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渦巻く滄海 紅き空 【下】

作者:日月
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五十 共同戦線

「いったい奴は、何が目的で木ノ葉に来たんだ…?」

『暁』の侵攻に木ノ葉の里全体が妙にピリピリと張り詰めている。
その最たるものであるのは、他ならぬ五代目火影がいる室内。
怪訝な目つきで、綱手は遠くを透かし見るかのように眼を細めた。
その視線の先。

牢に閉じ込められ、拘束具で動きを封じられ、印を結べないように拘束している存在。
桃地再不斬の姿を思い浮かべ、五代目火影は眉を顰める。

『暁』の角都と飛段。
奴らと対峙したアスマ達に加勢する形で割り込んできた人物。抜け忍である再不斬が木ノ葉に肩入れする動機も理由もないはずだ。
しかし、そのおかげでアスマ以外の忍び達の命が助かったのもまた事実。
よって綱手は、おとなしく木ノ葉の里に連行された桃地再不斬の処遇に頭を悩ませていた。

火影としてならば、霧隠れの里に引き渡すのが道理だろう。
だが『暁』と互角に渡り合った戦力であるのも確か。
どうしたものか、と眉間を指で押さえていた綱手は、慌てて火影室へ飛び込んできたシズネの報告に、更に眉間の皺を濃くした。

「大変です…!奈良シカマル・山中いの・秋道チョウジの三名が里を無断で出たとの情報が…っ」
「なんだと…ッ」

シズネの報告に、綱手はダンッ、と机を叩く。その勢いに、シズネのほうが「ひい…」と小さく悲鳴をあげた。

「まったく次から次へと…」

立ち上がりかけるもドスンと座り込んで、綱手は苛立たしげに机を指で叩いた。

「弔い合戦でもするつもりか…アイツらしくもない」

頭の回転がすこぶる速く、慎重に事を運ぶ参謀タイプのシカマルを思い浮かべながら、綱手は眉間に更に深く皺を寄せた。
アスマの生徒である第十班。師を慕っていた彼ら三人が敵討ちに向かいたくなる気持ちはわかる。
だからこそ、再編成した小隊に組み込み、しっかりとしたプランを立ててから向かわせるつもりだった綱手は、勝手な行動を起こした三名に嘆息を零す。


「────犬死にしたいのか」
「そうはなりませんよ」


背後からの返答。
自身の言葉に被さるように発言した後ろの者へ、綱手は振り向かずに答えた。

「ナルはいいのか」
「アイツには別の隊長がついてますよ…俺はもう用済みってヤツです」

ひょいっと掲げてみせた後ろの人物…カカシの片腕に巻かれた包帯を認めて、綱手は片眉をつい、と上げた。
波風ナルとの修行に付き合って、負った傷だというのはわかる。本来ならばナルの成長を喜ぶべきだ。
だが、今の状況ではいただけない。

「手傷を負った状態のお前をみすみす行かせると思うか?この私が」
「シカマル達を追うには忍犬を使うのが一番手っ取り早いでしょーよ」

カカシの言い分に、ぐぬ…と唸った綱手は暫し、思案顔を浮かべる。
やがて彼女は顎に指を添わせ、どこか遠いところを透かし見るように目を細めた。否、その目線はある方向を見つめている。

即ち、桃地再不斬を拘束している牢のほうを。




















「…カカシ先生…!」

危機一髪の窮地を救われたシカマルとチョウジがカカシに駆け寄る。
だが明らかに再不斬を警戒するふたりに、カカシは苦笑した。

「大丈夫。少なくともコイツら『暁』を倒すまではね」
「…どういうことッスか?」

シカマルの問いに、カカシではなく再不斬が振り返らずに答えた。

「てめぇらの長との取引に応じただけさ」
「そういうこと」

再不斬に同意したカカシはシカマルに、こうなった経緯を簡潔に説明する。

霧隠れの里へ引き渡さない事を条件に、シカマル達の加勢及び『暁』の角都と飛段の撃退を、五代目火影直々に依頼したこと。
角都・飛段と互角に渡り合った再不斬は失うには惜しい人材だ。それに、人柱力であるナルを守るのに人手は多いことに越したことはない。

もっとも抜け忍である再不斬がいつ『暁』のほうへ寝返るか、或いは依頼内容を放棄して逃げてしまうかわからない。
よって、五代目火影は、再不斬が木ノ葉を途中で裏切らぬように、枷をつけたのだ。


