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MUV-LUV/THE THIRD LEADER(旧題:遠田巧の挑戦)

作者:N-TON
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6.104訓練分隊Ⅱ

6.104訓練分隊Ⅱ

 演習が開始して直ぐ104分隊全員で話し合いが行われた。
「さて、今日から一週間あるわけだが、どうやって合格するか作戦を立てよう。」
「計画って言ってもこの演習の場合そんなに考えることないんじゃないか?敵に見つからないように隠れて、戦って勝てそうだったら戦えばいい。生き残れば勝ちなんだから。」
「そんな簡単に行くわけないだろ。俺たち一回落ちてるんだぜ?もっとしっかり考えようや。」
「でももらった指令に具体的な指示はないし、結局臨機応変ってことにならないか?」
「「「うーん…。」」」
この総戦技演習の難しいところの一つは指示の具体性が低いことだった。到達目標は『生き残る』。その一点に尽きる。これまでの総戦技演習では『○○を回収し目的地に△△までに辿り着け』といったように指示が出されるので、それに合わせて作戦を考えれば良かった。その時々の判断はともかく、大筋はすでに決まっているものだったのだ。しかし今回はそれがない。すべて訓練兵に託されているのである。
 この曖昧な目標は、後に衛士になりBETAと戦うことになったときに必要とされるものだった。BETAとの戦いは、敵の行動が予測できないために状況の変化が激しい。それに対して細かい指示までトップダウンの命令系統にしてしまうと対応できなくなる。そのため現場の衛士には、作戦の目標を正しく理解した上で状況に合わせて独自の判断で動くことと同時に、周りと足並みを揃えることも要求されるのである。訓練校では軍という特殊な環境に順応させるために旧来の指示系統を徹底していたが、それにさえ馴染んでしまえば『自分で判断することができる力』がより重要なのである。
「うーん…田上、何かプランはないか?」
「俺はまず陣取りが大事だと思う。接敵まではまだ時間があるだろうから地理を確認して、迎撃に有利な場所を探そう。」
非常に基本的なことであるが戦闘において地理的条件は勝敗を左右するといって良い。特に今回の相手はほとんど遠距離攻撃の集団がない。たとえば崖の上を陣取ってしまえば、あとは一方的に小銃で狙い打てば終わる。しかし多数を相手取った経験がある巧はこの演習は相当厳しいものになると思えた。
「俺も分隊長に賛成だ。でもいくつか付け加えた方がいいこともある。まず退路の確保。相手は500人だ。一勢にかかってくるとは思えないが、たぶん相手はこちらを包囲してから攻めてくる。いくら銃持ってても囲まれてかかられたらどうにもならない。遮蔽物も多いしな。」
演習会場は山林であり、地形も起伏に富んでいる。障害物が多いこの場所で動き回る敵を小銃で仕留めることを考えると有効射程は100mもない。下手したら50m程度であることも考えられる。その程度の間合いは熟練の歩兵にとっては10秒程度で詰められるだろう。
「一方向から来るなら単純に面制圧すれば良いけど、絶対にそんなことは起きない。だから俺たちは包囲されにくく、包囲されても退路が確保できる場所をまず陣取るべきだ。後は地理を確認して罠を仕掛けやすいところとか、索敵などをする班も編成するべきだと思う。」
「よし。三班に分けよう。北、中央、南に分かれて地理の確認を。その際に、罠を仕掛けよう。四時間後に集合。陣取る場所を決めて見張りと索敵班を編成する。全員通信機は手放さないように。俺らのアドバンテージは装備だ。最大限活かせよ。」
「「「「了解!」」」」

