異生神妖魔学園
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みのりの華麗なる日常 前編
夢物語号が最初で最後の運行になったその日の夜、公園で闇音が焚き火の前で苛立ちながらあるものをあぶり焼きにして食べていた。
食べていたのは焼き鳥………ではない。腕のようなものだった。
闇音「味はしねぇが、腹の足しになるだろうな」
よく見ると、闇音が食べていたのはやはり腕。人間の腕だった。
夢物語号を暴走させて紺子たち人外と人間を殺す作戦が失敗したことに腹を立てていたのか、いつも他人を見下していそうな金持ちの雰囲気を醸し出している中年男を路地裏で殺害。彼が持っている金目のものだけでなく、彼の死体の一部を食料として運び込んでいた。
すると食事中であるのをいいことに、ある男が闇音をからかってきた。
焔「よう、人外を殺そうとして失敗した無能陰陽師さんよォ。テメェは強いのか?俺様の名前を言ってみろ!」
人外を殺して英雄になろうと企み、異生神妖魔学園へカチ込んできたところを龍哉とアルケーに阻止された男、砂道焔だった。
闇音「チッ………貴様みたいなドチンピラごときが陰陽師とか名乗ってんじゃねぇ、砂道焔」
焔「て、テメェは!?テメェは陰陽師学校の問題児…神楽坂闇音!?死んだはずのテメェがなぜここにいやがる!?」
闇音「俺が死んだ?あの貴利矢ですら生きてると思ってんのに、他の奴らはそう思ってんのか」
実を言うと、こう見えて焔の職業は貴利矢と闇音と同じ陰陽師だった。だが本人は陰陽師の自覚をしておらず、ただ自分より強い者ばかりを求め続ける戦闘狂の男にしか過ぎなかったのだ。
だが闇音を殺した貴利矢を追わなければならないことは頭の片隅にはあった。見つけ次第じわじわといたぶってから己の力として取り込もうとしていたのだ。昔から問題児扱いされていた闇音を倒した男だ、きっとものすごい怪力と妖術の持ち主なのだろう。
闇音「砂道焔。貴様に陰陽師を名乗る資格もなければ、貴利矢を追う資格もねぇ……何が人外共を殺して英雄になるだ?自分が強いとうぬぼれるだけの力の亡者の貴様には一生なれねぇんだよ」
先ほどまで食べていた腕が骨だけとなっていた。骨は地面に放り投げられ、焚き火の近くまで転がった。
焔「て、テメェ今何食ってた………?骨……?明らかに人間の骨じゃねぇか………!」
闇音「ああ、それか。味はしねぇが腹の足しになるんだよ」
そう言って立ち上がると、焔を養豚場の豚を見るような目で見た。
焔「腹の足しって……てかこいつ、俺様の話を全部聞いてやがったのか…!?俺様が陰陽師じゃなけりゃ貴利矢を追う資格もねぇ?じゃあテメェは何だ!?自分はおかしくないとでも言うつもりか!?《《人肉を食ってるテメェが》》!?傍らから見りゃ、俺様が言うのもなんだが、テメェの方がよっぽどおかしいじゃねぇか!!」
闇音「俺を惑わせようとするなドチンピラの化け物め!!よくも無能とか言いやがってクソ野郎が……ここで殺してやる………!!ここで死ね、化け物が!!」
焔「なら俺様を殺してみろォ!!クソガキの分際で言わせておけばいい気になりやがって!!テメェも俺様の力の糧になるんだなァ!!」
焔が手をかざすと、何か禍々しいオーラが溢れ出てきた。だがそんなことで怖じ気づく闇音ではない。
闇音は無言で懐からある武器を素早く取り出す。
ズダンッズダンッズダンッ
焔「ァギャアアアアァアアァアアアァアアアアァァァァァァ!!!?て、テメェェェェ!!お、陰陽師が!!《《陰陽師が何でピストル持ってやがんだァァァァァ》》!!?」
闇音「わかんねぇか?こう見えて俺は世界各地のテロに加担してたんだよ……現代兵器の扱いも容易けりゃ銃の扱いだって容易い」
手に3発の鉛玉を撃ち込まれ、目の前の銃口からは煙が立ち上っていた。
そう、闇音が取り出した武器は6連発のリボルバー。陰陽師がどうやってテロに加担した?どうやってリボルバーを手に入れた?焔は聞こうとするも手の銃創から滴り落ちる血を止めようと必死になり、聞けなかった。
悶絶する焔をしばらく無言で見つめる闇音だったが、やがて口を開く。
闇音「このままデコを撃ち抜くのは生ぬるい………」