「枷?」

怪訝な顔のシカマルを、カカシは目線で促した。カカシの視線を追ったシカマルは、再不斬の首元に見覚えのない奇妙なチョーカーを目にして、眉を顰める。
聡明なその頭脳はすぐさまソレが何を意味するか察して、シカマルはハッ、とカカシを仰いだ。

シカマルの視線を受け、カカシは双眸を閉ざす。無言の肯定に、シカマルは「…よくあの鬼人がソレを承諾しましたね」と戸惑い気味に再不斬を見やった。

「俺も未だに半信半疑なんだけどね。もっとも、その代わりに首切り包丁の返却を求めたのは抜け目のない奴らしい」

鬼に金棒ならぬ、再不斬に首切り包丁。
本来ならば危険人物に危険物を返すなど考えられないが、流石に負い目を感じたのか、綱手も再不斬からの要求を呑まざるを得なかった。

何故なら桃地再不斬へつけた枷とは、云わば、時限式の爆弾。
つまり、木ノ葉の忍びに危害を加えるのであれば、交渉決裂。
『暁』の角都&飛段と共に、自爆してもらう手筈になっている。

また『暁』と戦わず、逃げる可能性をも考え、火の国から遠く離れても自動的に作動する時限装置だ。
要するに起爆札のようなモノを常に再不斬は首元に巻かれている状態である。

その上、このチョーカーは五代目火影自らが施したモノ。封印術も施されている為、並大抵の忍びには外せない仕様になっている。
無理に外そうとすれば、即座にドカン、だ。

無事に外せるとすれば、術を施した術者である綱手本人。
もっとも術式を正確に理解し、封印術に長けた人物ならば話は別だが。


「残念だ、霧隠れの鬼人」

はたけカカシと共に現れた忍び。
木ノ葉の増援と思われるふたり組を見て、角都は心底残念そうに頭を振った。

先日、アスマ率いる小隊とぶつかった際、割り込んできた再不斬のほうが木ノ葉の忍びより角都は遥かに価値を見出していた。
なにより賞金首である再不斬を存外気に入っていた為、カカシと共に現れた霧隠れの鬼人を見て嘆息する。

再不斬の首元。先日戦った際には無かったチョーカーを認め、角都は軽く片眉を上げた。
木ノ葉の里に連行されたと風の噂で聞いた再不斬がこうして自由になるに払った代償をなんとなく察して、鼻で嗤う。

「木ノ葉の狗に成り下がったか」

枷という名の首輪。
それをつけられ、木ノ葉の飼い犬になったか、と角都は嘲笑する。

「せいぜい噛まれないように気をつけろよ」

しかしながらその挑発を、再不斬は一言で一蹴した。「それに、」と付け加える。


「俺に首輪をつけられる奴なんざ、ひとりしかありえねぇよ」


明らかに五代目火影を指しているのではない再不斬の言葉を、カカシは怪訝に思う。
だがそれを追及するよりも、今は目の前の『暁』のふたり組をどうにかするのが先決。
その為には、再不斬と手を組むのが効率的だと切り替えるカカシの後ろで、シカマルもまた、鬼人の言葉に違和感を覚えていた。











「おいおいおい…」

【火遁・頭刻苦】を放ったばかりの能面の化け物が地面に崩れ落ちる。
カカシと再不斬の【水遁・水龍弾の術】の水龍に呑み込まれ倒れ伏せた能面を、飛段はどこか冷めた目で見下ろした後、角都を大声で糾弾した。

「啖呵切った傍から、いきなり一匹死んでんじゃねぇ─かよぉ!ほんとカッコつかねぇなぁ、角都よぉ」
「…………」

いのの【心転身の術】で乗っ取られていた時は静かだったのに、自由になった途端煩い飛段に、角都は眉を顰めた。
気を取り直して、カカシと再不斬…特に賞金首である鬼人へ顔を向ける。

「飛段、お前は下がってろ。ここは俺がやる」
「待て待て…さっきからずっと好き勝手にやられっぱなしでイライラしてんだ」

いのの【心転身の術】で自分の身体を勝手に使われていた飛段が角都の言い分に反論する。
素直に自分の言うことを聞かない相方をチラリ、と一瞥した角都は諦めたように「…好きにしろ」と嘆息した。