―――――――――――――――――――――――

四時間後集合した104訓練分隊は北の高台を拠点に選んだ。北の高台に至る道は二つあり、緩やかな斜面と急勾配な斜面であった。急勾配な斜面は走り寄ることができるレベルではなく、這い上がる、またはよじ登ると言った表現が当てはまる崖に近いものだ。敵の進軍は緩やかな斜面から来ると予想できる。万が一崖を上ってきてもその場合は一人で対処できるだろう。残り九人で緩やかな斜面を面制圧すれば問題ない。仮に物量に押されても斜面を下りればいい。殿に数人回さなければならないだろうが、敵に遠距離攻撃の集団が少ないので容易に抑えられる。
「接敵は何時ごろだと思う?」
「まっすぐ進軍してくるなら半日程度かな。でも敵も地理の把握はやるだろうし、包囲するための準備もいるから、もう少し先。夜に奇襲をかけてくるんじゃないか?」
「なるほど。…なあ、こっちから仕掛けられないかな?」
「おいおい、今回の任務は生き残ることだぜ?わざわざ敵の懐に潜り込んで危険を冒す必要はないんじゃないか?」
「分かってる。別に決戦を挑む訳じゃない。でも生き残ることが任務なら時間稼ぎは大切だろ?相手は人間、作戦行動を取ってくる。今も索敵しながらこちらとの間合いを詰めてきているんだろう。だからそれを妨害するんだ。相手の足並みを乱して進軍を遅くする。上手く出来るならミスリードも誘う。」
「言われてみれば確かにそうだな。危険はあるがやる価値はある…。」
「俺が行くよ。」
「待て、一人は危険だぞ。」
「逆だよ田上。俺一人の方が安全だ。こう言っちゃなんだが分隊の中での実力は俺が一番だ。制圧戦や連携が大事な場面では未熟だけど、相手をひっかきまわすなら機動力がものを言う。エレメント組んでいけるならそうしたいけど、田上以外の隊員じゃ逆に危険だ。田上は分隊指揮のためにここに残る必要がある。だから俺が行くんだ。」
巧の意見に田上は反論できない。個人の技量でいえば巧は分隊の中で群を抜いている。下手に隊員と組ませると巧の重荷になる可能性があった。
「…分かった。済まない、無理はするなよ。」
「謝るなよ。言っただろ?適材適所、お前は俺に出来ないことをやってくれ。」
「ああ、わかってる。罠の場所や諸々の情報は持っているな?」
「頭に入ってる。連絡は15分置きで、何かあったらその都度連絡する。」

――――――――――――――――――――――

仮想敵を務める帝国陸軍大隊の隊長、石橋少佐はイラついていた。石橋は古参の陸軍兵士で、大陸でBETAと戦った経験もある。大陸に派遣されても歩兵の仕事は兵站の維持と基地防衛が主任務である。ゆえに多くの歩兵は未だBETAとの戦闘を経験していない。ヨーロッパや中東、インド、中国といった最前線の歩兵部隊は幾度となく戦闘しているが、期間限定で派遣される帝国軍の歩兵はBETAの姿を座学でしか習っていないのが現状である。
石橋は衛士というものを嫌っていた。いや、石橋だけでなく多くの歩兵は衛士を嫌っている。衛士適正という才能があるだけで訓練兵のころから特別待遇を受け、血のにじむよな思いで得た士官という地位をすぐに与えられ、自分たちには到底与えられないであろう高価な兵器を与えられ、戦場では戦術機という鎧に包まれた状態で戦い、国民からはヒーロー扱い。物価が上がり日々の食事が貧しくなる中で、衛士だけは高カロリーでバランスのとれた三食が保障されている。にも関わらず多くのBETAを討ち逃し、その尻拭いは他人任せ。高給取りの無駄飯ぐらい。それが石橋の衛士に対する評価だった。
 彼とて実際に戦場で戦ってきた熟練の兵士。戦術機も、それを扱う衛士も大事であることは分かる。しかし日々感じる待遇差と、生身でBETAと戦った記憶が衛士を嫌悪させた。
 しかも今回は自分の大隊に衛士候補生の演習につき合わせるという。それだけでも腹がたつのに、それに加えて自分たちの装備は模擬刀のみという。これほど自分たちを馬鹿にした話はない。その意図は透けて見える。自分たちにBETAのまねごとをやらせようというのだ。全くもってふざけた話だ。上の命令は絶対だから従うが、こんな任務を真面目に取り組めるわけがない。適当にやろう。そう考えていた。
 セオリー通り主戦力となる中隊と、索敵偵察に当てる小隊を編成し進軍。訓練兵がまともな教練を受けているのなら北の高台に拠点を張るだろうが、一週間という期間を考えるとまずは演習場の地理の把握が優先される。下手をすれば一日がそれで終わってしまうことも考えられるが、戦闘になればあっという間に片がつく。そう考えていたとき、森に銃声が響いた。
 機関銃の音、つまり部隊が接敵し攻撃を受けたということだ。
「状況を報告しろ!」
「はっ!展開していた偵察小隊が敵のアンブッシュを受けたようです。損耗は軽微、死亡認定は二人です。」
「二人か、少ないな…。敵の数は?」
「確認されているのは一人のようです。」
もし一人で来たとするなら二つの可能性がある。一つは敵の斥候がたまたま接敵したこと。もう一つは攪乱作戦の一環であること。
石橋は後者の可能性が高いと踏んだ。まだ把握していな場所も多いが、地図を見る限り拠点に適する一番近い場所は、地図の中央付近にある広場である。5kmほど進んだ先にあるその場所は地形上後ろが崖になっており退路はないが、正面には障害物がなく面制圧をしやすい。ただし面制圧をしやすいと言っても退路がないので、数にものを言わせればどうにでもなる。
もし先ほどの敵が斥候なら味方がいないのはおかしい。斥候と言っても敵はこちらを一方的に攻撃できる手段がある。もし相手が三人だったらこちらは小隊全員やられていた可能性がある。そして引いても味方の応援がすぐに駆けつける。
そうせずに敢えて一人で来たということは攪乱作戦の可能性が高い。しかし、一方でこの攪乱作戦には幾らか乗る必要がある。まだ敵の拠点がつかめないうちにチクチクと攻撃されては戦力が減ってしまう。それに攪乱任務を請け負うとすれば先ほどの訓練兵は敵の隊の中では実力に優れているのだろう。そういった存在は残しておくと後々面倒なことになるかもしれない。
石橋は巧の排除を決定した。