憎悪の目で焔を睨みつけ、リボルバーを懐にしまう闇音。静かにゆっくり近づくと、焔の腕をつかむ。
焔「テメェ…何を―――――」
ブヂィッ
焔「アガァァァァァァァァァ!!!!よ、よくも俺様の腕をォォォ!!!やァァみねェェ!!!闇音テメェェェェェェェェェェェェェ!!!!!!」
力任せに腕を引きちぎられ、悲痛な叫びをあげる焔。
闇音は返り血を浴び、悶え苦しむ焔の顎にアッパーカットを決める。この時、焔の頭は屈強な胴体から離れ、上空を舞っていた。
闇音「………ハァッ!!」
引きちぎった腕で焔の頭をホームランを決めるように吹き飛ばす。同時に皮が剥がれ、サングラスも吹き飛ばされる頭。宙を舞ったのは血まみれの頭蓋骨だけだった。
紺子「殺人事件……私たちが夢物語号に乗った昨日のことじゃん」
連休4日目、紺子と一海は新聞で殺人事件のニュースを読んでいた。
一海「被害者は『砂道焔』…ん?砂道焔?」
被害者の名前を見るなり、紺子と一海は思わず複雑そうな表情になった。
紺子「砂道焔って……あれ確か学園に襲撃してきたのを私たちが知らん間に龍哉が追い払った奴だったっけ?」
一海「ああ、そういえば思い出したな。で、死体は腕を引きちぎられ、胴体には首がない状態か。引きちぎられた腕には銃創…焚き火の跡のそばには人間の骨………」
紺子「一体誰がこんなことしたんだか………」
すると紺子のスマホにまた着信が入る。着信画面を見ると、今度は『魚岬辰美』とあった。
紺子「今度は辰美かよ………もしもーし?」
辰美『おはようございます紺子様!紺子様、今日暇ですか?』
紺子「暇っちゃあ暇だけど……今カズミンと新聞読んでたんだよね。で、何の用?」
辰美『ああ、よかった!私たちにつき合ってくれるんですね!それで電話したわけなんですが―――――』
紺子「……あ~、それ私も気になってたんだわ。あのロリコン猫又残念美人先生の生活」
辰美『言いすぎ言いすぎ!それでなんですが、竜奈さんも誘って私たち3人で今日1日みのり先生を観察しましょうよ』
紺子「んで、待ち合わせ場所は?みのり先生の家の前?わかった。んじゃ」
電話を切り、紺子は一海にすまなそうな顔をする。
紺子「悪りぃカズミン、お前今日留守番しててくれない?」
一海「え、何で急に?」
紺子「ちょっくらみのり先生の私生活を覗きにな。辰美から電話来て、あの美人の猫又の皮を被ったロリコン変態クソ親父がどんな生活してるか観察しようって魂胆」
一海「さっきよりひどく言ってない!?出雲姐ちゃん、さっきロリコン猫又残念美人教師って……」
紺子「気にすんな。それにカズミンも連れてきたら絶対見つかると思うし……」
一海「あー……そういえばみのり先生、僕たちを見た瞬間興奮してたなぁ………」
紺子「マジか……まあそんなわけで留守番頼むわ。寂しい思いをするだろうけど」
一海「うん。気をつけてね?」
そうして紺子は家から出て自転車に乗り、辰美と竜奈が待つみのりの家に向かった。
去っていく紺子を見送った後、一海は部屋に戻り、ある写真立てを見つめる。
一海「…………父さん……母さん……」
写真に写っていたのは一海の家族、藤井一家。一海は両親を寂しそうな目で見つめた。
それらは闇音に殺された両親まさにそのものだった。
その頃、待ち合わせ場所であるみのりの家の前にて。
竜奈「待たせたな辰美」
辰美「竜奈さん!お待ちしていました!」
まだ紺子は来ていないが、辰美に言われた通り竜奈がみのりの家の前に到着した。
竜奈「おい、紺子はどうした?ちゃんと連絡したのか?」
辰美「紺子様ですか?来ると言ってましたが―――――」
チリンチリーン
辰・竜「「?」」
遠くから自転車のベルが聞こえてきた。振り向くと、自転車に乗った紺子が辰美と竜奈に近づいてきていた。
紺子「お待たせ~!」
紺子は手を振りながら声をかけ、すぐにブレーキをかけた。
ギュギギギギギギギギギィィィィィーーーーッ
紺子「って止まらねぇぇぇぇ!?」
なぜかブレーキが効かず、急いで来たのかスピードを出したまま辰美と竜奈の前を通りすぎた。
だがそれだけではない。自転車は止まることなく近くの電柱にまっしぐら。
紺子「いやああああああああ!!止まって!!止まってぇぇ!!ぶつかるのは嫌ァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!」