「だが、あの鬼人の賞金も心臓も俺が貰うぞ」
「それこそ好きにしろよ」

好き勝手に話す不死コンビに、それまで静観していた再不斬も流石に青筋を立てた。

「本人の前でよくもまぁ、ほざくものだ。二兎を追う者は一兎をも得ずって知ってっか」
「一石二鳥とも言うだろう」

再不斬の揶揄に揶揄で返して、角都が印を結ぶ。
彼の背後に聳え立つ三匹の化け物、その内の一体が大きく口を開いた。

「【雷遁・偽暗】!!」

能面にバチバチと眩い雷が集束する。直後、鋭い槍のような形状の雷が襲い来る。
その雷撃の矛先は、シカマルとチョウジ。
もっともこの場で戦力が低いところを狙ってくる的確な攻撃に、狙われたシカマルが舌打ちした。

そのふたりの前に、カカシが躍り出る。
シカマルとチョウジを庇い、自らの【雷切】の雷で敵の雷撃を打ち消そうとするカカシ目掛けて、飛段が雄叫びを上げながら鎌を振るった。

「ひゃっはああ──!」

角都の【雷遁・偽暗】の攻撃に防戦一方であるカカシ。
彼に無慈悲に振るった鎌はしかし、鎌より太い刃で以って弾かれた。

「うるっせぇな」

火花が散る。
三刃の鎌を難なく押し返した再不斬が、飛段へ追撃した。
それを屈むことで避けた飛段が再不斬の足を狙って鎌を薙ぐ。飛んでくる鎌の切っ先を、首切り包丁を盾に防いだ再不斬が地を蹴った。そのまま飛段を、鎌ごと斬り伏せんとする首切り包丁から逃れ、飛段が傍らの大木を駆け上がる。

苔生した大木の幹を駆け上る飛段追い駆け、再不斬が首切り包丁を振り翳す。
それを鎌で受け止めようとした飛段に向かって、角都が鋭く叫んだ。

「よけろ、馬鹿者…!」

同時に、角都の腕が伸びる。
黒い繊維状の触手を長く伸ばした角都の腕が、飛段の首根っこをひっつかんだ。

「ぐぇ…っ」

いきなり首を引っ張られた飛段が呻く。だが文句を言う前に、寸前まで自分がいた場所を目の当たりにして息を呑む。

直後、ズウウウウン…と地響きを立てて、大木の半分が墜ちた。
首切り包丁で大木の幹を真っ二つに割った再不斬が、ふんと鼻を鳴らす。

「相棒に助けられたか…命拾いしたな」

大木を駆け上る飛段を斬り損なった再不斬が角都に視線を向ける。
巨大な刃を物ともせず、ひょいっと肩に担ぎ上げた再不斬を見て、角都は呆れたように飛段を見下ろした。

「あれだけ大きな得物を軽々と振り回している輩だぞ。ちっとは頭を使え」
「それより早く手を離せよ、おい!絞まってる絞まってる!!」

地面へ引き摺るような形で首根っこを掴んだ角都の腕を、飛段がバシバシ叩く。
首切り包丁で木の幹ごとたたっ斬られるのを助けてもらったのは感謝するが、今現在自分の首を引っ張る角都の腕へ、飛段はギャンギャン怒鳴った。

「ギャンギャンうるっせぇな、コイツのほうこそ狗なんじゃねぇか」

木ノ葉の狗だと嘲笑された再不斬が意趣返しとばかりに嗤う。
角都の手からようやっと解放された飛段は咳き込みつつも、益々大声で喚いた。

「げほ…このやろ──ッ、だれが可愛らしいわんこだって!?」
「誰もそんなこと言ってない」
「せめて邪神様の狗かどうか聞けっての!」
「誰もそんなこと聞いてない」

飛段の反論にいちいち律儀に返す角都へ、再不斬は同情めいた視線を向けた。

「てめぇも大変だな…」
「…狗の躾は意外と骨が折れるぞ」
「角都!!俺はお前の相棒にはなったが狗になった覚えはねぇぞ!邪神様ならともかく!!」
「…………大変だな」
「…わかってくれるか」

どこか同じ苦労人めいたものを感じ取って同情しあう両者に、飛段がムキ──と怒る。

そんな若干緩くなった空気は、直後、ガラリと変わった。











「楽しくお喋りしているところ、悪いけどね…」

角都の背後から声がする。
同時に胸を突かれ、角都の眼が大きく見開かれた。

「馬鹿な…貴様は【雷遁・偽暗】を受けるのに精一杯だったはずだ…」

いつの間に、と首を巡らす。肩越しに振り返った角都の胸を【雷切】で抉ったカカシは苦笑する。
再不斬が角都の気を引いてくれたおかげで、【雷遁・偽暗】の雷撃を相殺するのに余裕ができたカカシが秘かに影分身の術の印を結んでいたのだ。

