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【完結】RE: ハイスクール D×D +夜天の書(TS転生オリ主最強、アンチもあるよ?)

作者:羽田京
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第3章 奪われし聖なる剣
  第14話 力への意思

 リアス・グレモリーは、考える。


(先日のレーティングゲームは、私たちの圧勝だった)


 レーティングゲームで勝利したことで、ライザーとの婚約は解消された。
 グレモリー眷属の活躍も喧伝され、実力を示したリアスにちょっかいをかける悪魔は減るだろう。
 自身の眷属たち――彼女は家族のように思っている――を思い出して、笑みがこぼれる。 


『騎士』木場祐斗。剣の腕は一流で、既に下級悪魔の域を飛び出ている。

『戦車』塔城子猫。無手の格闘を得意とし、ヒットアンドアウェイ戦法でトリッキーな戦いを好む。彼女も、並の下級悪魔が束に掛ろうと負けはしないだろう。

『僧侶』アーシア・アルジェント。戦闘は不得意だが、希少な回復系統の神器『聖女の微笑み』を持つ。戦略的な意味は計り知れない。 

『女王』姫島朱乃。「雷光の巫女」の異名を誇り、雷に光の力を乗せて戦う堕天使のハーフ。『爆弾王妃』を相打ちにした実力は本物だ。


 そして――『兵士』兵藤一誠。彼は、二天龍の魂を宿す神器『赤龍帝の籠手』をもち既に禁手化に至る。潜在能力は一番かもしれない。
 彼を含め、一人ひとりが高い実力をもつグレモリー眷属の評判は、うなぎのぼりだ。


(いまの状況――破談に持ちこめたのは、部室で啖呵をきってくれた一誠のおかげよね)


 ライザーとの一騎打ちでは、準備万端の彼と戦い、善戦して見せた。
 禁手化の時間が延びれば、おそらく勝つのは一誠だろう。
 『赤龍帝の籠手』といった特に強力な神器は、神滅具(ロンギヌス)と呼ばれる。
 文字通り、神すら殺す性能をもった神器だ。
 その使い手を眷属にもつ彼女は、高く評価されている。


「兵藤一誠、か。一騎打ちの姿は、かっこよかったわね」


 自然と口がほころぶ。リアスの身を案じ、ライザーに啖呵をきり、正々堂々と戦って見せた。
 『赤龍帝の籠手』の性能に甘んじることなく、短期間で禁手化を果たし、見事に扱いこなしている。
 敗れたとはいえ、勇ましく戦う姿は、彼女の心を揺さぶっていた。
 去り際には『部長を守れるくらい強くなってみせる』と、愛の告白まがいの台詞まで残した。


(認めましょう。たしかに、私は、一誠に惹かれている)


 彼の自宅に突撃して、両親に挨拶するくらいはしただろう――本来なら。
 望まぬ婚約は解消された。実力も示した。
 だが、現実として、彼女の燃え上がりかけた恋心は、沈静化している。 
 なぜなら、淡い恋心を塗りつぶすだけの大問題が眼の前にあったからだ。


「『夜天の書』か。はやてとの付き合いも長いのよね。もう、7年は経ったかしら」


 リアスとはやては、サーゼクスを通じて早くから出会っていた。
 第一印象は、「普通の女の子」だった。
 はぐれ悪魔に両親を殺され、たまたま宿していた神器に命を救われた少女。
 ちょうど9歳の誕生日だったと聞いて、思わず同情したことを覚えている。


 1つ年下の彼女を、リアスは出来る限り気にかけ、仲良くなろうとしていた。
 しかし、はやてとの距離はなかなか埋まらず――いまだにどこか壁を感じさせる。
 彼女がリアスを嫌悪して避けているわけではない。
 いつもクールだが、礼儀正しく接していた。
 恩義を感じ、あれこれと協力を申し出てもくれた。


(一見すると深い仲にみえる。でも――)


 長いつきあいのリアスだからわかる。
 はやては、気さくに付き合っているようで、一線を踏み越えることは決して許さない。
 未だ、グレモリー家の「客人」という立場を崩していないことからも、その姿勢は明らかだ。


「今までなら、問題なかったのよね。けれど、レーティングゲームで注目を浴びてしまった。私でさえ、あそこまで強い力を持っているなんて知らなかった」


 明確な所属を明らかにしていない強い力を持った存在――脅威を覚えても仕方がない。
 仮に、天使や堕天使の陣営に組みすれば、大きな障害となるだろう。
 だからこそ、彼女の兄サーゼクスは、魔王として庇護においたのだから。
 決して善意のみからではない――悪意のみでもないが。