――――――――――――――――――――――――――――
 相手に一撃を加えて距離をとる巧。走りながら巧は田上と連絡を取っていた。
「攪乱は成功。でもあまり被害は与えていない。すぐに物陰に隠れやがった。」
「被害を与えるのはそんなに重要じゃないから良い。今の状況は?」
「追われてる。少なくとも三つ以上の小隊が分かれて追跡してる。」
「こっちに来れるか?坂下に誘導してもらえれば援護できるが…」
「…いや、そっちに誘導すると撹乱した意味がないからな。できれば相手にはしばらく迷っていてもらいたい。」
「そうだな…でも切り抜けられるか?」
「設置してある罠を使えば何とか…、できれば救援が少し欲しい。相手の目が届かないところから遠距離で攻撃してくれ。当たらなくてもいいけど、相手が隠れなきゃいけないと思えるぐらいにはしてほしい。」
「分かった、30分でいく。」
通信を切った巧は後ろを確認する。小銃のスコープで見るとやはり三つの部隊に分かれてこちらを囲もうとしているようだ。見えるのは三小隊程度の規模だが、後詰めがいるかもしれない。それに相手の進軍速度は思ったよりも早い。装備が少ないことを差し引いても普通の訓練性などとは明らかにレベルが違う。周囲を警戒しつつ、物影から物影へ素早く移動している。流石に帝国軍の正規兵と言ったところか。
 しかし全体の動きは巧の想定通りの動きをしていた。
(たぶん相手は俺を中央の崖の位置まで誘導するつもりだろう…。)
巧の予想通り石橋は誘導しようとしていた。相手からすれば104訓練分隊がどこを拠点にしているかは未だ分からないが、もし巧を追跡して場所を確定できればよし、できなくても今日のうちに一人刈り取れれば戦果としては十分だろう。
 少しずつ距離を詰めつつある敵に巧が銃撃を放つ。一人に命中させたがやはり補足しきれない。木々が生い茂り銃弾を遮るのだ。しかし相手は罠に掛かりつつある。巧の仕事は相手を牽制しつつも気づかれないように罠のポイントまで誘導することだった。
「相手がポイントに入った。作戦を開始する!」
巧が反転して敵に突っ込む。小銃を構えて撃つ。走りながら木々の生い茂る中での銃撃は命中確率が低い。だがお構いなく打ち続ける。流石に間合いが近くなると当たり始めるが、敵の歩兵にとっては大した問題ではない。既に距離が縮まり、共に出ていた各小隊も巧を囲うように近づいてきている。数人の犠牲で一人仕留められるのであれば採算は取れる。
しかしここで予期せぬ事態が起きる。全く別の場所からの銃撃があったのだ。遠視スコープで照準をつけているのか、方向は分かってもかなり距離があり相手が見えない。そして巧も立ち撃ちまくる。
歩兵たちからすればこれは予想外のことである。巧一人ならこの数でも囲んで多方向から突っ込めば被害を少なく仕留めることができる。しかし敵は複数、しかも巧以外は姿が見えない。巧を仕留められてもそれで損害が数十になってしまえば、数からいっても成功とは言えなくなる。
 だがそれも応援が着くまでのこと。既に状況は本隊に伝わっているだろう。相手の援軍がどこから撃ってきているかは分らないが、方向だけは分かる。先行している小隊は既に集結しつつある。これなら一気に畳みかけることで被害を最小限に減らして攪乱していた訓練兵を片づけることができるだろう。
 味方が集まったのを見て歩兵が一気に前へ出る。しかしそれこそ巧の待っていた状況。巧が手に持ったワイヤーを引くと集まった歩兵の足もとに設置されたペイント手榴弾の爆発音が鳴り響いた。
 
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