つまり、【雷遁・偽暗】の雷撃を相殺するのを影分身に任せ、本体は角都の背後に回り、隙を窺っていたのである。

不意打ちで申し訳ないが、これほどの強敵だ。卑怯な手だとは思うものの、どちらか一体を先に仕留めねば、戦況は不利。
なんせ相手は、土・風・火・更に雷と四つもの術を操る。これだけ高レベルの術は己の持つチャクラの性質と合致しないと出せないだろう。
能面の化け物を操るのが角都ならば、角都本体を叩けば自ずと化け物も消えるだろうという思考から、カカシは先に角都を狙ったのだ。

特に飛段は不死身故、不死身ではない角都のほうを先に斃しておかねば後々厄介。
戦況が長引けば長引くほど、此方が不利になる。
そういう考えから、角都の隙を突いたカカシを見遣って、飛段が苦々しげに吐き捨てた。

「心臓を一突きかよ…」

倒れ伏せた角都を前に、さほど焦燥感が見えない飛段に、シカマルが違和感を覚える。
相手の心臓を確実に貫いたカカシが、目線を角都から飛段へ変えた。

「次はお前だ」

【雷切】の矛先を飛段に向ける。
そのまま標的を定めたカカシが飛段目掛け、雷切を放とうとした瞬間、彼は再不斬に蹴り飛ばされた。

「ぐ…ッ、再不斬!?敵を取り違えるな!」

まさか爆弾そのものであるチョーカーをつけられているにもかかわらず、此処で裏切る気か。
疑念が脳裏に浮かんだカカシはしかし、直後、再不斬を一瞬でも疑った自分を恥じた。

「てめぇの目こそ節穴か?」

蹴り飛ばされたカカシが立っていた場所。其処は今や、小さな穴があちこちに穿たれている。
角都の身体から現れた能面の化け物。その内の一体が【雷遁・偽暗】たる雷撃を放ったのだ。
鋭い雷の槍がカカシへ雨あられと降り注ぐのを、蹴りつけることで救った再不斬は、軽く肩を竦めた。

「俺はてめぇを助けたんだぜ?感謝されこそすれ、恨まれる筋合いはねぇな」
「それはありがたいけど…もう少し穏便に助けてほしいものだね」

助けるわりに勢いよく蹴ってきた再不斬に文句を言いながら、カカシは立ち上がる。
しかしその眼は油断なく、角都の遺体を観察していた。

否、遺体だと思っていた身体がむくりと起き上がる。
何事もなかったかのように立ち上がった角都は、「相棒に助けられたか…命拾いしたな」と先ほどの再不斬と同じ言葉を口にした。

「そちらが不意打ちで来るなら、此方も不意打ちで返さねば…と思ったんだがね」

同じく、意趣返しとばかりに肩を竦める角都に、再不斬が舌打ちする。
写輪眼で相手の動向を注意深く観察しながら、カカシは眉を顰めた。

(急所は外していない。なのに何故、死なない…!?)

【雷切】で心臓を一突き。
角都さえ倒せば能面の化け物も行動不能かと思ったのに、カカシの思惑は外れた。

再不斬がいなければ【雷遁・偽暗】の餌食になっていただろう。
カカシの動揺を見抜き、角都がふ、と口角を吊り上げる。

「保険をかけておいて正解だったな…」


禁術である【地怨虞】。
他者の心臓を経絡系ごと取り込むことで、五つ全ての性質変化を扱うことが可能の術だ。
角都は己のものも併せて、五つの心臓をストックしている。

内、三つの分裂体である能面の化け物を外に出したが、念の為にふたつの心臓を己の体内に残しておいたのだ。
つまり今し方、カカシに突かれた心臓は、【水遁】の性質を持つ分裂体。

あえて最初から全ての分裂体を外へ出さなかった角都が平然としている様子を満足げに眺めて、飛段が自慢げに嗤った。

「カッコつけて「次はお前だ」とか言ってたわりに、だっせぇなぁ」
「煽るな、飛段」

挑発する飛段を諫める角都から距離を取りながら、カカシは地を蹴る。
再不斬の傍らへ着地し、シカマルとチョウジを背景に、彼は苦々しげに呻いた。

「確実に心臓を潰した…本来なら死んでるはずだ」
「おいおい。写輪眼のカカシともあろうものが泣き言か?」

再不斬の揶揄に、む…と眉を顰める。
再不斬の言葉で逆に、動揺を鎮め、落ち着きを取り戻したカカシの後ろで、シカマルは角都の能力を分析する。


以前、シカマルは角都と飛段の動きを止める為に、【影真似手裏剣】のチャクラ刀で彼らの影を地面に縫い留めた。
動けなくなったところを攻撃する手筈だったが、角都は自身の腕を前以て切り離し、地面に潜り込ませ、チャクラ刀を影から引っこ抜くことで自由になった。