「実際、不死身であるはずのライザー・フェニックスを一発の魔法で打ち破った」


 彼女のオリジナル魔法だという、エターナルフォースブリザードは、凄まじい威力を誇っていた。
 ライザーは、以前とは見る影もなく意気消沈していると聞く。
 不死性ゆえに、どのような攻撃をくらっても平然としていられた。
 本物の「死」を体験したことで、自信を喪失したのだろう。
 絶対の自信をもっていた「不死性」が破られたのだから、無理もない。


(いい薬になったでしょうね。慢心さえ捨てれば、彼の実力は本物よ)


 観戦に来ていた他の上級悪魔たちも、多かれ少なかれ驚愕していた。
 予想以上の力をもった『夜天の書』の存在が、公に曝されたのだ。
 神滅具(ロンギヌス)にも、匹敵する可能性のある新たな神器の登場。
 その所持者である「八神はやて」を巡って議論は紛糾した。


『なぜ、彼女の力を隠していたのか』


 争点は、その一点に尽きる。
 矛先は、決定を下したサーゼクスに向けられた。


『八神はやては、グレモリー家の客人として、長い間協力関係にある』


 結局は、客人という立場ながらも、取り込みに成功している(ようにみえる)ことで、リアスに任せることになった。
 一番親しい仲にあるリアスが選ばれたのは、自然な流れと言える。
 彼女が責任をもって監視・保護することで、とりあえずは様子見することになった――問題を保留にしたともいえよう。


――――謎の神器『夜天の書』


 今後この神器を巡って様々な出来事が起こるだろう。
 それは福音であるかもしれないし、災禍であるかもしれない。


 懸念はある。
 いままで、はやてたちは、つかず離れずの距離を保っていた。
 そんな彼女たちが、積極的にリアスに協力――――介入している。
 彼女たち八神家の面々が、何を考えて方針を変えたのか。


(いずれにせよ。はやてたちとは、今まで以上に親しくしないと駄目ね)





 八神はやては、困惑していた。


「久しぶりね。はやてちゃん」


 眼の前にいる栗毛の少女――紫藤イリナが、気さくに声をかけてくる。
 その様子は、明らかに知人にむけるそれだ。


「あー。えっと。どこかであったかな?」

(どういうことだ?なぜボクを知っている。記憶にないだけで、どこかで会っているのか?)


 思わず間抜けな受け答えをしてしまう。
 紫藤イリナ――原作ヒロインの一人で、天使陣営に所属している信心深い(深すぎて若干盲目気味な)少女である。隣の蒼髪に緑のメッシュをいれた少女――ゼノヴィアも同様である。
 白いローブの正装を着ていることからも、分かるように、教会の任務でこの地へきている。
 彼女たちに与えられた任務は――聖剣エクスカリバーの奪還。


 聖剣エクスカリバー。ブリテンのかの有名なアーサー王が所持したという伝説の剣。
 7本に別れ、教会に保管されていた――以前までは。
 そのうち3本が、堕天使陣営に盗まれ、この地に持ち込まれているらしい。
 そこで、教会から派遣されてきた追跡者が、紫藤イリナとゼノヴィアの二人だ。
 彼女たちは、分かたれた聖剣のうち一本ずつ所持・使用可能な実力者である。


(聖剣エクスカリバー、か。紫藤イリナとゼノヴィアの剣からは、以前、強い力を感じられた。7分割されてさえ、あれだけの力。時空管理局なら、喜んでロストロギア認定しそうだな)


 一応、悪魔陣営の庇護下にある以上、天使陣営に所属する彼女たちとは、接触を避けてきた。
 情報は、リアス・グレモリーたちやサーチャーから、知ってはいた。
 が、直接会うのは今回が「はじめて」だった。


 しかしながら、なぜ、紫藤イリナは、自分に親しげに声をかけるだろうか。
 たしか、彼女は、兵藤一誠の幼馴染だったはずだ。
 ボクとの関連性はない。


「ええー!?久しぶりにあった幼名馴染みなのに、酷いじゃない。紫藤イリナ、よ。教会のミサでよく一緒になったじゃない」


 なるほど。と、ようやく得心がいった。
 そういえば、ボクの母は、クリスチャンだった。なぜ忘れていたのだろう。
 思い返してみれば、洗礼こそ受けてはいないものの、母に連れだってよく日曜のミサに出席していた――ような気がする。


