ〜、とか言わないでください。分けた方も含めると絶対もう1ヶ月かかってましたからね。僕は悪くありません。悪いのは世間です(違う)。

ということで、久々の晴登と結月の共闘回でございます! う〜ん、推しカプが戦う姿はやっぱり良いですね〜。書きながらこっちも楽しくなっちゃってます。セリフばっか先走って、地の文が中々追いついてなくて困ってますけども。文章力はどっかに落っこちてないものでしょうか。諭吉で買い取ります()

最初にも言いましたが、夏休みに入りましたので、更新ペースが多少は上がってくれると信じていた時期もあったような気がします。冗談です。きっと上がってくれます。理想は1週間に1話なんですけど、これが中々上手くいかないもので。連載当初はできてたのに、一体何が変わったんでしょうね。歳? やっぱり歳かな……。そろそろ節目の歳になってしまうので、たぶんそういうのあると思います。知らんけど。

てな訳で、時間があったので長々と後書きを書いてしまいました。そろそろ次の話を書いていこうと思います。
今回も読んで頂き、ありがとうございました! 次回もお楽しみに! では! 
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