あの時の情景を思い浮かべながら、シカマルはカカシに己の推測を語る。

「先ほど本体から切り離した腕に心臓のようなモノがついていて、自立して行動していた。おそらく奴本体を含め、身体から出てきた化け物それぞれに心臓があり、その全てが奴のモノ…」
「カカシが抉った心臓は奴の複数もつ心臓の一つだったというわけか」

シカマルの推測に、得心がいったように再不斬が言葉を返す。

角都本人を倒せば化け物は動けなくなるのではなく、元から化け物ひとつひとつに心臓がある。
そう考えれば、寸前にカカシが放った雷切で角都が死ななかったことも頷ける。


「つまり奴には心臓が一つじゃないってことだ」
「よく気づいたな…その通り。出血大サービスに良いことを教えてやろう」

シカマルの推測に同意を示した角都は背後に聳える能面の化け物達を眺めながら、ふ、と眼を細めた。

「俺のそれぞれの心臓はかつて戦って奪い取った忍び達のモノだ…その数は己のも含め五つ。数こそ減らされたが…また補充は利く」

シカマル・チョウジ・カカシ・再不斬を値踏みするように視線を這わせ、角都はうっすら嗤った。


「お前らの心臓でな」


ひゅっと息を呑むチョウジの前で、「なるほど?」と再不斬は首切り包丁をドスン、と地面に突き刺した。

「それで俺の心臓をやけに狙ったわけか」
「ああ。今しがた、水遁を使える分裂体がやられたからな。減らされた分、お前達の心臓を頂く──写輪眼のカカシ・霧隠れの鬼人」

角都の宣言に、再不斬は肩越しにカカシを振り返った。

「いい迷惑だな、おい」
「まったくだ」

お互いに肩を竦める両者の後ろで、シカマルは角都の話を熟考する。

他者の心臓を経絡系が宿っているチャクラ性質ごと取り込むという角都の能力。
いくつもの性質変化を操ることができるからくりは読めたが、何故今、角都はわざわざ心臓の数を教えてくれたのか。

黙っていれば、何回殺せばいいのか此方としては判断できない。
それにもかかわらず、自分を含め五つの心臓を持っていると角都は明言した。

シカマル・チョウジを守る為に、再不斬とカカシが放った【水龍弾の術】で一体。
今し方、カカシの【雷切】で一体。つまり奴は既に二つの心臓を潰されている。

(余裕故の発言か?それとも…ほかに何かあるのか)

残り、三つ。
あと三つの心臓を潰せば此方の勝ちだ。違和感を覚えつつも、シカマルは再不斬の背中に声を掛けた。

「アンタを見込んで頼みがある」

シカマルから手渡されたソレを後ろ手で受取り、再不斬は軽く眼を細める。
同じく、渡されたモノを受け取って、カカシはシカマルの作戦を察した。
目まぐるしく頭を回転させるシカマルを視界の端で認めながら、再不斬は「おい」とカカシを呼ぶ。


「たかが三つ、命を削る単純作業だ。腑抜けてねぇで、とっととやるぞ」
「鬼人にしては弱腰だね。ひとりで全員相手にするくらいの気概を見せてくれない?」
「抜かせ。てめぇが楽したいだけだろ」


軽口に軽口で返して、再不斬は首切り包丁を地面から抜き取る。
血液用カプセルを懐に忍ばせ、両者は改めて、角都と飛段に向き合った。


「写輪眼のカカシと霧隠れの鬼人…雷遁と水遁の心臓を一度に手に入れられるな」
「気が早いぜ、角都。邪神様へ捧げる供物にもすんだからよぉ」


自分達の勝利を確信する不死コンビを前に、カカシと再不斬は同時に地面を蹴った。





「「既に手に入れた気になってるんじゃねぇぞ──俺の心臓は俺のモノだ」」 
 

 
後書き

再不斬のチョーカーは、某国民的アニメ映画のあの衝撃的なチョーカーをイメージしてます。
わかる人はすぐにわかってくださるかも?(笑)

カカシ&再不斬VS不死コンビ、しばらく続きます。
次回もどうぞよろしくお願い致します‼
 
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