「覚えていなくて、すまないね。紫藤さん」
「幼稚園のころだしね。忘れていても仕方ない、か。あらためまして、紫藤イリナです。よろしくね」
「こちらこそ、よろしく。八神はやて、だ。神器の保有者として、いまは、グレモリー家の庇護下にある」

「あれ?おばさまたちは、どうしたの?」
「ああ。いまから説明するよ――」


 はぐれ悪魔に両親が殺されてからの経緯を説明し終えると、彼女は憤慨した様子だった。
『悪魔ゆるすまじ』と、表情にありありと書かれていて、苦笑してしまう。


「ねえねえ。なら、わたしたち――天使陣営に入らない?強力な神器を保有しているなら、優遇されると思うわよ」
「いや、今の生活が気にいっている。父や母の思い出があるこの町を離れたくないしね」
「そっか。それなら、仕方ないわね。気が変わったらいつでもいってちょうだい」


 天使、ね。ボクは神も魔王も、もはや存在しないことを知っている。
 現在の魔王サーゼクス・ルシファーも、悪魔側の代表を務めているに過ぎない。
 神の不在――これも、原作知識によるものだ。
 居もしない神に祈る気にはならない。


――――いや、むしろ神が、存在しているからこそ、敬う気にはなれない


 神も天使も存在しているにもかかわらず、世界から悲劇はなくならない。
 現に、ボクの両親を神は助けてくれなかった。


 こじつけかもしれない。
 けれど、彼女がいう「神」とは、数ある神話勢力で最大の力をもつ「聖書の神」のことだ。
 最大勢力のトップというだけで、数ある神の一柱――いや、一人に過ぎない。
 唯一神などと自称しているが、方便にすぎない。


 ボクは知っている。
 眼の前の少女たち――紫藤イリナとゼノビアが神の不在を知り、衝撃を受けることを。
 たったそれだけのことで、信仰心が揺らぐことを。
 ボクからすれば、存在する神に祈るほうがおかしいというのに。
 ちなみに、ゼノビアは、紫藤イリナの隣で沈黙を保っている。


――――人間だけが神をもつ


 神とは超越者であり、人の理解の及ばぬ存在であるべきだ。
 断じて、一派閥の領袖ではない。
 この世界では、ボクの考えこそ異端なのかもしれない。
 だが、違和感がぬぐえないのは、やはりボクが前世の知識を持つからだろうか。 


 まあ神学論など学者に任せればいいことだ。
 信仰は一人一人異なるのだから、ボクがどうこういうべきではないだろう。
 それに――いままさに由々しき問題が発生している。


(ボクは、なぜ紫藤イリナを知らなかった?いくらなんでも記憶が全くないとは、不自然だ)


 彼女によれば、ボクは日曜日を含め、週に1、2度は必ず会う仲だったそうだ。
 ボクとの色々な昔話を楽しそうに語ってくれた。
 あれこれと考えを巡らす。
 マルチタスクをフルに活用して――ふと気づく。


(9歳の誕生日以前の記憶がない……だと) 


 事件のトラウマから忘れていたのだろうか。
 いままで気づかなかったのも、そのトラウマのせいだろうか。


 気づいたいまでも、漠然とした記憶しか思い出せない。全く覚えていないわけではない。
 しかし、具体的な思い出になると途端に思い出せなくなる。
 母がクリスチャンだったことも、紫藤イリナに問われて、なんとなく思い出したに過ぎない。これではまるで――――


――――まるで、ボクが9歳の誕生日以前に存在していないかのようだった。





 哄笑が鳴り響く。


「そうか、そうだった。ボクは―――――」


 嘲笑が場を満たす。


「ほら、助けてやったんだ。ついでに、エクスカリバー2本分の欠片を前払いしよう」


 失笑が漏れ出でる。


「お前は、悪魔陣営ではなかったのか?なぜ私に協力する」


 微笑が相手を魅了する。


「あなたに聴きたいことがあるのだよ、『コカビエル』さん」


 苦笑が噴き出す。


「取引に応じよう――『八神はやて』」


最後に微笑むのは、神か悪魔かそれとも――――


たとえば、そんなカタストロフィー
 
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