まさに泣きっ面にハチである。ブレーキが効かない自転車は紺子の悲鳴に応えることなくそのまま電柱に激突した。
ガシャアアアアアアアアン
辰美「紺子様!?」
竜奈「紺子!?」
自転車もろとも電柱に激突し、転倒した紺子。前輪が歪んだ上にパンクもしてしまい、使い物にならない状態となっていた。
紺子「イテテテ……ここに来る前まではちゃんと効いてたのに………あーイッテェな………」
袖とズボンをめくると、肘と膝が少し擦りむけ、血が出ていた。
竜奈「紺子……ぶつかったのが電柱でよかったな。今のスピードで私たちにぶつかってみろ。電柱じゃなかったら今頃私たちが大ケガしてたんだぞ」
辰美「でも紺子様の自転車壊れちゃいましたね…もしよければ私のスケボー貸しましょうか?ライエルさんが作ったターボつきの」
紺子「え、いいの?でも前にトレーニングジムに来た時ターボつきとかそういう話出てなかったじゃん。あれって………」
辰美「この前ライエルさんが作ってくれたんです。魔法が使えない日に限りますが。もしよければ用意しますよ?」
紺子「………そうなんだ。よろしく……」
とりあえず壊れた自転車をどこかに隠した後、紺子はふとあることに気づいた。
紺子「ところで観察するのはいいけど………どうやって尾行するんだ?」
辰美「あ、そういえば考えていませんでした」
竜奈「どうするんだ一体?」
紺子「………だったらあの妖術使うか。その代わり音は出すなよ?《《あくまで気配を消すだけ》》だからな」
辰美「あるんですか!?ていうか紺子様、妖術使えたんですか!?」
紺子「バカ。ちゃんと使えるわ。妖術使えない妖狐は妖狐じゃねぇだろ」
竜奈「………そういえば紺子の過去って…………」
紺子は平安時代、陰陽師の辰廻によって何度も妖力を送り込まれ、何度も実験台として利用されてきた。だが時に協力しなければならないこともしばしばあったため、様々な妖術も強引に覚えさせられていた。強いて言えば完全に拷問である。
前の昼休み、紺子が自分の過去を話してくれたことを思い出す竜奈。3人はふとみのりの家の中に目を向けると、みのりが何やら出かける支度をしていた。
竜奈「辰美、時間は?」
辰美「もうすぐみのり先生が外に出る時間かと思います」
紺子「でもお父ちゃんたちにお披露目した日から全然使ってないしなぁ……上手く行くかなぁ?」
竜奈「大丈夫だ。失敗してもいい、ぜひやってくれ」
紺子「よし、んじゃあ使うぞ?」
静かに目をつぶり、静かに精神統一する。数十秒も経たないうちに両手を前へ差し出すと、印を結んだ。
紺子「出雲流妖術“霧隠ノ術”」
紺子と辰美と竜奈の周りに霧のようなものが現れ、彼女たちはそれに包まれた。
霧が晴れ、見ると彼女たちの体が半透明になっていた。これは失敗か?竜奈が成功か否か問おうとした途端玄関の扉が開き、みのりが出てきた。みのりは紺子たちに近づいてくる。
まずい、バレる。紺子たちはすぐにそこから離れようとしたが、どういうわけかみのりは紺子たちに目もくれず、そのまま家を離れていった。
紺子「…………?」
竜奈「みのり先生が私たちに気づいてない……?」
こんなことってあるのか?紺子と竜奈はポカンと口を開け、みのりの後ろ姿を見つめていた。
辰美「となると………これは成功ととらえてもよろしいのでしょうか?」
紺子「ま、まあ……そう言えなくもねぇな。あ、そうだ。もしみのり先生が街のド真ん中で何か変なことしたら?」
竜奈「決まっているだろう?その時は直々に関節技をかける」
紺子(………私も学園長から習得したあの護身術使ってみようかな?)
辰美(なぜでしょう……竜奈さんならわかりますが、紺子様からとんでもない殺意が………)
そんなことを考えても仕方ない。紺子たちは音を立てないように静かにみのりに近づき、彼女を尾行することになった。
まさか紺子が辰蛇から取得したあの護身術を使うとは知らずに………。
みのり「さっきうちの前で自転車が事故ったような音が聞こえたけど気のせいかな…?」
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